クラウンウォーク ―鏡割りの運命 第一章

月の出ていない夜。
真っ黒な雲が、空を漂っていた。


星は一つも散りばめられていない。


少年は、その空の下に位置していた。
ベランダに出て、空を見上げる。

その緑色の瞳には、あの真っ黒な空が、映っているのだろうか。

そんな時吹いた風が、少年の赤毛をなびかせる。

ー…その時。


突然、強い風が吹いた。
すさまじい音を立てて、少年を襲ったかと思うと、雲を揺らし始める。

やがてそれは、雲を動かす、大きな力となりー…。


月の姿を、一目瞭然に、現させた。


青く神秘的に光る月が、少年の姿を照らす。

黒い雲達は青い月から逃げる様に遠ざかり、やがて別方角の空へと消え去ってゆくー…。


…その時だった。


少年の瞳に、月が映ったその瞬間。


青い月に、一つの黒い影が現れた。

少年は、それを凝視する。その正体が何なのかを見極める為に。


その影は、どんどん少年に近づいてきー…。

さっきまでただの黒い物体であったのが嘘とでも言うかの様に、少年の目に映った。


「…こんばんは。」


…少女だった。

悪魔の様に尖った羽を身にまとい、カラフルな衣装を着込んでいる。


少年が何よりも驚いたのは…、宙に浮かんでいると言う事だった。


「…君は?」


その物体は、紛れも無く少女。


その少女に、少年は疑問を抱き、何者なのかを問いただした。


「見た事のないものだって、驚いたでしょ?そりゃそうよね、警戒くらい、するわよね。」

少女は、悲しい目をして、少年を見つめる。


少年は、訳が分からず、ただその場に立ち尽くしているだけであった。


「でもね、良いの。怖がらないで。私は、貴方に何もしないから。」

少年は、何一つ怯える事なく、再び彼女に問う。
「…僕に、何か用?通りすがり?」


「…用はある。ただ、貴方がそれを実行するかしないかで、結果は大きく変わる。」


「何を言っているの?」


そこで少女は一息つき、少年に告げた。


「エデン・アルバート。アルバート家の意思と財産を継ぐ者として、私の救世主となる為、三日月の夜、輝く三面鏡に飛び込め。」


「三日月の夜にっ…、三面鏡…!?」

…そう、彼の名前はエデン・アルバート。


とても大きな公爵家、アルバート家の長男である。


「それ…まさか…。」


「…………………そう、アルバート家に伝わる、真実が定まっていない、あの噂よ。」


「待ってっ…。意味が分からないよっ!大体君は、何者なの?宙には浮いているし、絶対人間じゃないよね!?」





        「この世の中心が、人間じゃないのよ。
                   一番上の地位を占めているのは人間じゃない。」


「な…何を言っているんだ…。」


「…はぁ。全て、一つ一つ説明していくわ。」


そう少女はため息をつくと、エデンの立ち居地のベランダへと舞い降りた。

「私に名前は無い。だけど人間でもない。…私の種族は、サキュバスと言われる、人間とはまた違った生物。」

「…人そっくりだけどね。サキュバスって、伝説上の生物じゃなかったの?」


エデンのそんな言葉を聞いてはおらず、サキュバスだと言う事だけを名乗る少女は、説明をどんどん早めていく。
それと同時に、説明をする口調も段々と、早くなっていった。


「急いでるの。貴方の愚問に、答えている暇はないわ」


そこで、再び説明を再開した。


「…三面鏡があるでしょう?あの、噂の鏡。」


「…うん、あるよ。もうすぐ、気味が悪いからって、業者さんに処分してもらうとか、何とかって言ってたけど…。」


噂ー…、そう、アルバート家に昔から纏わる、不気味な噂。



三日月の出ている夜に、その噂の三面鏡が照らされていると、地獄へと繋がっていると言う証拠なのだそうだ。

その三面鏡の真ん中の鏡の前にしゃがみ込んで、もう二つの、両脇にある鏡を閉じる。


ー…すると、その真ん中の鏡の前に居座っていた人は、その三面鏡を伝い、地獄へと落ちてしまうと言うのだ。


しかし、その三面鏡は地獄どころではなく、地獄の最下層を流れる川、コーキュートスへと落ちてしまうらしい。

実に、不気味な噂である。


だが、エデンはそんな噂を、信じてはいなかった。


紛れもなく、それは「噂」なのだ。
地獄の存在さえ、彼は信じてはおらず、そして、認めていなかった。


「…そんな下らない噂、信じる訳なんか無いって、思っていたでしょう?」


「当たり前だよ。大体そんなのは、遊んでいて鏡を割ってしまう子供が居るから、その子達を怖がらせる為にあるんだよ。ただの子供だまし。」


「…それが、ひっくり返ったとしたら?」


「…さっきから、何を言っているの?」



そこで、サキュバスは不気味に笑った。

「…うふふ。まぁ良いわ、貴方はどうせ、これを実行してくれるもの。私のお願い事を。」


そんな不敵な笑いを浮かべるサキュバスに対して、エデンはこう言った。


「…お願い事…?それ、もしかして…。」


「ええ、そうよ。鏡から、その別世界へと、堕ちてもらうの。信じていないんなら、できるでしょ?」


「………。」


少しの間だけ、沈黙が続いた。

「…分かったよ、何が目的なのかは知らないけれど、そんなのただの無駄骨だって事、証明してみせるから。」


「…ありがとう。」


そう言い、サキュバスはにっこりと、天使の様な笑みで、エデンに微笑みかけた。


「何で…、お礼なんかを言うの?僕、感謝される様な事、してないよ…?」


「たとえ貴方が気づいていなくても、その影では必ず、その裏の世界で、喜んでいる人が居る」

するとサキュバスは、再び、闇の彼方へと消えて行った。

一体、彼女は何者だったのか。
エデンは、未だにそれを、確かめられないままで居た。












