Dメール - No.5 to:不可解な爆弾魔(2)

 電話が切れた後、真っ先に口を開いたのは燈夜だった。
「斯波、すぐに本部に連絡とって、爆弾処理班をこっちに呼んでくれ。後の者はこの現場に居る人達を速やかに退避させ、道路を封鎖するんだ!」
「はっ!!」
 警察官達はすぐに燈夜の指示に従い、爆発に巻き込まれかけた人々を避難させ始めた。夜一や渚にも声が掛かり、やむなくその場を立ち去るほか無かった。現場から警察官の声が響く。
「ここは危険ですので、急いでここから離れてください!」
 渚の下へ駆け寄り、その場から離れながら現場を振り返ると、室戸さんが警察のパトカーに乗せられていくのが見えた。渚は足を進めながらも納得しきっていないように夜一に言った。
「……五つも爆弾を仕掛けて、何をするつもりなんだ? 何の関係も無い人を、わざわざ混乱させてまで。自分が行動しにくくなるだけだろう」
「さっき室戸さんから聞いた、『こらもこにみ、かくい、そすらととすらちし』っていうのが何か関係があるんじゃないのか? 篠原さんの車の中にあったって言っていたし」
 夜一は先ほど室戸さんに見せてもらった、篠原さんの車の中にあったという紙切れの内容を書いた紙を見つめた。暗号か何からしいが、これが何を示しているのか、さっぱり検討がつかなかった。渚は夜一から紙を受け取ってその文字の羅列を読んだ。
「……暗号といっても色々あるからな、アナグラムからコード、サイファなど、それこそ多種多様だ」
「アナグラムっていうのは、確か並べ替えだよな? コードっていうのは……合言葉みたいなもので置き換えるんだろ。……サイファっていうのは何だ?」
「簡単に言えば、ある文に別の文字を割り当てて暗号化する事だ。……だが、安易に読み解こうとしても、混乱するだけだ。何か、どんな暗号であっても、暗号を解くキーワードが無ければ……」
 渚は小走りしながら考え込む。映画やテレビなどではよく見る暗号だが、実際に見てみると解けないものだった。夢みたいな世界に居る探偵や警察の人間は、まるで障害にならないとでも言うように簡単に暗号を解いているのが、馬鹿らしくも思えた。
「もう一つ疑問なんだけどさ、篠原さんが言っていた、『くらとくに、んななもに』って何なんだ? 緊急のメッセージにしては意味不明だし」
「おそらくそれは、犯人の名前を意味している。犯人に知られては困る。だが、敢えて危険を冒してもそれを伝えたかったんだろう。それ程のメッセージ……」
 渚は後で忘れないようにするためか二つの文字の羅列をメール画面に打ち込んだ。
「それに、気になることもある……十和の事だ。奴は仮出所中だし、警察に押収されていて爆弾の作成など出来ないはずだ」
「インターネットとかで買ったんじゃねえの? 最近そういうの多いだろ、前もってお金を払っておけば取引できるとかなんとか」
 夜一が言うが、渚はそれでも納得していなかった。
「だが十和は、不特定多数の人間ばかりを相手に爆弾を仕掛けてきた。急に狙いを定めて殺そうとするほどの関係が室戸優美や、篠原知枝との間にあったとも思えない」
 十和は仮出所してまだ一週間足らず、交友関係なら警察がとっくに調べ上げているはずであり、仮出所した後に知り合ったとしても、殺そうとするほどほつれがあったとも思えない。だとしたら、十和は犯人では無いということになる。
 渚は自分の白い携帯を開き、どこかに電話をかけ始めた。しばらくコール音が響いた後、留守番電話サービスの音が聞こえてきた。
