LostChildrenシリーズ - Case5〜変わらぬ想い〜

『戦慄! 街が一瞬にして地獄に!?』 恒星歴306年 12月24日 
 
    街中がクリスマスの活気に満ちあふれる最中、その事件は起きた。第54番街F−26
    エリアにて、謎の大爆発が起き、そのエリアに居住していた住人全員が蒸発するという、
    大変痛ましい惨劇が起きたのだ。警察当局の発表によると、原因は老朽化したガス管か
    ら漏れたガスが、何らかの火種によって爆発を引き起こしたとの事だが、一部の右翼団
    体からは『CHILDREN』の引き起こした暴走事件ではないかというデマも飛び交
    い、惨劇を免れた付近の市民からは不安の声が挙がっている。関係当局は今日にも、現
    場付近で奇跡的に助かった少女から事情を聞く方針だが、少女の精神は極度に不安定で
    あり、聴取は彼女の容態が安定してから実施される予定だ。
 
 
「……………………」
 
 コロニーとコロニーを結ぶ地下特急車両の中で、リナは自分の手帳に挟んでいた新聞の切り抜きをじっと眺めながら俯いていた。
 その記事の内容は、どこにでもありそうな……どこかで起きていそうなその街特有の『小さな事件』というやつ。
 しかしリナにとって……その事件は、決して忘れる事が出来ないものであり、今の自分を形作る記憶の欠片(ピース)。
 そんな彼女を、やはり神妙な面持ちでエッジとアランは勿論、リディアも物珍しそうに眺めていた。
 
「……ここ最近ようやっと明るくなってきたかと思ったら」
「まーた、ブリ返してきやがったみたいだな」
「全くね。54(ごーよん)で何があったか知らないけど……こっちの気分までブルーになっちゃう」
 
 両手を天井へ向け、“お手上げ”のポーズを取って皮肉るリディア。
 残るエッジ達も、リディアほどではないが、最近明るく振る舞えるようになっていたリナが再びナーバスな状態に逆戻りした事に戸惑いを隠せない様子だ。
 
「なあリナ……そろそろ僕達にも教えてくれないか? あの54番街で……君の身に何があったのかを」
「エッジさん────」
「も、勿論話したくないと言うのなら……それはそれで別に構わない。
ただ、誰かに話す事で…スッキリする事だってあるわけだしね」
 
 一瞬リナの涙が見えた気がして、すぐさま直前の言動を訂正するエッジ。
 実際には彼女の頬にはそれらしき水の流れた跡は残っていなかったが、彼女の瞳は完全に潤み…今にもそのダムは決壊しそうだった。
 
 そんなやりとりを繰り返しつつ……車両はナトリウムライトで照らされたトンネル内を
 カタカタ…カタカタとレールを走る音とモーター音を響かせて走り続ける。と……
 
「──────半年前……私の住んでいるエリアの近く、F−26エリアで爆発事故がありました。
死者7名。行方不明者数千数百人にも上る…小さな街ではそこそこの惨事」
「あー、そのニュースならオレ聞いた事あるぜ。いろいろ“黒いウワサ”がたったが、結局真相は分からずじまいで警察の捜査も打ち切られたってヤツだろ?」
「黙ってなさいアンタわっ!」
 
 胸を張って事件の概要を説明し出すアランが鬱陶しく思えたのか、彼の横っ腹を肘で突っついて制するリディア。
 一方の当人は、『そんなに怒んなよ』とふてくされた様に呟き、再び奥へと引っ込むがそれでも聞き耳はしっかりと立ててるらしい。
 だが、リナはそんな2人のやりとりなど、まるで目に入っていないかのように話を続ける。
 
「右翼団体の人たちは“『CHILDREN』の暴走事故が原因だ”……って、ウワサを流してたんですが────」
「ま、当然全否定されるわね。
……そもそも、なんだってそんな街中で『CHILDREN』が暴走しなきゃなんないのよ」
 
 呟きつつ、リディアは両腕を組んでウンウンとうなる。
 実際に『CHILDREN』の暴走が原因ならば、必ずOCSIANが部隊を派遣して事故の調査と究明を行うのが任務として掲げられているからだ。
 そして暴走を引き起こした『CHILDREN』はOCSIANの施設内で厳重に管理・教育を施されて元の生活に戻らされるか、もしくはそのままOCSIANに入隊するか……その内のどれかだ。
 少なくとも、リディアが知りうる記憶の中では半年以内に暴走事故に絡んだ部隊出動の話はない。
 だからこそ、リナのいう『CHILDRENが引き起こした暴走事故』という仮説がそのままデマであるという結論に至ったのだ。しかし……
 
「それは……本当の事なの」
「え?」
「あの時、私はあのエリアにいて────襲われて……」
 
 一瞬、リディアはリナの言っている事が理解できなかった。
 いや、彼女だけではない。
 
 リナの一言一言に耳を傾けているエッジやアラン。そしてこの部隊を引率しているベルドも一瞬思考が停止した。
 そしてついに、リナの話は核心に至り……
 
「私は……殺してしまった。
襲ってきた人たちは勿論、『ただそこにいただけの』街の人たち……そして────」
 
 
 
「この世で数少ない友達────私が…初めて好きになった人でさえも」
 
 この時、リナの瞳からは完全に光は消え失せていた。
 
 
Lost Children
〜The opening of the end of the sorrow〜
 
Case5〜変わらぬ想い〜
 
 
「……話には聞いていたが、随分と酷いもんだなこりゃ」
「ああ。いくら『CHILDREN』が関わっているとしてもこれは少々やり過ぎじゃないのか?」
 
 保護対象の『CHILDREN』がよく確認されるというR3Dエリアへと到着するなり、
 周囲の惨状を目の当たりにしたアランとエッジがそれぞれに呟いた。
 
 かつては沢山の住人が平和に暮らしていた住宅街も、今となっては激しい戦闘の末にあちこち破壊され、完全にゴーストタウンと成り果てていた。
 よく見ればそこかしこの壁や窓ガラスに弾痕や鋭利な爪か何かで傷付けた跡が痛ましく残されており、
 その他には……火災でも起きたのだろうか。所々の住居が真っ黒に焼け焦げている。
 
「これがウワサの『CHILDREN』の力ってヤツですか? ……よく先発隊のソルジャー達、生きてましたね」
「────いや、これは違う」
「え?」
 
 辺りを見回しながら再びアランが呟くと、同じく周囲を観察していたベルドがしばらくの思考の後、それを否定する。
 
「よく見ろ、この弾痕。………OCSIAN(ウチ)で使ってる弾薬とは違う口径だ。
補給の効率化を図るために、OCSIANの実弾は共通の弾丸を使っているのは知っているな?」
 
 ベルドの問いかけにコクリと頷く一同。
 良い例を挙げれば《type-A》の内蔵火器であるインパクトバルカン────アレに使用されているのは口径サイズが5.7mmのボトルネック形状をした減装弾で、
 携行性と戦闘時の扱いやすさを両立させたOCSIANオリジナルの弾薬を使用している。
 無論使用されているのはコンバットスーツの内蔵火器に留まらず、非常時用の携行ピストルにも同じタイプの弾薬が使えるように作る事で補給ルートの簡略化を図っているのだ。
 
 そのことを『教導隊』所属時に教わっていたため、全員ベルドの問いに頷いたのだ。
 
「つまりこの事から導き出される結論……すなわち────」
「………例の『CHILDREN』が他の《第3勢力》と戦闘を行ったという事ですね?」
「ま、そういう事だ。────その証拠に、保護に向かったソルジャー部隊は戦闘態勢に移行する暇もなくやられたそうだぞ」
「おいおい、マジかよ……」
 
 ベルドの補足説明にさらにげんなりするアラン。
 いくら相手が『CHILDREN』といえど、戦闘経験も浅く、《アビリティ》もロクに制御できない子供にCランク以上のソルジャーが後れを取る事はまず無い。
 そんな彼らが、戦う準備を整える前にやられたという事は、『CHILDREN』が不意を突いて一気に沈黙させたかあるいは……
 確認はしたが“視認できないほどのスピード”で一気に戦闘不能に追いやられたかのどちらかだろう。
 そんな中……
 
「…………………」
「リナ──大丈夫か?」
「────あ、うん。私は大丈夫だよ……………ねぇ、実君」
「何だ」
「……剛君、大丈夫かな? もし──もし彼が“あの時の私”みたいになってたら……私どうしたらいいの?」
 
 実は、正直困惑していた。
 
 『CHILDREN』がひとたび暴走すれば、コロニーの一つや二つは訳無くこの世から消し去る。
 ────自分もそんな“仲間”を何度も目の当たりにしてきただけに、取るべき手段が『一つしかない』とはさすがに言いにくい。
 本音を言えば、実自身もまた……リナと同じように自分と同じ境遇に置かれた仲間は助けたいし、救いの手を差し伸べてやりたい。
 
