〜第三章 - 夢の後先

 次は、あの星
 良いのか?
 実験物を降らすんだ。これでこの星の未来は変わる。
 了解した
 テイクダウン――――

 プロローグ 

 今から十年前、隕石が落下した。
 落下、とは言えないかもしれない。なぜなら、隕石が落下直前に、ありえないことを行ったからだ―――
 逆噴射という、まずありえないことを。
 証明ならある。落ちたのは海の上なのに、津波が起きていない。 

 そして、その隕石から発せられた正体不明の電磁波によって、航空機のレーダーや航行システムが壊れ、ことごとく帰ってこれずに落ちた。
 航空兵力が意味を無くした戦場で、人型兵器が開発されたのをきっかけに、戦場のパワーバランスは崩れ去った。

 第一章 親と子と

 デルタニア 首都キルスティン

 機械音が聞こえる。モニターには反応なし・・・・・・いや、来た!
「タンゴ11からタンゴリーダー。敵反応、赤外線カメラで視認」
『・・・・・・応戦できるか?』
「風穴開けてやります」 

『よし、意気込みはいいが、気を抜くな。敵との距離は?』
「千」
『五百より攻撃開始。こちらにも敵だ』

「通信をきります。作戦後、会いましょう」
『死ぬなよ』
「・・・・・・了解」

 敵はこちらに気がついていないのか、ゆっくりと近づいてくる。
「よーし、そのまま来いよ」
 赤外線カメラで、緑色に染まったモニターの中にある、射撃マーカーを建物の影にいる敵に合わせる。この子の積んでる四十ミリマシンガンはだてじゃない。

 七百、六百、意外と早い―――ふと、ソナーから目を離しモニターを見た。その瞬間、息をのんだ。真正面に敵がいた。ソナーには映っていない。
「ちっ!」

 反射的にトリガーを引く。

 発射音が鳴り響く。が――モニターに敵の姿が無い。
 次の瞬間、機体が殴られたように転倒した。
 
「クソ!」
 そこで、自分の機体以外の機体が武器を発射する音が聞こえた。 

 そこで俺は、意識がとんだ。家族は、悲しむだろうな――それだけふとうかび、深く意識が沈降した。

 デルタニア国境の町、フェルフェンド

 朝起きると、朝の日差しが目を射した。上布団を深くかぶっても冷える。
 
 カーテンを開けて小さなベランダにある時刻板を見ると、八時を射している。 
「今日、休日だっけ」
 学校も無いし、やる事も無いので、今日一日部屋でごろごろしようと思ったときだった。

「ミティアー! 母さん買い物に行くからぁ!」
 母さんの声だった。いつも母さんは早起きだ。
「はぁーい」
 それだけ返事をして、またベットに潜り込んだ。

 家族は両方とも軍人で、でも母さんは私が生まれたと同時に辞めた。父さんがまだ戦場にいて、少し気になるところはあるけれど、待つほうはどうしようもない。
 昨日も、父さんの配属された地区で戦闘があったらしい。

 いつ帰ってこなくなるかもしれないのはわかってるし、それを覚悟して父さんをいつだって待っている。
 
「今日、久しぶりに遠出しよっかな」
 暇な事は確かなので、買い物にでも行こうかなと身支度をしていると、呼び鈴が鳴った。

「はぁーい! 今行きます」
 階段を駆け下り、玄関のドアを開けた。すると、ドアの向こうに軍服を着た男の人が立っていた。
「ミティア・ファルトゥルデさんですね? 私、ダルク・トルガイヤといいます」
「え?」
 そういえば、殉職者には、こうやって家族のところに親しかった軍の人が―――

「私は、あなたの父親であるジャック・ファルトゥルデさんの上官で、あなたの父親の部隊の隊長でして・・・・・・」
 じれったい。言いたいことはさっさと言ってほしい。向こうも言いたくないのかもしれないけど、このままじゃ私が耐えられない。

「・・・・・・はっきり言ってください。そのほうが楽です」
「ジャック・ファルトゥルデさんが、首都近郊にて、戦死しました」

 いつ帰ってこなくなるかもしれないのはわかってるし、それを覚悟して父さんをいつだって待っている。
 つい数分前に、心で思い直したものが、簡単に崩れ去った。
 それと同時に、涙があふれてくる。

 私が落ち着くまで軍人さんは待ってくれていたらしく、私が泣き止んだの見計らって、私に車に乗って軍の基地まで来ていただきたいと言った。

「葬儀は、今日中に終わります」
 車で基地へ移動中、軍人さんが独り言のように言った。
「・・・・・・敬語は、やめてください」
 私も、言い返すわけではなく、呟くように言った。

 それっきり、私も軍人さんも何も喋らなかった。

 車で一時間弱、倉庫が立ち並ぶのが見えた。
「着いたぞ」
 軍人さんは運転席から降りて、私の座る助手席のドアを開けるために前から回ろうとしていたが、その前に私は先に降りていたので、諦めたように倉庫へ歩き始めた。

「君、ジャックさんの娘?」
 突然、基地の中で声をかけられた。
「はい?」

「いや、あの人と眼差しが似てるんでね。雰囲気とかさ」
「あなたは?」
「俺? 俺はダルク隊長の三番機。あんたの親父の背中守ってた」

 今さら思い出したが、ダルクという私を送ってくれた軍人さんと、この背のダルクさんより少し高い人は、父さんの着ていた軍服と同じ服を着ていた。

「ありがとうございます」
「今回は、俺はあんたの親父より先に戦闘不能になったんでね。あんたの親父の死に際は知らないんでね。お生憎」
 最後のお生憎が少し皮肉に聞こえて、むっとした顔でその人を睨んだ。

「おい、ディルタ」
「すいません、子供の相手はなれてないんでね」
 子供? 私もう十八ですけど? と、心の中でつっこむ。
 皮肉めいたディルタという人を、気持ち目で軽蔑した。この人は苦手かもしれない。

 案外葬儀は早々と進み、昼には終わった。
 悲しいという感情は、不思議と少なかった。どちらかというと、何も考えられなくなって心がどんどん重くなる感じ。途中で母さんも来た。

 葬儀が全て終わった後、母さんは帰ったらしく、私は一人倉庫へ向かった。父さんの乗っていた機体はどんなんだろうと思ったからだ。
 前に写真を見せてもらった事があったあったけれど、いまいち全体がわからなかった。それと・・・・・・基地へ今度連れて行ってくれると、約束していたから。

「どうしたんだ? ブーメラン、見たかったのか?」
「ブーメランっていうんですね、この子」
 私がそう言うと、ダルクさんは小さく笑った。

「な、なんですか?」
「あいつも、君の親父さんもこの子って言ったんだよ、こいつの事を」
「そうなんですか・・・・・・」
 見上げると、ブーメランとよばれた、俗称二足歩行型車両ワルキューレが、私を見下ろしている気がした。

