汎球の小さな息吹 - 麗しき刻 首都エリベン

その日は朝から良いことがあったために何も手に着かなかったが、ようやく仕事も終わり家に帰ってから、床に着くと少しは落ち着いてきた。

 翌日の激務に備えてスケジュール表を見るともなく見ながら、昨日や今日のことを思い出していた。

 この男名をバトラーというのだが、今のところ独身である。バトラーは昨日五年近く付き合っていた恋人に結婚を申し込み、今朝にその返事をもらったのだ。もちろん、応という返事である。

 彼の仕事は休みが週に一度しかなく、しかも、不定期に与えられるので前もって予定を立てることも難しく、なかなか彼女と会う時間も作れなかった。昨日はたまたまの休みだったので、噴水のある公園へ行き、大きな木の下にあるベンチに座った。

 少し間を開けて座り周りを見渡すと遠くに座っている人たちをちらりと見た。特別に話すこともなくただ一緒にいるだけでいいと思える、鳥の囁きを背景に雲が流れていくのをぼーっと流れていくのを見ながら時折他愛のない話をしながらのんびりしていた。

 管鮑の交わりとは彼ら二人のことを言うのだろう。二人は異なる村からこの国一番の大学へと勉強のためやってきて、そこで知り合ったのである。初めはただ単に気の合う友達としていつも一緒にいただけだったが、今この時と同じように暖かく陽気な日に、この木の下で話をしているときから変わった。

心の底から信じ合い、いろいろな話もしていたので、それぞれの仕事の事以外では知らないことが無いくらいである。

 あの日はまだ、二人はたがいに感じていた感情が愛とは思っていなかったが、ふと口から出た言葉ですべてを悟った。この日もまた、見るともなく見つめていたのだが、彼女の方はどこか遠くを眺めているようで彼の視線には気がついてはおらず、次の話題を探しているようである。

 彼の恋人は図書館で蔵書管理や貸し出し、返却の受け取りをする仕事をしている。彼女の仕事ぶりは仲間内では有名で、必要なものを前もって必要とされているところへ置いておいたり、与えられた仕事はどんなことでも嫌な顔一つせずてきぱきとこなしたり、時間のかかる単純作業を任されても、もくもくとこなす。後輩からは尊敬を集め、先輩たちからも可愛がられ、さらにある方面の話題に詳しいことによって皆から羨ましがられていた。

 連山の眉、少しふっくらとした頬、大きな眼に少し高い鼻が全体的にバランスがとれていて、長い黒髪は後ろで一つにまとめただけであるが、その美しさは誰もが認めるところである。

 眼には優しさが潜み、どんな時でも笑みが絶えないそんな女性にバトラーは見とれていた。

初めて出会ったときから二人の距離は少しずつ近づいてきてはいたが、初めて二人の想いを確認した時の心が躍りあがるような感情は今でも思い出すことができる。そして、いつしか、バトラーの意志とは関係なく勝手に口が動いていた。

「・・・・れ」

「えっ、なんていったのかな、もう一度言ってくれない?」

「ああ、お、俺と結婚してくれないか・・・」

「・・・」

 バトラーの方も眉目秀麗で、本人はあまり意識していないが、周りの女性たちが陰でひそかにあこがれ、噂されるほどの美男子である。しかも、今この国で一番の出世をしたといわれており、注目を集めている。そんな彼に告白されて断る人もそうはいないだろう。

 だから、彼女もすぐに返事をしそうになり、バトラーの顔を見つめるた。ところが、

「あっ、いや、なんてことを突然。すまない。でも僕は君の気持ちを大切にしたい。君にその気があるのなら明日の朝返事をくれれば」

 予定していなかった告白に誰よりも驚いたのがバトラー自身であった。

「そ、そうね、よくかんがえてみるわ」
 
 他に心から信じられる男性はいないのだから、答えようと思えばすぐに応えることもできたが、そうしなかったのはバトラー自身に心構えができていないように感じたからだった。

「・・・」
 
「・・・」

 しばらくの間沈黙が続いた。それはお互いの存在をそばに感じるための時間である。元の体勢から二人は見つめ合ったままでいた。傍から見ればさっき空を見つめていた時の二人と同じに見えるくらい変わらないようではあるが、二人にとっては何よりも大切な時間である。その沈黙の時間にも終わりは来る。今日は用事があるからとその場で別れることをバトラーが提案すると、彼女の方でも応じた。

「明日の朝、あなたの家へ行くわ」

といわれ、こくりとうなずいた動作を返事の代わりとすると、二人は公園の入口へと歩いて行った。

後書き

汎球の小さな息吹シリーズ とりあえず小説らしくしようと思って違う角度から書いてみました。 彼らはそのうち出会う予定なので全く関係なくはありません。

この小説について

タイトル 麗しき刻 首都エリベン
初版 2009年7月27日
改訂 2009年7月27日
小説ID 3362
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ぬし
作家名 ★斉 圭玉
作家ID 541
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活動度 2364
趣味は農業です。

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