 だが、現実問題、強力な力を解き放った暴走CHILDRENを相手にするとなれば、自分の命を守る事に精一杯となる。
 そのため、自らが生き残るためにやむなく“相手CHILDRENの命を奪う”という手を取らざるを得ないのだ。
 
 だから実は……一言。……一言だけ、リナに告げた。
 
「俺からは言える事は一つだけだ。────────お前の望むようにしろ」
「え?」
「自分では止められないと思ったのなら躊躇うことなく殺せ。
だが………もしその男を救いたいと心の底から願うのなら、俺がお前をサポートしてやる」
「……………」
「迷う気持ちは分かる。だが、迷えばそれだけお前は勿論、ここにいる全員の命が危ぶまれる。
動き出す前に、自分に問いかけるんだ。『今自分が、本当にしたい事』を────」
 
 リナの肩に手を添え、訴えるように告げる実。
 その手は強く……そして優しく包み込むように感じられ、思わず涙腺が緩みそうになった。
 
 だが、彼女は泣かない。
 実の言った『今自分が、本当にしたい事』……これを成し遂げるためには、俯き、泣いている場合ではないと分かっているからだ。
 
「ありがとう、実君。──ちょっと気が楽になった」
「う……む、そうか」
「うふふ♪ 実君もしかして照れてるの?」
「ち、違う! そんな事はない、断じてないぞ!!
────ほ、ホラ急げ! 早い所お前の親友とやらを探し出してとっ捕まえるんだ!!」
「了ー解♪」
 
 ふと投げかけた感謝の意に対し、実は頬を朱に染めてそっぽを向いた。
 そんな実の態度が年相応の少年であることに安心したリナは、慌てふためく実にさらに追い打ちをかけるがため、小悪魔のような笑みを浮かべる。
 すると、これまた面白いぐらい実は慌て様を一層激しくし……ついにはふて腐れてとっとと先へと進み出してしまった。
 
 ……しかも後ろからリディアの視線(多分9割方嫉妬)が突き刺さるというオマケ付きだったが、
 そんなオマケですら、今のリナにとっては、暗くなりかけた心を明るくしてくれる────
 いわば心の清涼剤のようなものとなっていた。
 
 ……守らなければ。自分が絶対に。
 改めて、堅く心に誓ったリナだった。
 
 ……………………
 …………
 ……
 
「ずぇりゃあぁぁっ!!」
《グギャアァァァッ!!》
 リナ達が捜索を開始した地点から北北西へ約3km先の地点で、彼は必死にソレと命の遣り取りをしていた。
 高らかに響き渡る少年の咆吼と同時、彼の左腕に紫電がほとばしり……エネルギーの波となって“ソレ”を焼き焦がす。
 そんな行為を、繰り返して…繰り返して……気が付けば、自分の体にはすっかり肉が焼け焦げる臭いがこびり付いてしまった。
 
 煌びやかに輝く金髪のツンツンヘアーは、連中の返り血で赤く染まり上がり……
 エメラルドを思わせるような透き通る瞳からは、悲しみと怒りがごちゃ混ぜになったような雰囲気がにじみ出ていた。
 
「はぁ…はぁ……はぁ………
ようやく────ネタ切れ────っぐ、かいな…………」
 
 呼吸を整えつつ、絞り出すように漏れたその言葉は声変わりの途中の為なのか……
 少年と呼ぶにはやや不相応な掠れた声であった。
 しかし、ここ数日の執拗な襲撃を思い返せばそうなるのもまた道理……
 不意に使えるようになった『力』に振り回されながらも、追跡者達を全力で撃退し続けるために呼吸を荒げ、声も張り上げるという行為を繰り返していたのだから。
 
「……OCSIANのワン公連中は何考えとるか分からへんし────今『白龍(パイロン)』の連中に捕まるわけにはいかへんからな」
 
 『白龍』────それは、第32番街を拠点に活動の幅を広げつつある、この世界で一番タチの悪いゲリラ・テロ集団のことである。
 組織の素性や目的は一切謎。元々裏世界から派生した組織だった事から、暗殺・虐殺……果ては紛争世界への武器密売や生物兵器・戦闘人形などの製造、販売をも噂されている…極めて危険な組織。
 何の確証があって、“ソレら”が『白龍』の差し金だとするのかは判らないが……少年、赤坂剛は睨み付けるように息絶えた“ソレ”を凝視しながら呟く。
 
「……リナのヤツ、『私の力を役立てるためにOCSIANに行く』何て抜かしとったけど、
ホンマにあんな所にリナの居場所があるんかいな────」
 
 そう吐き捨て、思い出すのは半年前にリナが去り際に残した言葉。
 剛自身、OCSIANの様な組織─────有り体な言い方をすれば『命令があればどんな残虐な事もやってのける軍隊』
 に、“平和”の2文字が服を着て歩いてるような性格のリナがちゃんとやっていけるのかと心の底から不安を覚えていた。
 いや、むしろこのままでは……。
 
「最悪、あいつが心まで“染まっ”てしもたら……俺が止めな、アカンな」
 
 恐れるのは、友が“ただの殺戮兵器”と成り果てた姿……
 もしそうなってしまった時には、自分が止めなければならない。
 
 今は亡き友との誓いであり、今、彼が生き延びるための唯一無比たる理由────なのだが、
 正直そうなってしまった場合、躊躇うことなく友を手にかける事が出来るのかという不安もあった。
 勿論そんな事態に直面すれば、生半可な気持ちでいる事自体自身の命を危険にさらしているようなものだ。無論彼も、今ここで命を落とすような気はさらさら無い。
 
「……やめや、やめ! 悩んだ所でしょーもない。とりあえず、そんな事になっとったら力尽くでも止めな──」
「そいつは好都合だな」
「……っ!!」
 
 自分に言い聞かせるように剛が叫んでいると、不意に背後から冷たい殺気と共にややごもった声が響く。
 同時に剛の第六感が素早く体を突き動かし、後方に4m程バック転を繰り出す形で、放たれた一撃を避ける!
 その後、後を追うように剛めがけて放たれた一閃が地面のアスファルトに激突し、小規模の爆発を起こして周囲に粉塵を巻き上げた。
 
「………オイオイ、街中でハデにケンカってどういう了見やねん」
「悪いが、こちらも四の五の言ってられない状況なんだ。大人しくこちらの誘導に従えば危害は加えない」
「ただ……あくまでも抵抗するってんなら話は別だゼ。おいたが過ぎる悪ガキには、キツーく灸を据えねぇとな」
 
 そういって先に粉塵の中から姿を現したのは、早くもコンバットスーツを着装したエッジとアランだ。
 2人の手には出力を落とし、連射性を最高レベルまで設定したポジトロンピストルが握られている。
 
 脅しにしてはやや物騒すぎる感もあるが、剛の能力を考えるとこれくらいまでしなければ逆に自分達の身の安全が保証できないという結論に至ったからだ。
 
「……俺を捕まえに来たんか。たかだかノーマルのソルジャー二人が?」
「さて……どうだろうね。僕達だけかもしれないし、他にもいるかもしれない。
どう事態を取るかは、君の自由だよ」
 
 ジリジリと距離を取ろうとする剛に対し、エッジは彼を下手に刺激しない程度に挑発する。
 無論剛は『他にも仲間がいる』という仮定の下、周囲にも気を配りだすが、“今目の前にいる敵”……すなわちエッジ達に対しても気を抜かない。
 彼ら《ノーマル》をあえて囮にし、本命の能力者部隊が一斉に畳みかかって自分を捕まえる────オーソドックスながらも、最も確実で、互いの損耗も最小限に抑えられる手段。
 それだけに────────
 
「アホか自分等」
「……え?」
「そんな見え見えの手段に、引っかかるほど俺はバカやないで!!」
 
 早い話が“周囲で隙を伺っている連中が対処するまでの間”に逃げおおせればいいだけの話。
 姿勢を一気に腰の高さまで屈めると、そのまま地を蹴りだして猛ダッシュを開始───その姿はさながらサバンナを駆けめぐるチーター。
 全身をうまい具合にバネのようにしならせ、筋肉から生み出されるエネルギーがそのまま大地を進むスピードへと変換される。
 
 そんなロケットダッシュを突然繰り出されたものだから、エッジ達はやや反応が遅れてしまう……がそれでも何とかピストルをいち早く構えたアランが
 
「くっ、このぉっ!!」
 
 舌打ちをしながらも、ポジトロンピストルのトリガーを引いて弾丸を三発撃ち出す!
 その光景を振り返り際に視認した剛は────
 
「当たるかいっ!!」
「んなっ!?」
 
 瞬間、アランは絶句した。
 事もあろうに、剛は強く地を蹴ると同時に……背中方向へと
 つまりバック転でアランの放ったポジトロンピストルの光弾を回避したのだ。
 
 タイミングとバック転の角度・跳躍する高さ……全てにおいて過酷な条件をクリアできないと成し得る事が出来ない危険極まりない回避行動。
 迂闊に振り向いてしまうと回避が間に合わなくなる。かといって左右に避けたりしゃがんで回避しようとすればその分失速してしまいかねない。
 
