汎球の小さな息吹 - 決意の朝に

公園の入口には小さな門がある。

まだそれほど大きくはない2本の桜の木の幹を、半円状の組み木でつなぎ、そこに蔓が巻きつきぐるりと囲むようになっていて、木柵で囲まれた公園の唯一の入口となっている。入口こそ狭い物の中はとても広く、ゆったりとした空間がある。

二人は外に出るとそれぞれ向かう先が違うのでその場で別れた。

彼女は自分の家へと戻ると田舎から連れ出してきて、今は一緒の家に住んでいる両親にプロポーズされたことを話した。

彼女の父は小さな雑貨屋をしており、顔なじみの客と話をすることが仕事のような生活を送っていた。母親も娘が経済面では支えてくれているので、父と一緒になって話の輪に加わるというゆったりした生活をしていた。

普通の家庭では大学へと行かせることはとても大変なことであったが、娘は自らの才覚で道を切り開いて奨学金を得て大学も卒業し、仕事にも就いた。そして今ではこの国の王様唯一の侍従であるバトラー・グレンと付き合い、ついに結婚するまでに至ったのである。

まさに幸福の絶頂期へと入っていた。その日はささやかなパーティーをして娘の門出を祝った。しかし、事務的な処理を済ませるまでは誰にも言わないことを親に約束させた。 

次の日は太陽が出る少し前には家を出て、暗くて危ないので普段なら慎重に歩く道を彼女は真っ直ぐに彼の家へ向かった。

彼は何といっても王様の侍従なのだから普通なら城の中に住んでいなければならないのだが、長年王に仕えて来ていたもう一人の侍従が老衰で亡くなってからまだそれほど時間もたっておらず、それまでと同じように彼は小さな部屋を城下町に借りて住んでいた。

 彼の家からは、空に届かんばかりに伸びるガイスト国の首都エリベンの象徴である巨大な城がみえ、呼び出しがあればすぐに駆けつけることができるようにと手配されていた。

彼の住処は部屋といってもベッドが一つあるくらいで他に家具は服を入れておくためのタンスくらいしかなく、食事は外で済ませるか、城の中でもらって帰る生活をしているので、この部屋は寝るためだけにある。その部屋で彼女がやってくるのを今か今かと待っていた。

(昨日はとんでもないことを言ってしまったが、大丈夫かな。怒ってなければいいけど。もし、これで嫌われてしまったらどうしよう)

もちろん、バトラーには彼女の気持ちがすべてわかるわけではない。だから、いうつもりもなかったことを口にしてしまったことで、昨日の夜はぐっすりと眠ることができなかった。

ちなみに王とバトラーは同い年で、人のいないところでは友達のような関係であったが、人のいるところではしっかりと王とその侍従としての立場でふるまっていた。

バトラーの年は35歳で若いとは言えないが、おじいさんというにはまだ早すぎる年齢である。彼女の歳も同じく35歳なのだが、彼女の存在はまだ王には伝えていなかった。

35歳で結婚というのは、どんな世界でもだいぶ遅いが二人にとってはこれからが始まりである。まだまだ子供も産めるし、仕事自体もこれからが正念場である。

(フフ、セルリアック王もきっと驚くことになるだろうな。もしも、突然結婚するなんて言ったら怒るかもな。)
 
不安もあるが、すでにバトラーの気持ちは決まっている。そんな事を考えていると開けていた窓の外から足音が聞こえた。

 窓の外に彼女の存在を確認すると、簡単に身だしなみを整えて外へ出た。彼女の到着を待っていたが、すぐに来ると思っていたのに人気がなく静かな朝の町では音がよく響いてくるのでそう感じていただけらしい。

 やがて、小さかった彼女の影は近くへ近づいてきて、いつのまにか目の前に少し息を弾ませていた。

「やあ、おはよう。君が来るのを待っていたんだ」

 彼女は真っ直ぐ彼の眼を見つめた。早歩きしてきて少しぼやけていた視界も戻り、ようやく彼の全身を捉えた時には改めて確信した。

 そして、彼女の方からゆっくりと近づくと10僂曚匹眷悗旅發と爐亮鵑貿愎びをしてしがみつくと時が止まるくらい長いキスをした。


   現実的な処理

 その日は一日をどうやって過ごしたのか覚えていないくらいである。普段はしないような小さなミスを何度も繰り返してしまったために、王に怒られもしたがそんな事は一向に気になりはしなかった。ただ夜になって自分のうちに戻ってからは正気に戻ることができた。その日一日が夢の中にいたようで朝の返事代わりの長いキスでさえ、嘘か幻ではないかと思い不安になった。

 翌日の朝早く彼女はまたやってきた。そして、彼女からの相談で彼女の両親と4人で住まないかと提案をした。

「そうだな。もちろん、僕は構わないのだが、そろそろ城の中へ住居を移さないといけないんだ。王も早く来てくれと言ってるしね。だから、少し考えてみないといけないよ。もし、白の中に移るのだったら4人で暮らせるかどうかもわからないし、セルりアック王はきっと私一人が来ると思っているからね」

「あら、まだ私の事言っていなかったの」

「ああ、実は長い付き合いになるんだけど、どうも気恥かしくて君の事は今まで黙ってきたんだ」

「そう」

「あっ、でも、すぐに言うから心配しないでくれよ。きっと今日中には言うからさ。また、どうするかが決まったら連絡するよ」

知りあってから14年、付き合い始めてからは5年になる。お互いのことは何もかも知っているし、心の底から信じ合ってさえもいる。事務的な処理はその日のうちに彼女が役所に行って済ませることになったが、それから後のことはすぐには決められないので、また後日相談することになった。



いつもと同じように、同じ時間に城内へと向かった。

 城は確かにでかいのだが、実際にこの場所で戦争が行われたのは何百年も前で、今では城塞としての役割というよりは象徴としての意味合いが強くなってきている。

 今の王であるセルリアック・ノルレン・ガイスティアムは、貴族階級の出自ではあるが、前王の家系ではなく若い頃、軍に入隊し国防に関する数々の実績によって、30を前にして早くも軍務大臣へとなった。そして、前王が崩御の際に、自分の息子や他の大臣たちではなくセルリアックを時期王に指名したために王になることができたのである。

 王の長男がなるものだという意識がある人たちもいるが、このガイストや他国のペルーリといった国では優れているものが王になることが代々の慣習としてなっており、王の子息たちは貴族階級に取り上げられることもあるが、基本的には下野することとなっており、2代続いて王になることはまれである。

 だから若くしてセルリアックは王となることができた。初めのころは多くの反発もあったが今ではそれらの声も少なくなってきている。過去にも若い王は存在していたと記録されているし、彼自身豪放磊落で集団に於ける規律を重んじ、質素な生活を好むため、少数の嫉妬をのぞけば皆が彼のことを認めている。

 それにはバトラーと数日前に亡くなったジェイバー翁の力によるところも大きいが、それでも王の資質あってこそのもので、今では125代続く王にだけ許されたガイスティアム(王を継ぐ者の意)の名を受け継いでいる。

この小説について

タイトル 決意の朝に
初版 2009年7月31日
改訂 2009年7月31日
小説ID 3380
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ぬし
作家名 ★斉 圭玉
作家ID 541
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趣味は農業です。

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