3-2 - 軌跡 ■第一章 第三節:再会(2)

「そうなると、非常に困るんだがな」
階段下から突然声が聞こえた。声の主は、自分達を匿う銀髪の男。
外を見てみろと促され、2人が送った視線の先は、砦を囲む兵の姿だった。
兵といっても、ここの国境警備兵ではない。追っ手の兵だとクロスはピンときた。
「どうやら、あんたらが招かれざる客だって、証明されたみたいだな」
階下へと向かうガイルに続き、クロスとウルキも、慌てて走る。
「いいか!中には絶対入れるな。全員で建物を囲め!」
ガイルの声が大きく響く。
砦を囲む入り口は3つ。戦力を分散させ、入り口前で戦うことになりそうだ。
中にいる王女を必ず守らなくてはならない。
「リア、王女をまかせたわよ」
アンリはリアの耳元で小さくつぶやく。
「分かった。アンリ、気をつけて!」
アンリはにこりと笑うと、外へ飛び出した。
既に外に出ていたアイルの姿が見える。協力するわよ、とアンリはアイルの横へ立ち、長槍を構えた。
「アンリ、ヤバイって…。追っ手の数がハンパねぇよ」
「…ねぇ、お願いだから気弱な事言わないで。気分からして負けたくないから」
「男前だなぁ、ホント…」
悪かった、と剣を握り締めるアイル。そして振りかざした剣を敵兵に向かいおろしていく。

「クロス、大丈夫か?」
カインが近づき、クロスに加勢する。
「…はぁっ…ちょっと、数が多すぎる」
「確かに…これはアッカド軍の一個小隊分かな…」
「正気かよ、ここはブラハ王国の領内だぞ?」
「…先方も必死と見えるな」
つまり、国を挙げて王女の抹殺にかかっているということだ。
「だがここでやられるわけにはいかない。何としてでも切り抜ける」
「…もちろんだ、クロス」
あと一つの扉前では、ガイルを先頭に、ウルキとココが戦っている。
わずかの戦力で、これだけの数を相手に戦うことになるとは、誰一人予想ができなかった。


そのとき、大きな炎の塊が地を這うように敵兵を包み込んだ。全員が一つの方向を向き直る。
「皆、大丈夫か?」
聞き覚えのある声が全員の耳に入った。
「団長、ルキア!」
「待たせたな…さぁ、一気にカタをつけるぞ」
トウラ・ルキアが帰ってきたと言う事で、全員の士気が上がる。強力な助っ人だ。
さらに、もう一人見覚えのない女性剣士が混じっていたが、
その剣士のあまりの圧倒的な強さにクロスとアイルは少し焦りながら、目の前の敵兵を切りつける。

トウラ・ルキア・シェリーの加勢で、戦力はほぼ互角という所まで持ち上がっている。
さっさと終わらせようと、ガイルは全体を見渡し、敵将の姿を捉えた。
「ウルキ、ここはまかせたぞ」
「は!?」
ガイルはウルキの静止も聞かず、馬を走らせた。器用に長剣を振り回し、騎馬兵を次々に倒していく。向かう先は敵将のみ。
「愚かな男だな、指揮官自ら前線に飛び込んでくるとは」
「…別にオレは指揮官でも何でもねぇよ、あんたら何のつもりだ?ここをどこだと思ってる?」
「…貴様、ブラハの兵士か?」
「いかにも…聖騎士の一人だが」
ガイルが長剣を向ける。
敵将はじわりと後ずさった。ガイルの放つ威力がとてつもなく強大に感じられる。
「軍の将にしては器の小さい男だな…いや、力が在るからこそ、か…」
ガイルは不敵な笑みを浮かべて、敵将に切りかかったが、かろうじて剣を受け止められる。
甘いな、とつぶやいた後、力強く跳ね返し、間を開けず相手の懐へ切り込む。
「あんたらは運が悪かった。オレがいる限り、ここは通させん」
戦いは終わりだ、と言いたげに剣についた血を振り落とした。


「クロス、無事か?」
近寄ってくるトウラ達を見たとき、心の底から安心感が湧き上がって来るのを感じた。
ウルキの言っていた通り、やはり甘えているのだろうか。
それでも、団を統べるこの男の存在は、全員にとっても大きかった。
「やれやれ、とんだ災難だ」
ガイルがやって来る。
「…まさか、こんな所で再会とはな」
トウラはまいったな、と言いたげにため息をついていた。
「……しばらくは追っ手もこないだろう。夜が明けたら王都へ向かうぞ」
ガイルはそう言うと別室へと歩いて行く。トウラも何も言わなかった。
部屋は傭兵団の一行で取り残された。
「皆、黙っていて悪かった…」
「団長…」
「…そして王女、無事でよかった」
「トウラ様…シェリー…」
エメラダはまさかの再会に目を潤ませていた。
「王女、どうか泣かないで下さい。私の剣は、あなたのためにあるのですから」
シェリーは背中まであった長い髪を短く切っていた。
戦いに邪魔だという思いもあったが、
これからの道中、エメラダを守り抜くという意思の元切っていたのだった。
家臣の小さい顔を包む髪を、エメラダはそっと触れ、やはり涙を流すのだった。
そんな王女の手を、シェリーは優しく包んだ。