 背面確認とスピードを殺さないための回避行動────それらを両立させるために剛が考え抜いた策がまさにこれだったのだ。
 無論こんな常識外れの行動は並の人間では到底実行不可能。まさに、剛が持つ『CHILDREN』としての身体能力を最大限生かした形と言えよう。
 
「なんつー無茶な避け方しやがるんだコイツ!!」
「素直に俺の実力が上や言えばエエのに……」
「そういう問題じゃねぇだろ!!」
「追いかけよう、アラン!」
 
 剛の軽口に思わず大声でツッ込むアランだが、現状としてはかなり最悪だ。
 気が付けば剛と自分たちの距離はすでに20m以上は軽く離されてしまっている────この距離でポジトロンピストルを撃っても
 当然当たらないだろうし、ベルドの思い描いた“構図”から外れる可能性も出てくる。
 
 エッジの言葉で我に返ったアランは、とりあえずポジトロンピストルを右太股のホルダーに収め、2人そろって剛を追って駆けだした。
 
 
〜一方、ベルド達は……〜
 
 
『申し訳ありません、目標に逃げられました!』
「はぁ? 自信満々に『囮』役を買って出た割にはあっさり出し抜かれたわね……やる気あんの、お二人さん?」
『ぐっ……返す言葉もねぇ。だけど、アンタだってあいつの立ち回りを目の当たりにしたら同じセリフを吐けなくなるぜきっと』
 
 追跡を開始後、すぐさま現場指揮官であるベルドへと報告しようと通信を繋いだ所
 何故か2人の応答に当たったのはリディアだった。しかも2人からもたらされたのは“成功”とはほど遠い、“失敗”ともとれる結果。
 当然冷ややかな態度で2人を貶し始めるリディアだったが、当の2人に際してはさすがに『逃がしてしまった』という事実は否定できないため、反論すら出来ずに大人しく彼女に言われるがままとなっている。が……
 
「────構わん。そのまま2人については追跡・誘導を続行。例のポイントに逃走するよう牽制を続けてくれ」
『りょ、了解!!』
 
 報告を受けたベルドの口調は至って冷静。
 淡々と通信機を通して命令を伝えると、アセンブラーを通してバイザーの設定を調整し、周辺地域の探索を再開する。
 
「………意外ですね」
「何がだ?」
「てっきり失敗を問いつめるかと思ったのに。
──若干ですが、“作戦”の内容に修正が必要になるんじゃないかと」
「その必要はないさ。……むしろ、この程度の事はある程度予測していた」
 
 リディアがきつい目つきでベルドを問いただすが、それでも彼は構うことなく作業を進める。
 
 言うまでもなく今回の作戦はベルドの立案だ。
 相手が『CHILDREN』である事を考慮し、確実に成功へと導くためのモノ……当然失敗は許されない。
 そんな状況の中で、いきなりエッジ達は目標である剛に完全に出し抜かれる形となったのだ。普通なら追求されて当然の事。だが、ベルドはそれをあえてしなかった……
 それどころか、彼らの顛末すら予想の範疇だったというのだからリディアにしてみれば面白くない事この上ない。
 
「相手は『CHILDREN』だ。しかも“風”属性の……な。
リナの“炎”属性もそうだが、とりわけエネルギー系の属性というのはその力を身体強化の方に回しやすい。
それを考えれば、2人が出遅れる形になったのも予測できる範疇だ」
「そりゃま、そうですけど……ね」
「いずれにしても、失敗と決めつけるのは早計だ。
────チャンスは必ず来る。その時が、我々の動くときだぞ」
 
 告げると、ベルドは懐の小物入れからタバコを取り出して一服。
 さすがのリディアも、ベルドの思慮につっこむ所を無くしたのか、再び自身のスーツを介してサーチシステムをコントロールする。
 
 “炎”“風”“光”“重力”………現在の所確認されている『CHILDREN』が持つ属性の代表格。
 いずれにおいても、それ自体がエネルギーの固まりとも言える属性だ。故に“エネルギーの転化をコントロール”することを覚えてしまえば自身の身体強化はもとより
 そのエネルギーを付加させる事で、自分以外の……他者のパワーアップすら可能となる。
 
 だが、“エネルギーの転化”────《転化(トランサー)》と呼ばれる技能は『CHILDREN』の《アビリティ》の中でも中の上ランクに位置する高等技能。
 元あるエネルギーを人為的に……別のモノに転化させるという事は自然界の法則に反する事となり、当然失敗した場合の反動は使用者に跳ね返ってくる。
 だからリディアも、今のところはリナに告げるつもりもないし、それに応じた訓練(自主トレ含む)をさせるつもりもない。
 
「実地で覚えたって言うの……《転化(トランサー)》の《アビリティ》を?
リナといい今回の『ツヨシ』ってヤツも、一民間人が覚醒してまもなくこれほどの急成長を遂げるなんて────」
 
 
 
 
「あいつらをそこまで追い込み、駆り立てる物って一体何なの?」
 
 作業の片手間、思考にふけるリディアだったが、答えが出る事はなかった。
 
 
 ……………………
 …………
 ……
 
 
 そして……R3Dエリアから東に200m進んだ道路の先で、リナと実は既にコンバット・スーツを着装し
 エッジ達が追い込んでくるであろう剛を待ちかまえていた。
 
 が、その一方でリナは相変わらず晴れない表情のままで、一緒に待ちかまえている実も心の底では大丈夫なのだろうかと心配していた。
 だが、それはただ『逃げ出したい気持ち』からくるものではなく────
 
(あの時……穢れてしまったこの街で、今度は剛君を……。全てが始まったこの街で、今度は一体何が起ころうとしているの?
──とにかく、これ以上被害が大きくなる前に剛君と一回話をしないと!)
 
 自分の『過去の痛み』が封じ込められたこの街で、再び起ころうとしている事件への懸念と、友を案じる想いとが、彼女の心を良い意味で奮い立たせていた。
 剛が何の意図があってOCSIANの派遣部隊から逃げているのかは判らない。だが、今の状況は彼にとっても……そしてこの街の人たちにとってもプラスにはならない事だけは間違いないだろう。
 
 だからこそリナは改めて決意したのだ。もう二度と“あの時”の様な結末だけは御免だと。と────
 
「……来たぞ!」
「──っ!?」
 
 言って実は《ブリングワード》を唱え、自らの愛刀を瞬時に錬成し、構える。
 それに倣うようにリナも身構えると同時に呪文詠唱……そして《ブリングワード》──リディアが教えてくれた基本に忠実に、武具を錬成した。
 
 リナが棒術の構えを取った時は、まだ小さな人影が辛うじて見える程度の距離だったが、
 追い回しているアランとエッジの無線が聞こえてくると同時に、その人陰がどんどん大きくなっていく……。
 そして────
 
「なっ、あ、アレは…………リナ!?
って、そういやアイツはOCSIANに入ったんやったな」
 
 遠目で見渡した先に待ち構えていたのは、かつて同じ学舎に通っていた友達。
 それが千分……万分の1の確率とはいえ、自分と彼女とをこんな形で再会させた運命とやらに思わず全力全開のツッコミを入れてやりたくなるも
 今現在自分は逃走中の身────下らない事に思考を割いては自分の身を危険に晒しかねない。
 だから彼は力の限り叫ぶ……
 
「ぬおぉぉぉっ!! そこどけそこどけえぇぇぇっ!!!」
「……止まる気無いのかあの男は?」
「この様子だと、突っ切るつもりだね。……はぁ、何とも剛君らしいというか何というか」
 
 その溜息が安堵からくるものなのか……それとも呆れからなのか………多分両方だろうなと結論付けたリナは改めて炎翼の戦術棒(ライトスタッフ)の先端を前方に突き出す。
 
 先端の六角柱のコブが3つに分割され、3方向それぞれに独立した爪を形作ると同時……唱える。
 
「──我、唱えて汝に願わん……。
内に眠りし我が力よ、その御身を猛(たけ)き炎へ換え、愚かなる者を焼き尽くせ────ファイヤーボールッ!!」
 
 ドウンッ! ドウンッ! ドウンッ!!
 
 計3発、戦術棒の先端から放たれたリナの火球は放物線を描き………
 
 ズガァンッ!!
 
