桜海学園中等部 - 第5話

「よし、じゃあ6時間目の学活は『フレンドリー合宿』の班決めをするよー。」
先生は、間延びした口調で言った。それを聞いた生徒達もざわめき始める。
「まぁそんな大したことする訳じゃないし、気にしなくていいよ。とりあえずプリント配るから見てね。」
そう言い終えると、先生はプリントを手際よく配り始めた。全ての生徒にプリントが行き渡ったのを確認し終えると、また話し出した。
「えー、行く日はちょうど一週間後だね、4月17日です。宿泊施設の名前は『海野市営山の家』ってところです。小学校の時に泊ったことあるんじゃないかな? 目的としては、簡単に説明すれば『友達づくり』ですね。まだ皆さんクラスの仲間の性格はもちろん、他のクラスの人の顔とかも全然分からなかったりすると思うので、これを機会に友達を100人作っちゃってくださーい!」
それを聞いて、何より張り切ったのが黒川芳春だった。彼は昨日のオリエンテーションや日々の生活で積極的に『友達になろうよアピール』を繰り出すのだが、ほとんど無視されていると言うかわいそうな生徒なのである。そのため、胸の前で小さくガッツポーズを決めていたりと、無駄に燃えている。
「………なにニヤついてんの、お前。」
それを聞いて、黒川ははっと我に帰った。
黒川に話しかけたのは、ちょうど隣の席の鳳慈だった。昨日一緒になんとかしてあの問題児・千鶴とスーパーお嬢様・怜里の喧嘩を止めた間柄だった。つまり、それは黒川にとっては『ともだち』を意味していた。
「え!? ああ、気にしないでくれ。ただ、フレンドリー合宿が楽しみでちょっと笑ってしまっただけなんだ。」
 やけに馴れ馴れしいな………。という深層心理を内に秘めながらも、とりあえず鳳慈は応対する。
「楽しみなだけでよだれが出るのか。変わってるな。」
「え!?」
そう言われて自分の机を見ていると、透明な液体が机のあちこちに円形として形作られていた。
「うげ!?」
黒川は思わず自分の机から立ち上がる。周囲の視線が、一斉に黒川へと向けられる。
教壇の上では先生がやたらと不気味な笑顔を浮かべている。
「黒川く〜ん? そぉんなに先生のお話はつまんないかなぁ〜?」
ブルブルと顔を超光速で横に振る。一生懸命否定の意を表すが、先生の表情は依然として全く変わっていない。
「………Die out!!」
先生はそう言うと、黒板の溝からチョークを素早く手に取り黒川へと世界新記録の剛速球として投げた。チョークはそのまま吸い込まれるように、昨日怜里から受けた竹刀の一撃の傷へ向かって行った。
 鈍い音と共に、チョークが粉々に砕け散った。
 頬杖をついていた鳳慈の頭の上を始め、周囲に甚大な影響が及んだ。
しかし、最も影響が大きかったのはもちろんこの人、黒川くん。
先生の一撃をジャストミートでもらうとそのまま後ろの加地の席に倒れこんだ。
「ふ、脆い奴め………。っとと、先生を怒らせるとああゆう目にあっちゃうから気をつけるんだぞ♪」
 ふっ、と自分の手を息で吹いて先生は再び説明を続け始めた。
生徒たちの顔が一気に青ざめる。
「いててて……。あ、ごめん!加地君!!」
 なんとか起き上がった黒川は、とっさに倒れこんでしまった机の主である、加地に謝る。
「……お前、ウザい。」
 それを聞いてがーんという効果音がベストマッチする表情をすると、再び自分の席に座りなおし、うつむいてしまった。
(面倒くさい奴だなぁ………)
鳳慈はそう思ったが、これを言うと黒川が自殺してしまいそうな気がしたので寸での所で踏みとどまった。
「じゃあ大体わかったな? じゃあこれから班を決めまーす!! えーっと、ちなみに1つの班に5人で、それを6班作りたいと思っています!」
うぉぉ! と教室が盛り上がる。中学生になったとはいえ、やはりどこか小学校のあどけなさが残っている。
「さて、問題の班の決め方ですが……………………くじ引きでーす!!」
いえーい! というなんだかどこかの忘年会的ノリになってきた。先生も苦笑いしている。
それを聞いて怜里は焦った。
(まずいですの………。もしあのバカと同じ班などになったりしたら、めんどくさいことになっちゃうじゃないの!!)
 バカというのはおそらく千鶴のことだろうが、当の本人は気持ちよさそうに机に顔を伏せて居眠りしていた。