「乗ってみたいな」
 ふと、たぶん無理だろうなと思いながらも、呟いてみた。
「乗ってみるか?」
「え!? 良いんですか?」

「動かすのは無理だが、乗るぐらいならいい」
「ありがとうございます」

 柵だけのエレベーターに乗って、コックピットの入り口の手前まで上がる。
「そこのバー回してみろ」
 コックピットの横に開閉の回す方向の書かれたバーがあったので、開の方に回す。するとコックピットのハッチが開いた。

「そこに段があるから、それに足を引っ掛けて乗れ」
 言われたとおり段に足を引っ掛けて、潜り込むようにコックピットに入り込む。
「乗れた・・・・・・」
 ちゃんと椅子に座り、シートベルトを締める。

「簡単に動かし方説明しようか。その足元にあるペダルあるだろ、そいつが脚部の動かす幅の調整するやつだ。ちなみに両方をおもいっきり踏むと走る」
 軽く足を置くぐらいじゃ動かないという事は、結構重いペダルらしい。

「そんで、この二つの操縦桿のうち、右が武器を管理するほう。上のトリガーが発射で、下のトリガーがカートリッジ変更。左のはブーメランの頭部モニターの見る方向を変える。ちなみにこの左のやつで射撃カーソルは動かすんだ。方向転換や射撃カーソルを左右へ動かすのはペダルでもできるが、これでやるやつが多い」

 昔父さんが説明してくれたことがあって、その時はよくわからなかったけど、正しかったということが、ダルクさんに今説明されてわかった。

「あとのシステム関係は、赤外線カメラとか、武器の持ち手の変更とか・・・・・・ま、別に今説明しなくてもいいか」
「できれば、説明してください。私、いつか隊長さんの部隊に配属されたいですから」
 私がそう言うと、ダルクさんは今度は大きく笑い、
「やめとけ、最高の親不孝だぞ」
と、私の頭をがしがしなでた。

「決めましたから、私」
「ま、好きにしろ」

 座席横にあった通信機付きヘルメットをかぶり、それらしく構える。
「お、なかなかさまになってるじゃないか」
 思わず笑みがこぼれる。

 その後ダルクさんに、システムの設定やバランスのとりかた、上手い射撃の仕方などを教えてもらった。
「なんだか、すいません」
「かまわんさ。君の父は、俺に僕が死んだら娘を頼みますなんて言ったんだから。言われたからにはやってやらないと」

「そうなんですか・・・・・・」
 父さんが、そんな事を言うのは意外だった。家では必ず帰ってくるといっていたし、他の事でも、父さんはいつでも強かった。

「そろそろ帰るか? 母さんほったらかしなんだろ?」
「あ、それなら大丈夫です。母さん、葬儀が終わった後に家に帰ってると思います」
 わかってたのにね――母さんが帰り際に、残していった言葉だ。

「強いんだな」
「そんなこと、ありませんよ」

 そう言って私が少し笑うと、ダルクさんもつられて笑い、二人の笑い声が、コックピット内にこだましている。
 良い時間が流れるというか、良い感じがした、その時だ。

 警報が鳴り響いた。

「ちっ! なんだってこんな時に! コックピットから早く降りろ!」
「え、あ、はい!」
 シートベルトを外すために下を向いた、その瞬間、ダルクさんの叫び声が聞こえて、上を向くと、ダルクさんの姿が無かった。
「・・・・・・ダルクさん?!」
 返事が無い。どうしようかと一瞬迷った時、通信がヘッドホンから入った。

『パイロット、いるんだろ! 早い事応戦しろバカヤロウ!!』
「りょ、了解」
 とりあえずハッチを閉めて、システムを立ち上げる。そしてゆっくりと足元にあるペダルを踏む。

 ゆっくりと進みだすブーメラン。左の操縦桿で方向を変えた時、向こうに敵が見えた。
 左の操縦桿で射撃カーソルを調整して、敵にあわせると、それとほぼ同時に敵がこちらに気づく。「あたって!」
 右の操縦桿の上のトリガーを引くと、爆音のような武器の発射音が聞こえて、それに少し遅れるように薬莢の落ちる音が聞こえた。そして数秒後、敵が後ろ向きに倒れこむ。

「ふぅ・・・・・・」
 煙を吹く敵の機体から、ふらりふらりと敵が出てくるのを、味方の人たちがそれを取り囲んだ。

『お疲れさん。あんた、良い腕してるね! 全弾コックピットのあたりに集中してるのに、搭乗員死んでないよ』
「まぐれですよ」
 そう言い返すと、むこうでどよめきが上がった。もしかすると、返答するとまずかったのかもしれない。

『あんた、女か?!』
「そうですけど・・・・・・」
『どこの隊だ?』
「えっと・・・・・・」

 少し悩んだ後、思い切ってこう言った。
「ダルク隊です」

 第二章 戦門
 
 三ヵ月後―――

「やっと着いたー!」
 思いっきり、見覚えのある倉庫の前で伸びをする。もうあれからずいぶんたつなーと思いつつ、何気にダルクさんに言った事を実現できた自分に酔う。
 ここ数日、ダルクさんに会ったら、まず何て言おうかと考えていた。

「よう! あんた、三ヶ月前の姉ちゃんだろ?」
 突然後ろから声をかけられた。聞き覚えのある声で。あの時の通信の人だ。あの後名前を聞いて、確かクインシーとか。下の名前は覚えていない。

「はい。今日からここに配属になった、ミティア・ファルトゥルデです」
 やっぱり、と頭にポンと手をのせられる。あれ以来身長が157センチ弱から変わってないのも、こうされるともう一度確認してしまう。

「あの時の射撃のからして、実技試験は一発で通っただろ?」
「はい! 筆記試験のほうも、昔から勉強は人並みにできたので何とかなったんですけど・・・・・・」
「けど?」

「私、体力が無くて。危うくスナイプに乗る前に、入隊試験落ちるとこでした。あ、スナイプは訓練用の機体です」
 動きは素直で、そこそこ安価。ただしもろいという、訓練用にはもってこいの機体で、私は気に入っている。

「ま、今日から寮生活だろ? 良い女性隊員の先輩、紹介してやるよ」
「ありがとうございます」
 そう言って、女子寮の方へ行こうと荷物を肩から提げると、ひったくるように、クインシーさんが私のカバンを持って行ってしまった。

「部屋番は?」
「122です! ていうか、自分で持ちますから!」
 クインシーさんの後を追っかけるが、意外と足が速い。
 ついに、ここまで来てしまったんだなと、小走りで追いかける途中で思った。
 
 軍のパイロットになることを、もちろん母は反対した。
 けど、それを半ば無視するように志願して、訓練や試験をクリアしてきて今、私はここにいる。
 軍の家計を作るつもりは無いから、子共ができても軍には入ってほしくない。たぶん母さんも同じ気持ちなんだろうけど。

「こらぁ! また女引っ掛けてんの? 飽きないねクインシーは」
 ズーンと、女子寮の出入り口でどっしりパイプ椅子に腰掛けている柄の大きい女性が、私のカバンをクインシーさんから取り上げていた。