「うわちっ!?」
 
 炸裂。
 リナの放ったファイヤーボールの魔力弾(スフィア)は剛の前方約3m地点の道路に着弾。
 同時に焼夷手榴弾のように赤々しく燃え上がるのを目の当たりにし、さしもの剛も一瞬肝が冷えた。
 
「……っえぇい、リナ!! 俺やなかったら避けられへんかったで?!
いきなりそんな物騒なモン撃ってくるとは……エラい再会の挨拶やん!」
「だって、剛君強行手段に出ないといつも言う事聞いてくれなかったじゃない。
大丈夫、最初から当てるつもりなんて無かったから」
 
 『そういう問題ちゃうわ!』などと、罵声にも似た怒号が飛び交うがとりあえず無視する。
 だが、目の前で現在進行形で炎上中の道路を見ると彼の言いたい事も判らなくもないが、
 確かに剛の突進ぶりを見た後では適切な処置とも取れなくもない。
 
 半ば呆れ半分で溜息をつきつつも、リナはしっかりと炎翼の戦術棒(ライトスタッフ)を構えなおし、
 仕切り直しとばかりに声高らかに宣言する。
 
「聞いて剛君! 今のまま逃走を続けるようなら私達があなたを強硬手段で捕まえないといけないの。
私も……出来る事なら大切な友達に手荒なマネはしたくない。お願いだからこちらの誘導に従って!」
「それってとどのつまり、『俺にOSCIANに入れ』いう事やん。────そんなんこっちから願い下げや!
俺かて自分の『力』がどないなモンか、って事の見当くらいはついとる!」
「だったら何故?!」
「決まっとる! ……OSCIANが、“命令第一の軍組織”だからや」
 
 瞬間、リナの心に冷たく尖ったナイフが突きつけられた様な戦慄が走る。
 
 確かに便座上、OSCIANは民間会社である『プロテクションカンパニー』が創設した組織ではあるものの、
 その本質は紛れもない軍組織。組織という枠組みで動く以上、上官からの命令に背くことは不可能に等しく、
 その上リナ達は『CHILDREN』という特殊能力者。
 
 ……上からの命令とはいえ、自らの『力』を命を奪う手段として持ちいらざるを得ない状況は必ずやってくる。
 その事をリナが考えないはずはなかった。いや、────考えないようにしていたというべきか。
 
 そんな彼女の心情を知ってか知らずか、剛は再びものすごい剣幕でまくし立ててきた。
 
「リナの方こそ……あんなトコにおったら、エエ様に使われて人殺しの道具にされるのがオチや!!
好き好んで、戦いの道なんて選ばんでもええのに──なんでや?! 何でそないなトコにおんねや!?」
「それは────話したでしょ?!
私の『力』で無関係な人たちを傷つけないようにする為の手段を身につける事と、『力』で誰かを守るために……だよ!」
「その前に……お前の心が穢れてまうわ!!」
 
 いつまでも続く二人の口論にさすがに嫌気が差したのか、平行線を見出した実は…静かに溜息を漏らすと
 剛を睨み付けて静かに吐き捨てた。
 
「御託はいい。……要するに、こちらの指示に従う気は一切無いと言うことだな?」
「当たり前や!」
「はぁ…………そうか。だ、そうだぞ────────リディア」
「──っ!?」
 
 実がボソリと呟くと同時に、その意図に気付いた剛は思わず身構える。
 同時に気付く。
 
 今の今まで、自分はOSCIANの連中から逃げ回っていたワケで……。
 にも関わらず、自分は思いっきりリナとのやり取りに気を取られていたワケで………
 
 
「地に脚を広げる樹々に命ずる────汝が一部、茨の足枷と成りて我が敵を捕えよ!」
「ぐっ……掛かってたまるかいっ!!」
 
 リディアが舞桜の刀身を頭上に掲げた状態で呪文を唱えるのを確認した剛は、言葉では言い表せない
 悪寒のような物を直感的に感じ、すぐに地を蹴ってその場から立ち去ろうとする。と……
 
「気の体(てい)となりて空に漂う我が眷属に命ずる────凍てつく波動の内にて永久の眠りをもたらせ」
「ってこっちもかいっ?!」
 
 リディアの呪文詠唱に気を取られている内に、実もいつの間にか同様の趣旨のそれを唱え始めていた。
 実とリディア、それぞれが等しく開いた角度で剛を睨み付ける形となっているが、それでも
 
「せやったら……後ろに!」
「逃がさない、よ────」
「ま、まさかリナもかい!!」
「そう、そのまさか! リディアちゃんの鬼特訓は、伊達じゃないのよ!
────我、唱えて汝に願わん…荒れ狂う地獄の業火よ。今こそ集いて枷と成れ!!」
 
 説得さえ上手くいけば、最悪この場は見逃してくれるかもと僅かに思った自らの考えを呪う事になった。
 僅かな希望にすがって剛はリナに尋ねるも、当の本人はあっさりと否定して他の二人と同じ呪文を唱え始めた。
 
 詠唱からすでにそこそこ時間が経過しているリディアと実には、足元にそれぞれの属性を象徴する変化が現れ始めており、
 リディアの周囲では鋭い棘の生えたツタが幾重にも折り重なるように蠢いており、
 実の足元では空気中の水蒸気が水へとその形を変え、激しい渦となって荒れ狂う嵐と化していた。
 
 そして……リナの周囲には、直径5〜7cm程の炎の渦が彼女を中心として渦巻きながら円形を描きつつ、
 ゴウゴウと頭を直接揺さぶるような轟音が鳴り響く。
 
「…何や、えらい歓迎の仕方やな。
食らったら火傷どころじゃ済まされへん勢い満載やけど」
 
 言いつつ、剛はその場に屈み込むと同時、すぐ傍に建っている5階建てのアパート屋上に視線を向ける。
 確かに、このままこの場に留まっていれば3人の《アビリティ》の直撃を受け、一気にゲームオーバー直行だろう。
 
 しかし、それはあくまで“地面に対して垂直に見渡した『平面状』の出来事”なワケで、“上方も含めた『立体』”ともなると、
 逃走の手段・可能性はまだ潰えた訳ではない。
 その為、3人の立ち位置等を考え……
 
 
「なら…こっちやっ!!」
 
 近くにあった壁にジャンプと同時につま先をあてがい……まるで地面を駆けるかのようにダッシュする!
 
 無論この動きは慣性のみによって成されているものではない。
 無意識のうちに剛は風を操作し……何と、自分の体を壁に押しつけるダウンフォースを発生させたのだ。
 
 ダウンフォースは本来空気の抵抗などによって運動する物体が地面に押さえつけられる下向きに働く力を指す。
 しかし風そのものを操ることができる剛にとって、その力の方向そのものをも味方に付けることができる。だからこそ、これで確実に逃げ切れる────
 
 
「そうは問屋が……」
「卸さないよ!!」
 
 言ってアラン・エッジの順に、剛を両側から挟みこむようにビルの物陰から姿を現し、ポジトロンピストルの引鉄(トリガー)を……引く。
 
 ポジトロンピストルには本来、状況に応じて3つの射撃モードが装備されている。
 出力を犠牲に連射性を極限まで上げたMode-Sonic。通常出力のMode-Parabellum────そして、今
 彼等が用いているのが連射性を犠牲にして命中と同時に小爆発を起こす最高出力(フルドライブ)形態、Mode-Burst。
 Maxパワーで放たれたエネルギーの渦は紫電を纏いつつ────
 
 
 
 
 ────剛のすぐ脇を通過して。
 
 
 
 
 彼が到達しようとしていた上空位置で炸裂・爆発。
 
 
「ぬあわぁぁぁぁっ!!」
 
 突然引き起こされた爆風によって剛は風のコントロールを失い、バランスを崩してそのまま地面へと落下する!
 
「今よっ! 一斉にいくかんねっ!!」
「応!」
「了解っ!!」
 
 その真下では、すでに呪文詠唱を済ませてスタンバイしていたリナ達が待ち構えていた。
 互いに己の武具を天高くかざすと、リディアの合図でその切っ先を剛へ向け……唱える!
 
「スパイク・バインドっっ!!」
「フリーズ・コフィン!!」
「炎獣の尾(サラマンダー・テイル)っっ!!」
 
 三人それぞれの拘束系アビリティ《束縛(バインド)》が発動。
 リディアの舞桜から渦を巻くように茨のツタが伸び、剛の上半身と腕部を……
 実の突き出した刀からはシャーベット状の液体がリディアのそれと同様に武具を中心に渦巻くように放射され、剛の左脚を……
 最後にリナの炎翼の戦術棒(ライトスタッフ)から放たれた炎の渦はゆっくりと細長い紐へとその姿を変えて剛の右脚を拘束する!!
 
