おののき二人組 - 「隣のサイコさん」 一ツ目

 一日中嫌いな相手と行動をともにしなければならないのは、存外きつい。そのことを身をもって体感するはめになったのは、悪名高気写真部の三年生・柏木純也と新聞部三年・井上光夫のテキトーな企画「おののけ学校! おのろけカップル!」のせいだった。
 主にその二人が原因で、どちらの部活も新入部員はたったの一名。それが都合よく男女なので、というくだらない理由でペアになった遠山と守山は互いに深いためいきをついた。


「遠山、おまえ、彼女できたのか」
「守山さんのことか。違うよ、むしろ苦手だし」
 やっと開放された、と息をつくのもつかのま、土屋が興味深そうに話しかけてきた。ジッパーをあげながらクラス委員の土屋に返答する。すると、土屋は残念そうに舌打ちして、同じくジッパーをさっとあげた。
「とはいっても、ずっと彼女と一緒じゃないか」
 土屋のもっともな問いに、遠山は頭が痛くなる気がした。おそらく学校中で自分たち二人が似たような認識をされているのかと思うと、めまいすらする。
「部活だよ。写真部・新聞部合同でコワイハナシの連載するんだ」
「それって、夏休み中もか」
「うん」
 ふうん、と土屋がにやにやしながら言った。
「じゃあ、夏休みも間近だし、なにかあるかもな」
「なにかって……ないよ、うん」
 一瞬、あの端麗な顔が歪む姿を想像したが、それは絶対にないことを思い出す。
 遠山は守山のことを嫌ってなどいない。むしろ、ただのクラスメートだった時は憧れすらもっていた。しかし守山は遠山の何かがどうも気に食わないらしく、いつも遠山に食って掛かるのだ。
 この調子なら、夏休み後にはもっと仲が悪くなっているのではないかと考えてぞっとする。いかん、いかんと後ろ向きな考えを振り払うように頭を振る。
「まあ、報告よろしくな」
 そういうと、自分より後から入ったはずの土屋は颯爽とトイレから出て行った。
 見送り終えふと鏡を見ると、少し疲れた自分の顔が目に入る。この一週間取材のためといって二人っきりが続く。健全な男子高校生ならば、女子と同じ部屋で二人きりというのはいささかまずい、と認識しつつ言い出せない自分が、情けなくなった。


 トイレから戻り自分の教室へ入ろうとすると、廊下で聞きなれた、しかし嫌な汗が伝う声に呼び止められた。
「よお、こた」
「井上せん……うわっ! 柏木先輩に、守山さんまで!」
 井上がいるだけで冷や汗ものの日常に、残りの二人までもが集結すればそれが日常でなくなることを遠山はよく知っていた。
「おまえらずいぶん仲良くやってるみたいで、安心したよ。なあ柏木」
「ああ、井上。校内でも噂だ」
 できれば聞きたくなかった噂だ。その気持ちは守山のほうが上らしく、明らかに機嫌が悪くなっている。しかし井上と柏木はそんなことを微塵も気にするつもりはないらしく、にこやかに話を進めた。
「ほれ、ネタだ。夏休み前から収集する、これ、調査の鉄則な」
「結構背筋ゾクゾクするから、二人で抱きしめあってあたたまれ」
 あはは、と何が面白いのか大笑いする二人をよそに、遠山は異常なまでに仏頂面になる守山が怖くてたまらなかった。ばれないように少し距離を置き、そのネタとやらを受け取る。二人はみるみるうちに見えなくなった。
「ええっと……守山さん、どうする」
 顔色を伺いつつなるべく低姿勢で伺う。しばらくの沈黙のあと、守山はやっと口を開き、心底いらついたように言った。
「今日の放課後、現地集合。わたしはそのネタとやら、もうもらったからいらない」
 少しだけ差し出していた手をつっぱねるように守山が言った。恥ずかしくなりつつ、急いで差し出した手とネタを引っ込める。
 なんとかごまかそうと、時間をたずねようとしたが、
「わたしより後にきたら怒る」
というアバウトなコメントのみを残して、それじゃあまたあとで、と守山は窓際の自分の席へとすたすた戻っていった。
 はあ、と本日何度目かわからないためいきをつきながら、一番の苦労人は自分に違いない、と自身をいたわりつつ、遠山も廊下際の席に着いた。
 予鈴はそのすぐあとになった。

後書き

 ホラーです。所詮自分が考えるホラーなので、あまり怖くはありません。
 個人的に、土屋君は脇役兼やられ役。つまりかわいそうな人。

この小説について

タイトル 「隣のサイコさん」 一ツ目
初版 2009年7月27日
改訂 2009年7月27日
小説ID 3360
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駆け出し
作家名 ★土野みみず
作家ID 551
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