「手痛いねー。いっつもこうなんだから」
「す、すいません」
 私が頭を下げると、また、頭に手をのせられた。彼女はのせながら、
「あんたが謝る事ないのよー」
と笑いながら言ってくれた。手をのけてほしいのはあるが、むこうに悪気が無いのが分かっているだけに、ちょっと言いにくい。

「それにしても、ホントにここ来ちゃったね。噂は聞いてるよ、ブーメランに乗ってマシンガンぶっ放したんだってね」
「あれは、しかたなかったんです。ダルクさんはいなくなるし、応戦しろなんて言われたら、個人の判断でどうにかするしかないじゃないですか」

 そりゃそうだと言いながら、彼女は私にカバンを返してくれた。
「ま、分からないことがあったら言いなよ。いつでも相談にのってあげるから」
「ありがとうございます」

「とりあえず、部屋だね?」
「はい」
「122か、あそこは日当たり良いから、物はすぐ乾くけど、夏は暑いよ」
 へー、と軽く返しつつ、とりあえず彼女の後についていく。

「そういえば自己紹介まだだったね。私は女子寮の寮長やってる、ティア・ウェンスターってんだ。あんたは?」
「ミティア・ファルトゥルデです。ジャック・ファルトゥルデの娘です」
「あら! ジャック坊やの娘?」

 坊やって、うちの父さんを子供みたいに。一応三十は超えていたと思う。
「ええ」
「あれは、しかたなかったのよ。皆、死ぬときは死ぬんだから」
 声が冷たい。なんだか、この世の声じゃない気がした。

「ゴメンね、なんだか暗くしちゃって」
 ティアさんの声が元に戻った。それだけでかなり肩が楽になった気がする。
「いえいえ、いいですよ。そういえば、クインシーさんは?」
「知らないよ。あいつはいつでも神出鬼没さ。そういえば、ダルクのおやじさんに顔見せてないんだろ? 早いこと行ってやんな」

「はい!」
 ついに顔を見れると思うと、気分が上がる。何から話そうか?
 そんな気分のまま、部屋に荷物を置いて、女子寮を出てすぐにあるあの倉庫へ向かう。三ヶ月の間が消えたように、記憶がよみがえった。

「ただいまー!」
 おもわず叫んでしまい、顔が真っ赤になる。でも、倉庫の中にいる人は、皆おかえりと返してくれた。
「おぉ! あんた、あん時の」
「お久しぶりです」
「来ちゃったんだ!」
「はい!」

 顔は正確に覚えていないけれど、皆見覚えのある顔だった。
 三ヶ月ぶりに見るブーメランも、あいかわらずカッコイイ。

「ミティアか?! おいおいおいおい、お前馬鹿か?」
 懐かしい声の方を向くと、ダルクさんがいた。
「お久しぶりです! あの時の怪我は治りましたか?」

 もう自制心が効かないくらい興奮している。どこかで抜かないと倒れそうだ。
「俺の怪我はとっくに治った。それよりお前学校は? ちゃんと卒業してきたのか?」
「私がここに来たの一月ですよ? 今四月です。とっくに卒業してます」

「母さんは? 許してくれたのか?」
「いえ。反対されましたけど、解決しないままです」
 私がそう言うと、ダルクさんは難しい顔をした。
「でも、いつか解決します」

「それより! お前なんでダルク隊ですなんて言ったんだ! おかげでこっちは大迷惑だぞ」
 三ヶ月前に、通信中に言った言葉だ。気になってはいたけど、ホントに迷惑になっていた。
「他の隊からからかわれたり、上官からアドバイスあったり、あげくのはてに司令官まで俺のとこ来たんだぞ!」

 あの一言が、そこまで波紋をよんでいるとは思わなかった。私はあの後逃げるように帰ったので、詳しくは知らない。

「まあ、別にかまわんが。それよりだ、お前の腕がどれだけ上がったか、見させてもらう。明日の朝六時に、戦場模擬訓練場へ集合だ。見たいやつも来い。ペイント弾を使用しての模擬戦だ」
 周りで歓声が上がる。それほど凄い事なのだろうか?

「入隊したワルキューレ新人パイロット全員が、最初に行う戦闘だよ。で、それが明日ってわけ」
 私の横にいた整備士さんが、教えてくれた。私は第九期生にあたるのだけど、確か同期で卒業試験に通ったやつが数人いたのを覚えている。

 だいたい一基地に一訓練基地が基本だから、たぶん他の連中もここに来ている。
「トーナメントで、第九期生全員で組む。で、その中で勝ち残った一人が、そいつの所属している隊の隊長と戦えるって事だ」

 と、いうことは、もし私が勝ち残ると、ダルクさんと戦う事になる。というわけか。
 腕の見せ所、ということだろう。

「まあ、今日一日シュミレーション訓練するか、それとも体休めるか。どっちか選べ」
「はい!」
 
 とりあえず着替えてこようと思ったので、宿舎へ戻ることにした。帰る途中で応援の言葉をくれたりしたが、はっきり言って期待に(してくれてないかもしれないけれど)応えれるかは分からないので、あやふやに返した。

 女子寮に戻ると、ティアさんが玄関口でまた座っていた。
「特等席なんですね」
「ん? まあね。それより、どう? トーナメントは勝てそうかい?」
 情報伝達が早いなと一瞬思ったけれど、この人は父さんを坊やと呼べるぐらい長年ここにいると考えると、別に驚くことでも無いのかもしれない。

「んーと、まだなんとも・・・・・・でも、頑張ります」
「いい意気込みだね。ま、怪我しないように気をつけなよ」
「はい。ありがとうございます」

 部屋に戻って、とりあえず隊員服を着る。ここに来るときに着て来ても良かったのだけど、自分だけで浮いたら恥ずかしいので、私服で来た。

「少し大きいかな? ま、元が小さ・・・・・・」
 言いかけてぶるんぶるん頭を振る。できるだけ、自分で口にするのは避けようと心がけた矢先にこれでは、伸びるものも伸びない。気の問題じゃない気がするけれど、それはあまりふれたくない。

 気を取り直して、女子寮をあとにする。途中で他の女性隊員と目が合って、挨拶をすると、快く返してくれた。気持ちが良い。
「なんか、私上手くやっていけそう」
 ふと呟き、調子に乗り過ぎない程度にねと、小声で自分に言い聞かせる。

 倉庫に着いて、辺りを見渡すと、一機、ブーメランが増えている事に気づいた。
「あれ? ブーメラン、増えたんですか?」
 たまたま横を通った整備士さんに聞くと、そうだよ、と軽く答えてくれた。それに続けて、
「こいつが今回のトーナメントの優勝者の乗る機体だ。お前も頑張れよ? ここで優勝できなかったら、あと一ヶ月はスナイプに乗ってもらうからな」
と、説明を入れた。
 あの機体も嫌いではないけど、戦闘になると少し心細い。