「じゃあ名簿順に前の缶に入ってる割り箸を引きに来てー。割り箸の下に班の番号が打ってあるから、黒板のその数字の下に名前書いて行ってね。じゃあ、憩野ー。」
 柚笠はゆっくりと立ち上がって教壇に向った。そして目をつぶって割り箸のくじに右手をかけ、全神経を指先に集中させる………。
「……来たっ!!」
 その瞬間目を見開いてくじを引き抜く。クラスメートの視線は高く掲げられた柚笠の右手に向けられる。柚笠は右手を目線の高さに下ろし、番号を読む。
「6班です。」
 そう言い終えると、黒板の3班という文字の下に憩野と書いて自分の席へ静かに戻って行った。
(奴はなんだったんだ………。)
そう言う空気が教室内を支配する。しかし先生はそんなことを気にせず次の生徒を呼んだ。
「次、犬飼ー。………えー、1班だな」
和やかな雰囲気で、班決めは進んでいった。そして、怜里の番が回って来た。
「鳳凰院ー。」
 他の生徒を呼ぶのと変わらない様子で先生は怜里の名前を呼んだ。
「はいっ!」
 一際元気な返事で怜里は応えた。歩く姿も、どこか気品に溢れている。
(1班と3班と4班がすでに5人揃っていて決まっているのですか……。とりあえず、バカと同じ班にならないことを自分のくじ運に賭けるんですの!)
 そう意気込んでからくじを素早く引き抜いた。書いてあったのは6班。鳳凰院と黒板に平仮名で書いて戻って行った。
 6班以外のクラスメートたちはホッと胸をなでおろしたが、当の6班のメンバーは顔面蒼白だった。柚笠もその一員だった。
(めんどくさいな…………。あのお嬢様が一緒の班となれば、いろいろ気を使うので精一杯じゃないかよ。)
柚笠は頭を抱えた。しかし、柚笠はあることに気がついた。
(ちょっと待て、千鶴はまだくじ引いてないじゃんか!?)
そう、千鶴の苗字は柚木。従って怜里よりも後にくじを引くことになる。6班の定員はあと1人。ここに千鶴が入って来るとなると―――。
 柚笠と千鶴は幼馴染という間柄だった。保育園、小学校と、ずっと同じクラスだったので、必然と仲が良かった。しかし男と女という関係ではなかった、残念。
 そして、運命の時がやって来た。
(あぁ………千鶴の番じゃんー!!)
 柚笠は頭をぐしゃぐしゃにっする。そしてちらりと千鶴の方を向く。すると、千鶴が居眠りしているのを発見した。
「柚木―。……あれ?」
 呼んでも教壇に来ないので、先生も千鶴の方を向く。それを見て先生は大きくため息をつく。
「お前はいつもぐうたらだなぁ………。ほら、誰か起こしてやってくれ。」
 先生はそう言って周囲に促すも、誰も動こうとせず、辺りを見回している。
「…………なんで誰も動かないの?」
「私が怖いからじゃないですか」
即答だった。
声の主は千鶴。今まで顔を伏せて居眠りしていたかと思えば、急に立ち上がって言いだした。
「居眠りなんかしてないよ。ただ、顔を伏せて適当に話を流してただけ。みんな私が怖い。そうでしょ? 入学式後の学活で適当な返事をしたかと思えば次の日のオリエンテーションでそこのお嬢様と竹刀でケンカ騒ぎ。普段の授業でもぐうたらな態度で臨むし、良い所なんてない。女じゃなくて男なんじゃないの? とか勝手に思ってるんでしょ? この班決めでも、私と一緒の班にはなるなって願いながらくじ引いてたんでしょ?」
 怜里は体を少し震わせた。千鶴は続ける。
「そんな風に思われる行動をした私がもちろん悪いのは分かってるけど、私だって中学生になったんだから友達だって欲しいしみんなといろんな思い出作りたい。でもみんな私を怖がって避けて行っちゃう。そうなっちゃったら私の性格上ひねくれた態度しか取れないんだよ……。それは自分でも治さなくちゃいけないって言うのは分かってるんだけどね。だから私はくじ引かない。そのお泊りにも参加しない。だって仲間外れにされるのが怖いから………。」
 千鶴はそう言い終えると静かに机に座って頬杖をついた。その目にはうっすらと涙がたまっている。
 教室を沈黙が支配する。しかし先生だけは不自然に笑顔であった。
(ここで誰か柚木に助け舟を出してやれればいいクラスになれるんだけどな……。)
 そういうにわかな期待が先生の中にあった。しかし心のどこかで十中八九無理だろうという気持ちもあった。

