Dメール - No.6 to:不可解な爆弾魔(3)

 最初の爆発があったファミリーレストラン沿いを走る国道から直進で約一キロの所に、車通りの激しい十字路の交差点はある。その交差点を直進して行けば由雅にも行けるし、そこから左右に右折すればそれぞれの道路へと繋がる。だが、唯冬に行こうとするのならば左側の道路を通る事になる。
 渚の計略どおりに事が進んでいるのならば、警察はこの国道だけに集中せずに、他の道路にも検問、或いは捜査官を置く。それによって犯人が逃げる道を失っているならば、夜一に渡した暗号の通り、国道沿いにある十字路を爆発して警察の目を再び国道へと向けて、その隙に逃げる。
 それが、先ほど送られてきた『Dメール』の中の文だった。夜一も大体は分かっていた。だが、犯人だけは驚くほか無かった。
 足を止め、十字路の周りを入念に夜一は見回した。しかし、爆発物らしきものは見当たらない。仕方なく、夜一は携帯を開いて渚に助けを求めた。
『爆発物も、犯人も見当たらない』
 すぐに、渚から的確な答えが返って来た。
『もし爆弾を爆発させて警察の様子などを窺うためには、高い所が最適だろう』
「高い所……こんな広い所で、高いって……あ!」
 夜一は闇雲に辺りを見回していたが、やがて一点に視線が集中した。それは、十字路などの広い道路でいえばある程度の高さがあり、尚且つその後他の道路へと逃げやすい場所、歩道橋だった。縦に走る国道を二分するように横に架かった歩道橋は、左右の道路に繋がっており、犯人が警察を監視し、その後逃げるための場所としては、最適な場所だった。
 夜一は急いで歩道橋の方へと行き、歩道橋の階段を上った。
 歩道橋の下を、パトカーが急スピードで走っていく。
『ダミーのパトカーで警察が動いたと犯人に錯覚させる』
 『Dメール』の文章に書いてあった言葉が現実になる。渚が言っていた、犯人に仕掛けた罠である。
 そうとは知らず、それを見て歩道橋の上に居る人物が笑ったのを、夜一は見逃さなかった。そして、其処に居た人物に声を掛けた。
「あなたがこの連続爆破事件の犯人ですね……室戸さん」
「!」
 その場に居た室戸さんは、夜一の方を目を見開いて見た。何故分かったのか、という疑問をもった目で。夜一は横目で携帯画面を見て今一度『Dメール』を確認する。
『犯人、室戸優美が国道封鎖にこだわる理由を話す』
そしてメール通りに言った。
「逃げようとしても無駄ですよ。警察はもう気付いていますから。貴方が国道を封鎖する事にこだわる理由を」
「……どうして分かったの……?」
「最初に貴方が怪しいと思ったのは、警察でもない赤の他人の俺に暗号を渡した時です。あの暗号は、すぐに解かれては困る、時間稼ぎのための物だった。……違いますか?」
 夜一がそう言うと、室戸さんは顔つきを一瞬で険しくして携帯を取り出した。何処かに電話をかけようとしているのを見て、夜一はその隙を突いて自分の携帯で『Dメール』を確認する。
 そこには篠山さんからの電話越しの時限爆弾らしきものの正体と、ダミーでパトカーを動かした事を言う、と書いてある。それに従い、夜一は言った。
「言ったはずですよ、無駄だって。あの時篠山さんからの電話で聞こえた時計のような音は時限爆弾だと錯覚させるため。その携帯電話は……貴方が仕掛けた爆弾を爆破させるためのリモートコントローラーですよね?」
 夜一がそう指摘すると、室戸さんはすぐに携帯のリダイアルボタンを押した。しかし、辺りは静まり返り、何も変化は起こらない。
「な、何で……何で、爆発しないの!?」
「……篠山さんの携帯を逆探知して警察が既に現場に行って、彼女を解放しました。さっきここの上から見えたパトカーは……逃げられる、と貴方に思わせる為のダミーですよ」