「そういえば、大会はどの機体でするんですか?」
「ん? ああ、その事だが、当日まで機密事項だ。隊長以外誰も知らない」
 凄いなと思った。そこまでやるかと思ったけど、即効戦力が必要なんだろう。今のデルタニアは首都のあたりで防衛線を張っているから、いつ駆り出されてもおかしくないし、実際ここから首都までそんなに離れていない。

 このトーナメント自体、明日できるかすら分からないのが今の戦域状態だと思う。

「ま、気長に待ってたら、明日は来るって」
「そうですね」

 気長に――が、ここまで苦痛だとは知らなかった。シュミレーションでもすれば気は晴れるんだろうけど、いざ明日になって予想と違ったとなると、かなり苦戦する気がする。

 どうにもすることも無いので、私は寮に戻って休む事にした。することといえば、イメージトレーニングくらい。機体の特性とか・・・・・・でもそれが重要だったりする。
 機体の特性は、全て違ってくるからだ。軽かったり、重かったり、他は、その他モニターの広さやぺダルの踏みぐあい。

 特に大事なのは、バランス関係がかなり違ってくる。
 乗ったことがあると分かるのだけど、スナイプはブーメランより軽い。けれどモニターは狭いし、バランスがとり難い。
 かわってブーメランは、操縦桿が重めな分モニターが広く、バランスは重心が下にあるおかげで安定していて、とり易い。

 おそらくスナイプですると思うけど、本番になってみないとわからない。

 一時間、二時間と、少しづつしか進まない時計に嫌気が差したころ、ちょうど良く眠気がおそってきた。これに乗らない他は無い。
 
 気づけば、そのまま私は眠りについていた・・・・・・

『ミティア! それ以上前に出るな!』
「でも隊長が!」
『諦めろ! 親父のとこに逝きたいのか!』
 ペダルを踏み、隊長の前に出て、敵の銃弾を受けて・・・・・・ガンガン被弾音が響いて、モニターが死んで、次の瞬間激痛が頭に―――

「うわぁああ!」
 夢―――しかもかなり気味の悪い。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・気持ち悪い」
 汗でびっしょり濡れていた。幸い、寝る前に隊員服の上は脱いで、上はシャツ一枚になっていた。これなら大会の時でも別に気にならない。

「シャツだけで別に良いか」
 とりあえずシャツを着替えて、隊員服を着た。時間は――そうか、もう日が暮れてるんだ。影はできていない。今日は月光で時刻板を照らせるほど、天気が良くないらしい。

 変な時間に寝てしまったと後悔するが、時間を巻き戻せるわけでも無いので別に気にすることでも無い。
「どうしよう」
 倉庫へ行けば時間は分かるけど、行ってもこの静けさからして深夜だ。人なんているはずが無い。

 とりあえずぼーとしていると、ふと思い出したようにお風呂のことを思い出した。
「そういえば、今日まだ入ってないよな」
 シャワーならあるから、浴びよう。

 さっさとシャワーを浴びて、次に思いついたのは、もういいや、寝てしまおう――だった。
 それだけ考えて、突然夢に起こされた分寝起きの悪い目を閉じた。

 朝目覚めると、時刻板に影が無かった。まさか――と、窓を開けるとどしゃ降りの雨だった。
「これは、また一つ機の動かし方に気をつけないと・・・・・・」
 ぬかるんだ場所は結構危ない。下手に踏み込むとバランスを崩すからだ。

 とりあえず、戦場模擬訓練場へ向かう事にした。
 バケツをひっくり返したような雨が降る中、傘をさして訓練場へ向かう。
「これ、ひどいな」
 このくらい雨だと動かせなくも無いけれど、かなり動かし方は違ってくる。

 この雨をどうにか速く抜けようと、気持ち走る。
 走って数分、戦場模擬訓練場が見えてきた。観客たちのさしている物なのか、傘の頭が無数に見えた。そしてその先には、たぶん大会で使う四機のブーメランが並ぶ。
「ブーメランか・・・・・・」
 予想は半分外れたけれど、別に気になるほどでも無い。

「遅れました!」
 走って来た分、荒い息を調整しながらダルクさんに言った。
「構わんさ。お前が一番乗りだよ」
「え?」

「今の時間、作戦会議室の時計がくるってなけりゃ五時半だ」
 思ったより早いなと思いつつ、
「乗っていいですか?」
と聞いてみる。

「ブーメランか? ま、いいだろう。動かしても良い」
「ホントですか?!」
「ああ。早く来たやつの特権ってやつだ」
 凄く嬉しい。スナイプなら訓練中に何度か乗ったけれど、ブーメランはあの時の三ヶ月前から乗っていない。

 早速、ブーメランに乗り込む。戦場模擬訓練場は、建物に似せた木板で作ったハリボテや、鉄骨の骨組みだけの障害物、さらには楯になりそうな無駄に大きいトタン板まである。
 使えそうな物は全て使ってよし! みたいな訓練場だ。

 システムを立ち上げて、ヘルメットをかぶる。運良くあの時のブーメランと一緒の機体に乗ったらしく、コックピットの雰囲気が懐かしい。立ち上げた時に表示される機体番号も同じだ。
「こちら、ミティア機。コードネームは?」
『タンゴ3だ』
「了解」
 
 弾数はカートリッジ四つの二百で、武器は両手持ちの三十九ミリバルカン砲。ちょっと模擬戦にしては重装備すぎる気もするけど、弾がペイント弾なのであまり変わらない。

『おいおいおい、相手は女か?』
 突然通信が入る。
「そうですけど?」
 あきらかに不良のような声の通信が入る。訓練生の時に、約数名危ない連中がいたのを覚えているけれど、どうやらそのうちの一人が合格したらしい。

『ま、お手並み拝見といこうかぁ?』
「よろしく」 
 とりあえず対応しておく。こういうのは無視すると、後でややこしい。
「早まるなよ、タンゴ2」
『わかってますって』
 ホントにわかってるんだか。

『こちらタンゴ1、早く始めないか?』
「もう少し待て」
『こちらタンゴ4、遅れてしまい、失礼しました。あまりに皆さん無様で・・・・・・ま、始めましょう』
『喧嘩撃ってんのか!』

『タンゴ2、やるなら本番でやってくれ。じゃあ、各自所定の位置について』
 機を下にいる誘導員の指示に従って、進めていく。全機が少し離れた所で、待ての合図が出た。
『それじゃあ、開始』
 雨が酷くて集音機でないと拾えないけど、始めという合図の後に歓声が聞こえた。

「お手柔らかに」
『ふふっ。五分で終わらせます』

 こういう場合、戦術は二つある。待ち伏せと、回り込みだ。
 待ち伏せは言うまでも無く待ち伏せてやる。
 変わって回り込みは、敵の視界外から入り格闘戦から敵の懐に入る。どちらかというと、こちらの方が有効か。

「さってと。どうやって戦おうかな・・・・・・」
 自機の歩く足音だけが聞こえる。レーダーが利かない分、集音機兼通信機のヘルメットを必ず着用する。ちなみに障害物関係はソナーで分かる。ただ、このソナーが結構いいかげんで、目安程度にしかならない。