 通常、異なる属性で同対象者に《アビリティ》を使用した場合、エネルギーの均衡バランスが非常に取り辛い。
 ましてやリナと実の属性は互いに対となる相反属性。互いのエネルギーが互いに干渉し合い、その効果を半分以下にまで低下させる。
 にも関わらず、同時使用でしっかりと術式が成り立っているのは3人の特訓の賜物に他ならない。
 
 この場合、リナの《束縛(バインド)》の出力をやや押さえ、他の2属性への干渉を最小限にすると同時に
 実の『フリーズ・コフィン』が木属性である『スパイク・バインド』への熱干渉を阻むことで3つの属性の均衡が成り立たせているのだ。
 
「な…あ、がが……っ!!」
「はぁ…ようやく大人しくなったか」
「油断は禁物だ。この男……予想以上にタフだぞ」
 
 上半身では茨の棘があちこちに刺さり、左右の脚は高熱と冷気がそれぞれ己の肉体を屠っていく。
 普通の人間なら、襲いかかる激痛のあまり気絶していてもおかしくない状況……のはずだが、何故か剛は未だ意識を保っている。
 それどころか、今も必死にもがいて《束縛(バインド)》を振り解こうとしている。
 
 呆れ半分で未だ暴れ続ける剛をひとしきり観察すると、リディアは早々にきびすを返して立ち去ってしまった。
 ……何かを問いただそうとしていた面持ちだったが、今はそんな事を改めて聞くべき時ではない。
 リナは雑念を振り払うと、改めて剛に顔を向けて申し訳なさそうに呟く。
 
「ごめんね……私もできればこういう手荒なマネはしたくなかったんだけど────」
「言うとる事とやっとる事が綺麗に反比例しとるで、リナ」
「そりゃ、そうかも……しれないけどさ。────それよりも教えて欲しいんだ」
「……何をや?」
「剛君の事を追ってた私達以外の勢力について」
 
 きっぱりと告げた。
 
 さすがにその手の質問を投げかけられるとは思ってなかったのか、剛も一瞬呆けてしまう。
 何故なら、今の今まで自分に見せたことのない真剣な表情…突き詰めて言えば『戦いの中の表情』とでも表現すべきだろうか。
 不謹慎のように取られるかもしれないが、その表情の険しさはまるで研ぎ澄まされたナイフの様。そしてそれを浮かべているのが
 自分と同い年の……しかも馴染み深い少女というミスマッチな状況が、彼の中で『美』とは何かと問いかけてきてるようなものだった。
 
 どれほど……どれほど経ったか。何とか現実世界に帰ってきた剛はゆっくりと、リナの質問に答える。と────
 
「それは……白r」
 
『きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
 
 言いかけた直後、耳をついばむような悲鳴が周囲に響き渡り再びリナ達に緊張が走る。
 声質と聞こえてきた方角から察するに、声の主は……リディアか?!
 
「な、何よあんた達!? こっち来んなぁぁぁっ!!」
 
 まるで得体の知れないモノに対する罵倒とも取れる、悲鳴に近い一言。
 普段から高圧的で自信たっぷりのリディアからは想像すらできないようなセリフに、リナや実はもちろん
 悲鳴を聞きつけて合流してきたアランとエッジ、そしてベルドも緊張の色を隠せない。
 
「今の声は、リディアか?」
「もしかして、敵(第3勢力)の襲撃でしょうか?!」
「分からん……しかし、このままというわけにもいかんだろう。
アランはこの場に残って彼の監視と護衛を! オレとリナ達は声のした方へ向かうぞ!!」
「「「了解っ!!」」」
 
 手早くベルドが事後の命令を下達すると、他の4人も力強く頷いてそれに応える。
 リナと実はそれぞれの武具を……エッジとベルドは改めてポジトロンピストルを構えると一斉に声のした方向へ駆け出した。
 と、同時………
 
「ぶぎゃっ!」
 
 間抜けな擬音を漏らしながらリディアが、陰となっていた路地の角から姿を現し……そのままの惰性で後方にひっくり返り、そのまま突っ伏した。
 思わず何事かと呆気にとられる一同だったが、間髪入れてリディアに続く形で“彼等”は姿を現した。
 
 巨大な猫……いや、違う。彼等はそんな生易しい言葉で表現できるような次元の存在ではない。
 滑らかな曲線、そしてそれに相反し、誇示するように身につけられた鋭利な爪。
 思わずそれが『人の手によって造り出された存在』であるということを忘れさせるほど彼等は……
 
 かつて地球上に蔓延っていたネコ科の野生動物『豹』にそっくりだったのだ。
 
「な、何だコイツらは?! 見たところ新型みたいだが……」
「来るぞ!」
 
 ベルドが叫ぶより早く、“彼等”の内の2体が飛び出して一挙に加速していき────
 そのままのベクトルを保ってアランに体当たりを仕掛ける!
 
 ドゴォッ!
 
「おぐっ!!」
「あ、アランさんっ!」
「油断するな、次が来るぞ!!」
 
 生々しい衝撃音とともに謎の戦闘人形に吹き飛ばされたアランは、衝撃で5mほど後方に吹っ飛ばされたにも拘らず
 打撲に伴う激痛が全身を走る中、それを堪えてリナ達へ警告を促す。
 それに呼応するように視線を戻したリナはすぐさま敵の位置を確認する。
 
(──相対距離約6m、左右に障害物無し)
 
 それは、1秒にも満たない一瞬の時。瞬時に周囲の状況を把握したリナは、ギリギリまで“彼”を引き付け……
 
 
 避わした
 
 
 
 
 
 
 ────かに見えた。 
 
 
 
 ボグッ!
 
「かはっ……!!」
 
 予想だにしなかった衝撃が腹部、そして呼吸器を伝い、それに遅れる形で激痛がリナの全身を支配する。
 何故……確かにぎりぎりのタイミングで避わした筈なのに。
 不思議に思い、吹き飛ばされる中リナが“彼”に視線を向けると────
 
 
 
 “彼”はあの一瞬で四肢を折り畳み、ホバリング状態となって無理矢理突進のベクトルを変えていた。
 
 
 ズガァァァァッ!!
 
「っ、くっ!!」
「っちょ、アンタ大丈夫なの?!」
「大丈夫……と言いたいところだけど、ちょっと厳しいか、な」
 
 コンバットスーツの制動バーニアも駆使し、吹き飛ばされる体にブレーキをかけてリナは何とか踏みとどまった。
 心配そうに駆け寄ってきたリディアに苦笑交じりで答えるも、状況は芳しくない。
 ざっと見ても“彼等”の最大の特徴はその機動性だ。しかもこちらが回避のモーションを取ればそれに素早く
 対処する反応性を有していることも含め、恐らく戦闘人形中随一のスペックを誇っていると思ってもいいだろう。
 
 しかし、その長所を実現するために武装や装甲はほとんど犠牲になっていると見ていいだろう。
 付け入るスキがあるとすればそこぐらいなのだろうが……
 
「単なるスピード勝負なら、こちらに分がある!」
 
 言って実は抜刀していた刀を一旦鞘に納め、普段通りの抜刀の体制に移る。
 確かに実の抜刀スピードならば“彼等”の反応速度にも決して退けはとらないだろう。
 
「────ぉおおおおおっ!!」
 
 咆哮と同時、駆け出した実は“彼等”の内の一体……
 再びリナに追撃を仕掛けようとしていた一体に狙いを定める。
 そうしている間にも、実と“彼”の距離は見る見るうちに縮んでいき……
 
(殺った──!!)
 
 
 斬ッ────!!
 
 
 鍔を親指ではじき、僅かに刀身を引き出した刹那、そのまま実は一気に抜刀して“彼”を
 文字通り『真っ二つ』に薙いだ。
 切断面から高圧のスパークが飛び交い、それがボディー全体へと広がっていった直後……
 
 
 ドゴォォォォンッ!!!
 
 閃光にやや遅れる形で爆発音と衝撃波が実の周囲を満たしていく。
 だが彼は気を緩めることなく再び刀を鞘へと納め、次なる目標に向けて準備を整える。
 が────
 
 ヒュイィィィンッ……!
 
 鞘に刀を収め直し、再び柄に手をかけようとしたその時、彼の聴覚が不気味に響き渡る高音(アラーム)をキャッチ。
 それが“彼等”のものであると認識するのにさして時間は掛からなかった。
 だが、今の体制から無理矢理抜刀しても敵に対して有効打は与えられない……それどころか
 反撃(カウンター)を仕掛けた自分のほうが、体制を崩し、敵に更なる好機を与えることになってしまうだろう。
 そう判断した実は、柄に伸ばしかけた右手を────
 
「当たるかっ!!」
 
 “彼”の突進のベクトルを僅かにずらし、尚且つ自らの体を最小限のモーションで交わすためにその右手を突き出し、
 軽くタッチする要領で素早く回避する!
 が、“彼等”もただ単発で攻めるだけが能ではなかった……
 実が迫っていた一体を撫で払った直後、その動きをあらかじめ計算していた他の一体がすでに実目掛けて距離を縮めていた!
 