 しかし、その時は意外とすぐに来た。

「引けよ、千鶴。」
沈黙を破ったのは柚笠だった。そういうとおもむろに立ち上がった。
「えっと、俺は一応千鶴の幼馴染なんだけど、こいつはホントにこんな性格じゃないんだよ。ずっと一緒だった俺にだけ見せてくれる千鶴の心は、本当に優しくて、上品なんだ。今じゃ想像つかないだろうけど、こいつは小学3年生の時にいじめにあったんだ。俺は千鶴から何度も相談を受けてて、いつも苦しんでる様子を見てきた。そのいじめのせいで、こいつは人を信じれなくなったんだよ。みんな敵だって、そうしか考えられなくなってしまった。だからムカつくような態度をとるのは、千鶴なりの自己防衛機能なんだと俺は思う。自分を強く見せることで誰からもいじめられないように勝手に脳が命令を下してるんじゃないかって。…………だから、千鶴を怖いとか、そういう目で見るのはやめてやってください。………お願いします。」
 言い終わると同時に、柚笠は頭を下げた。面を上げたときに、千鶴が視界に入った。顔を覆って泣いているようだった。
(ごめんな千鶴……。辛いこと思い出させちゃって。)
 柚笠は席に座った。すると代わりに怜里が立ちあがった。
「……そんなの逃げてるだけですの。いつも騒ぎ起こして、こう言うときだけ同情誘おうなんて魂胆はみえみえなんですのよ! そんなことしたって、誰もあなたを見る目なんて変わらないんですの。」
 怜里はそう言いきった。千鶴の方を力強く指さしている。しかし、クラスメートの怜里を見る目は明らかに冷たかった。
「な、なんですの………? 私が何か間違ったことを言ったとでも…………?」
たどたどしい様子で辺りを見回す。すると鳳慈が座ったままで口を開いた。
「気付かないのかよ。そりゃそうかもな。お前みたいなお嬢様に、たかが一般市民の気持ちなんかに同意できるはずがないもんな。お前はたぶん被害者って言う立場になった事がないだろう。………だからお前はいつまでもこのクラスでも浮くんだよ。」
「………どういうことですの?」
「………それがわからないようじゃ、お前は一生そのままだよ。」
一呼吸置いて、鳳慈は続ける。
「多分お前以外の全員は柚木に対して多少なりとは申し訳なかったって気持ちは持ってると思うぜ? 俺だってそうだ、ただのやんちゃかと思ってたけど、ちゃんとした理由も知らずにそういう偏見を持ってた自分が少し情けなく思えたよ。それを教えてくれた憩野に感謝しなくちゃ。」
「偏見じゃありませんわよ。このバカの性格のどこに同情の余地があるんですの? どうかしてますわ!」


「それが、『偏見』ってやつなんだよ。」


 鳳慈は冷酷な目で怜里を視線で射抜く。
ビクッと怜里の体が小さく震えた。どこか猛獣におびえる小動物のような雰囲気だった。
そして鳳慈はうつむいている千鶴に笑顔で声をかけた。
「ほら柚木、くじ引きに行けよ。みんなお前が引くの待ってるんだぜ。」
 クラスメートは全員そろって頷いた。気にするなーだとか、そういう優しい言葉もところどころから飛んでくる。その甲斐あって、千鶴の重かった顔がやっと上がり始めた。
 顔を上げた千鶴は、一生懸命に目を制服の袖でこすって泣いてないアピールをするのだったが、先ほどまであからさまに鼻をすする音が聞こえていたので全員その様子をほほえましそうに見ていた。準備が終わったようで、ようやく千鶴は口を開いた。
「お、お前ら………嬉しくなんかないんだからねぇ!!」
 そう言ってダッシュで教壇に向かい、くじを引いて6班の下に名前を書いて自分の席へとさっさと引き上げて行った。
 久しぶりにクラスが笑顔に包まれる。千鶴も、入学してから見せたことのないような満面の笑みを咲かせた。

 たった一人を除いては………。

(なんですの、あの生意気な口は! どいつもこいつも私を誰だと思っているのかしら!! しかも6班って私と一緒の班じゃありませんか!!)
 怜里はこの世の終わりを迎えたような表情を見せた。さっきからやたらと冷や汗を流している。


 そしてその後、全員がくじを引き終わり、班が正式に決定した。

 1班    2班    3班    4班    5班    6班

 犬飼    加地    石川    岡    江尾野    憩野
 梅原    田中   小早川    小泉    川前    黒川
 斉美    星丘    徳長    真田    木下    福添
 西野    若狭    野原    住友    宮崎   鳳凰院
  原    湧口    守本   中小路    宮本    柚木
 庇護院


「じゃあこれでフレンドリー合宿に行くからなー。同じ班の人の顔ぐらい今覚えとくといいよ。」
先生は黒板を軽く叩いて言った。
(あちゃ〜。結局あのお嬢様と千鶴は同じ班になっちゃったか………。これを機会に仲直りみたいになればいいんだけどな。)
 柚笠はそう願ったが、少し視界に入った怜里の気難しそうな表情を見て不可能に近い気がした。
「んじゃ今日の学活はこれで終わり! 起立、礼!!」
 先生の呼び掛けに対しても、元気の良い返事が返ってきた。先生は笑顔で教室から出て行く。

