深い夢 3

上原直也
「・・実はね、わたしの大学ときの友達が突然眠ったままになってしまったの。」

「眠ったまま?」と、僕は小さな声で優貴の言葉を反芻した。少し動悸が激しくなった。

「・・その子が眠ったままになったしまったのはつい最近のことなんだけど。」と、優貴は言葉を続けた。

「わたしたちすごく仲が良くて、だいたい週に一回は会って一緒にお茶したりしてたんだけど、でも、突然、彼女と連絡がとれなくなっちゃったの。メールを送っても返事は返ってこないし、電話をかけてもつながらなくて。」
 優貴はそこで言葉を区切ると、お冷の入ったグラスを手に取って、少しに口に含んだ。

「それでわたしすごく不安になったの。どうして連絡がとれないんだろって。もしかしたら交通事故とか病気にかかったりしたのかもしれないじゃない?」

「そうだね。」と、僕は頷いた。

「それでわたし思い切って彼女の実家に電話をかけてみることにしたの。彼女は実家住まいだったから、彼女の実家に電話すれば何かわかるんじゃないかと思って。」
 優貴はそこまで話すと、またお冷を少し口に含んだ。僕は彼女の言葉の続きを待って黙っていた。

「それで彼女の実家に電話したらね。」と、彼女はお冷の入ったグラスをテーブルの上に戻すと話はじめた。

「彼女のお母さんが電話に出て、娘が眠ったままになっちゃったって泣きそうな声で言ったの。・・わたしわけがわからなくて、それで詳しくて訊いてみたんだけど・・そしたらね、ある日いつも通り仕事を終えて家に帰ってきた彼女は、自分の部屋でおやすみなさいって眠って・・それでそのまま目を覚めなくなっちゃったみたいなの。」

「もちろん、べつに死んでしまったとか、そういうことじゃないわよ。」と、彼女はそれまで伏せるようにしていた眼差しをあげて僕の顔を見ると、付け加えるように言った。

 僕は黙って頷いた。それから僕はコーヒーの残りを飲もうとコーヒーカップを口元に運んだ。でも、それはいつの間にか空になってしまっていた。

「・・・ただ眠ってるだけみたいなんだけど・・。」と、優貴は何かを思案するようにテーブルの上あたりに視線を落として少し小さな声で続けた。

「でも、身体を揺すっても、叩いたりしても、全く目を覚まさないみたいなの。最初の二日間くらいは、そのうち起きるだろうと思って、向こうのご両親も諦めてそのままにしておいたらしんいだけど、でも、三日経っても、四日経っても、彼女は起きなかったらしくて・・いい加減心配になった彼女のご両親は眠ってる彼女をそのまま病院に運んで診てもらうことにしたみたいなの・・。」

「それでどうだったの?」
 と、僕は気になって尋ねてみた
優貴は僕の顔に視線を向けると、少し悲しそうに首を振った。

「・・・結局原因はわからないままなの。色んな検査をしてみたらしいんだけど、おかしなところは何も見つからなかったみたいで

・・脳波とかを測定してみても、眠っている状態のときと特に変わったところはみつからないみたいなの・・だから、脳死とか、そういう深刻な病気じゃないことは確かみたいなんだけど

・・じゃあ、なんで彼女が目を覚まさないのかということになると、お医者さんにも全然わからないみたいなの。

可能性として考えられるのは、眠りをコントロールしてる脳の機関が、何らかの原因で上手く機能しなくなってしまったんじゃないかっていうことぐらいみたい。」

「・・そっか。」と、僕はどう言ったらいいのかわからなかったので曖昧に頷いた。

 優貴は僕の顔を見ると、少し躊躇うように間をあけてから、
「本で読んだけど。」と、いくら言いづらそうに話はじめた。

「実際に、眠りをコントロールしてる機関に異常が発生してしまったことで、死んでしまったひとがアメリカにいるみたいなの。」
 と、優貴は言った。
 
 僕は驚いて優貴の顔を見つめた。


「ただ、そのひとの場合は友達のケースとは全く反対なんだけどね・・。」と、優貴は付け加えるように言った。

「そのひとの場合は、眠りをコンとロールする機関が壊れてしまったことで、全く眠れなくなってしまったみたいなの・・睡眠薬とか使っても全然だめだったみたいで・・それでそのひとは最後、衰弱して死んでしまったみたい・・」

 僕は優貴の話したあまりにもショッキングな事実に何も言葉を発せられずにいた。

「・・だから、友達がもし、そのアメリカのひとと同じようなケースだったらと思うと、すごく怖いの。」
 と、優貴は思いつめた表情をして言った。


 僕は少しの間適当な言葉が見つからずに黙っていたけれど、しばらくしてから、
「それで、その友達は今はどうしてるの?」と、一番気になっていることを尋ねてみた。

「彼女は今もまだ病院にいるわ。」と、優貴は僕の質問に答えて言った。

「とりあえずもう少し詳しく検査をしてみようということになってずっと病院に入院してるの。・・わたしもついこの間彼女に会いにいってみたんだけど、ほんとうに彼女は気持ちよさそうに眠ってるだけに見えた。もう一週間以上も眠り続けたままだなんてとても信じられなかった。」


「・・・ほんとうに何をしても彼女は目を覚まさないの?たとえば電気で刺激を与えてみるとか?」
 と、僕は半ばすがるような口調で言った。

 その僕の言葉に、優貴は少し疲れたように首を振った。

「色々試してみたらしんいだけど、駄目だったみたい。電気ショックも、大きな音も、刺激臭も・・全部、彼女の眠りを妨げることはできなかったみたい。」


「・・そっか。」と、僕は優貴の言葉にただ力なく頷くことしかできなかった。

 ふと、窓の外に視線を向けると、いつの間にかさっきまで晴れていた空に雲が出始めていた。まるでこれからの僕の未来を暗示するかのように。

「・・わたし、さっき武が話してくれた夢の話を聞いてて、ふと気になったことあるんだけど・・。」
 と、しばらくしてから優貴はゆっくりとした口調で言った。僕は窓の外に向けていた注意を優貴の顔に戻した。

「・・彼女もね、確か夢の話をしてた気がするのよ。眠ったままになってしまう前。最近変な夢をよくみるんだって。」

 僕は無言で優貴の顔を見つめた。

 優貴の言葉の続きを聞くのが少し怖くなった。

この小説について

タイトル 深い夢 3
初版 2009年7月12日
改訂 2009年7月12日
小説ID 3292
閲覧数 645
合計★ 3
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コメント (2)

★せんべい 2009年7月12日 13時07分36秒
また読ませていただきました。

なんだか深刻な展開になってきましたね・・・。どうしても続きが気になってしまいます。
しかし、もう少し武くんの焦りの心理描写を多くした方がよかったと思います。
会話だけの文だと、単純な構成という雰囲気がでていまいがちだと思いました。
では、次回もまた楽しみにしていますね。
上原直也 コメントのみ 2009年7月13日 22時10分55秒
せんべいさん、コメントありがとうございます!

うーん。そうですね。
言われてみると、そんな気もします。
貴重な意見、ありがとうございました。
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