(連続攻撃だと!?)
「実君っ! 避けてっ!!」
 
 すぐ目の前まで迫っていた“彼”の存在に気付けなかった自分に思わず心の中で舌打ちをする実だったが
 背後から告げられた一言ですぐさま現実に立ち返る。
 言われた通り、今度は先程とは異なる形……脚を前方に突き出した反動を利用し、スライディングをする要領で一気に身を屈め
 “声の主の援護射撃”に備える。
 
「シードシューター、Fire!!」
 
 咆哮と同時、放たれた種子の弾丸はまっすぐに実がさっき立っていた位置へと進行し……
 実に襲い掛かろうとしていた“彼”へと────
 
『………………!!』
 
 着弾する直前に、“彼”は姿勢制御用のバーニアとホバリングを併用して器用に急制動。
 命中するかと思われたリディアのシードシューターは、命中しなかったと判るや否や、術者であるリディアの命により
 急制動をかけ、主からの新たな命を待つかのようにその場でふよふよと停滞する。
 
「済まん、助かった」
「アビリティの発動の遅さはあたしがカバーするわ!
実君のバインド系アビリティならコイツらまとめて止められるだろうから何とかスキを見て発動させて!!」
「────善処する」
 
 言って実は、自らの頬を生温い汗が一滴垂れ落ちていくのを感じる。
 よく見渡せばいつの間にやら“彼等”は10体程のグループで円陣を組み、
 一番スピードに優れる実を取り囲んでいた。
 
 ……いや、違う。
 よく見るとリナ達も同様に、次第に追い詰められ、孤立状態となっていった。
 よくよく自分達は追い詰められる状況に縁があるらしい……自らの運命の皮肉さに思わず苦笑すら漏れるが
 
「──来い、猫モドキ共。この程度で俺『達』が……捻じ伏せられると思うな!!」
 
 静かに、そして熱い雄叫びと共に再び駆け出した実は、そのままの勢いで“彼等”に斬り掛かって行った。
 
 
 
 
 ……一方。
 そんな彼らの苦戦状態をやきもきしながら剛は見つめていた。
 
 今、剛の身柄を拘束しようとしている『連中』は、“彼等”の襲撃を受けて自分の方に気を回す余裕は殆ど無いと言っていい。
 つまり────
 
 この身体を縛り付けているバインドさえ何とかできれば彼にもまだ逃亡のチャンスは残っている。
 だが……
 
 
「あぐっ……!」
 
 
(リナ…………!!)
 
 
 違っていた────
 
 
「くそっ、こんにゃろっ!!」
「アラン! そっちにいったぞ!!」
 
 
 こんなはずではなかった────
 
 
「リディア、リナと実が孤立状態に陥り始めてる! 援護に回ってくれ!!」
「そうはいいますけど隊長さん、こいつら速くて……っ、なかなかっ!!」
 
 
 守りたいだけだったのに……
 
 
「せめて、バインド系のアビリティを発動させられる隙ができれば……!」
 
 
 バインドがもたらす激痛の中、目の前で飛び交う罵声と悲鳴に剛は思わず目を覆いたくなった。
 リナが“彼”の体当たりを受け、呻き────
 アランは混乱状態の戦場をエッジと共に奔走────
 ベルドの命令でリナ達の援護に回ろうにも、自分達がやられないようにするので精一杯のリディア────
 リディアに援護指示を出しながらも、自ら銃を取り、援護……そして先陣に立つベルド────
 自らの愛刀を振るい、何とか起死回生を狙わんとする実────
 
 
(ちゃう……! こんなん、俺は望んでへん!!)
 
 
 ドクンッ!
 
 心臓の高鳴る音が肉体を介し、ダイレクトに鼓膜へと響き渡る。
 
(誓ったんや────“アイツ”と! もう、リナを二度と悲しませへんって!!)
 
 
 ドクンッ!
 
 また高鳴る。
 それと同時に身体が熱くなってくる────傷の痛みとは違う、体中の芯から滲み出てくるような
 そんな熱さが身体全体に行き渡ると、今度は『誰か』が何処からともなく語りかけてきた。
 
『宿主(しゅじん)よぉ、どうすんだよ? このままじゃアイツらおっ死んじまうゼ?』
 
 今まで聞いた事の無い声……それが直接脳みそに叩き込まれているような感じがして
 思わず剛は目を見開いたが、案の定そこには誰もいない。
 
『宿主が望むんだったら、オレぁいつでも力を貸すぜ!
────ただし、並大抵な覚悟が無きゃオレ様の“力”を使いこなすなんて到底無理だぞ? それでもやるか?』
 
 この場の雰囲気には全くそぐわない、陽気で軽い感じのする声。
 だが、耳を傾けるにつれ、最初に聞こえてきた時の嫌悪感は次第に薄れ────
 
(………判ったわ、オマエの悪巧みに乗ったる)
 
 あっさり、口にすることができた。
 そして、剛は続けざまに『声』に対して告げる。
 
(覚悟なんてモン────“アイツ”の代わりにリナを守るって決めた時から、とっくの昔に腹ン中に抱えとるわ!!)
『上出来だ────ホラ、受けとんな。
“今はムリだから”せいぜいオレ様の代わりに暴れてくれや♪』
 
 俄かに物騒な台詞を平気で吐きつつ、『声』は剛に向けて光の珠を放り投げる。
 
 リナの『声』が差し出した珠とは異なる、薄黄緑色の珠────
 
 
 剛が両手ですくい取るような動作を取った瞬間、光の珠は一瞬輝きを増し……
 そのまま、彼の両手に染み込むように消えていった。
 
 
 
 ……………………
 …………
 ……
 
「せえぇぇぇいっ!!」
 
 最小限の動きで真っ直ぐ前方に突き出されたリナの炎翼の戦術棒(ライト・スタッフ)も
 “彼等”の前では空しく空を切るのみで、攻撃後のカウンターを警戒するので精一杯の状態だった。
 しかも、徐々にダメージが蓄積されている為、徐々に動きが悪くなっているのも感じ取れる。
 このままジリジリと持久戦に持ち込まれれば間違いなく自分達に不利に働く。
 
 そう懸念していた……その時
 
 
 ヒュオォォォォォッ......
 
 
 突如、辺りに『風』が凪いだ。それと同時にリナ達の表情が一瞬にして驚愕のそれに変貌する。
 何故なら、彼らのいるコロニー内は空間圧縮技術の代償によって空気の流れというものが殆ど存在しない。
 空間を圧縮することによって一般の空間の様に空気の温度差というものが生じなくなる現象が発生し、
 気候調整の為に“雨が降る事”はあっても“風が吹く事”はまず有り得なくなっているのだ。
 
 そんな空間内で風が吹く……となると、思い当たる原因は一つしかない。
 
「おぉぉぉぉぉぉぉっ……!」
「ま、まさかアイツ!?」
「3人掛りのバインドを────振り解こうというのか?!」
 
 自らの四肢を縛り付けているバインドに対し、何とか力技でそれを振りほどこうともがく剛の姿に
 遠目で状況を目の当たりにしたリディアとベルドが驚きの声を上げる。
 実際剛の両手両足の拘束部からは、無理な力が加わったが故の出血が次第に拡大していくが────
 
 同時に、実のフリーズ・コフィンに亀裂が生じ始める。
 
「覚悟せぇやおどれ等……」
 
 静かに、そして覇気に満ちた重い声で告げる。
 同時に、彼の周囲に風が集結して、バインドを取り囲むように吹き荒れ────
 
「俺の大事なダチを痛めつけた礼は…………」
 
 吹き荒れる風は“彼の『力』”を帯びて、バインドに干渉。
 すると実のフリーズ・コフィンだけでなくリディアやリナのバインドにまで亀裂が生じ………
 
 
 
 そしてついに────
 
 
 
「ン億倍にして返させて貰うでぇっ!!」
 
 剛の力一杯の咆吼と共に砕け散る!!
 
 
「っ! この土壇場で覚醒ですって!?」
「何にしてもこれはチャンスだ! ヤツ等が彼の存在に浮き足立ってるスキに一気に殲滅するぞ!!」
 
 通常ならあり得ない覚醒速度の速さに思わず驚愕の声を上げるリディア。
 しかも覚醒しただけでなく、まだまだ未熟の域とはいえ3人掛りのバインドを同時に打ち破るというオマケ付き。
 そんな彼女の驚きを余所に、これをチャンスの一つとしてとらえたベルドはメンバー全員に一斉攻撃を促す!
 が────
 
 
「必要……あらへんで」
 
 静かに──ベルドの背後から告げた剛はおもむろに両手を左右に突きだして構える。
 そして唱える。リナと同じく己が『力』を体現する言霊を!
 