「エデンっ!おはよう!もう朝だよ、起きて!」

少女の叫ぶ声が、エデンの耳に木霊する。
「……ん…。」


「あんたね、昨日、ベランダの床に横たわって寝てたよ!バカじゃないの!?」

「…え?」


寝起きの為か、エデンはまともな返事を青髪の少女に返せなくなっていた。


「それでね、私の腕力じゃ、あんたを運ぶのなんて、到底無理だったから…。」

「…それでー…?」


「メルトに、着替えも全部、やってもらった。」



しばしの沈黙。


「んなぁぁぁぁあああっ!?」


エデンが、叫び声を上げる。


「別に良いじゃん、男同士なんだし。」


「…下も?」



「うん!」



「!?」

あまりの驚きで、声が出なくなってしまったらしい。

「まぁまぁ、あんたに忠実なんだしさ、あの子。私に言われて無くったって、きっとやってるよ。」


ー…この少女の名前は、アリス・ジャッジメント。

青髪に、緋瞳と言う目をしており、顔の整った、いわゆる『美少女』である。

エデンとは昔からの幼なじみであり、仲も良い方だ。

「ってぇっ…、何でアリスがここに居るの。」

どうやら、エデンはあのサキュバスだと名乗る少女が何処かへと立ち去ってしまったその直後、気を失ってしまったらしい。


「今日はねっ、エデンん家にある三面鏡で、ある実験をしちゃいたいと思いまーすっ!」


アリスが生き生きと叫んだその瞬間、その一方、エデンは言葉を失っていた。

「…三面鏡で?もしかして、あの噂、試すつもりなの?」


「おう、そうでありますよ」

一風変わった口調で、アリスが胸をどんと叩いてみせた。

「…僕も、それ、やるつもりだった。絶対有り得ないよ、コーキュートスに落ちるなんて。」

「いんやっ!やってみないと分かりませんぜぃっ、ぼっちゃん。」


…すると、誰かが、エデンとアリスの居る部屋の扉を、コンコンと、二回ノックする音が響いた。

「エデンお坊ちゃま、もう起きてらっしゃいますか?メルトです。朝食のお時間ですよ。」


「ん、ああー、メルト!昨日はごめんね、手間かけさせちゃって。入っておいで。」


そして、部屋の扉からは、緑髪の髪をなびかせて、メルトと呼ばれる少年が入ってきた。


「いえ、めっそうもない。従者が主に従うのは、当たり前の事ですから。」


この少年は、メルト・シャーロック。

ー…孤児。

以前、メルトはハロウィン・タウンと言う、変わった街に住んでいた。
しかし、そんな中、歴史の中で一番の恐怖を司る、『魔女狩り』が行われ始めたのだ。

父親はすこし前に病気でなくしており、また、母親は魔女狩りにて魔女だと決め付けられ、そして殺されていった。


母が火あぶりの刑で死にさらされていくのを目の前で見た少年、メルトは、やがて孤児となり、街付近を彷徨った。

そんな所を、エデンが発見し、そしてアルバート家に拾われたのである。


「ねーねーっ、メルト。この三面鏡の噂、知ってるよね?」

「もちろん知ってますよ…。」


アリスが三面鏡を指差してメルトに問いかけた後、メルトは少し苦笑混じりの顔で、そう言ってみせた。


「一緒に、今日実験してみない?」


「アリスお嬢様がそう仰るのでありましたら、俺は何でも…。」

「ちょっ…、メルトを変な事に巻き込まないでよ、バカアリス。」


そのエデンの一言で、エデンVSアリスの、相当な騒ぎとする、口喧嘩が始まった。

「……三面鏡の噂、か」


メルトは視線を三面鏡に向けて、そう呟いた。


この小説について

タイトル クラウンウォーク ―鏡割りの運命 第一章
初版 2009年7月18日
改訂 2009年7月18日
小説ID 3318
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コメント (2)

★達央 コメントのみ 2009年7月21日 13時21分11秒
初めまして@だーくさん

『クラウンウォーク―鏡割りの運命 第一章』を読ませていただきました。
まだ始まったばかりなので内容に関して突っ込みはしませんが、文でおかしいなと疑問に思ったことを言わせてもらいます。


まずは会話の中の「……。」という句読点は小説の中にはいりません。
あと「噂」というふうになっていましたが、ここは会話と区別したほうが良いので協調をしたいのなら『噂』といったふうにしたほうがいいと思います。

「月の姿を、一目瞭然に現せた」→「月の姿が突然と現れた」
「何を言っているの」→「何を言っているんだ」
「ってぇっ……、何でアリスがここに居るの」→「ってぇっ……何でアリスがここにいるんだ」
文をこうした方が良いかなと思ったので書き込みましたが、もう一度読み直すことをおススメします。

まだ小説を書くのが不慣れだと思います。 このぱろしょ内の作者でも良いので自分のと比べてみてください。そうすれば、どこがおかしいのかが分かると思います。これからの期待を込めて星は付けませんが、気を落とさずに次も頑張ってください。
★みかん コメントのみ 2009年7月21日 21時36分33秒
こんばんは、読ませていただきました。

地獄や悪魔など、いろいろ不穏な空気になりそうな感じです。

主人公が何やら重大なことをしそうですが、
そこまで書かれてないので、純粋に楽しみでもあります。

物語を進めるにあたり、もう少し心理描写を用いると、
良いと思います。

いやな夢から覚めた後の描写など、そこを詳しく書けば良いと思います。

文章的には改善の余地があると思いますが、
物語的には楽しみにしております。

続き、楽しみに読ませていただきますよ。

では、失礼しました。
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