 建物の影から出てくると踏んでいたが、あてにならないソナーにもさっきからかかっていない。
 おかしい――そう思ったとき、機体が殴られた。後ろかららしく、モニターに映っていない。胴体をがっしり掴まれた感じで、機体が腕以外動かなくなる。

 やられる? いや、まだいける。
 システム変更のキーボードを引っ張り出し、最速記録を更新しそうな速度でキーを叩く。
 左手を武器から放して、武器を持った右手を頭部モニターを巻くように後ろへ回す。
「終わり!」

 キーボードを退けて、トリガーを引いた。ペイント弾なので、頭部モニターに当たれば敵のモニターは一時的にでも見えなくなる。実弾でも頭部自体吹き飛ぶのでおなじようなものだけど。
 発射音が鳴り、ワンテンポ遅れて当たったような音を集音機が拾った。

『モニターが、モニターが見えない! なぜだ?!』
「臨機応変、これ基本だよ?」
 当たった分よろけた敵を、振り切るようにペダルを踏み込んで左の操縦桿をおもいっきり倒す。これをスナイプでやると、見事に尻餅をつく。特に雨の日は。けれど、さすがブーメランだ。

 振り返ると丁度射撃カーソルが敵を囲んでいた。それを確認した後でトリガーを引く。
 カートリッジが空になるまで撃つと、モニターに真っ赤になった無惨なブーメランが映る。
「思い上がると、こうなるんだよ。覚えといたら?」

『そのくらいにしてやれ、タンゴ3。中で放心状態になられたら、それこそ面倒だ』
 ダルクさんからストップがかかる。
「そういえば、もう一つの試合はどうなりました?」

『ん? ああ、あの不良が完全に敗北だ』
「そうなんですか」

『ええ。僕が勝ちました』
「じゃあ、ここでもう一回戦するんですか?」
『いや、裏の演習地でやる。移動だ。他の隊員は敗北者のやろうを引き摺り下ろしてこい』

 とりあえず、示された方向へ機を進める。
「弾の補充は?」
『無い』
『ふーん、まあいいや』
 
 こっちの残弾は、カートリッジ三つ。たぶん百五十発。
「キッツイなぁ」
『ま、お互い全力を尽くしましょう』

 一柵越えた先に、さっきの戦場模擬訓練場と比べ物にならないくらいの模擬の町があった。
「結構上手く作ってあるなぁ」
『いいじゃないですか? まあ、いろいろできて』

『ま、そろそろ黙れ。定位置着いたか? なら、十五秒後開始』
「了解。通信切ります」
『続いて了解。さて、最後にどっちが立ってるのか』

 あの気の強い不良が完全に敗北となると、考えられる事は限られてくる。
 物陰からの奇襲、建物を利用して撃ち切ったところを狙う、回り込み・・・・・・こんなところだろうか。すくなくとも強襲だと思う。あの性格からして、特攻タイプなことは見なくてもだいたいはわかる。

 とりあえず、敵を見つけないといけないのだけど、さっきの訓練場と比べて障害物が多い分結構見つけ難い。

 少しづつ、慎重に進んでいると、集音機が何かの機会音を拾った。
「なんだろう? 射撃の音じゃないし、歩く音でもない・・・・・・」
 雨で聞き取りにくいのもあるし、あまり気にしすぎると逆に危ない。

 ひたすら周囲警戒と集音機に気を傾けていると、敵は意外な場所から現れた。
「どこから!」
 擬似建物の二階部分から、落っこちてきた。
 どうやらさっき拾った音は、上ろうとして機体をどこかにすった音だったらしい。

 とっさに左の操縦桿を倒して、落ちてくる方向に向ける。その後トリガーを引きながら、左の建物の陰のある場所へ行くために、右のペダルをおもいっきり踏み込む。
 でもむこうもなかなかのやり手らしく、弾を避けるために鉄板を前に構えて突っ込んで来た。

 それならと、ふところにもぐりこもうと考えて、両ペダルをおもいっきり踏む。
 が、こちらの予想を敵は超えた。こちらに向けて、楯代わりにしていた鉄板を投げてきた。そんな事ができるのかと、一瞬動きが止まる。
「きゃぁ!」
 さすが鉄板、重い。当たった時の衝撃も凄かった。

 よろけた隙に敵機にタックルをかまされた。さらに大きい衝撃と共に、機体が横転する。
「ぐ!」
 着地時に、おもいっきり後頭部を座席にぶつけた。頭がくらくらして気持ち悪い。

『タンゴ3、棄権するか?』
 むこうがわざわざ通信を開き、通信を入れてきた。
 仕返しと言わんばかりに、こちらも通信を入れてやる。
「ご丁寧にどうも。そんな気は、ありませんから!」

 倒れた機体をシステム関係から立ちなおして起き上がらせる。たぶん向こうが勝ち誇っていなかったら、負けてる。
『立ちやがった!? ちっ!』
「もらった!」

 射撃カーソルなんて合わせなくても、敵は真正面にいて、これで当たらなかったら詐欺だ。
 発射音が鳴り、少し遅れて向こうの発射音も聞こえてくる。
 カートリッジを空にして、互いが止まる。

「どっちが」
『勝ったんだ?』
 雨の音しか聞えなくなる。周りが静まり返っているのがわかる。
 
『勝者、タンゴ3。聞えるか? 二人とも。勝者はタンゴ3だ』
「・・・・・・やったの?」
『やるね、あんた。俺はグリム・レンバルアだ。あんたは?』
「ミティア。ミティア・ファルトゥルデ」

 終わったと思うと、かなり体が楽になった。でもまだ、ダルクさんとの一戦が残っている事に気づいて、体に力が入った。

『ミティア、お前はそこで待機だ。グリム、お前は倉庫へ戻って来い』
『了解。頑張れよ、ミティア』
「う、うん」
 まさか応援されるとは思わなかったので、返事が曖昧になった。

 最後のダルクさんの通信から数分後、通信が入った。
『聞えるか? タンゴ3』
「聞えます」

『始めるぞ』
「了解」

 モニター良好、集音機も無事っぽい。でも弾がないのがいたい。残りカートリッジ一つだ。
 それでも、どうやってダルクさんに勝つか、勝てる確率は低いと思うけど、考えてみる。
 少ないけれど、手は無くもない。やれる事をしよう――そう思った時、私の負けは決まっていた。

 いきなり、被弾音が鳴った。ソナーにかかっていないのは毎度の事なので、別に気にする事でもないのだけど、集音機で発射音を拾えない距離からの射撃は初めてだ。
「え?」
『物陰に隠れろ。第一射は見逃してやる』

 まさか、スナイパーライフルでも装備しているのだろうか? だとしても、雨の中で視界は悪いはずだから、精密な射撃はできないと思う。
 その前にブーメランの種類にスナイパーは無かったと思うけれど・・・・・・試作だろうか?