「舞い踊る風よ──我が唱えし言霊によりてその形を成せ!
その『力』……貫く光となりて我が敵を打ち砕く……Creation(創造)ッ!!」
 
 ブリングワードを唱えると同時にそれは起こった。
 最初は戦闘エリアを靡くだけだった風が、まるで意志を持ったかのように彼の周囲……
 厳密に言えば彼が突きだした両の手のひらの側方。
 集まった風は収束・圧縮を繰り返し、次第に小さな台風のような魔力球(スフィア)を形成────
 そして、一定の圧縮量に達した魔力球の周囲を覆う形で再び風が巻き起こり、その風の吹き荒れる方向に沿って“それ”が回転しながら形を作られる。
 
 一見すると、“それ”は無骨をその身で表したかのようなデザイン。
 しかしそのデザインはあくまで性能と扱いやすさ、そして将来性を追求した故の、当時としては究極の形だったもの。
 
 風が吹き終わると同時、“それ”を覆っていた淡緑色の魔力の膜が細かいチリとなって消えてゆき、
 “それ”は姿を現した。
 
 
 旧・西暦時代、ドイツに本社を置くH&K社が世に生み出した拳銃『H&K USP コンパクト』────
 それが剛の生み出した武具であった。
 
「行くでぇぇぇぇぇっ!!」
 
 咆吼し一気に駆け出す剛。そして彼の駆け足がトップスピードに乗った時、続けて叫ぶ!
 
「Accel&Straight(真っ直ぐ加速)!!」
 
 告げると、激しい風の渦が剛の足下に発生し、彼の体はホバリング状態へと持ち込まれ────
 
 
「おぉぉぉりゃぁぁぁっ!!」
 
 渦巻く風のようにさらに加速しつつ、リナ達を取り囲んでいた“彼等”に自分の凶器を向け────放つ!!
 
 バァン! バァンッ!! バァンッッ!!!
 
 
 風の力で創られただけに、撃ち出される弾丸も風絡み。
 圧縮された高圧の空気の固まりが音速の壁を突き破り、荒々しい金属との摩擦音を奏でながら命中。
 そしてその一撃一撃は、きっちりと“彼等”の機能中枢である頭部に多大なダメージ与えるに十分な正確な射撃となっている。
 
 だが、こんなもので彼の猛攻は止まらない。
 突如襲来した竜巻のように……
 
 全てを無へと帰す台風のように…………
 
 ほとんど減速することなく急旋回し、続けざまに他の面々にも次々と弾丸を撃ち込んでいく!!
 
 
 バァン! バァンッ!! バァンッッ!!!
 
 
「剛君!!」
「リナ、俺がコイツ等の足を止めたる! せやから一気に決めたれっ!!」
「判ったわ! 実君、準備はいい?!」
「当然だ、俺とてこの数日は地獄を味わってきたのだからな!!」
 
 短い会話ながらも、その内容は十分に事足りるもの。
 剛の云わんとする事を理解したリナは、再び周囲の状況を確認する。
 
 
 突如覚醒し、ほぼ奇襲に近い攻撃を繰り出してくれてるお陰で“彼等”の注意は完全に剛の方へと向いている。
 これなら……いける!!
 
「バインドには……こういう使い方もある!
────気の体(てい)となりて空に漂う我が眷属に命ずる……凍てつく波動の内にて永久の眠りをもたらせ! フリーズ・コフィンッ!!!」
 
 叫び、実は構えた刀に『力』を込め始め……その充填量が限界に差し掛かった時────その『力』を“彼等”に向かって振り投げた。
 するとその周囲に極寒の冷気が一気に満たされていき、“彼等”の足元が完全に氷の枷によって封じられ……
 
「決めてみせる……柳流剣術参の型──楓舞!!」
 
 いつもの抜刀スタイルではなく、切っ先を右下に向けたまま構え、そのまま敵陣へと突入。
 コンバットスーツのブースターを吹かせ、最高速度を維持したまま“彼等”を纏めて切り刻む!
 
 上に下に、縦横無尽に駆けめぐりながらもその太刀筋は繊細かつ大胆。
 さながらその姿は『空中を舞う楓の種子』の様な動き。
 
「これで……終わりだ!」
 
 最後のフィニッシュは刀を鞘に収めてからの抜刀術。
 いつものように鍔を弾き────
 
 斬ッ────!!
 
 ブースターの加速も使って一気に決めた!
 文字通り、横一文字に薙いだ一撃は“彼等”のボディーを首と胴体の二つに分け……スパークが飛び交った直後爆発して消え去った。
 
 
「おぉぉぉぉりゃぁぁぁぁっ!!」
 
 一方、自らの武具を手にした剛は未だ激しく動き回っていた。
 だが、やはり悲しいかな放たれる弾丸は拳銃のそれと同等で……確実に撃破するにはやや足りない出力。
 若干動きが鈍るものの、戦闘力を失わない“彼等”にやきもきし始めていた────その時。
 
「剛君!」
「っ、リナ!!」
「苦戦してる……みたいだね」
「やかまし。こちとら立ち回るだけで精一杯やっちゅうねん」
 
 背中を預ける形で駆け寄ってきたリナの皮肉に思わず苦笑混じりに答える剛。
 だが、実際覚醒した直後でこれだけアビリティーを駆使して立ち回れるということ自体、本来ならばあり得ない事態なのだ。
 事実、剛自身このままではジリ貧になることはうすうす感じ取れていただけに、リナの一言がグッサリ心に突き刺さっている様で……
 
「せめて『力』の使い方が判りゃ、一気に決めたるのに────」
「じゃあさ、私に考えがあるんだけど……乗ってみる?」
「………………」
 
 そう告げるリナの表情は──まるで悪戯に心ときめかせる子供のような無邪気さで
 剛を安堵させるのには十分すぎる破壊力を持っていた。
 
「……ええで。『CHILDREN』の先輩として、カッコ良えトコ……見せてもらおやないか♪」
「うん♪」
 
 二人して拳を突き出して軽くコツンと当てると────
 リナは《アビリティ》の概要と“作戦”の説明を始めた。
 
 
 ……………………
 …………
 ……
 
「くそぉっ、数が多すぎる!!」
「彼……剛くんだっけ? 彼の参戦のお陰で向こうも相当困惑してるようだけど、このままでは数に押される一方だよ」
 
 一方こちらは相も変わらず大苦戦中の《ノーマル》枠、アラン・エッジ組。
 ポジトロンピストルを構えてアランが思わず愚痴るも、それで事態が好転するわけでもなく────
 かといってエッジ自身も、攻勢に転じるための手段は一向に思い浮かばない。すると……
 
「リディアちゃん! あの子達をバインドで固定して!!」
「リナ?! ちょ、それってどういう────」
「んで、関係のない御方々は戦闘エリアからのご退場を推奨します〜!」
「退場って……何やらかす気だ二人共!?」
 
 後方から聞こえてきたリナと剛の警告にリディアとベルドそれぞれに驚きの声を上げる。
 だが、アランとエッジの二人は違った。
 
「判った! その代わり必ず決めろよ!!」
「何?! ………え!?」
「リディアさん察そうよ。彼等の属性はそれぞれ《炎》と《風》……その二人が組むって事は────」
「……《広域爆砕(ワイドエリアブレイク)》、一定の空間内に『力』を満たして目標を一気に破壊する戦術────それをやろうっての?! ぶっつけ本番で!?」
「だが、やらなきゃボク等は生きて帰れない。……そうでしょ?」
 
 リディアは戦慄した。
 自分との教練によって多少はマシになったものの、まだまだ未熟さが残るリナと
 覚醒したてで、てんで『力』の制御すらままならないであろう剛との組み合わせ────要は完全な素人コンビだ。
 そんな2人が“異なる属性の《アビリティ》を掛け合わせての空間攻撃”をしようなどムチャにも程がある。だが────
 
(リナ、そしてツヨシとかいうヤツの成長速度を考えると、それが妥当かもしれないわね)
 
 結局リディアは、二人の潜在能力に賭けることにした。
 失敗すれば間違いなく自分たちは命を落とす。だが、成功すれば間違いなく生き延びられる。
 
 これほど単純明快なギャンブルが自分の人生の中で今まで、そしてこれからもあるだろうか?
 いや、それ以前に────自分はこんな所で死にたくない。死ぬわけにもいかない。
 
 そんな『生』への欲求が自然とリディアにそう思わせていた。
 
「しょうがないわね……その代わり、確実に決めなさいよ!!」
「判ってるわ!」
「重々承知や!」
 
 同時に、力強く二人が頷くのを確認したリディアは舞桜の切っ先を上方に向け、突き出すようにして構え、唱える。
 
「地に脚を広げる樹々に命ずる────汝が一部、茨の足枷と成りて我が敵を捕えよ!
《バインドアビリティ》・スパイクバインドっ!!」
 
 言ってリディアは舞桜の切っ先を地面に突き刺し『力』を送る。
 すると、生き残った“彼等”の足元から茨のツタが生い茂り、その脚を、胴を、首を拘束する!
 