「『斑鳩(いかるが)』。私だ。至急調べて欲しい会社がある。『GODAIGO』というIT系の会社だ。怪しげな金の動きが無いか、その他、気になることがあったら報告してくれ」
 そう言って渚は電話を切った。夜一は驚いて渚に言う。
「『GODAIGO』って、まさか……」
「犯人側を叩いても今は意味が無い。そうなれば、調べなければならないのは被害者側だ。どうも、まだ何かある」
 そう渚が返すと、現場を見つめていた夜一の顔が一気に不機嫌そうに歪んだ。
 夜一達の所に近寄ってきたのは、斯波だった。
「まだこんな所に居たのか。この辺は危ない。警察の人間と一緒に行動しろ」
「…………」
 とことん斯波が嫌いになったらしく、折角斯波が声を掛けたのに、夜一は黙ったまま声を出そうとしない。ため息をついて渚が斯波に言った。
「ごめんなさい。私……怖くて勝手に逃げ出してしまったんです。それを、兄が見つけて、ここで休んでいたんです」
「……妹、居たのか?」
「はあ!? こいつは……」
「従兄妹です。すみません、すぐに警察の人のところに行きますから」
 そう言った渚は目を伏せて、去り際に斯波に尋ねた。
「あの……犯人って、捕まったんですか?」
「いや、まだだ。警察も爆弾を捜しているが、場所は特定できていないし……」
「きっと、この近くですよ」
「え?」
 何言っているんだ、と夜一は慌てるが、渚は人が変わったようにおどおどとしながら続けた。
「だ、だって怪しいじゃないですか。最初のと二件目の爆発、二つともこの道路沿いなんですよね。きっと、この町に恨みがある人ですよ」
 渚の言った言葉に、斯波と夜一は反応した。確かに、一件目の爆発現場であったファミリーレストランも、二件目の爆発があった由雅の場所も、夜一達の目の前を真っ直ぐ走る国道線沿いにある。だとしたら、犯人の狙いは国道であり、個人でも、不特定多数の人間でも無い事になる。
 斯波が考えながら言った。
「まさか、犯人の狙いは国道を封鎖させる事……?」
「その可能性が高い……って、兄が言っていました」
「へっ?」
 渚は真剣な表情から急に笑顔になると、夜一の背に隠れて斯波の方へ押し出した。まるで、夜一がそう渚に教え込んだかのように。夜一は咄嗟の事だったので、素っ頓狂な声をあげるしかなかった。
 斯波はそれを見て、訝しげな表情をしながらも夜一達に背を向けて言った。
「……今の所、国道を封鎖すれば犯人の思う壺になるかも知れない。かなり胡散臭いが、お前の助言を受け取っておく。けど、これ以上はお門違いだ。さっさと避難しろ」
 そう言って立ち去る斯波に、夜一は早速悪態をついた。
「だーもう、何なんだよ、あいつはぁ! 嫌味すぎだろ!! それに渚、何で俺を従兄なんて……」
「……これで犯人の計画が狂えばいいが……」
「は?」
「怪しいとは思わなかったのか、何故室戸優美が、お前にその暗号を教えたのか。有名になっていたといっても、初対面で警察でもないお前に」
「それは……」
 夜一は返す言葉が出てこない。何故なのか、それが証明できなかったからだ。渚は続けた。
「おそらく、犯人は何か計画を実行しようとしているのだろう。その為に、国道を封鎖する必要があり、尚且つ、その暗号を解かせる必要があったのかもしれない」
「暗号だったら、警察の方が良いに決まっているだろ。すぐに解けるだろうし……」
「その逆だ。解いて欲しいが、すぐに解かれては困る。時間稼ぎの為のものかもしれない」
「何の為に?」
 