 パトカーは既に国道からは消え失せていた。渚が燈夜に言って動かしてもらったものだが、夜一から見ても本格的だった。焦る室戸さんに、夜一は説明する。
「最初は、篠山さんが犯人だと思いました。けれど彼女は、教えてくれました。貴方と同じ『暗号』を使って、犯人を」
 夜一は、室戸さんに二枚のメモを突きつけた。
 そのうちの一枚には『こらもこにみ、かくい、そすらととすらちし』という文字と、もう一枚には『くらとくに、んななもに』という文字が書かれていた。
「これは、貴方が作った暗号文。こっちの『くらとくに、んななもに』っていうのは篠山さんが咄嗟に俺達に送ったメッセージです」
「メッセージ、ですって……!?」
 驚く室戸さんに分からせるため、夜一は携帯を開いた。暫くすると、動画が再生され始めた。先ほど、渚がネットカフェで暗号を解いたとき、撮影しておいたものだ。
 渚のか細い指がせわしなく動き、キーボードの上を滑っていく。ワード検索の欄で、文を直接入力に設定して暗号が打ち込まれていく。すると、ワード検索の欄には『bombin the crossroad』という英文が浮かび上がった。
「これが貴方が作った暗号の答え、『十字路の爆弾』……つまり、この国道沿いの十字路に爆弾があると、貴方が逃げるタイミングに合わせて暗号を解かせ、国道を封鎖させる。その間に貴方は他の道路から逃げる。そういう算段でしょう」
「じゃ、じゃあこのもう一つのは何だって言うのよ! ただ知枝が苦し紛れに言っただけじゃない!」
「まあ、まあ。続きを見てくださいよ。貴方が見落とした、重大な欠陥を」
 携帯の画面の渚の手は次に、篠山さんが室戸さんに電話した時に、篠山さんが会話の最後に漏らした言葉を打ち込んだ。室戸さんが作ったのと同じく、直接入力で。
 その映像を見て、室戸さんは絶句した。
 そこには、『hoshi yuumi』、『ホシ』とは警察内での犯人の意味の隠語。つまり、『犯人は優美』と、篠山さんは命がけの告発をしていたのだ。爆発事件を故意に起こしたとはいえ、巻き込まれた一般人を装っている室戸さんの周りにいるであろう、警察に向けて。
 明らかに動揺している室戸さんに、夜一は『Dメール』の推理を話し始めた。
「貴方の会社……『GODAIGO』は取引を優位にするために、契約元の会社から裏金を受け取っていた。貴方は今日、その裏金を奪うために爆弾事件を起こしたんだ」
「…………」
「最初の爆発は、篠山さんに罪を着せ、自分が被害者であると警察を油断させるため。そしてその確実な立場を得るため、仮出所していた十和 一成に目をつけたんじゃないですか? 彼を尾行し、彼が監視カメラに目撃されたのを見計らい、貴方はファミリーレストランで爆発を起こした」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。その後すぐに、二件目が起こったじゃない。私、警察の人と一緒だったのよ? 爆発できるわけ無いじゃない!」
 室戸さんは夜一に向かって叫ぶ。しかし、夜一の見つめる『Dメール』はただ真実が書き連ねられていた。
「だから、携帯を使ったんじゃないですか。さっきと同じ様にリダイアルを使えば、爆弾に繋がるコールが出来ますし。その携帯で片っ端からコールして篠山さん居た場所、もしくは十字路の爆弾が爆発すれば……分かりますよ」
 止めを刺すように、夜一は室戸さんを見つめて言い放った。
 暫くの間室戸さんは肩を震わせて目を見開き、異常に興奮していたが、やがてもう逃げられないと悟ったのか肩をすくめて笑い、言った。
「フフ……やっぱり悪い事は出来ないのかしらね……」
 立ちすくむ室戸さんと、それを見つめていた夜一の下に、警察のパトカーが到着したのはそれから間も無くの事だった。


