2-1 - 軌跡 ■第一章 第二節:裏切(1)

向かってきた一行が、王宮騎士だと言う事は、誰もが身なりですぐに分かった。
だが、その一行が襲われているのだ。状況がすぐに飲み込めない。
「話は聞いている、王女は無事か!?」
「それが…肩に…応急処置はしておりますが…」
「敵襲!!!」
夜空に響き渡ったのはルキアの声だった。
矢が降ってくる。ルキアが魔力で炎を起こし、その矢を燃やし尽くしたが、すぐに槍兵が現れた。
「散らばるな!固まるんだ!!リアは王女の所へ!」
「はい!」
王女は肩を矢で貫かれ、出血が止まらない状態だった。
「王女様…大丈夫、しっかりして!」
「…うぅ……」
意識はあるが、出血の所為か、顔が青白い。
リアは精神を集中し、ヒーリングの光で王女の肩に触れた。
完全に治すのは無理だが、血が固まり、傷口が塞がる状態にしたい。
だが、その状態に戻すにはかなりの気力・体力が求められる。リアの額には汗が滲んだ。


クロスは自分に向けられた槍をかわすのに精一杯になりそうだった。
どうしても良い間合いで切り込められない。
また、あまりに敵襲の数が多い。
何人か倒した後、上下する背中を整えようと大きく息を吸い込んだ。
次の瞬間、目に飛び込んだのは、ルキアを狙う槍兵の姿。
だが、ルキアまでの距離があまりに遠い。
慌てて飛び込もうとしたものの、目の前に見えたのは父親の姿だった。
左腕をかすったのか、すぐに血が滲む。
「…ふん、クロス。他人を庇うほどの余裕があったか」
トウラはにやりと笑い、大きく剣を振り、敵を次々と倒していく。
やはり勝てないと思った。


トウラ、カイン、アンリの3強の力に加え、残っていた王宮騎士の加勢もあり、
今回の敵襲は何とか勝利に終わった。
「残党がまだいるはず。油断は出来ない状態ですね、団長」
カインは槍をまだ下ろそうとしない。アンリも隣に並んでいる。
まるでその一角を守る騎士の如く立っている。


「襲ってきたのは一体…」
クロスはふらふらとする頭を抑え、ようやく口を開いた。
「…ユングフィの連中だ。エメラダ様を狙って打った矢が証拠だ」
王宮兵士の手には、矢が握られている。
矢尻には赤い血が乾いている。トウラはその矢尻を見て、息をついた。
「王女は無事なのか?」
「えぇ、まだ意識は失っておられますが、大丈夫です。
あの少女のヒーリングは本当に優れている。あなた方のお陰です。姫を守れてよかった…」
王宮騎士達は深々と頭を下げている。
リアはその後も傷ついた兵士や、仲間の簡単なヒーリングをこなし、
今は体力も限界と言わんばかりに兄の隣に座り込んでいた。
「どうしてユングフィが…」
「話は後だ。クロス、お前はこれを持って先へ進め」
トウラは赤い石のついたリングを指から素早く外し、クロスに渡す。
父親が、いつも肌身離さずつけていたリング。
不気味な赤い色は、血の色だとクロスは感じた。
「この先を進めば、ブラハへ続いている。ブラハの王都・ガラに向かえ。
そのリングで分かるはずだ」
「ちょっ…どういう事だよ…話が見えねえっつの!」
話の糸口が見えない。
「おかしいだろ!ユングフィの連中が王女を襲ったんだ。これは戦争だ…」
そこでクロスはふと流れに溶け込んだ気がした。
「クロス…オレもようやくわかったよ…。
ユングフィは端からこの結婚を認める気はなかったんだ。だから…」
アイルの言葉が耳に重く響く。
「いいか、ここからは二手に別れる。オレはルキアを連れ王都へ向かう。
カイン、アンリ、行けるな」
「…勿論です。ですが団長…そちらはたった2人で…」
「大丈夫だ。ここに長居は出来ん。追っ手が来るぞ」
トウラはそう言い、馬へ跨る。
傷ついた左腕を見せないように、隠している。
リアのヒーリングで少しは回復したものの、完全には治っていないのだろう。
「クロス…気をつけて」
小さくそう呟き、ルキアはすれ違い様にクロスの左手にそっと触れた。
その指の冷たさにハッとする。
「分かった、俺たちは必ずガラへ向かう。親父たちも…必ず来てくれ…」
「勿論だ。さぁ、ルキア行くぞ」
「…はい」
馬が走り出し、やがて街道から消えていった。
「クロス殿、この先を少し行けば国境になります。行きましょう」
兵士の声に頷き、父親たちの向かった方向と逆に馬を向ける。自分に出来ることは、一つだけ。

街道はやがて、朝日に包まれる。

この小説について

タイトル 軌跡 ■第一章 第二節:裏切(1)
初版 2009年7月19日
改訂 2009年7月19日
小説ID 3320
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作家名 ★Faye
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