北の魔女と南の魔王 - 「北の魔女」供〜以

「ねぇホワイト、肩の上に乗られると肩こるかも」

 トニー城下町に程近い山脈、木もまばらな山中を淡い紫色のローブにフードを深く被った修道女が肩に赤い目の黒猫を乗せ、栗色の馬に跨り進んでいた。

「ふむ、ならここは右肩から左肩へ移るか」

「い、いやそう言う問題じゃないけどな」

 普通喋る猫は悪魔の使いと言われ教会の人に見つかると間違いなく襲われる。その猫と普通に会話している本来教会側なはずの修道女、もしもこんな所を他の人に見られれば大変な事になるが、今居るのは人がほとんど通る事の無い山中。

「解った、肩がこるのはもう諦めるけどそれが原因でいつもの実験とか商品に必要な魔力が足りなくなったらホワイトから貰うね」

 被っていたフードを取ってから喋りだす修道女、先ほどのまでの間延びした口調から一変して何処か冷たさの有る口調でおよそ修道女が口にするはずが無いような単語がまるで当然のことの様にスラスラと出て来る。

「解った、ここはお互いの事を考えて頭の上に乗ることにする」

 慌てて取られたフードを足で器用に被りなおさせ修道女の頭に座るホワイト、五百年近い年月を生きてきた妖猫が一人の人間に取る態度とは思えなかった。フードを被り直させられた修道女はスイッチが切り替わったようにまた間延びした喋り方に戻る。

「えーそこも疲れる事には変わり無いけどなー?」

「これはフードを取らせないための防衛処置でもある」

「え、フード?」

 再び自分のフードに手をかけた修道女の手を猫が前足でぴしゃりと押さえる。

「こんなに日が出ている日はフードを被っていたほうが良いぞ」

「う、うん」

 この修道女はフードを被っている時と被っていない時では微妙に性格が変わる。全く別人になる訳ではなくどちらの時でも意識は共有していても、フードを被っている時が“修道女”で被っていない時が“魔女”と区別されている。

「おい、そこのアマァァ!!」

 その声と同時に突然正面から斧や剣を持った男たちが現れる、後ろからもぞろぞろと。それは見るからに山賊風の……山賊だった。状況を理解すると修道女はホワイトに馬の頭に乗るように指示を出し、フードを取った。

「北の魔女が山賊に襲われる時代が来るとは思ってなかったなぁ……」

 誰にも聞こえないような小さな声で修道女はそう呟き、今度はホワイトに聞こえる程度の声で馬にしっかりつかまっている様に言う。ホワイトは何か言いたそうな顔をしたが、その場では何も言わなかった。

「うん、まぁこの山の景色にも飽きていたしタイミングは良いかな? あ、ホワイト何か全方位に壁見たいなのよろしくー」

「おい、また何か常識が無い事始めようとしているか?」

 文句を言いつつも“影”の属性を持つ妖猫の魔力で修道女を包むように静で薄暗い球体が展開される。

「まぁ一応商品にする前に実験は必要かなと思ってね、ブランドとしての価値は落としたくないし?」

 修道女はローブの裾から銀の飾りを大量に取り出してその中から三種類を選び、その他を元に戻す。“凸”“凸”“△”の形をした銀の飾りを祈るように手で包みこむ修道女。

「まぁこの組み合わせだと他の解釈も有り得る訳だから、後はイメージで変化する訳だけどそうすると商品にいちいち説明書が必要になるのよねぇ」

 修道女がそう言うと、何の前兆もなしに辺りの地形が変形し始める。谷側の地面は盛り上がり、山側の地面は高さを低くしていく。
 先ほどまで下り坂の山中だった場所が一瞬で川の跡のような谷に形を変え、大量の水が流れ始める。

「「な、なぁ!?」」

 驚愕の声を上げる山賊とホワイト、ある意味普通の一般人である山賊にとって数秒で山の地形を変えてしまう存在は想定外であるし、本来人間よりは確実に“魔力”の有る妖猫でも山の地形を変える事は出来ない。

「あのぉホワイト? 一般人の山賊さんとコメントが被っているけど」

「い、いや前の町でもかなり常識が無かったけど今回はそもそも“魔力”が増えてないか?」

 ホワイトから見たこの修道女は、頭は良いが“魔術”を手当たり次第に集めている変人。程度だったが、ホワイトでも山の地形は変えられない。
 さらに先ほどから大量に流れている水で、ついに川が下に向かって流れ始めた。あらかじめホワイトが展開していた球体で修道女達は緩やかに川を降っていく。

「ま、ま……魔女だぁぁぁああ!」「逃げろぉぉぉおお」

 山賊たちは必死に泳いで修道女達から離れていく。しかし、その光景をみた修道女が普段とは少し違うテンションで高らかに宣言する。

「まぁ実際に“魔女”だけど、“アンジェ・オリハルコン”をただの“魔女”と一緒にされたくないかな」

「おい、何か楽しんでないか?」

 近くで黒猫が何か空気読まない事を喋っていた気もするが今は別に気にしない、アンジェは馬の横に付けてあった細長い袋の中から深い青色の杖が出す。長さ約百センチほどで、一番上には杖の青よりさらに存在感の有る蒼色をした水晶のような玉が付いている。