 結局室戸さんは、二件の爆弾事件と、篠山さんの誘拐と監禁の容疑で現行犯逮捕された。室戸さんが国道の一本隣の道路に止めていた車のトランクからは、数百万円が袋詰めで発見された。
 篠山さんは結局犯人などではなく、同じ会社の部署にいた室戸さんからこの計画に誘われ、無理だと断ったところ、裏金を奪う計画をバラされると恐れた室戸さんによって誘拐、監禁されていた。篠山さんからの電話越しに聞こえた時限爆弾のような時計の動く音は、警察を混乱させるため爆弾のそばに時計を置いてそう見せかけただけのものだった。
 勿論、この事で『GODAIGO』は裏金の事が明るみに出てしまい、代表取締役の大豊 貴等会社の幹部も、当然逮捕された。
 渚と合流した夜一は、ファミリーレストランからそう遠くない、峰丈(ほうじょう)公園にいた。
「今回もご苦労だったな、夜一」
 渚からの慰労の言葉も、夜一には答える気にはなれなかった。
「なあ、俺達……何で公園に居るんだよ……いい加減、帰らせろよ……」
 夜一はブランコに乗りながら、情けなくため息をつく。しかし、千極島の別荘での殺人事件に巻き込まれて、夜通しで事情聴取を受け、そのまま渚の家に行ってファミリーレストランに行き、その日にまた事件に巻き込まれた。いい加減に眠さが限界なのか、夜一は大きな欠伸をした。
 すると、それに反応するように公園の入り口から声が聞こえた。
「クッ……『D』として選ばれた者がどんな奴か見に来てみれば……そこいらにいる高校生より性質が悪そうだ」
 そこに居た声の主は、群青に近い青く澄んだ髪を台無しにするかのようにボサボサに伸ばし、天然パーマとしか思えない髪型で、突付けば倒れるのではないかと思うほど細身だった。口は男だが、外見は女性に見えなくも無い。張り付いたような、引きつった笑いを浮かべていた人物に、渚が声を掛けた。
「……来たか、『斑鳩』」
「『斑鳩』って、さっきの……凄腕クラッカー!?」
「クッ。コンピューターのコの字も知らなさそうな素人君だと思っていたけど、訂正してあげるよ。春日の人間だけあって、多少の勘、それに知識はあるようだね」
「何だと!」
 夜一は拳を握りしめて斑鳩を睨む。
 それを制して、渚は言った。
「受取るがいい。『情報料』だ」
 そう言って、渚は薄い茶封筒を斑鳩に手渡した。その中身、数枚のお札を斑鳩が確かめるように数えているのを見て、夜一は驚いて言う。
「召抱えてるって言ってたのに、金払うのかよ!」
「クッ……春日 夜一、君は僕が幾らこの仕事を進んでやっているからって、クラッカーが善意でこんな事するわけないと考えないのかい? これは『保険』なのさ」
「……保険?」
「捕まった時の保釈金に決まっているだろう。世の中は金でしか動かない」
「ちなみに……幾らなんだよ」
 夜一が何気なく聞くと、斑鳩はさらりと言ってのけた。
「クッ……興味あるのかい? 料金は一情報につき、五万円也」
「高ッ! しかも、一つの情報で!?」
 夜一は驚く。今回だけでも、『GODAIGO』の内部調査と裏金のリスト、それに『GODAIGO』の代表取締役、大豊 貴の自宅の位置を探し出す情報料として、合計十五万を支払っている事になるからだ。
 しかし、当の渚は何ら気にする風でもなく、夜一に言った。
「お前が気にする必要は無い。私も斑鳩も、情報を得たいだけだ。もっと金を取る奴は取る。これでも安い方だ。情報を探り出す斑鳩本人の方にリスクが高い以上、報酬は当たり前だ」
 金を確かめると、斑鳩は不気味な薄ら笑いを浮かべた。
 またごひいきにと、そう示すかのように茶封筒を持ち上げてから、そのまま振り返らずに斑鳩は公園を立ち去った。
 それからやっと自宅に帰れた夜一は、母が勧めてくれたご飯を食べずに自分の部屋に入ると、一気に緊張が抜けたのかベッドに倒れこんだ。
 夜一は読み散らかした漫画やスポーツ雑誌、それにゲーム類で埋まった床と対照的な何も無い無地の天井を見つめらがら黙り込んでいた。
やがて睡魔が襲ってきて、夜一は目を閉じた。
明日からどうなるのか、という一抹の不安さえも、考えさせぬうちに。

後書き

不可解な爆弾魔編、無事に(?)完結しました。
良かったなあ、と思う自分ともう少し凝った方が良かったんじゃないかという自分がせめぎあっております(汗
ま、これからも学びつつ書いていこうと思います。
宜しくお願い致します。

この小説について

タイトル No.6 to:不可解な爆弾魔(3)
初版 2009年7月19日
改訂 2009年7月19日
小説ID 3327
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ひとり雨の写真
作家名 ★ひとり雨
作家ID 223
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