「こっちはオッケーよ! あと、他の面々だけどあたしが《シールド》で護るから思う存分やりなさい!!」
「ありがとう、リディアちゃん!!」
「よっしゃ、リナ! ──いっくでぇぇぇっ!!」
 
 宴の準備は整った。あとは全力で事に当たるのみ。
 互いに頷きあった剛とリナは一斉に構えて呪文を詠唱し始める。
 
「──我、唱えて汝に願わん……。内に眠りし我が力よ、その御身を猛(たけ)き炎へ換え、愚かなる者を焼き尽くせ!」
「聞け…そして従え我が眷属──我が念ずるは破砕の一閃。その念を今ここに高らかと告げん……巻き起これ旋風! 集いて我が刃と成れ!」
 
 告げると同時、変化が起きた。
 
 剛が手にしていた拳銃が左右それぞれに分裂すると彼の両手の平に移動し、縦方向に回転し出す……
 銃としての姿を完全に消すと同時にその回転は草刈り機のチップソーのような回転体に変化し────
 その回転速度は次第に増していき、キリキリという甲高い音と共に彼の手の内で荒れ狂う小さな嵐となった!
 
「まずは俺からや……! 疾(はし)れ!! エア・ブラストッ!!!」
 
 言って剛は両の手にて抱えていた回転体を“彼等”の陣営へと投げつけた。
 当然、それを避そうと“彼等”は躍起になるがリディアのバインドのお陰で全くその場から動けない!
 直後、“彼等”のカメラアイが捉えた最後の映像が……二対の刃が自分達をあらゆる角度から飛来し、切り刻む光景──
 
 そしてあらかた斬り尽くした所で、回転体は一端“彼等”と距離を取り……まるで助走をつけるかのように一気に再加速、突っ込んできた。
 その際、二対の回転体は互いにガチガチと火花を散らしながらぶつかり合い────
 
 “彼等”の陣営中央に達した所で……爆ぜた。
 
 魔力によって圧縮された風のエネルギーが一気に解放され、荒々しく周囲を飲み込む竜巻となって、“彼等”に襲いかかったのだ。
 立ち上る風の柱の中で配線を……そして部位(パーツ)を引き剥がされてダメージが拡大していく……そこに────
 
「リナ、トドメやぁっ!!」
「うんっ! ファイヤーボール……ラァァァァジッ!!!」
 
 合図と同時、剛の後方でスタンバイしていたリナが、構え……そして放つ!
 
 元々リナのファイヤーボールは超高温・超高圧状態に圧縮した水素ガスを魔力の膜でコーティングしたもの。
 ここですぐに魔力球が爆発しないのは、魔力の膜が空気を断絶することによって水素ガスの燃焼、及び爆発を防止している為だ。
 そしてそれが命中なり、時間が経過することによって魔力の膜が破れ、内部の水素ガスが空気中の酸素と爆発的な燃焼を引き起こすのがファイヤーボールの大まかな仕組みだ。
 無論、ファイヤーボールの攻撃力は内部の水素ガスの濃度・温度に比例するが……
 
 同時に、周囲の酸素濃度によってもその攻撃力は劇的に変化する。
 
 リナがファイヤーボール・ラージを放った先は────
 
 
 
 “彼等”が今現在巻き込まれている竜巻の中央!
 
 
 ドガゴォォォォォンッ!!!
 
 
 加速用の距離も十分確保し、放たれたファイヤーボール・ラージは自身が持つ熱エネルギーによって周囲の空気の流れを変化させつつ、竜巻に直撃。
 その風の流れに穴をあけつつ、めり込んでいく……同時にファイヤーボール・ラージを取り囲んでいた魔力の膜も竜巻とぶつかった時の衝撃で完全に破れ去り────
 
 “竜巻が運んできた大量の酸素”と“ラージの中に梱包されていた大量の水素”が結びつき、大爆発を引き起こした!!
 
 この大爆発に伴う膨大な熱量を前に、“彼等”はその存在を維持し続けることが出来ず、
 ある者は内部の回線が焼き切れ────
 またある者は生じた衝撃波と熱戦で部品が融解し────
 
 次々と爆発、沈黙していく!!
 
 
 その爆発の光景を眺め、全ての敵が沈黙したことを確認した二人は
 
「「これで……チェックメイトだよ(やで)」」
 
 
 さらなる大爆発を背に、静かに……そして高らかに宣言する。自分達の勝ちを誇るかのように────
 
 
 
 −一方その頃−
 
 リナ達が“彼等”と戦っていた地域から4km程離れた廃ビルの中で、彼は静かに事の経緯を見守っていた。
 ビシッとした黒のスーツを袖に通し、顔全面を薄気味悪いマスクが覆って全体の表情は全く読みとれない、見るからに怪しい存在。
 
 そんな中、最後にリナの放った魔力球が竜巻と衝突したことで生じた大爆発の映像が届けられたのを最後に、彼の見つめるモニターは白と黒のノイズが走るだけとなる。
 
「………フム、やはりアレだけでは彼等の相手は荷が重すぎたようですね」
 
 どうやら彼が今回の襲撃事件の黒幕のようだが、自分の放った駒がことごとく敗れた事に対してさほど驚いていない様子────
 いや、むしろ『期待通り』と言わんばかりの意志に満ちていた。
 
「『レオパルド』の改修点も判りましたし、『彼等』の成長ぶりを確認できただけでも良しとしましょうか」
 
 レオパルド──それが、リナ達が戦った戦闘人形の名前らしい。
 相変わらず、彼の表情は仮面によって覆い隠され、全く読みとることができない。
 
 そして彼はポータブルタイプのモニターをシャットダウンし、アタッシュケースに詰め込むと
 少し歩を進めたあとに振り返り────
 
「『CHILDREN』の皆さん……せいぜい踊って下さい、ね。私の手の平の内で、私の望む形のままに──クックック」
 
 そして、高らかに笑い声を響かせながら、男はビルから立ち去る。
 男の正体は……目的は………そして、リナ達を待ち受ける運命とは?
 
 
 やがて、リナ達の攻撃によって生じた熱を冷ます為、コロニー内の天候制御システムが稼働。
 シトシトと緩やかに……そして次第に強くなる雨脚。
 
 
 男の放った邪悪な笑い声は、滝の様に打ち付ける雨の音によって次第にかき消されていった────
 
 
 
to be continued...
 
 
 
 
−The next previous notice−
 
 無事に剛を保護し終えたリナは、久々の故郷に複雑な想いを寄せていた。
 この街から全てが始まり、そして今までの自分の人生がこの街で終わりを告げられた。
 
 逃げられぬ……変えられぬ運命。
 その全ての始まりをリナは語る。
 
 まるでそれが自分の事ではない……赤の他人が体験した事の様に。
 
 次回、Lost Children 〜The opening of the end of the sorrow〜
 Case6〜SIN(前編)〜
 
 唱える時、世界は暗転し……この世は朱に染まる。

後書き

ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイorz
リアルの諸事情が長引き、ズルズルと連載停止して半年近く経とうかという所でようやく更新です。

今回はバトルシーンがメインでその描写に苦労しました。
何せ剛はリナの今後の場面で必要になってくる重要な役なので、中途半端な戦闘シーンを書けなかったのです。
あーでもない、こーでもないといろいろ悩んだ結果こういう形に落ち着いたのですが、
ある意味『彼ら』らしい展開かなーと。というか剛とリナの合体攻撃は早い段階でお披露目すると決めてました。
その方がいろいろと複線張れそうだからw←マテ

ちなみに……剛覚醒後のBGMは『JAM Project』が歌う『熱風! 疾風! サイバスター』で執筆作業を進めてました。
読みながらでも結構マッチすると思うので、皆さんもやってみてはいかがでしょう?

この小説について

タイトル Case5〜変わらぬ想い〜
初版 2009年7月4日
改訂 2009年12月7日
小説ID 3261
閲覧数 868
合計★ 4
takkuりばーすの写真
ぬし
作家名 ★takkuりばーす
作家ID 194
投稿数 12
★の数 54
活動度 2247
ぬるぬる更新となっていますが生暖かく見守ってください(謝)

コメント (1)

★せんべい 2009年7月6日 11時54分17秒
読ませていただきました。

相変わらず描写がうまい、さすがになんども推敲した甲斐が現れていると思います。
想像しやすいので、自然と目の前で激戦が繰り広げられているような感覚を覚えました。(・・・さすがに言い過ぎか。笑)
背中では爆発が起こっているけど、クールに決める剛とリナ。くー、かっこいいじゃありませんか。
敵を倒したスーパー戦隊みたいで。(ちゅどーん

誤字・脱字も見当たりませんでしたし、僕としてはとても満足できる作品でした。
ただ、欲を言えば前回までの展開を忘れてしまうのでもう少し早く更新していただけたら嬉しいなー、なんて。
痛い!殴らないで!!

ということで、次回も楽しみにまってま〜す♪
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