『さっさと隠れろ。次当たったら負けだぞ』
 思い出したようにペダルを踏んで、さっき、弾が飛んで来たであろう方向から見えない位置に隠れる。いくらなんでも卑怯な気がしたが、戦場ではさっきの一発目で私はたぶん死んでいる。

「どうやったら、あれを回避できるんだろう・・・・・・」
 でたらめに撃っても、こっちの残弾数を考えると弾切れするのがオチだし、楯代わりの物を持つといっても、そこに移動するまでにリスクがある。
「問題は何を目印に撃ってるかなんだよね」
 すくなくとも、なにかを基準に撃つか撃たないかを決めているはず。それをまず探らないと、こっちに勝ち目は無い。

 とりあえず、空になったカートリッジを建物の陰から表へ転がしてみると、次の瞬間、カートリッジが赤く染まった。
「影?」
『気づいたか。早いな』

 雨で視界が悪い分、目視し難いのが原因で外れてくれたらいいのだけど、隊長の場合そういう希望はできないらしい。どうやっても影は必ずできてしまう。
 たぶん影といっても陽によってできるものではなくて、物体自体が持つ、遠目で見たときにうっすら見える輪郭のことだと思う。

「と、すれば・・・・・・」
 建物から建物へ影へ移動するのが一番得策か。でも、それをするのなら、毎度囮を使わないとまずい。かすっただけでも判定はアウトだろう。
 残りの空のカートリッジは二つ。さっき確認に使ったのは拾えないから、この二つでどうにかするしかない。

 まず一つ目を表に転がし、同じに機を進める。
『なに?!』
 次弾を発射するまでに時間がかからなかったら、この賭けは失敗だ。けれど、賭けはこっちが勝った。もう一発は無い。
 再度建物の陰に入り、一息つかせないくらいの間で囮と一緒に出る。
「もらった!」
 射撃カーソルを機影に合わせて、トリガーに手をかけた時――
 考えがあまかった。ダルクさんは、さっさとライフルを手放して、小型の予備の銃で待ち構えていたのがモニターで確認できた。

 単発銃独特の乾いた発射音と、雨の音が交錯して、私はトリガーを引きそこねた。

「負けた!」
 脱力して座席にもたれかかる。
『でも、良かったと思うぞ』
「ありがとうございます」

 コックピットを開けて外に出ると、雨がいつの間にか止んでいた。雲の間から射し込んで来た光が、ブーメランと私を照らす。
「惜しかったね! でも頑張った方だよ」
 傘やカッパを手に持った観客の人たちが基地の方から来て、私に批評の言葉をくれた。

「いい筋だ。実戦でも使えるんじゃないか?」
 そう言いながら
 人混みから出てきたのは、基地の指令長官だった。何度か訓練生の時に見たことがある。周りの人が敬礼したので、慌てて私も敬礼する。

「指令長、お話があります」
 ダルクさんがブーメランのコックピットから出てきて、指令長官の前で敬礼した後で切り出した。
「こいつを自分の隊で使いたいのですが、許可をもらえますか?」

 いきなり? と、ダルクさんの顔を見たが、ダルクさんの顔は真剣だ。
「かまわんさ。君は、この子の親からことづけを預かってるんだろう?」
「はい。ですから、自分の隊で面倒を見たいのです」
「わかった。上に言っておこう。おそらく決定事項だがね」
「ありがとうございます」

 今の会話を聞く限り、私のダルク隊入隊は確定らしい。ブーメランが一機増えた理由を聞いたときは、半信半疑だったけど、これで確信が持てた。
「あ、ありがとうございます!」
 私がそう言うと、司令長官はにっこり笑いながら基地の方へ歩いていった。
 
「明日から俺の隊に正式配属だ。しっかりやってけよ」
「はい!」

 トントンと事が進んだけれど、上手く進みすぎじゃないかという不安が生まれた。けれど、この時はそれほど深く考えはしなかった。


 第三章 時計と彼と私

 隊長との一戦から、早くも一夜が明けた。
「痛い・・・・・・」
 グリムという人に鉄板ぶつけられるわタックルされるわで、昨日は体中打って今日になって痛みが増した。ダルク隊長との戦いの方がまだましだった気がする。
 きしむ体を動かしながら、とりあえず起床する。今の時間は朝の六時だ。
 
 ちなみに、ダルク隊長の乗っていたブーメランに積んでいたらしいスナイパーライフルは、試作品らしく、射程距離を伸ばす事だけを考えたがために、いろいろと扱い難い武器となっているらしい。
 ダルク隊長によると、次弾を撃つためにいちいちキーボード引っ張り出して、腕部の関係のシステムを設定しなおす必要があるとのこと。

 と、いうことは、どちらかというと勝算があったのはこっちのはずだったのだけど。そのへんがさすがダルク隊長の技力ということになる。
 やっぱり、あの人は凄い。

「今日からダルク隊の三番機なんだよね・・・・・・」
 何気なく呟く。一番機はもちろんダルク隊長で、二番機にあの私の苦手なディルタさん。あの人は父さんが戦死した後、繰り上げで二番機になったらしい。
「さってと。早いとこ行かないと、隊長に怒られるな」

 体をベットから出したとき、基地内放送が入った。正確に言うと、クインシーさんのメガホンを使っての馬鹿でかい声だけど。
『ワルキューレ搭乗員ならびに、整備班チーフは、さっさと起きて作戦会議室へ来い!!』
「うるさい」
 聞えるはずのない反論をした後、さっさと隊員服を着て作戦会議室へ向かった。

 作戦会議室までは宿舎から徒歩二分といったところで、案外近い。ということは走っていかないとまずい。
 なぜかこの基地には暗黙の了解があって、近ければ走れ、遠ければ歩けという、なんとも意図の不明なものがある。なので、走る。

 走ってから一分もたたない内に、作戦会議室のある本部の建物が見えた。
「走らなくても普通に着くのに・・・・・・」
 愚痴をこぼしつつ、本部の建物に入る。

 作戦会議室とカードのような物がきっちり貼られた部屋のドアを開ける。すでに何人か着いていたらしく、五六人の隊員服を着た人と、整備服を着た人が七八人いた。

「お、新人君か? 噂は聞いてるよ。しかしなぁ、学校と訓練生を同時進行したようなやつが、ちらほら噂になってるのは、釈然としないんだが。ねぇ?」
 隊員服を着た男の人が、私の目の前まで来て私を見下げる。
 私は卒業する前に基準の単位をすべてとっていたので、卒業までの三ヶ月は数えるぐらいしか学校に行ってない。その三ヶ月のほとんどを、訓練生として過ごしている。
 この人の言うことは半分正しいし、新人の私が先輩に突っかかれるはずも無い。

 憮然とした表情でその男を見上げると、
「ま、死なない程度に隠れてなよ」
と言いながら、私から離れていった。

 隠れてなよという言葉にムカつきながら、腕を組んで出入り口横の部屋の隅にもたれかかる。
「先に着いてたか。早いな」
 ドアを開けて入ってきたのは、ダルク隊長だった。そしてその後にディルタさんが入ってくる。