狭い部屋に全員が集結している。
窓際では、ウルキがタバコを吸い、他から少し離れた場所で話を聞いていた。
「ジェクトの皆様には心より感謝してます。私のわがままを聞いて頂いて」
シェリーはこれについての報酬はすぐに支払わせてもらう、と続けたが、ココがすぐに遮った。
「今からどうするかが問題や」
「…とりあえず、明日王都に向かうしかないだろう。我々はもう戻れない」
「カイン…」
「懐かしいと思ってみたが、そうも言えんな」
ふいに口を開いたトウラは、先ほどガイルの出て行った扉を見据えた。
「私はガラの出身でな…そこでならしばらくは生活できるかと踏んだんだが…」
「親父、ここの出身なのか?」
「お前も、この国で生まれたんだ」
「……」
突然そう言われても何の実感も湧かないが、初めて聞いた父親の故郷の話。
「団長、問題は他にもあります。アッカドがやはりユングフィへの侵国を開始したと」
「やはりな…。シェリー、どう思う?」
「…いえ、十分予想していた範囲です。
ライ王子はエメラダ様の降嫁を口実に、ユングフィを狙っていたのですから。
ユングフィに向かう一行を、私兵に襲わせた件は、勿論ご存知でしょうが…。
更に一行を守る護衛兵にも、念を入れて私兵を混ぜていた。
エメラダ様を亡き者にして、それを口実に…
まぁ失敗したがために、現にここまで兵を送り込んでいますが。
トウラ殿、カイン殿…ユングフィが落ちるのは時間の問題でしょう。
そうなれば、ここブラハへの侵国も有り得る話では」
「…つまり、あなたの命は狙われる、との事だ」
トウラの視線はエメラダへ向けられる。
その視線に王女の体はびくりと震えた。
「…お父さん、そんなのってないよ…。王女様、何も悪い事してないじゃない…」
リアは泣きそうな顔で父親を見つめていた。
そっとその肩をルキアが抱き寄せ、涙を拭ってやる。
「リア、だから私達がいるんじゃない」
「…ルキア」
「出来る所まで、それが結局どこまでかは分からないけれど…私達の仕事は王女の護衛よ」
それは全員一致の意見だった。
エメラダは大きな瞳からポロポロと涙を零し、何度もありがとうございます、と言い続けた。

傭兵団の全員は、誰も外にガイルがいた事など気づいてはいなかった。
外で扉にもたれ、中の会話を聞いていたのだ。
ガイルは自分も趣味が悪いな、と毒づきながら、にやりと笑い腰の剣を握り締めた。



与えられた部屋に入なり、クロスは上着を脱ぎ捨ててベッドに横になった。
間近で見たガイルの剣裁きに、クロスはある既視感を覚えていたのだった。
あの構え方。あの間合いの取り方。あれは、自分と同じ…つまり、父親と同じなのだと。
つまり、父親は昔、王都の聖騎士だったのか?と。そこで、ガイルと一緒だったのか?と。
「…どうしたの?」
ルキアが顔を覗き込んで来る。
「…あぁ、いや、ちょっと考え事…」
「…そう?」
美しい青い瞳がクロスを見つめている。
やがて視線の主はベッドの端に向け、ベージュのケープを脱ぎ捨てた。
そしてその横に腰掛け、しばらくの沈黙の後に口を開いた。
「帰ろうか?」
「…何で」
「…考え事に付き合う余裕はないよ」
冷たいヤツだな…とムッとした表情でルキアの腰に手を回す。肉のほとんどついていない腰。
ルキアを抱きすくめ、首元に唇を落とした。
「そう言えば…お礼言ってなかったね…」
「…ん?」
「結局、団長にいい所持って行かれちゃったけど、私を守ろうとしてくれたじゃない」
「…あぁ、そういえば」
ほんの一週間前の事なのに、随分昔の事のように感じてしまう。
この一週間の密度は、余りにも濃すぎる。
「逆にかっこ悪いって…やっぱりもっと強くならないとな…」
「クロスは…本当に強くなった…。どんどん、成長していくね」
ルキアの長い指。クロスの頬にそっと触れ、形を確かめるように唇に触れる。

月の光だけが部屋を照らす。
ルキアはクロスの背中に手を回し、薄い筋肉の着いた肩に顔を埋めた。
クロスの手は、しっかりと細い腰を抑えている。
手のひらの熱が、冷たいルキアの体に熱を送るかのようだった。
時折目を合わせると、ルキアは微笑み、唇を合わせた。
「…クロ…ス」
「…ん?」
「もっと…強く、抱きしめて」
「……好きだ」
首筋に当たる、クロスの熱い吐息。はっきりと耳に残る、低い声。
「…初めて…言ってくれた?」
先に触れ合ってしまっただからだろうか。
想いを伝え、肌を重ねる、そのたった一つの言葉で、ルキアは胸がいっぱいだった。
「…ありがとう」
懸命に名前を呼び、再びその大きな背中に手を回した時、
自分は心底この男が好きなのだと自覚してしまった。
唇を触れ合う喜びも、肌に触れる安らぎも、傍にいない不安も、全てはクロスが教えてくれた。
この存在を手放したくはない。何も知らない昔には戻りたくはない。

この小説について

タイトル 軌跡 ■第一章 第三節:再会(2)
初版 2009年7月25日
改訂 2009年7月25日
小説ID 3353
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作家名 ★Faye
作家ID 537
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