 夜一がそう問うと、ベルを思わせる着信音が鳴り響いた。渚が携帯を開いて電話に出る。渚がと手招きしたので夜一も渚の電話に耳を傾けた。
「私だ。何か分かったか」
「クッ……相変わらず面白いネタばかりくれるね、君は。『GODAIGO』と懇意にしている会社から取引内容まで調べるのは少し骨が折れたけどね。お陰で良い獲物が釣れた」
「言ってみろ」
「あの会社は契約元の会社から随分沢山『施し』を受けていたらしい。なんたって葦香市でも一、二を争うIT企業。契約をすればお金なんて湯水のよう湧いてくる。人は『ブランド』に弱いからさ」
「……裏金か」
「その通り。裏金のリスト見て吃驚したよ。ゴルフ代から旅費、宿泊費に女遊びの金まで。契約金に至っては、裏金がお釣りで返って来る程だ。『GODAIGO』には純利益が出るし、双方に得ありって訳だねえ」
 夜一は驚いた。裏金があるなんて考えもしなかったが、まさかそこまでの事をしているとは思ってもいなかったからだ。渚は再び言った。
「そのリストに、契約主は載っているか?」
「んんー? ああ、載っているよ。『GODAIGO 代表取締役、大豊 貴(おおとよ たかし)』って書いてあるねえ」
「その大豊とやらの住所、分かるか?」
「クッ。君は相変わらず鋭いね。金は全て大将の懐の中にあると?」
「全て、かどうかは分からないが……そんな裏金を、素直に会社に置いておくとも思えないからな」
「まあねえ。……電話切らずに待っていなよ。ニ分くらいですぐに調べるからさ」
 渚が考え込んでいると、夜一が渚に聞いた。
「なあ、その電話の……『斑鳩』って奴、どうやってそんな細かい事まで……」
「決まっているだろう、クラッキングだ」
「んなっ……犯罪だぞ!」
「勿論承知の上、更には警察のお許しがある」
 そう言いきる渚に、夜一は首を傾げるしかなかった。人様のパソコンに侵入するのは明らかに犯罪だし、そういうのは渚自身が好まないものかと思っていたからだ。
「『斑鳩』は情報屋だ。その的確な情報と、痕跡を残さない天才的なクラッキング技術に警察は目をつけて、怪しげな麻薬や銃の取引、不正な金の動きなどを奴に探らせている。奴がクラッキングをするのを黙認する代わりにな」
「じゃあ、何でお前に……」
「『斑鳩』は基本的に警察に協力しているが、代々雪代家が召抱えている一族の者でな。雪代家にも情報提供することを警察から許されているんだ」
「雪代家が、警察と親密に繋がっているから……か?」
「そうだ。共に犯罪捜査にしか使わないし、『斑鳩』自身も自由に秘密を暴けるこの仕事をいたく気に入っているからな」
 そう思うと、雪代家は改めて凄い一族なんだと夜一は実感した。企業の裏を簡単に暴き出してしまうほどのクラッカーを召抱えているなんて、ただの普通の家に出来る事では無いからだ。
 そう話していると、電話の向こうから声が聞こえた。
「クッ。調べ終わったよ。どうやら唯冬(ただふゆ)の方に家があるみたいだねえ」
「……分かった」
 渚はそう言って電話を切った。
 唯冬の地名を聞いて、決定的なものに気がついた夜一は待ちきれずに渚に聞いた。
「なあ、今の話が本当だとしたら犯人の狙いは……」
「裏金ということになるな。暗号もその為の時間稼ぎ。唯冬は……この国道の左を走る道路沿いだ」
「じゃあ、今すぐそこへ……!」
 そう言って走り出そうとした夜一を渚が止めた。何故止めるのか分からない夜一を、渚は先ほどの暗号文が記された紙切れを取り出して、じっと見つめた。そして、納得したようにうなずいた。
 一緒になって紙切れを見つめていた夜一に向かって渚は言った。
「この近くにネットカフェがあったな。……行くぞ」
「はあ!?」
 渚の言葉の意味を全く理解できていない夜一を連れて、渚はその場から歩き始めた。

後書き

次で完結です。
次、ある意味ミステリアスな斑鳩も出てきますw

この小説について

タイトル No.5 to:不可解な爆弾魔(2)
初版 2009年7月15日
改訂 2009年7月24日
小説ID 3306
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作家名 ★ひとり雨
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