(このクラスは団結力のある集団になりそうだな………。楽しみだ。)
そんなにわかな期待を胸に秘め、先生は職員室へと向って行った。

後書き

謝らないといけないことが・・・
推敲とか出来とらん!!
今日からもうインターハイということで、急いで作りました。
自分のせいでリレー小説止めるわけにいかんので。
どっかのトピックで推敲は大事とか言っておきながら、本当に申し訳ないです。
時間の許す限り、見直してみましたがやはり無理があったかと・・・。




勝手に千鶴の過去作ってすみません。

しかし、これがリレー小説の醍醐味ということで。ww
あしからず。


※Die out!! = 絶滅しろ!!

この小説について

タイトル 第5話
初版 2009年8月5日
改訂 2009年8月5日
小説ID 3394
閲覧数 997
合計★ 12
せんべいの写真
作家名 ★せんべい
作家ID 397
投稿数 62
★の数 607
活動度 12726
卓球とみたらし団子とピアノが大好きな変態です

コメント (7)

★五月 2009年8月5日 11時52分22秒
フレンドリー合宿でビックリしました(笑
もう名前からしてフレンドリー。(そのままですけど^^;

合宿と来ましたかっ。
絶滅しろはビックリ。
なんかビックリしてばっかです^^;

翡翠さんもこの展開でどうるのでしょう!?(楽しみです。
亜黒魔 竜沙 2009年8月5日 13時02分16秒
合宿ですかぁ〜! うちの学校も、入学式終わってすぐに自然体験学習とかいうやつで泊まりにいきましたよ。柚笠がいい役でしたねぇ。 流石せんべいさんです!
★早房 翡翠 2009年8月5日 21時07分42秒
すみません…一言いいですか?
班のメンバーの中に…鳳慈がいません(悲)
31人なのに、一人足りない…という現象になってしまっています。
あと、文章の矛盾点。
柚笠が3班を引いたと宣言しているのにいつのまにか6班に移っているような。
直しておいて貰えますか?

小説の感想と言うと・・・
感動モノが含まれていて結構良かったです。
これから、千鶴が合宿で強くなるっていうのもいいかなァなんて。
ホントに面白かったです。
ただ一つ言わせてもらうと、
「〜ですの」ばかりの怜里の言葉。
不自然で読みにくかったです。
「〜ですの」でそろえるなら全部そうするし、
違うのならきちんと不自然のないようにするべきだと思います。

そう言えばありましたねェ。自然体験学習。ねっ竜沙!
クラスは違いましたけど、個々に楽しむことができました。
その経験を生かして、次頑張ります。
★早房 翡翠 コメントのみ 2009年8月5日 21時15分24秒
あと一つ文章ミスがありました。

「えー、行く日はちょうど一週間後だね、月17日です。‥‥‥」

ってとこなんですけど、「何月なんですか・・・?」と呼んだ時に首をかしげてしまいました。
おそらく4月だとは思うんですけど…(察してみると)
こちらもよろしくです。
では、未熟者が指摘ばかりすみませんでした。
失礼します。
★せんべい コメントのみ 2009年8月5日 21時22分54秒
お二人ともどーもありがとうございます。


はいはい、ちゃんと直しておきました。
鳳慈忘れてた。笑 急に転校生とか来るからだよ〜(ぉぃ

それにしてもなんだかとっつき難い言い方ですねー。
なんだか命令されているような、そんな雰囲気に受け取れました。
自分はそう思ってなくても、もうちょっとやわらかく言った方がいいんじゃないかなー、なんて。

言ってみただけー。
★みかん 2009年8月6日 12時26分16秒
読ませていただきました。

いきなり、フレンドリー合宿なるものが出てきて驚きましたが、
物語を考えるのならば、面白くなるのではないかと思いました。

次回がどういった形で継続されるのかが、気になるところですが、
早房さんに期待したいと思います。

せんべいさん、間違っていたのはせんべいさんのほうなのですから、
素直に初めは謝罪を述べてみてはいかがでしょう?

その後に、自分の思ったことを言うのは、私も大事だと思います。

これからリレー小説を書くメンバー同士、お互いにネチケットを守るのも、
大切なことだと思います。

失礼なことと思いますが、思い切って言ってみました。

次回は早房さんですね、楽しみに待たせていただきます。

では、失礼しました。

★早房 翡翠 コメントのみ 2009年8月6日 13時04分02秒
すいません!
上から目線(?)で。
言い方、これから気をつけたいと思います_(._.)_
名前 全角10文字以内
コメント 全角3000文字以内 書式タグは利用できません
[必須]

※このボタンを押すと確認画面へ進みます。