1-4 - 軌跡 ■第一章 第一節:仲間(4)

地図を卓上に広げ、トウラは無言で座っていた。
考え出すと、悪いことしか頭に浮かばない。
嫌な予感がする。この何日か、その予感が纏わり着いて離れない。
「団長、お待たせしました」
副団長・カインの声で我に返る。
「…あぁ、揃ったな」
主力メンバーで副団長である槍騎士カイン。
参謀を務める同じく槍騎士アンリ。
まだまだ見習いには近いが、実践もこなしている剣士アイル。
プリースト(神官)の資格を持ち、ヒーリングを使えるリア。
魔道の力に長けたルキア。
そして、クロス。

「残り二人は、まだしばらく現在の任務についているから仕方ないが…」
「帰ってくるのはまだ先ですね…」
日程を完全に把握し切れてはいないが
残りの2人が帰ってくるのにはまだ4,5日程あったと、カインは頭の隅で計算した。
「手配は回している。恐らく途中で同行できるはずだ」
「それと…やむを得んが、今回は全員連れて行く」
その言葉がクロスの耳を通り抜けた。
「全員!?」
「…って事は、オレもいいのか!?」
「……やむを得んが、だ」
飛び上がりたいくらい嬉しかった。
その衝動をこらえ、父親ではなく団長の話に食いつく。
「それで、団長。今回の仕事は?」
「護衛、ということだ」
「…護衛…」
「先週、ルキアが帰ってきた時に聞いた話が、現実に決まったらしい」
「…あの、王女の結婚話か?」
「そうだ。その一行がユングフィへ向かう。我々はその護衛だ。
各自用意を済ませ、休むこと。出発は夕方だ。以上」
手短に用件だけを伝え、トウラは部屋を出る。

ボロボロになった地図は、机上におかれたまま。アンリはその地図を眺め、ため息をついた。
「…何か、あるわね、カイン」
「……やっかいな事にならなきゃいいんだけど…
さあ、皆荷物をまとめるんだ。クロス、やっと仕事に出れるな」
「頑張ろうぜぃ、クロス!」
「おう、ありがとう。カイン、アイルもな」
笑顔のクロスの肩をぽんと叩き、カインとアンリは先に部屋を出て行く。
「…ルキア?」
ぼうっとしていたルキアの意識を戻したのは、リアの呼びかけ。
「…大丈夫?」
「あぁ、うん。荷物まとめなきゃね。折角帰ってきたばっかりだったけど…」
「そうだね。なかなかゆっくり出来なかったね」
「リア、後で荷物まとめるの手伝ってよ。散らかしたままだから、私」
「えぇぇぇ…リアの荷物多いもん…」
「うるさいなぁ…」
女性陣が消えた所に、取り残されるクロスとアイル。
彼らは荷物もとにかく少ない。
「王女様の護衛…かぁ。オレ、王女様って見るの初めてだよ」
「そんなのオレもだけど…なぁ、アイル。何で王女の護衛をオレたちが?」
「…まぁ、普通は王宮の奴らだろうけどね」
「……」
「ま、俺たちは与えられた仕事をするだけだ。
それが傭兵ってもんだろ?確かに気にはなるけどさ、余計な詮索はしない方がいいって」
「それはそうだけど、だな…」
クロスはどうしても納得が出来なかった。
納得していない顔がアイルにもすぐ分かったが、
アイルは諦めろと言わんばかりに先に部屋を出て行ってしまった。
ようやく傭兵団として仕事に加われるのは嬉しいが、仕事内容に疑問が残る。
父も、カインも、アンリも気づいているだろうが、深く語らない。
夜が来るのが、少し怖い。
ルキアが座っていた椅子の隣には大きな窓。
雲の流れが早い…明日はきっと雨になる。
期待と不安が渦を巻く。初陣だと言うのに、ついてないなとクロスはため息をついた。


