5-1 - 軌跡 ■第一章 第五節:王都(1)

ガラの王宮は白亜の宮殿であった。晴れ渡った青空ならば、白い建物は良く映えるだろう。庭園で光る噴水の水が、眩しく目に映る。
ガイルに連れられて、王宮内へ通されたものの、
そこから先の案内は一向になく、彼是一時間近く待っている。
誰もが無言で、ただ時間が過ぎるのを耐えていた。
そしてようやく案内があったのは、更に30分待った後の事であった。

やっと案内された王の間は、とにかく広く、ガイルとブラハ王の2人だけ。
よほど、王がガイルを信頼しているとも取れる行為だ。逆に、他を信用していない、とも取れる。
「…ガイルから簡単に話は聞いておる。まずは…エメラダ王女、長旅ご苦労であったな」
「いえ…それよりも、私達の急な願いを快く聞き入れて下さり、心より感謝しております」
エメラダは丁重に頭を下げている。
その様子をガイルは全員の後ろから眺めていた。
「…問題はそれだな。現在国交のないアッカドの王女が今ここにおられるという事だ。
つまりは亡命、と」
「……もちろん、承知しております」
「また、先日アッカドがユングフィへと侵攻した事も聞いておる。
遅かれ早かれとは思っておったがな。また、ライ王子はそなたを侵国の一因としておるそうだが…」
「……」
「我々がそなたを保護したことにより、
逆にアッカドに我が国への侵攻の口実を作ったのではと危ぶむ重臣達もおる位だ。
そなたはアッカドでは、既に亡くなったものとなっておるはずだ」
「王、お言葉ではございますが…それでは王女を見殺しにするのと同じことではございませんか!」
「…アンリか…そなたも一緒であったか」
王は懐かしそうにアンリの姿を見つめる。
「昔と変わらないな。その風貌もしかり、物の言い方も…。そして、あやつにそっくりだ」
くつくつと笑い、王は視線をクロスへと向けた。
突然視線が合い、クロスの背中に緊張が走る。
「…そなたがレイドの息子か」
「…クロスと、言います」
「いい瞳をしているな…」
王は風貌こそ年老いて見えるが、その眼光はとにかく鋭かった。
その瞳に縛られたかのように、まるで体が動くのを拒否しているかのようであった。
「レイドが亡くなったと聞いた。惜しい男を亡くしたな」
「……」
「まさか、あいつが最期に私を頼るとは思ってもいなかった。よほどの事と見えるな」
「…親父は、亡くなる直前に、王に頼み戦いのない暮しを、と言っていた」
「なるほどな…お前達がそれを望むのならば、ここでの暮しを許し全員に土地と住処を与えよう」
いとも簡単に王はそう言い放った。クロスは王のその態度に少し驚きながらも、首を振った。
「折角ですが…お断りします。
王の気持ちは有り難いですが、オレはどうしてもこのまま安穏と生きる気にはなれないんだ。
いつか、必ず、親父の仇を討ちたいんだ」
「クロス…でもそれは…」
「アンリ、それは分かってる。今のオレに何の力もない事は分かってる。
親父ですら敵わない相手に、オレが勝つワケがない。
だから、今は自分の力を上げる事に専念したい。いつか…いつか来る時のために」
散々悩んだ末の答えだった。
クロスはどうしても、自分の置かれている現実から逃げるという事だけは嫌だった。
父親ならどうしただろうかと、いろいろ考えた。
だが、今ここにあるのは自分の意志だけで、結論を出すのも自分しかいない。
それが見えてきた答えであった。
「なるほどな…」
王は口元を持ち上げ、満足そうに微笑んだ。
「王女、そなたには聞きたい事がある」
「…はい」
「そなたは何の覚悟がおありでここへ来られたのだ」
「……私は…これ以上の犠牲を出したくはないのです。
戦争をする事で、民衆や街や、国が傷つくのは嫌で…私はユングフィへ行くつもりでおりました。
ですが、今の私には、それすら出来ぬ立場です。
もう…もう犠牲になるのは、私一人で十分です。私が兄を止めます」
「…そなたは国を、家族を裏切れるのか」
エメラダの瞳が揺れる。
覚悟は決めたつもりでも、いざ現実を突き詰められるとやはり決心が揺らぐ。
自分は何と弱い人間なのだろう。国を捨て、兄へ刃を向ける事になる。
だが、自国の民にも、隣国の民にも、戦争の火をこれ以上広げてはならない。
「覚悟の上です…私は…私はアッカドの王女です。戦争は私が止めます」
「……」
ブラハの王はエメラダの瞳を見つめた。
まだ弱い王女だが、芯は座っている。
「…クロス、と言ったな」
王の視線はまたもやクロスに向けられる。
「…あぁ」
「そなたの傭兵団の力を貸してもらえぬか。何分、兵力を出すことは出来ん」
まさかの王からの申し出に驚いてしまう。だが、すぐに事情が飲み込めた。
「それは……つまり、ブラハはエメラダ王女の力にはなれないと」
「…残念ながら、そうだ。
私個人の感情で言うならば、すぐにでも助けてやりたいとは思う。後見出来れば、と思う。
だが先ほど伝えたように、今回王女を保護した事で逆に戦争の口実を与えたとの意見もあるのだ。
それで、だな…宗主国ライドネルドへ向かい、正式に申し立てをし後ろ盾を得るのが良いと」
ライドネルドは大陸に散らばる王国をまとめる宗主国であり、大陸一の大きさを誇る国家である。
申し立てとなると、皇帝への接見という事になるだろう。
クロスは事が大きく広がっていく事に、すぐに受け入れる事が難しかった。
「ライドネルドには航海で向かうといい。
そうすれば途中のユングフィを通らずにすむ。
ライドネルドまでの船とそれに関わる人員、資金は私から協力させて頂こう」
「…航海だと、約1ヶ月…ね」
アンリがクロスの耳元でそっと情報を伝えた。
思ってもいなかった情況に、クロスは瞬時に整理をするのが戸惑った。
「…オレ達も、今傭兵団として動ける程の戦力や人員がいない。
雇ってもらえるなら、それは願ってもないところだが…」
アンリとカインも頷いている所を見ると、強ち判断は間違っていなかったのかもしれない。
クロスは傭兵団の方へと向き直った。
「では、これよりオレ達は王女護衛の任務を請ける。
エメラダ王女、これからしばらく、またよろしく頼む」
「クロス様…本当にありがとうございます。こちらこそよろしくお願いいたします」
エメラダに続き、シェリーも頭を下げた。
「では、ライドネルドまでの道中、傭兵団には引き続き王女の護衛を願いたい。
すぐに船の準備はさせるが、2日程待ってくれ。それまでは城内の部屋をそれぞれ使ってくれ」
「…王、本当にどうもありがとうございます」
エメラダは再度、深く頭を下げた。
進むべき道が決まり、内心ほっとしているに違いない。
エメラダは表情にこそ出さないが、実際不安で一杯だろう。
その横顔を見つめ、精一杯自分達で守って行こうと、堅く心に決めた。

この小説について

タイトル 軌跡 ■第一章 第五節:王都(1)
初版 2009年7月29日
改訂 2009年7月29日
小説ID 3372
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作家名 ★Faye
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