「来たのはいいけど、俺に挨拶無いの?」
「すいません」
 目も会わせずに言う。
「完全に嫌われたかな。ね、隊長」
「しかたないだろ。お前初っ端にあんなこと言ったんだから」
「ま、気長に接しますよ」

 何も考えずに、ぼーっと作戦内容を映すための白い壁紙を眺めていた。
「全員いるな?」
 司令長官が作戦会議室に入ってきたのは、それから数分後の事だ。

「今回の作戦は言うまでも無い。首都の奪還だ。作戦はこうだ」
 部屋が暗くなり、映写機で首都の地図が映し出される。
「チャーリー、デルタの二小隊は、首都の南、ベティア河を横断して首都に入る。タンゴ小隊は首都に繋がる高速道路の橋下を、ひたすらに進んでもらう」

「俺らは囮ですか?」
 ダルクさんが聞いた。
「・・・・・・いや、そうは言ってない。タンゴが首都へ侵入した後、チャーリー、デルタが河を渡り、北から入ったタンゴに気の向いた敵の背を突く」

 話が上手過ぎやしないかと疑問に思った。これぐらいなら、誰でも思いつきそうな作戦だ。
「作戦開始は明朝0800(マルハチマルマル)各員準備にかかれ!」
「了解!」
 全員が足早に作戦会議室を去っていく中、私たちもあとにした。

「貧乏くじ引いたなぁ」
 突然ディルタさんが嘆いた。
「なにがですか?」
「俺らたぶん囮に使われる。チャーリーとデルタの小隊の奴ら、俺らのお膳立てで活躍できるんだから、しくじったらぶん殴ってやる」
 あまり話しについていけてないけど、なんとなくはわかった。

「しくじったら、あの人たちは生きてませんって」
「そりゃそうだ」
 しくじったらというのが作戦の失敗を意味するのなら、チャーリーやデルタの人たちだけじゃなくて私たちも生きていないかもしれないけれど、そこはあえて言わない。

 戦場に行く前に死ぬ事を考えるやつは馬鹿だと、たしか教官が言っていた覚えがあるようなないような。
 すくなくとも、私は必ず生きて帰る。

「そういえば、他の隊の機体はどこにあるんですか?」
「他の倉庫。この基地内に一小隊に一つ倉庫があるけど、その倉庫に全部入ってる。ま、倉庫というほど小さくないけどね」
 結構ここの基地は大きいんだなと、自分で納得する。他に比べるとどうかはわからないけど、たぶんここは大きめだと思う。

「機種は、何なんですか?」
「そのへんは隊長に」
「なんで俺が・・・・・・まあいい。チャーリーの連中が俺らと同じブーメランで、デルタがカノンだ。カノンってのは、知らないか」
「・・・・・・はい。聞いたことが無いです」
 記憶をたどってみたが、そういう名前は聞いたことが無い・・・・・・と思う。

「早い話がクソ重い、重量重装備型ワルキューレってとこだ。主に制圧戦やら防衛戦で使われる。しかし足が遅い分、遠征制圧とかにはむいてない」
 
 クソ重いで思い出した。たしか、人類初のワルキューレだ。

「最初のワルキューレでしたっけ?」
「おお、よく知ってるな。立たすことを一番目指したから、随分と重心が下で安定しすぎてるぐらいだ。そういえば装甲もどれくらいにすればいいか分からなかったのが理由で、かなり固めに作られてたな」
 スナイプができたのが今から七年前だから、それまでの三年の間にあった戦闘はカノンだけで行われていたという事になる。

「ま、装備武器は全ワルキューレ中最大口径数を誇るガトリングだがな。火力だけは凄い」
「へー、そうなんですか」
 そこまで聞いてないので、返事が簡単な物になった。

「今日はゆっくり休め。それがパイロットにできる最大の仕事だ」
 本部を出たところで、隊長が私の頭に手をのっけた。のせられるのに慣れてしまった自分がなんだが悔しい。
「はい」
「ま、明日ちゃんと仕事してくれたら、それでいいから」
 ディルタさんが口を挟む。またディルタさんの言葉はどこか皮肉っている気がする。そう認識してしまうと、自然と表情がきつくなる。
「ごめんごめん、そう怒るな。こういう物言いはもともとなんだ」

「知りませんよ、そんなの」
 それだけ言い捨てて、寮まで戻った。

 寮に何度帰って来ても、ティアさんはパイプ椅子に腰掛けている。
「実戦だってな。必ず・・・・・・」
「帰ってきますから。わかってます」
「絶対だ。ほれ」
 そう言ってティアさんは、私に懐中時計を渡した。
 季節によって陽の傾きは変わるので、殆どの人が時刻板のほうが分かりやすいとかで使っていない物だけど、何かのシンボルや部隊マークには使われていたと思う。

「これ・・・・・・」
「いいから持っときな。これを持ってたら、死ぬ事ないよ」
「ありがとうございます。でも、良いんですか?」
「良いんだよ。帰ってこれるかわからないけど、これがあれば必ず生き残れる。ま、あんたに効き目があるかは分からないけどね」
 その時、ティアさんの頬に一筋の涙が見えた。いや、気がした。

「よし! 今日はゆっくり休みなよ。明日に向けてお休み!」
「お休みなさい!」
 お休み――言ったのは良かったけれど、寝るといっても今はまだ六時半前だ。

「どうしよう? 二度寝しようかな」
 時間としては丁度良い。
「もういいや。さっさと寝よう」
 そうして私は隊員服を脱ぎ捨てて、ベットに突っ伏した。

 ふと目が覚めると、空はもう茜色だった。
「ふぅぁああ・・・・・・」
 大きなのびを一つして、外を眺める。ちょうど太陽が沈みかけているところだった。
「きれい・・・・・・」
 なんだか、ここが天国のように思えた。
  
 明日には首都へ行って、初めての実戦になる。
 ふと、ティアさんから譲り受けた懐中時計を眺めた。これが、私を守ってくれるはず――そう思うと、気持ちが落ち着いた。
「また、見たいな。ここで・・・・・・」
 この茜色のきれいな空を、首都を取り戻した後でまた見たい。
 
 夕日が沈むまで眺めて、赤い空が終わったころだった。
 ドアをノックする音が聞えて、ベットで横になっていた私は跳ねるように起きた。
「入って良いですよ」
「おう。暇だったから来た」
 ドアが音もたてずに開き、入ってきたのはディルタさんだった。

「なんですか? こんな遅くに」
「遅くって言っても、まだ十八時すぎたころだぞ」
 時刻板はとっくに見えなくなっているので、朝にティアさんからもらった懐中時計を開いた。
「懐中時計か、珍しいな」
 すーとディルタさんの手が、懐中時計にのびてきた。それと同時にディルタさんの顔が近づいてきて、
「誰からもらったんだ?」
そう言った時の吐息が、私の首元にかかった。その瞬間、びりびりと背中に電気が走る。