荷物をまとめながら、クロスはふと考えた。
傭兵として生きる父親。いずれは自分もそうなりたいと、自然に願っていた。
母親がもしも生きていたら、何と言っただろうか。もしかしたら、反対されたんだろうか。
クロスは母親の事をほとんど覚えていない。
リアを産んでしばらくして病気で亡くなっている。
優しかった母親の記憶が、ぼんやりと残っているだけだ。
昔、一度父親に母の事を覚えているかと聞かれた事があった。
確か、傭兵として生きる事を決めた頃だった。


「母さんがもし生きていたら、傭兵になること、止められたかな…」
「だとしたら、どうする?」
「そうだな…だけど、オレは親父のようになりたい、って決めてるんだ」
まだまだ未熟な剣士だけれども、目標があるからこそ頑張れる気がしていた。
トウラはそんな息子の言葉を聞いて、いつものように小さく笑い、
クロスの肩をポンと叩いていた。
「…絶対、親父を追い越すからな!」
「それは楽しみだ」


ようやく仕事に加われる…リアは喜んだ表情を見せるも、胸の内は複雑なはずだ。
人を殺めるという仕事…プリーストとしてヒーリングを続けるリアはどう思っているのか。
考えても仕方がないことばかりが、クロスの頭の中で反芻される。
月は雲に隠れ、今日は見えない。




馬を走らせる事かれこれ6時間。
真夜中になっているのは確かだが、場所がどの辺りなのかが分からない。
道中、誰も喋らない。馬が地面を駆ける音だけが嫌に響く。
「ここで休もう。馬は全て林の中へ」
トウラの指示通り、全員が馬を降りた。
「お兄ちゃん、ここ…どの辺り?」
「…さぁな。オレ、あんまり遠出したことないからなぁ」
「ふぅ、でも疲れたね…王女様たちの御一行とはまだ会えないんだね」
「……そうだなぁ…」
「クロス、ちょっと」
ケープで顔半分を隠したルキアが呼んでいる。傍らにはカインが一緒だ。
「?」
「交代で休もう。アンリとアイルが見張りをするから」
「オレはあとでいいよ…何だか気が張って…」
ぽろりと本音をこぼすクロスの姿を見て、カインは微笑んだ。
「緊張するのは仕方ないよ。だけど、休めるときには休んだ方がいい。
目を閉じるだけでも、気が和らぐから」
「カイン…サンキュ」
ルキアの表情は全く読み取れなかった。口元は硬く結ばれている。
クロスの視線に気づいたのか、軽く緩んだものの、すぐに身を翻しカインとどこかへ歩いていった。
一つ深呼吸をする。大きく息を吐いてすぐ、トウラの声が耳に入った。
「…大丈夫か?」
「親父?あ、あぁ、大丈夫だけど」
「…今回、お前を連れてきたのには…理由があって…」
「…何だよ」
「団長!誰か来たわ!!」
アンリの声が響き渡った。
「!?」
走ってアンリ達の下へ向かう。
街道に出るトウラ、アンリ、カインの3人。
3人とも馬に乗って、いつでも武器が使えるように身構えている。
「お兄ちゃん…絶対…様子がおかしいと思う…」
「…あぁ」
「……血の、においだね。リア下がって」
ルキアが馬に飛び乗り、3人に続く。


「ジェクトの方々か!頼む…助けてくれ!!!!」
何頭いるのかすぐには数え切れない馬の足音。
それに混じって聞こえた叫び声。
血のにおいが広がる。
クロスは初めて、自分の身を置いている場所の恐ろしさに血が引いた。
当たり前の事だが、常に死と隣りあわせだと言う事に。

剣を持つ手に、汗が滲む。怖い。

この小説について

タイトル 軌跡 ■第一章 第一節:仲間(4)
初版 2009年7月17日
改訂 2009年7月17日
小説ID 3312
閲覧数 665
合計★ 0
Fayeの写真
熟練
作家名 ★Faye
作家ID 537
投稿数 11
★の数 0
活動度 1087

コメント (0)

名前 全角10文字以内
コメント 全角3000文字以内 書式タグは利用できません
[必須]

※このボタンを押すと確認画面へ進みます。