私と彼の飛べた空 - 舞う翼風に載りて

PJ2
 次の日の朝、何事も無かったように朝が来る。
 昨日の終戦記念祝いに夜を明かしたらしく、今はもう昼だというのに誰一人として外にいない。が、言う私も昨日いろいろあって眠れず、これが三度目の起床となる。

「頭痛い・・・・・・」
 変に寝すぎたのか、頭が重い。
「おお、起きたか。昨日の夜の記憶はあるか?」
 隊長がけげんそうな顔でテントの入り口を開けた。

「え? 昨日の夜ですか? ・・・・・・」
 記憶をたどってみたが、何も思い出せない。そういえば、終戦祝杯のドサクサにまぎれて、流れ的に少量の酒を飲まされて、それからの記憶が無い。

「私、昨日どうなったんですか?」
「ざっくり説明するとだな、どうも酔ったらしいお前は、射撃大会をやろうと言い出して、片っ端から腕に自信があると手を挙げた連中相手に勝負して、結果、どうなったと思う?」
 すこし考えたけれど、まるで思いつかなかった。

「わかりませんけど・・・・・・」
「全戦、中心の赤点をぶち抜いて勝利。開いた口がふさがらなくなった奴が続出したのは、言わないでもわかるな?」
 朝から人が表にいないのはそのせいかと思い、隊長越しに外を眺める。

「どうせプライド総崩れで起きれない奴か、特訓でもしてるんだろう」
 いやに静かな外が、それを物語っている。
「謝った方が良いんでしょうか?」
「覚えてないなら別にいいさ」

 踵を返してテントから出て行く隊長を見送り、一つ、ある事に気づく。ここ三日ほど、風呂に入っていない。
「まさか、臭う?」
 自分の体を自分で嗅いでみる。するとほのかに汗の臭いが鼻を刺した。

 さすがに三日も風呂に入っていないと臭うかなと思って、テントを出てからもう一度頭の中で情報が整理された。
「三日・・・・・・」
 思い返してみると、私は昔から風呂だけは欠かさず入っている。それを思い出したとたん、体が一気に気持ち悪くなった。

「風呂に入れるよう、隊長に頼もう・・・・・・」
 思い出してしまったがために、かなりテンションが落ちた状態でふらふらと隊長のいるテントへ向かう。
 テントの入り口をくぐると、隊長やその他の隊員がいた。

「ん? どうした?」
「隊長、風呂、貸してください」
 私がそう言うと、隊員の一人がにやけた。まったく、八歳の私に何を期待しているのか。
「別にかまわないが・・・・・・あとな、昔うちの隊に女性隊員がいてな、そいつの着替えが残ってると思うから、それを使え」

「どこにあるんですか?」
「更衣室のロッカーの、右から二番目だ。こいつが鍵。それと風呂は、このテントから五分も砂利道を歩けば、でかい倉庫が見えてくると思うから、そこにある」
 鍵を渡してくれた隊長の顔が、さっきと違って暗いのがわかる。ふと疑問に思ったが、ふれてはいけないような気がして、礼をしてからテントを出た。

 隊長に言われたとおり、砂利道を直進すると、大きい倉庫のような建物が見えてきた。
「ここか・・・・・・」
 中に入ろうと建物の前まで行くと、戦闘機が私を迎えてくれた。

「ここ、格納庫なのか」
 その戦闘機の向こうには、ボイラーがくっついた建物が見える。
「さっさと入ろう」
 小走りで戦闘機の横を駆け抜けて、アルミ冊子の小さなドアを開けると、いかにも風呂というような空間が広がっている。

「和風だなー」
 一度も行ったことは無いが、これが日本の銭湯というものなのか。
 さっそく服を脱ぎ、脱いだ物を籠に放り込んでから、タオル一枚持って湯気で向こう側の曇ったドアを開ける。一応男女と分ける柵のようなものがあったので、すこしほっとした。

 まずかけ湯、お湯はすこし熱めだった。そして、入浴。
「ふぅー」
 向こうには人はいないだろうと思い、すこし大きめの声で吹く。
 が、すこしあまかったらしい。

「こんな時間に、人か。聞くところ女の子の声だが、君は誰だい?」
 突然の問いに、戸惑いながらも一応答える。
「昨日この部隊に仮入隊になった、フィルナルスといいます。フィルナと呼んでください」
「ほぅ、いい名だ。俺は、おやっさんと呼んでくれればいい。まあ、おやっさんというには少々若いがね」

 どう答えればいいか分からず、曖昧に笑い返した後は沈黙が続いた。
 しばらくして、すこし気になることを思い出した。昔いた、女性隊員のことだ。
「おやっさん」
「なんだ?」

「昔いた、女性隊員のこと、何か知ってる?」
「・・・・・・どうして知りたいんだ?」
「隊長が、それを聞いたとき、表情が曇ったのを見たんだ」
「それで、どうしてかって?」
「うん」

