1-2 - 軌跡  ■第一章 第一節:仲間(2)

Faye
皆でアンリ・カイン・リアの作った豪華な夕食を囲んだ。少しお酒も混じり、まるで幸せな食卓。
「…いい感じに酒が回ったな」
いつもは険しい顔のトウラの目元が緩む。
「なかなか纏まって食事をする事はないですからね」
「あぁ。ルキア、よく無事で帰って来たな」
ルキアは定期的に修行を兼ねて、他の傭兵団に加わっているのだ。
仕事が落ち着くとジェクト傭兵団へ帰ってくる。
「…心配をかけてごめんなさい」
アンリが水をトウラのグラスへ少し注ぐ。
「お父さん、もう休むの?」
「そうだな…」
グラスを持ち立ち上がる。おやすみ、と告げて自室へと向かった。
少しの沈黙のあと、アンリが口を開いた。
「そういえば…ルキア、王都の方はどうだったの?」
「…少し気になる噂を耳にしました」
「噂?」
「アッカドの王女の結婚です。名前はエメラダ王女。
隣国のユングフィへ嫁ぐと。彼女は現王の一人娘。
王権は彼女の兄に当たるライ王子が跡を継ぐでしょうが…。
婚礼にしても、時期や内容は分かりませんし…その前に確かな話かどうか分からないけれど。
もし本当なら…」
「見え見えの政略結婚ではないのか?」
「さすがカイン…まぁ、それ以外には有り得ないでしょうが」
「政略結婚かぁ、王女様も大変だよね」
遠い世界の出来事のように、リアはつぶやく。
確かに、普通に生活していれば、そんなことに巻き込まれる事もまずないだろう。
「お前は普通に結婚できるのかよ、このブラコン」
「うるさいなぁ、アイルのバカ」
そのやりとりにクロスは思わず噴出した。カインもつられて笑っている。
「それでルキア、王都の様子は?」
「アンリが心配してるような、物騒な騒ぎは特に」
アンリは水を口にし、酔いを完全に醒ましたような表情で息を吐いた。
「ん?誰か来た?」
リアが立ち上がろうとしたが、クロスが制し席を立った。
一体誰が…と不振に思いながら暗い外へと向かう。来客にしても、時間が時間だ。
恐る恐る見つけた相手。外に見えた姿は、馬一頭と全身を隠した女性一名であった。
「夜分に申し訳ない。トウラ殿はいらっしゃるか?」
『いつもの事』と思いつつ、クロスは父親を呼びに部屋へと向かう。
最近、何度か傭兵団を訪れている女性だった。
正体は分からないが、何かしらの依頼を持ち込んでいる。
他の団員に決して聞かれないように、話をし、そして帰っていくのだった。



カーテンの隙間から、月が見える。消えそうな、細い細い、月。
ぼんやりとながめていると、まるでルキアを見ているかのような気がしてくる。
「…で、どうだったんだよ、3ヶ月。まぁた、腕上げたのか?」
クロスの自室で2本目の葡萄酒を開ける。王都で買ってきた、小さい2人用の物。
「魔法は腕じゃないの。精神の強さ」
「精神か…分からん世界だな、俺には」
ルキアが前に言っていた言葉を思い出した。
『魔道』は書いての通り『惑う』世界だと。
自分の精神のバランスで力は強くも弱くもなる。
感情のコントロールが出来ないと、使えなくなる事もあるという。
だがそれはもう、魔道師としては失格だと思うのだ、と。
ルキアを見ていると、少なくとも感情の振り幅は少なそうに見える。
大概の人間はルキアを見るとそう感じてしまうだろう。
だが、意外と感情に流されやすい性格だと、クロスは思っていた。
「ふふっ…クロスは?見た感じ、随分強くなってるけど」
ルキアとの視線が絡む。その視線は逸らせない。まるで金縛りにあったかのように。
クロスは、この視線が一番怖い。だが、一番美しいとも感じる。
「まだ、仕事には出させてもらえない。それが…一番悔しい、かな」
「時期が来たら、だよ。団長はきっと、その日を待ってる」
「…お前…ホント怖いよな。何が見えてるんだよ、その眼に」
「……怖くないよ…だって、クロスは強いからね…」
視線を伏せ、ルキアはその薄い唇をクロスに重ねる。
冷たい唇。だがルキアの細い体からは、温もりを感じる。やはり、少し痩せたようだ。
こういう関係を築き上げて、1年近く。誰かに話せるような関係ではない。
クロスにとっては、この関係が愛しいとか、恋しいとか、そういう感情とは少し違う。
うまくは説明できないが、言葉にしてしまうと、消えてなくなりそうな想いだった。
抱きしめて、触れ合って、ルキアの瞳の中に自らの姿が見えたとき。
クロスは背中に悪寒が走ったが、気づかない振りをした。
そして、かき消すかのように、強く強く抱きしめる。

だが眠る時は、絶対にいつも一人だった。明け方に必ずルキアは自室に帰る。
ベッドの左半分にルキアの温もりを残したまま、クロスは短い睡眠に体を委ねた。



ルキアが帰ってきてから一週間後の晴れた日の朝だった。
朝食の後、寝不足のクロス頭の靄が一気に晴れる、トウラの言葉。
「全員集めろ、至急、だ」



この小説について

タイトル 軌跡  ■第一章 第一節:仲間(2)
初版 2009年7月11日
改訂 2009年7月11日
小説ID 3290
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