「きゃっ!」
「どうしたんだ? いきなり」
「ち、近いです」
 振り返ったとき、ディルタさんの顔がすぐそこにあった。

「なぁ、男が女の子に憎まれ口叩く時って、どんな時か知ってるか?」
 相変わらず顔が近い。でもその顔は、今まで見たディルタさんのどの表情より、真剣だった。
 聞かれた質問の答えより、とりあえず今は離れてほしい。
「し、知らないですよ!」
 ディルタさんは部類で言えばカッコイイに入る人だけど・・・・・・
「その女を・・・・・・・好きな時さ」
「え? いや、でも・・・・・・」
 でも恋愛対象かというのはまた別――そう思った瞬間、私は―――

 次に目が覚めた時、私は寒さで小さくくしゃみをしてしまった。ふと空を見上げてると、すでに薄く明るかった。
 途中で寝てしまったのだろうか? あまり記憶が鮮明でない。
「寒い・・・・・・なんで?」
 ベットで寝てはいるけれど、私の着ている服は一枚も無かった。ようするに――
 とすると、私の横で規則的な寝息を立てるディルタさんと夜をすごしてしまった、という他にどう解釈できるのか。

「起きたのか?」
 少し混乱気味の私を、やさしい手が撫でた。
「さっき起きました。でも、なんで私なんですか? だって、ディルタさんと知り合ってまだそんなにたってないですよ」
 私がそう言うと、ディルタさんが唇を重ねてきた。
 ふっと唇が離れた後、ぼそりと呟いた。

「お前が、ここに始めて来た時、俺が初めて言った言葉覚えてるか?」
「確か、お生憎って、皮肉を言われた」
 それだけが濃く記憶に残っている。
「そっちは覚えてんのね。俺が覚えていてほしかったのは、眼差しが綺麗だってこと」
 そう言われて、ふと思い出した。
「父さんと眼差しが似てるって」
「ああ。でも、ミティアの眼差しは、あの人と違って俺を惹くんだ。その、純粋な瞳が―――」
 また唇が落ちてきた。でも、なぜか体は拒否しなかった。さっきと同じで。

 唇が離れて、かなり近い場所で目が合う。そして、ふとしたことに気がついた。
「初めて、私の名前呼んだ・・・・・・・」
「そうか? これからもたくさん呼ぶんだ。気にするな」
 ドクンと心臓が跳ねる。これは、プロポーズ? まあ、いきなり押しかけて来て寝ちゃったから、プロポーズも意味が無いかもしれない。
「私も、呼びたい。ディルタって、呼んで良い?」

 今日あるはずの首都奪還作戦も、今までの皮肉とかも、なんだかもうどうでも良かった。

「良いよ。ミティア」
「うん・・・・・・ディルタ」
 かぁーと顔が熱くなる。改めて呼んでみると、なんだか恥ずかしい。
 
 ふと、恥ずかしくなってディルタさんから顔を背けて、私が前から使っている机を何気なく見た。
 懐中時計もそこに置いてあって、それに目が自然と行く。
「どうしたんだ?」
「ううん、なんでもない。ただ、恥ずかしかっただけ」
「最初なんだ、しかたないさ。そういえば、その懐中時計は? あの後俺が移したんだけど」
「あれ、ティアさんからもらったの。これがあれば、帰ってこれないかもしれないけど生き残れるって。そう言って、私にくれたの」
 銀色一色に、一プッシュで開くカバーの向こうに白をバックに黒い針が動いている。

「必ず帰ってこれるよ、ここに。夕日だって、もう一度ここで見れる」
「夕日、見たんですか?」
「ミティアの後ろにね。きれいな茜色に、染まってた」
 また顔が熱くなる。頬は紅潮しているに違いないと思うけど、まさか見られているとは思わなかった。

「それに、俺が守るさ」
「そんなベタなこと言われても、別に・・・・・・」
 もちろん言われて嬉しかったけど、これはまた別の意味で言ってみる。
「そんな照れ隠しに、皮肉言われても、すぐにわかるよ」
「皮肉は、ディルタさんの専売特許ですもんね」
 からかうように笑いながら言うと、ディルタさんも笑った。

 最終的に、太陽が顔を出して外が明るくなるまで、私たちはこのままでいた。



  
 
 
 


後書き

えー書きました。
駄文です。すいません。
ちなみに、どこかでarufa3という名前を見つけたのなら、それは僕ですので。転載などは関係ないです。

長かったです。これでもかなり短めに作ってるんですが。
たぶん二週間ぐらい先に、続編出るかと思います。

長々と、失礼しました。

この小説について

タイトル 夢の後先
初版 2009年7月13日
改訂 2009年7月13日
小説ID 3296
閲覧数 974
合計★ 8

コメント (6)

★せんべい 2009年7月13日 22時38分50秒
読ませていただきました。

相変わらずの雰囲気で読みやすかったです。
情景も想像しやすかったですし。
1つ指摘するとしたら、登場人物の感情の描写が少なかったところでしょうか。
情景が想像できても肝心の登場人物が想像の中で動いてくれなかったです。
しかしSFという新鮮さが僕の中から消えることはありません。
次回も楽しみに待っています。
PJ2 コメントのみ 2009年7月14日 0時21分28秒
せんべいさん、ありがとうございます。

相変わらずって言われると、悲しくなります。
早い話が、進歩が無いということですよね。

肝心なところで描写できないし、お先真っ暗です。
原点回帰でもしてきます。

コメント、ありがとうございました。

★せんべい コメントのみ 2009年7月14日 11時07分43秒
PJ2さん、すみません・・・。

そんなつもりで言ったんじゃなかったのです。汗
どうか気になさらずに頑張ってください・・・お願いします。
PJ2 コメントのみ 2009年7月14日 17時41分03秒
気にしなくていいですよ。
あまり変わったことしてないですから。
まあでも、原点回帰はしてくるつもりですので、とうぶんの間作品は投稿しないと思います。

たのむから、謝らんでください。
★みかん 2009年7月15日 22時42分50秒
こんばんは、今回も楽しく読ませていただきました。

話は興味をそそられる内容でした早く実戦を読んでみたいですね。

あえて言うとしたら、
戦いの描写は、やはり心理描写と情景描写が難しいと思います。

それがもっと深まれば、なお良いと思います。

興味が湧く作品です、続き楽しみに待っています。

では、失礼しました。
PJ2 コメントのみ 2009年7月16日 6時36分02秒
みかんさん、ありがとうございます。
描写に関して、かなり自分自身苦労しているのですが、バランスも重要ですし・・・
興味が湧いてくださったのなら、ありがたいです。スローペースですが、今後ともよろしくお願いします。

上で書いたとおり、原点回帰してきますので、早い話が文の書き方や物語の作り方の勉強をしてくるので、続編は忘れたころに書けるかと。

コメント、ありがとうございました。
名前 全角10文字以内
コメント 全角3000文字以内 書式タグは利用できません
[必須]

※このボタンを押すと確認画面へ進みます。