Dメール - No.9 to:血塗れの転校生(3)

 夜一と龍二、それに結城達が連れ立って一階のエレベーターの前に戻ってくると、そこからすぐ近くの入り口で騒ぎが起こっていた。警官達に抑えられながら一人の女性が現場に入ろうと、もがいていた。
「離して! あの子が犯人の筈が無いんだから!」
「君、落ち着きなさい!」
「落ち着けるわけが無いでしょ!?」
 その様子を見ていた龍二は驚いて警官と争っていた女性の下に駆け寄った。
「……幸乃(ゆきの)さん? どうして、ここに……」
「龍二君、良かった……! 龍一が殺されて、龍二君が犯人扱いされてるって聞いて、居ても立っても居られなくなって……」
 龍二の姿を見つけ、女性は安堵したようにため息をついた。
 結城さんが龍二に聞く。
「……お知り合いですか?」
「……イチ兄の……兄の婚約者の、大友幸乃(おおとも ゆきの)さんです」
 大友さんは龍二に紹介されてから、松永や結城を睨みつけて言った。
「龍二君が犯人なんてあり得ません。どうして龍二君が自分の兄を殺さなくちゃいけないんですか!」
「で、ですが、現時点での証拠、及び証言は彼が犯人だということを示しているんです」
 結城が大友さんを説得するように言うが、大友さんは聞き入れようとせず、目を逸らした。夜一が携帯を開くと、渚からのメールが届いていた。
『犯行の方法はピアノ線のお陰で大体分かった。後は犯行の動機だ』
「!」
 夜一はメールの内容に釘付けになった。渚は、現場から見つかったピアノ線だけで、犯行方法が分かったと言っている。それに、後は犯行の動機と言うことならば、被害者や龍二と親しい大友さんに聞けば何か分かるかもしれなかった。
 夜一は結城に言った。
「あの、結城刑事。ちょっと彼女にも話を聞いてもいいですか?」
「え……?」
 夜一に聞かれた結城は、松永と目を合わせ、意見を求めようとする。
「……そのボウズの好きにさせりゃいい。どうせ、立花龍二の不利に変わりは無いからな」
 松永のぶっきらぼうな答えを聞いて、結城は大友さんを現場の中に入れた。夜一は大友さんを管理人室へと案内し、そこに居る市島さん、白浜さん、高砂さんの姿を彼女に見せて言った。
「大友さん。あの三人の中で面識のある方、居ませんか?」
「あの女性の方は知りませんけど……管理人さんは龍一に紹介されたから、知っているわ。龍二君と二人で住んでいる事を、色々咎められたって言っていたわ。それに、あの泣きぼくろの人……龍一と同じ職場だったはずよ」
「え……龍一さん、市島さんと同じ職場にお勤めなんですか? えっと、科警研でしたっけ」
 大友さんはピンク色の手帳から写真を取り出して夜一に見せた。
 その写真には龍一さんや市島さんなど、白衣を着た人々が笑顔で写っていた。
「科警研の同僚なのよ、二人は。思い出した……龍一が良く話していたの。科警研での仕事の事。確か……市島さんとは研究内容の相違でよく言い争っていたって……」
 大友さんはそう言いながら目に溜まってきた涙を拭った。龍二が科学的だとかそんな事ばかり言っていたのも龍一さんからの影響なのだ。夜一は居た堪れなくなって頭を下げた。
「すみません、変なこと聞いて」
「良いのよ。でも……証拠、龍二君が犯人だって示しているのよね……」
「今のところ、出てきている証言や証拠は全部……ん?」
 夜一は途中で話すのを止めた。大友さんとの会話を中断し、エレベーターの方へと向かった。



