虹色の劇場

valon
風の臭いが埃っぽい。もうすぐ雨が降るかも知れない。
雨が降る前の、この体に滑り込むようにまとわりつく湿気が、僕には少し心地が良く感じられる。
僕はお気に入りのアーティストの音楽を聴きながら、いつもの通学路を歩いていた。この街に良く似合うからだ。
この街は少し変わっている。文明が開化した時代の名残が残っているような街並みなのだ。
人々の独特の服装。髪型。風貌。店の看板に描かれた独特の絵、文字。建築物。乗り物なんか都会に比べると、明らかに時代に乗り遅れている。
ここはある意味、国には貴重な街なのだろう。昔の名残を残すことで、外国からの関心や観光客も増えるし、人々にも活気があふれている。
傘をさす人が増えてきた。まるい雨が降り出し、空も空気も暗くなってきた。
雨に濡れたこの街はなんだかしっとりとして、風景が全部灰色に見える。
そんな中、虹色に色づいている建物が一つ。見たことのない建物だ。僕はそこで足を止めた。

「THE・シネマ館・・・?」

僕は驚いた。他の建物の上空は暗い雲が渦巻いているのに、空の割れ目からこぼれる光がスポットライトのように、この建物・・・シネマ館を照らしていた。
「なんなんだ・・・ここだけ雨が降っていない・・・」
しかも、こんなに派手な装飾の建物なのにも関わらず、人々は全くシネマ館の存在に気づいていない。

『ようこそ!THE・シネマ館へ!』

声が聞こえた。その声の主はタキシードとマントで身を包み、シルクハットかぶり、しかも顔を仮面で覆っている。オペラ座の怪人「ファントム」にでもなっているつもりだろうか。
「・・・」
『ようこそ!!!THE・シネマ館へ!!!』
「・・・」
『ようこそっ!!』
「いやあの・・・僕これから学校があるので、映画はちょっと・・・」
そんな僕のささやかな抵抗を全く聞かず、ファントムは僕の肩に手をのせて言った。
『いやー良く来てくれた!ささ、劇場へ入りたまえ!』
誰かに助けを求めよう!と、後ろを振り返ってみると人っ子一人いなかった。あれだけ活気のあった風景はどこへ行ってしまったのだろうか。
『館内では携帯の電源を切りたまえ。他の客のご迷惑になるからね。それから煙草、大声は・・・』
「ちょっと待てよ!何急に注意事項話し始めてんだよ!僕はこんなとこ入らないぞ!誰か、誰かいませんか!?」

『人の話は最後まで聞け小僧!!!煙草、大声は禁止だ!!!』

僕は声も出ないくらい、ファントムの剣幕に押されてしまった。すると、ファントムは落ち着いた物腰で言った。
『よろしい・・・では劇場へ。君は学生だから、学割が効くのだよ!』
「はい・・・お金、取るんですね・・・」

僕は無理矢理「THE・シネマ館」に引きずり込まれていった。館内はごく普通の映画館だった。
受付や売店、最後に劇場へ案内されたが人はいなかった。人と言うよりもあれは・・・

「あれみんな幽霊じゃないか!!」
ふわふわと漂っているし、透けている。僕は涙目でファントムに訴えた。
『ん?なるほど、そういう発想は持ち合わせてはいなかった・・・おっともうすぐで始まるぞ、ベルが鳴るから席にかけたまえ』

ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ

なんで、なんでこんな事になったんだ・・・今頃普通に授業を受けていたはずなのに。しかもなんで館内の人間はみんな幽霊!?

幕が開いた。始まりは閲覧中の注意事項やら近日公開の予告編からだった。僕は妙な状況に追い込まれた不信感からか、ぶすっとした面持ちでスクリーンを観ていた。
そしていよいよ本編が始まった。終わったら真っ先に警察に訴えてやるつもりだ。

「なんだこれ・・・」

映っていたのは俳優ではなく、この「僕」だった!いや、僕だけじゃない。僕の身のまわりの人や風景がありありと映っていた。

僕が産まれ、初めて声を上げた。僕の初めての誕生日。失敗した事。おねしょをした事。公園で遊んだ事。ブランコから落ちて血を流し、病院へ行った事。恋に敗れた事。喧嘩。友達。

---家族---

今までの僕の人生が全て映っていた。そしてとうとう今この客席に座っている僕がいた。これからは未来だ。どうなるのだろう。
良い仕事に就いて、良い奥さんをもらって、幸せな家庭が出来て、時には失敗もあるだろうけどきっと良い人生を・・・。

