光と闇と剣と - 第16話

 そこは、一瞬にして惨劇の場と化した。
 試合開始が宣告されて何秒経っただろうか。マイクで拡散された声がまだ場内に響いているうちに決着がついてしまったかもしれない。
 先生はピクリとも動かない。血の海がどんどんと広がっている。

 「勝者、『乾柳之助(いぬいりゅうのすけ)』!!」

 審判も、急いで再びマイクを手に取り、乾の勝利を宣告する。『火影』側のサポーターも、待望の初勝利に、ホッと胸をなでおろした様子だ。
 その後、やっと担架が運ばれてきた。救助隊は、手際よく先生を担架の上に乗せ、大急ぎで場外へと出て行く。
 黎夏たちが先生に声をかける暇さえ、全くなかった。と言うより、眼の前の光景が信じられなく、その場を一歩も動くことが出来なかった。自分たちの中では最強のはずだった先生が、こうも一瞬でやられてしまうなんて・・・。
 「・・・・・嘘でしょ?」
 黎夏は地面に力なく座り込んでしまった。その目には涙が浮かんでいる。友則は、黎夏を少し見たあと、
 「ちょ、俺先生の様子見に医務室行ってくるわ!」
 と言って急いで駆け出して行った。残されたのは黎夏と当真のみ。
 当真は黎夏の目線に合わすように膝に手を付く。そして優しく話しかける。
 「・・・次、黎夏ちゃんの試合だよ?ほら、早く立って。」
 当真は黎夏に剣を差し出す。しかし黎夏は反応しない。それを見た当真は中腰の体制を止め、しゃがみこんで黎夏に語りかける。
 「・・・先生なら大丈夫だよ?あの先生が、そんな簡単に死んじゃうわけ無いじゃん。今黎夏ちゃんに出来ることは、先生の無事を願うことじゃなくて、一生懸命剣を振ることだと思うよ?・・・ほら、剣を持って。」
 黎夏は俯きながらも小さく頷いた。そして差し出された剣を手に取り、服の袖で溜まった涙を拭き取って、
「・・・よし!勝つよ、当真君!!」
 と、笑顔で言った。
 「うん、がんばって!!」
 黎夏は、武道台への道をゆっくりと踏みしめて行った。


 「随分遅かったですね。あなたたちの先生の死はそれほどまでにショッキングなものだったのかしら?」
 「・・・先生は死んでませんから。」



 「副将、『鳴海黎夏』対『水無瀬月咲(みずなせつかさ)』、・・・試合開始!!」



 「私もあなたとの試合を楽しみたかったけど、もう終わらせることにするわね。」
 そう言って、試合開始直後から水無瀬は黎夏の目の前から忽然と姿を消した。
 (・・・あれ?これって・・・)
 黎夏にはこの光景に見覚えがあった。先生がやられた時も、この技だったからだ。
 武道台の側で見ていた黎夏にはこの技のからくりがわかる。
 消えるなんてことは、当真の妖刀『朧月』のように外的要因を加えて光の屈折率を変えないと絶対に起こりうることではない。水も、光の屈折率を変えることができるので、お風呂に入って自分を足を見てみると、異様に足が短く見えたりするのだ。
 この技のからくりは、上に飛び上がることだ。そうすることによって、対戦相手の視界からは一瞬にして術者の姿が消えてしまうため、消えたような錯覚を起こすというわけだ。
 上を見ると案の定水無瀬は黎夏の背後を取ろうと着地しようとしていた。
 黎夏はとっさに後ろを振り返り、剣を構える。
 甲高い金属音が場内に響くと同時に、消えた水無瀬の姿が現れた。
 「あら、少しはやるじゃない。この技をしっかり見破るなんて。なかなか頭の切れる子みたいね。」
 「先生の二の舞にはなりませんよっ!」
 少し力んだような声で言った。
 黎夏は剣を交差させていた剣を弾き飛ばし、間合いを取ろうとする。
 が。
 水無瀬はその間合いを取ろうとするわずかな時間で、黎夏の脇に潜り込む。
 (・・・やばっ)
 とっさに剣を出すが、少し間に合わない。水無瀬の剣の刃が、右脇腹に少し喰い込んだ。黎夏の表情が自然と歪む。
 黎夏はそれによってバランスを崩し、地面に背中から倒れこむ。
 しかし、そんな黎夏に水無瀬は容赦なく剣を向ける。
 黎夏は倒れた体勢のままで、なんとかその猛攻をしのぐ。
 水無瀬の一瞬の隙を突いて、足を前に大きく振って、勢いを付け起き上がる。そして、剣を大きく振る。
 