 しばらく沈黙が続き、向こうから大きくため息が聞こえた。
「しかたない。まあ、誰にも言うなよ」
「わかった」

「隊長には、婚約者がいたんだ」
「いた?」
「二週間前、殉職した。それが、昔いた女性隊員というわけだ」
 胸が重く沈むような、重苦しくなる。

「・・・・・・そろそろのぼせそうだな。じゃあな、譲ちゃん」
 向こうでドアの閉まる音がした後、ぶくぶく音をたてながら、鼻の辺りまで沈む。

 みんな、何かを背負っているんだなと、なにかこう、心に一つ重しがついたような気がした。

 風呂から出た私は、隊長からもらった鍵で、あのロッカーを無言で開けた。
 なにも、言う気がしなかったからだ。

 それに拍車をかけるように、開けたロッカーの扉に、その女性隊員と隊長の、仲良く写ったツーショット写真が無造作に貼られている。

「・・・・・・・・」
 自分はここにいて良いのだろうか? 自分にちゃんとした戦う理由があるのか? みんなそれぞれ戦うための理由があって・・・・・・いや、自分の戦う理由は親の仇がある。
 でも、本当にそうだろうか? 今まで親がいなくなって、何か自分が悲しくなった事はあっただろか? いや、すべて、私は逃げてきたんだ。おじちゃんに甘えて、隊長にも。

 どんどん、体が重くなっていくような感覚がして、一つ、そう、一つ決心をした。
 私はここを、出て行こう―と。皆が皆、ちゃんとした思いをもって、この場所にいるのに、私だけが何も無い。そう考えるだけで、ここには居てはいけない気持ちでいっぱいになる。

 もう、何もしたくなかった。今日は、何もしたくなかった。

 自分のテントにすぐ帰り、ただ、灰色のテントの天井を永遠と見上げる。それだけでどんどん時間が過ぎ、明かりがないと真っ暗になるくらいまで、見ていた。

 いつ眠ったかはわからいが、起きると空は明るかった。

「よぅ、起きたか?」
 声の持ち主は、昨日風呂で話したオヤッサンの声だった。
 目をこすりながら体を起こす。

「・・・・・・今、何時?」
「朝の六時だ。いきなりですまんが、君には任務についてもらう。一緒に来い。任務内容は、ここバチカンの首都までの俺の護衛。装備は食料三日分に二人分のテントに、各自の武器」
 本当にいきなりなので、言われたことがわかるのに時間がかかった。

「ようするに、私はあなたにスナイパーライフルを持って着いて行けば良いのね?」
「そういうことだ。作戦開始は今から。いるもの集めて五分後集合」
「了解」

 この人が何をしたいのかわからないが、私が、このそれぞれの思いが交錯する基地から離れられるのなら、それでいい。そう思った。
 
  

後書き

遅れました。すいません。
また、一週間ほど。

この小説について

タイトル 舞う翼風に載りて
初版 2009年6月13日
改訂 2009年6月13日
小説ID 3213
閲覧数 811
合計★ 6
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コメント (3)

★せんべい 2009年6月14日 20時25分00秒
読ませていただきました。

いやー、だんだんと話が面白い方向に進んでいってる気はしますが、
なんかここ3回くらい、ずーっと平坦な感じの構成なので読み手によっちゃ
飽きる人も出てきちゃうんじゃないかなー、なんて思いました。

僕は気長な方なので、読み進められましたが・・・。

1話の中にも抑揚が欲しいところですね。ヤマ場がない気がします。
もしくは短くてヤマ場を作り出せないか・・・。

この雰囲気だと、過去の話が本編に思えてきました。
2話ぐらいを1話にまとめちゃうぐらいの思い切りが必要なんじゃないでしょうか?


まぁこの辺で、おさらばしたいと思います。
次回作も頑張ってください。
★みかん 2009年6月15日 0時38分01秒
今回も楽しく読ませていただきました。

それにしても、フィルナさんの射撃の腕はとんでもないですね。

酔っていて、あの命中精度……計り知れないです。

ですが、せんべいさんのおっしゃっていたことが、
私も気になりました。

一話の中で、どれだけ物語の浮き沈みを変えていくかが大切だと思います。

素人ながら、批評させていただきました。

次回作も楽しみに待っていますね。

では、失礼しました。
PJ2 コメントのみ 2009年6月15日 21時44分21秒
お二人とも、ありがとうございます。
えーと、ここ数回平坦に思えるのは、物語のつじつま合わせを一気にやっているからです。
まず、おじちゃんは第二羽田にいた生き残りの隊長、あの女医さんは仁科ちゃんの母、スカイアイの副艦長を務めるのはお風呂のおやっさん、只野のおやっさんはまんまブラッディ・スワロー専用機開発に携わってます。ようするに、全部つなげたんです。
上手く行くように、いろいろ考えた結果、こうなりました。
本編ではルミカにライト、フィルミにリニスの人生を書いてますし、このへんで周りの人々を書いた方が良いと思いまして・・・
戦闘好きにはかなりだるいですが、かといって戦闘ばかりでも駄目ですからね。そのへん難しいんですよ。

では、お二人とも、ありがとうございました。
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