プツン

急に映像が真っ暗になった。故障だろうかと思った刹那、辺りが明るくなり、みんな帰り支度を始めた。
「楽しかったわぁ」「まさか将来の夢が漫才師だとはなぁ」「受験勉強のあたり、昔の自分を思い出したよ」などと、僕の思い出を口にしながら、観客はぞろぞろと帰って行った。

僕一人になった劇場でツカツカと、ファントムがやって来た。

『どうだったかね!?最高の映画だったろう!』
「・・・なんで僕の思い出が全部映ってるんですか?」
ファントムは声を沈めて言った。

『人生は映画のようだ。「起」「承」「転」「結」は必ずあるものだ。そうだろう?君は今「結」にいる。どうして館内のスタッフや、観客が全員幽霊だったのだろうね?』

僕は急に心臓を拳銃で撃ち抜かれたかのような気持ちになった。

「・・・死んでいる?僕が?」
『そう・・・君はこのシネマ館に知らず知らずの内に導かれていたのだよ・・・ここは、君のように交通事故や病などで亡くなった人の「魂」が訪れるところなのだよ・・・』
「・・・だから未来は映らなかった・・・僕、死んだのか・・・はは、なんか実感沸かないなぁ」
『君はまだ冷静だ・・・ここでは現状を受け入れることが出来ずに、泣き叫ぶ人もいるというのに・・・』
「泣きたいよ!叫びたい!もう一度・・・友達とか、母さんに会いたいよ!」
僕は感情を抑えきる事が出来ずにいた。ファントムは、僕の肩に手を置いて言った。

『会ったじゃないか・・・ちゃんとスクリーンの中で・・・』

そして仮面を外すと、静かにすうっと消えていった。


僕が「THE・シネマ館」を出た頃、外は大きな青空が広がり、少しだけ茜色に染まっていた。いつもの空には、大きなスクリーンが広がっていた・・・。

「あ、なんで金とったんだよ・・・あの奇人・・・母さんみたいな顔して・・・ははっ」

風の臭いが埃っぽい。この街は少し変わっている。

雨は、あがった。

この小説について

タイトル 虹色の劇場
初版 2009年7月28日
改訂 2009年7月28日
小説ID 3365
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コメント (2)

★せんべい コメントのみ 2009年7月28日 23時25分56秒
どうも詩猫さん、せんべいです―。

感想として、なんだかつじつまをなんとか合わせたような感じを受けました。

最初はなんだかよくわからない部分が続いていたのですが、終盤でやっと謎が解けるという構成だった気がしますが、そういう構成だと、前半でかっちり読者の心をつかんで置かないと、最後まで読んでもらえないような気がするのです。
僕は一応最後まで読んだのでコメントしているのですが、もしもっと長い作品だったら挫折してるかもです。

それに、世界観と主人公の行動にリアリティがない気がしました。

世界観について思ったのは、周りがいつもの日常の風景だということだったら、死んでるという雰囲気は明らかに出ないでしょう。
ただ、前半は主人公は死んでることに気づいていないのは、周りが普段と変わらないからということで説明がつきます。
しかし後半、死んでることを知っているのに現実と同じように茜空が広がっている。というのは不自然な描写に思えました。

主人公の描写については、死んでることを告白されたのに、反応が薄いのでは(笑)と思いました。
死んでることをもし自分が告白されたら、どういう反応を取るのか考えてみるとやりやすいと思います。それであのようなリアクションなら僕が悪かったです。


なんだかんだ言いましたが、死んでることを告白され、走馬灯の代わりに映画を見るというのはなかなか面白かったです。新鮮で、素直にすごいと思いました。


未熟者がこんな偉そうにコメントしてすみません。
では、また今度の機会に。
Valon コメントのみ 2009年7月29日 1時16分42秒
コメントどうもありがとうございます。
今回の作品も、僕は満足しておりません。
時間的余裕や、想像力。なにより能力が足りない事をかなり思い知りました。

もう少し読み手の気持ちを汲んだ作風なら良かったと思います。
死んでることを知っているのに現実と同じように茜空が広がっている。これは、僕がもし死んでも、ちゃんとスクリーンのような大空は広がり、しかも色づいて見えればいいかな・・・なんて、つい最近死にかけた僕自身の我侭で書かせていただいた作品です。読み手からすれば、きっとせんべいさんのように不自然な描写に思われると思います。

しかし、貴重なコメントをいただけたことを嬉しく思います。またきっとお会いしましょうね。
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