 「当たれ!『水刃』!!」

 黎夏がそう言うと、剣を振った軌道から水の刃が突如として出現する。しかし見た目に切れ味は全く無さそうだ。
 「何これ!?」
 水無瀬は見たこともない斬撃に思わず身構える。
 観客席も、『水刃』がどのような斬撃なのか、一瞬静まり返って見守っている。
 (さっきの小さいボウヤといい、なんなの?この中学生という年齢からは考えられない多彩な技は!?)
 水無瀬は細心の注意を払って『水刃』の軌道を読む。一歩間違えれば大ダメージを負うことは間違いない。
 しかし、そんなことを考える前に、『水刃』自体が、内側から弾けるようにパァンとバラバラに飛び散った。
 霧雨のような残骸が、会場全体に降る。
 「うそ!あんなに練習したのに!?」
 黎夏は愕然とした。
 水無瀬は唖然とその場に立ち尽くしていた。
 「あ、あははは・・・。びっくりしちゃった。やはりチビッ子ではそんな大技は操りきれないようだね!!!」
 冷や汗を垂らしているのを隠すように叫ぶが、黎夏にそれがわかっているのか不敵な笑みを浮かべている。
 しかし、黎夏も楽そうではない。脇腹の出血はまだ止まっていないところを見ると、かなり深い傷のようだ。脇腹を押さえて呼吸も荒くなっているし、眼がだんだんと霞んできている。
 「へへ・・・。だいぶ辛くなってきたかな・・・。」
 笑顔で黎夏は平静を装うが、体のどこかに異常があることは火を見るより明らかだ。
 「じゃあ先生と一緒の場所に送ってあげるわよっ!!」
 水無瀬は猛スピードで黎夏に向って直進する。剣豪を憑依させていない人間でもここまで早く動けるのか。
 黎夏は水無瀬の攻撃をただ防ぐことしかできない。まさに防戦一方だ。
 時折みせる隙を突いて、『水刃』を撃つのだが全て途中で破裂し、そのたびに武道台の上に水たまりができる。そこに黎夏の血が混ざって、赤い水溶液となっていた。 
 (・・・くっ、もう目が見えなくなってきた。そんなに血無くしちゃったかな・・・。)
 そんな雑念が入ったこともあり、もうろくな作戦を立てることができない。
 何度も斬られそうになっては避け、それでも全ては避け切れず、体のあちこちに切り傷ができている。
 (もう水を作る精神力もないし、・・・そうか!!)
 黎夏は行き詰ったネガティブな思考の中から一筋の希望の光を見い出した。
 水無瀬の剣を残る力を振り絞って弾き、少しではあるが距離をとる。
 「・・・まだ抵抗する気?いい加減諦めなさぃ・・・・・・!?」
 水無瀬は言葉を思わず途中で止めてしまった。それもそのはず、黎夏のとった行動を見て、驚かないものはいないだろう。
 黎夏の周囲には無数の矢の形をした赤い塊が浮いている。



 そう、黎夏は自分の血を水に見立てて武器を錬成したのだ。



 「私にもう力は残ってないけど、神様は私に2つのアイディアをくださったわ。もちろん1つはあなたの目の前に浮いているこの血の矢。そしてもう1つは・・・。」
 そう言って、黎夏は上を見上げる。それにつられて水無瀬も自然に上を見てしまう。
 「な・・・これはっ。」
 水無瀬は目を大きく見開いた。
 「そう、だっておかしいでしょ?さっきまであんなにたくさんあった水たまりが、もうなくなっちゃうなんて。」
 武道台の上空にあったものそれは――――少し赤く染まったとてもたくさんもの剣だった。
 「これであなたに逃げ場はない。先生の仇討ちの思いも込めて、私たち『KYRT2』はあなたたちのチームに勝つ!!」
 その言葉と同時に、一斉に刃が水無瀬に向かって発射される。
 血しぶきが舞う。
 絶叫がほとばしる。
 舞った血しぶきで再び矢を作る。
 その連鎖が繰り返される。
 