「上手い人ほど魔力と言われるエネルギーを使わないで威力の有る攻撃をするのが基本だけど……たまには使っておかないと腕が鈍っちゃうし?」

 袋から取り出された杖はアンジェに触れられる事無くアンジェの周りをクルクルと浮遊し、水晶は徐々に蒼く輝きだす。辺りの温度が急激に下がり始め、アンジェが浮遊する杖を掴むと空中に青色の魔方陣が浮かび上がる。
                         (栄光)
「折角だからあれ試して見ようか? えーと……宣言“glory”」

 アンジェがそう呟くと空中に浮かんでいた青い魔方陣が一瞬で巨大化し、そこから直径四メートルの弾丸が放たれる。圧倒的質量の弾丸は川の流れとは反対方向に高速で飛んでいく、川を出ようとしていた盗賊達は一人残らず水しぶきと共にはるか彼方へと飛ばされる。

「「ギャァァア」」

「あっれー? 何でまた盗賊さんたちとコメントが被っているの?」

 川の流れは異常な質量の物体が逆走したせいで逆流状態だが、アンジェ達を包んでいる球体は先ほどの川の流れとは比にならないほどの猛スピードで下へ進んでいた。その速度は崖から落ちたときの速度よりも速い。

「途中操作不能で発射間隔中(二秒)さらに反動大だけど、圧倒的質量による一転突破で射程も有る、一対一とか大人数戦じゃゴミだけど中人数戦なら有効かも」

 逆流する水面の上を跳ねながら進んでいくアンジェ達、特に反応の無い馬と大騒ぎするホワイトに大はしゃぎするアンジェ。しばらく楽しそうに“やっほー”などと叫びながらさらに球体の速度を上げさせていたアンジェだが、突然何かを思い出したようにポカンとする。

「ところでホワイト、そろそろ行き止まりの湖だけど多分まだ水は溜まってないと思うから地面に衝突するけどこの“結界?”の強度は大丈夫だよね?」

「……」

「ホワイト……さん?」

 返事の無いホワイトに少なくない不安を覚えたアンジェは思わずさんを付けて呼んでみる、しかしホワイト本人は無表情のままただ正面を見つめている。わずかに目を細め、何処か清々しいような眼差しで前を見据えている。

「五百年……長いようで短かったな」

「ちょ、ちょ、ちょ、ホワイト殿? 何をそんな弱気な事を? ちなみに私はまだ生き足り無い気分ですけど?」

 そんな事を話していると前方に現れる大きな穴。何処か清々しいような眼差しでその湖を見つめるホワイト、目を白丸にして驚くアンジェ。その数秒の間にも湖は確実に二人へと近づいていく。

「同出力を進行方向とは逆側に進むように出せば……だめか“結界?”の中身がめちゃくちゃシャッフルされてかなりえぐい事になるよね」

「外側にこれより硬いのを展開できないのか?」

「そんな五百年も生きた猫妖の“結界?”を上回る強度の結界を作ることなんて……」

「出来るだろ」

「え?」

 突然ふざけた態度から真面目な態度に変わって馬の頭の上からアンジェの目を見て言うホワイト、その声には何か確信を持っている雰囲気があった。アンジェはしばらくホワイトを見つめていたが、突然嬉しそうに笑い結界の中を浮遊していた杖を握る。

「まぁ実際の所これぐらいなら口で宣言しなくても出来るけど、“北方”」

 結界の中で馬から下りたアンジェは結界の底を杖で突くと杖の先端を中心に青い線がホワイトの黒い結界を侵食していく。黒い線と青い線が入り混じった球体はそのまま水の入っていない湖に突撃していった。

「さすが五百年も生きた妖猫ね、どの辺りで解ったの?」

「とりあえず猫は耳が良い、覚えておくように」

 砂煙が舞う中、湖の中心には明らかに不自然な穴が出来ていた。しかし一人と一匹はそんな些細な事微塵も気にしている様子を見せずに話を進める。

「当然、しっかりした説明は貰えるのだろう? 主人」

「まぁもう黙ったままって言うのは難しいよね、あれ? ホワイト今私の事主人って言った?」

「ただの人間に仕える気は無かったが」

「そこまでばれたか、なら使い魔に隠し事はいけないわね」

後書き

紹介文の字数制限の縛りって少しキツク無いでしょうか(T_T)まぁその分後書きで書けば良いだけですが……。
 今回「前編」とか別けていますけど別に話が長すぎるとかではなく、単純に投稿速度を上げようと思って一つの話しがまとまってからではなく細かく別けて投稿する事にしただけですm(__)m

 さて、今回出てきた修道女のフルネーム「アンジェ・オリハルコン」に付いて少々解説を……オリハルコン、これは実際の神話等に出てくる伝説の武器に使われている金属です。しかしこの話の世界観では“オリハルコン”を実は“オリハルコンと言う名の人が作った武器”で、それが時代と共に変化して一般の人々は金属で有ると誤解するようになった事にしています。つまり「アンジェ・オリハルコン」は伝説になるほどの魔道武器を作る一族の一人と言う設定です。

この小説について

タイトル 「北の魔女」供〜以
初版 2009年6月14日
改訂 2009年6月14日
小説ID 3215
閲覧数 723
合計★ 0
黒い帽子の写真
ぬし
作家名 ★黒い帽子
作家ID 307
投稿数 28
★の数 26
活動度 3525
 ガルガルガルガルガル……(意味不明)

コメント (0)

名前 全角10文字以内
コメント 全角3000文字以内 書式タグは利用できません
[必須]

※このボタンを押すと確認画面へ進みます。