放課後

「電話せんの?」
「はぁ、なんでよ」

 放課後ってのは、何でこうテンションがあがるんかな。
 私が思うに、放課後ってのは、それまで根詰めて勉強しとった場所が急に自分らのテリトリーになったから、なんか新鮮で楽しくなるんだと思う。
 一段高い教壇とか、消し残りのあるホワイトボードとか、先生の用意したカレンダーとか。
 いっつも見てるもんがどっか違うように見えるから、こんな楽しくなるんじゃない?

「あっくん。こん前図書室で会ったけど、よかにせやね」
「でしょー。んでも今喧嘩しとんのー」
「喧嘩ぁ? ありえんし、あんたら付き合って一週間目やせん?」
「まぁね。なんつーか、カチカンのソウイ?」

 夏芽の言った、芸能人がよく言う言葉は、どことなく違う世界の言葉に思えてくる。
 テレビはあんまり見ないし、正直芸能人の結婚だの離婚だのに興味はないけど。
 
「別れたらちょうだい」
「ははっいいよー」

 こういう会話って男にとったらどう聞こえんのかな。
 男じゃないしよく分からんけど、たぶん、馬鹿だって思ってるはず。女って浅いなぁって。
 そういうかんじで言ってるんじゃないんだけどね。
 どこまで本気か分からんとこあるし。女って不思議ないきものなんね。

「つかー、明日まじでだるいわ」
「あー、小テスト? 勉強したぁ?」
「するわけないし」
「だよねぇ」

 青春つーものはあっという間にすぎていくって周りの大人はみんな言う。
 でも、当の私らはそれが分からん。いくら周りが言ったって、分からんもんは分からん。
 どう付き合っていいかも分からんから、結局あれ、その、カチカンのソウイってのが、起こるわけ。

「夏芽は就職とかもう決めてんの?」

 カチカンのソウイは、実はけっこうな壁で、私がこう聞いて、夏芽が何か答えても、私は夏芽じゃないから、ふぅんとしか言えない。
 逆も当然あるし。
 馬鹿でかい夢だったり、笑っちゃうような夢だったり、それでもただ、それを大声でアホみたいに話すのが楽しいんだと思う。
 意味不明にエンジンをふかす男子と一緒的な?

「あたしはー、専門入る」
「専門ー? 何の?」
「ウェディング系」
「マジでー!? いいなぁ、え、ドレスとか?」
「んや、プランナーっていうやつ。計画とかたてんの」
「へぇーカッコいいー」

 そんな夏芽の夢だって、話をする上ではどうでもいいことだったりするわけ。
 重要なのはただ喋ることで、話題じゃないってこと。もっと中身のある話をせんかってあのハゲは言うけど、中身のある話がどれか分かんないし。
 放課後の、寂しいような楽しいようなわくわくする空気の中で、ただ喋るのは、中身がないんかな?
 きっとあのハゲはないって断言する。大人になったらアホなことで楽しめないって証拠やないせん? あー、なんかむかついてきた、あのハゲ。

「沙紀は? やっぱバレーの道進む系?」
「やーやー、もうバレーはせんし。きっついしだるいし、髪伸ばせんし。パチンコ屋に就職しよかなって」
「パチンコぉ? なんでなんでー」

 夏芽はウェディング系で、私はパチンコ屋。この落差にあんまり意味はなくて、ただ私は正直に夢を話すのが恥ずかしかっただけなんだけど。
 ごてごてのキャラクターがプリントされたタオルをくるくる巻きながら、私は「別にぃ、やりたいこともないし」と続ける。
 やりたいことはあるけど、それは単なるそう、笑っちゃうような馬鹿でかい夢だから。

「なんか楽しそうじゃん?」
「そうー? なんか臭そう」
「うちお父さん煙草吸ってるし匂いとかはあんまり気にならんから」

 好奇心でその煙草を一本吸ってみたけど、ただ咳き込むばっかでなんもいいことなかった。
 あれ、たぶんかっこつけで皆吸ってんだと思うわ。
 お酒だってそう、飲むけど、大して味はわかんない。ただ、飲めるってだけで人よりちょっと大人になれたような気ぃする。