 武道台は、――――――さらなる惨劇の場と化してしまった。




 「もうやめろぉ!!」




 どこからともなく怒声が聞こえてきた。
 観客がざわめきだして、どこから発振された声なのかを確かめるためにあちこちをきょろきょろと見回す。
 黎夏も思わず手を止めてそちらの方を振り向く。
 「とうっ!!」
 誰かが観客席から飛び降りた。ここから武道台のフロアまでは10メートル以上あるというのに。
 その刹那、ざわめきの中、ごおんという轟音が館内に響き渡った。
 何者かが飛び降りた場所からは砂埃が立ち上っていてよく分からない。が、その中の影は立派に仁王立ちしている。着地失敗かと思いきや、しっかりと成功していたようだ。
 観客からはなぜか拍手と歓声が沸き起こる。そのうちに、砂埃が晴れてきた。

 そこにカッコよく仁王立ちしていたのは、結城だった。
 「「結城!!」」
 黎夏と当真は一緒に叫んだ。特に黎夏は、先ほどまでの辛そうな表情とは一変し、一気に明るくなった。
 黎夏と当真は結城に近づこうとしたが、ある事実が発覚した。

 ((やっぱり着地失敗だったんだね・・・。))

 2人がそう思ったわけは、結城の頭からは見事なまでに血が流れ出していたからだ。
 つまり、あの時の轟音は確かに着地失敗によるもので、砂埃で自分の姿がよく見えないのをいいことにフラフラしながらもなんとか立ち上がり、カッコつけて仁王立ちのポーズを決めたということになる。
 「いや結城、どこいってたの?」
 「ホント心配したかも!!」
 「いやいや、まぁどんなアクションストーリーの主人公も修行して強くなるだろ。ほら、ドラゴンボールの悟空みたいにな。つまりこの俺も修行しなくちゃいけないってことになるだろ?だいたい今までどんな辛い修行積んできたと思っ・・・・。」

 「「分かったもういい。」」

 結城はその場でいじけてしまった。しゃがみこんで地面を指でほじほじしている。
 しかし、2人には結城が辛い修行を積んでいたことが分かっていた。
 なぜなら結城の右腕。とてつもない量の火傷の痕が残っている。きっとこのバカのことだから無茶でもやらかしたんだろうと思い、思わずため息が出る。
 「し、失格ー!!」
 へ?と言う顔を3人が一斉にする。失格と叫んだのは審判であった。
 「試合はまだ続いている。それにも関わらず武道台を自ら降りたということは降参と判断する。」
 まぢですか・・・。黎夏は一気にまた絶望的な表情へと変貌した。
 「でもほら審判さん?『火影』副将は既に戦闘不能な状態ですよ?」
 当真が抗議してみるが、
 「私はまだ勝利宣告はしていない。恨むなら突然現れて全員の注目を浴びたその血まみれの男の子を恨みなさい。」
 と、聞く耳持たない。
 ど、どんまい・・・。それしか声をかけることはできなかった。
 「ま、まぁこれで結城君の出番ができたわけだし、ちゃんと空気読んだんだよね、黎夏ちゃん♪」
 なんとかフォローを入れるが、黎夏はバランスを崩して倒れそうになった。それを結城が慌てて支える。
 黎夏は目を閉じていて、意識はなかった。一瞬ヒヤッとしたが、呼吸をしっかりしているところを見ると、先ほどの戦闘で負った傷からの出血がひどくて貧血になったというのが妥当だろう。
 「・・・黎夏、俺がいなくてもちゃんとがんばってたんだな。」
 優しい目で黎夏を見る結城。観客がそれを見逃す訳はなく、また拍手が飛んできた。口笛や「ラブラブだなぁー!」という相の手も一緒に。
 「ば、バカ野郎!!そんなんじゃねぇやい!!」
 (ホント、結城君がいるだけで周りの空気が和むよね・・・。)
 当真はそう思った。
 しかし、ペッペと唾を吐きかけている結城を見ると、
 (うん、やっぱり鬱陶しいや♪)
 という気持ちに変わった。
 「結城君!!早く、次は大将戦だよ!!!」
 当真がそう言うと、結城はすぐに反応して、力強く言った。
 「おう、New俺を見とけよ、当真!」
 「うん!」