「あ」
「ん?」

 うん、皆矛盾してるせん?
 大人の考えは分からないし、分かりたくもないし、聞きたくもないけど、でも周りには、少しでも大人にみられるように、煙草を吸ってみたりお酒を飲んでみたり。
 一体私達は何がしたいんだって、時々考えるんだけど、結局なんも分からんで、堂々巡り。
 これが分かるようになるには、すごく時間がかかると思う。それこそ、大人になるって意味で。

「え、いや……夏芽、駅前のアイス屋寄ってかん?」
「今小遣いピンチなのー。今度またアルバム出るわけよ」
「まだ追っかけしてんのぉ? あんなののどこがいいんだろうねー」
「いいもんはいいのー」

 アホみたいに大声で、アホみたいな話を、ただ喋る。
 それはきっと、無意識に探してるんだと思う。
 行きたい場所とか、自分がいる位置とか、相手が何を思ってるとか。単純なことも、複雑なことも。
 
「じゃあ新作のマスカラも買えんねぇー」
「えっ出たの!? もう沙紀ー! 朝言ってよー!」
「私昨日買ったしぃー。試作品もらったけどもらう系?」
「もらう系!」

 子どもみたいにじゃらじゃらキーホルダーをつけた鞄の中にある、少しでも大人にみせようと努力する魔法が詰まっているポーチ。
 私達は子どもでいたいのか、大人になりたいのか、素直になれないアホな奴ら。
 電車ん中でもバスん中でも、大声でアホみたいに笑って、じゃぁねって言った途端にケータイがお友達っていうね。

「あと香水も買ったし」
「えーいくらした?」
「三千円」
「高っ! やばっ!」

 三千円の横にあった三万円の香水にはさすがに手ぇ届かんから、それでも精一杯背伸びするのは、たぶん、私がアホだから。
 でも思うのは、アホでいいんじゃないかって。
 アホでいられるうちは、アホなことで笑えるし、テレビの中でしか聞いたことない職業に憧れたりする。
 誰かが若者は不安定なんだって言っとったけど、私達はきっと、不安定なんかじゃないんだと思う。
 ぐらぐら揺れるのが楽しくて、つまらなくて、面白くて、退屈で、毎日が刺激だらけだから、みんなそうなるんだ。

「うわー超いい匂い」
「だせーん」
「試作品三個あんの?」
「あ、うん。一個買ったらひとつもらえんの」
「へぇーあと一個なん買ったのー?」
「ひみつぅー」

 はは、と笑って、ポーチをしまう。
 その鞄の中には、私が買ったもうひとつがある。
 それは薄くて、たった五百円だったけど、すごくすごく、夢が詰まってるように思えた。
 
「いいじゃん教えてってばー」
「じゃああっくんの友達か誰か紹介してよ、私もヒロキと別れてからフリーだしぃ」
「あ、この前ヒロキ君二組の女子とキスしとったよ」
「えー! ありえんー!」

 こうやって私達は、またアホみたいに大声で喋りあって、無意識に探しているんだ。
 行きたい場所、自分の居場所、相手の気持ち、単純なのも、複雑なのも。
 鞄の中のジュエリーデザインブックを、私はそっと撫でてから、鞄のチャックをしめる。 
 放課後の、少し寂しいような楽しいようなわくわくする空気がどこか、さっきよりも色づいてみえた。





おわり。

後書き

普段使ってる方言て、書き出そうとすると難しいものですね。
しかもイントネーションが特殊だから、文章ではあらわせないのが微妙ですね。

放課後になるとテンションがあがるのは、私と友人だけではないと思います。
何か楽しくなっちゃうんですよねぇ。
しかもそれ、電車に乗るまでの一時間くらいだけ。
電車に乗ったら寝ちゃうし。何にしても、放課後ってのは学生だけの特権だと思うので、騒げるうちに騒いどこうと思いますw

あと、一応解説。
「〜だせん?」はこっちでは一部の地域しか使いませんが、「〜じゃない?」みたいな意味です。
それから、「〜だし」とか、よくつかいます。
「よかにせ」はイケメンて意味です。
分からないのあったら、聞いてください><

この小説について

タイトル 放課後
初版 2009年7月7日
改訂 2009年7月7日
小説ID 3267
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トリニティの写真
作家名 ★トリニティ
作家ID 95
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活動度 25049
文と音楽と絵と食事を大事にする南部人

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