 チームの命運を乗せた戦いが、今始まる―――――。




後書き

かなり更新が遅れてしまいました。
コメント下さるととても嬉しいです。

初めてコメント書く人も遠慮なさらずにー。笑



       ・・・・
次回は、結城がちったあ主人公らしいことをするんでしょうかね?

この小説について

タイトル 第16話
初版 2009年7月6日
改訂 2009年7月6日
小説ID 3266
閲覧数 1046
合計★ 11
せんべいの写真
作家名 ★せんべい
作家ID 397
投稿数 62
★の数 592
活動度 12726
卓球とみたらし団子とピアノが大好きな変態です

コメント (6)

ポセイドン 2009年7月7日 7時32分00秒

読みました
よかったです、緊迫感もあったし緊張して読むことができました
後半のおちゃらけもまたいい雰囲気でした
次回も気になります、頑張ってください
PJ2 2009年7月7日 14時06分52秒
読ませていただきました。
久しぶりに読みましたが、変わってないですね。いい意味で。

しかしながら、結城のKYっぷりが再発してましたし、惨劇の表現をもっとシリアスに表すと良かったかもしれません。

とりあえず、復活のシリーズを楽しみにしてます。

続編頑張ってください!
★せんべい コメントのみ 2009年7月7日 15時45分29秒
ポセイドンさん、コメントありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。
★せんべい コメントのみ 2009年7月7日 15時51分45秒
PJ2さん、いつもこめんとありがとうございます。

良い意味で変わってないと言われてうれしいです。
しかし、もっと満足していただけるように変わって行きたいと思います。良い意味で。笑


結城のKY、僕個人的に大好きなんで、いつもどこかに入れたくなっちゃうんですよね。
次回からは控えたいと思いますが、締まらないのがこの作品なんじゃないかな―、なんて。
シリアスな雰囲気は結城たちには似合いません。


これからも明るいキャラ作りを目指して行きたいと思いますので、よろしくお願いしますっ!
★みかん 2009年7月7日 17時56分45秒
こんにちは、今回も楽しく読ませていただきました。

結城君ついに登場しましたね、私としてはかなり嬉しいです。

先生がやられたのは衝撃的でしたが、結城君の活躍が気になります。

結城はどれくらい成長したか、それも気になってしまいます。

ただ、個人的にもうちょっと先生のことを気にしてほしいなと思いました。

あれだけ強い先生が、やられてしまったわけですから、
その時の落胆の描写が少し短すぎて、
ことの深刻さが、少し伝わりにくいと感じました。

心理的に追い詰められている状態だと思うので、
先生がやられた後の試合に警戒や心理的に圧迫されているなど、
そういった描写が、もう少しあればいいなと思いました。

また細かいところをウダウダと……本当に、申し訳ありません。

次回作も楽しみに待たせていただきます。

では、失礼しました。
★せんべい コメントのみ 2009年7月7日 18時14分40秒
みかんさん、コメントありがとうございます。

結城の登場、僕としてもとても喜ばしいです。
やっとここまで書くことができた・・・。その喜びですがw
それに、アドバイスありだとうございます。確かに、みかんさんの言うとおりです。
先生という精神的な柱を失った中学生無勢が、こんなしっかりした戦いをできるはずがないですよね。
細かいところまで見てくださり、ありがとうございます。
次回もよろしくおねがいしますね。
名前 全角10文字以内
コメント 全角3000文字以内 書式タグは利用できません
[必須]

※このボタンを押すと確認画面へ進みます。