一階で止まっているエレベーターの中を覗き込んだ時、夜一は龍二に聞いた。
「なあ、龍二。確かに停電したのは三階で気絶させられた後だよな?」
「……科学的には不透明だけど」
「もしかしたらその停電……人為的なものかもしれない」
「!」
 夜一の言葉に、大友さんや龍二は驚く。夜一は管理人室へと行き、高砂さんに聞いた。
「高砂さん。エレベーターのブレーカーって、何処にありますか?」
「え、ブレーカーですか? ええっと、二階ですが」
「よし、二階へ行こう」
 夜一は高砂さんの返事を聞いて、松永や結城を伴って階段を使って二階へと上がった。ブレーカーを見つめながら、松永はぶっきらぼうに言う。
「……このブレーカーがどうかしたっていうのか、ボウズ」
「事件の前、雷が落ちたりした事はありません。けど、龍二は確実に停電を経験しています。という事は、停電は人為的ということになります」
「それが、どうかしたんですか?」
 結城が不思議そうに夜一に尋ねる。
 夜一はエレベーターのドアを指し示して言った。
「停電中にエレベーターが動く事はありません。高砂さんと白浜さんが一階でエレベーターが開くのを見た以上、停電したのも……エレベーターが復旧し扉が開いたのも一階という事になります」
「じゃあ、犯人は……」
 結城が唾を飲み込みながら夜一の方を見る。夜一はうなずいた。
「二階でブレーカーを操作した事になります。ここに、何か犯人の痕跡が残されているはずです」
 夜一はそう言って、二階を見渡し始めた。コンクリート作りの手すりを掴んで、外を見渡したその時。龍二が夜一の手元を見つめた。
 夜一も気になって手すりを見ると、そこには赤い靴跡の様な細い線が僅かに残っていた。
 下を覗き込むと、そこは植え込みになっており、飛び降りたとしても何とか無傷で居られる様になっていた。
「これは……!」
「血の臭い……科学的に間違いない」
「何だ、これは? 靴の……跡か?」
 夜一や龍二に続き、松永も手すりを見る。
「他にも何かあるかもしれません。探しましょう!」
 夜一はそう言って皆の目線を逸らし、こっそりと携帯のカメラで靴跡を撮影して渚にメールで送信した。
 龍二が床で何かを拾い上げて夜一に見せた。それは、龍二の服に付着していたものと同じピアノ線だった。携帯画面を見ると渚からのメールが届いていた。
『間違いない。犯人はそこから逃走した』
『何のためにだよ。仮にあれが犯人の足跡だったとしても、理由が説明できなきゃ……』
 夜一がそうメールを返すと、すぐに返事が届いた。
『お前にも分かっているのだろう、夜一。……決まっている。そうせざるを得なかったのだ』
『まさか、高砂さんや白浜さんが居たから……?』
『そこまで分かっているなら、自分の手で証明できるな』
 渚からのメールはその一言で終わっていた。どうやら、夜一自身で松永さん達に説明しろという事らしい。夜一は松永達に向かって言った。
「……皆さん。その足跡はおそらく犯人のものです」
「!」
 夜一の言葉に、龍二や大友さんは驚いて夜一の方を見る。松永は夜一に尋ねる。
「……犯人、分かったのか? ボウズ」
「え、いやぁ……犯人はまだ、ですけど……この足跡が龍二のものではないっていう事なら、証明できますよ」
「何?」
 睨みを利かせてくる松永の視線から目を逸らしながら、夜一は赤い足跡を指し示して言った。
「いいですか。犯人はエレベーターのブレーカーを二階で上げました。その後逃げようにも逃げられなかったんですよ。高砂さんと白浜さんの二人が、一階に居たからです」
 そう言って夜一は一階へと戻り、現場のエレベーター内へと入った。
 そこで、夜一はエレベーター内に座り込んだ。驚く松永達をよそに、夜一は話を続ける。
「龍一さんは発見された時はもう既に撃たれた後で、二階へ行く事も不可能。龍二にも、それは不可能です。……エレベーターから出た後、服も着替えずに学校へ向かった、という白浜さんの証言がありますからね」
「あ、そっか……目撃されたら困るから、二階から飛び降りて逃げた……科学的に、証明できるんだ」
 龍二が納得したようにうなずいた。結城も大友さんも、目を見開いている。
 しかし、松永は納得できないように声を荒げながら夜一に反論した。
「じゃあ、その犯人とやらは一体どこで殺人を犯したって言うんだ! 停電中はエレベーターは動くどころか開きもしなかった。殺人は共に閉じ込められていた立花龍二にしか不可能だ!」
「え、えーっと、それは……」



 夜一が言葉に詰まっていると、一人の警官が松永に報告に来た。松永は邪魔をされたとでも言うように舌打ちをしながら警官に聞いた。
「何だ!」
「はっ! たった今、ニ階のエレベーター内にある開閉ボタンの傍から、立花龍二の毛髪が発見されました!」
「何だと! 本当か!?」
 松永は勿論、夜一や龍二にも予想外の事で、二人とも開いた口が塞がらないようすで警官に詰め寄った。
「ほ、本当なんですか!?」
「科学的に、DNA鑑定しましたか?」
 その二人の勢いに押され気味だった警官は松永や結城に向き直って言った。
「間違いありません。鑑識の調べで、DNAが完全に一致したとの事です」
 夜一は急いでその事を渚にメールで報告した。夜一では行き詰ってしまった推理を、渚なら紡げる。そう思っての事だ。予想通り、渚からの返事は素早く、そしていつも通り端的だった。
『立花龍二をエレベーターのボタンがある所に座らせろ』
 夜一はすぐに龍二に声を掛けた。
「龍二、ちょっとエレベーターのボタンの所に座ってみてくれないか?」
「……こう?」
 龍二がエレベーターのボタンの所に身体を寄せて座り込むと、その場に居る殆どの人が息を飲んだ。龍二の頭はピッタリとボタンに覆いかぶさるような位置にあったからだ。丁度ボタンが龍二の頭によって押され、龍二の髪が光っているようにも見える。
 事件当時も同じ事があったとすれば、その時に龍二の髪は抜け落ちたのだ。
 夜一もその様子を見つめていると、渚からの更なるメールが届いた。
『龍二の頭でエレベーターのボタンが押せる事は証明されたようだな。これで、大体の駒は揃った。……犯行の動機の方はどうだ?』
『管理人の高砂さんと市島さんは龍一さんと折り合いが悪かったらしい。けど白浜さんは接点なし』
『……鎌をかけてみるか』
 そう言って渚からのメールはまたしても一方的に途切れた。その後暫くして、アパートの入り口が再びざわつき始めた。
 夜一達が向かっていくと、そこにはレディススーツに身を包んだ西園寺さんが居た。
 夜一が唖然としている中、西園寺さんは言った。
「初めまして。私、警視庁捜査一課の西園寺と申します。連続殺人の件で、本庁より捜査を命じられておりまして。目撃者、及び容疑者に話を聞きたいのですが、宜しいですか?」
 冷静に言う西園寺さんに、松永や結城は夜一の時とは打って変わって腰が低そうに深々とお辞儀しながら言った。
「勿論でございます、ささ、どうぞ! おい、結城、ご案内しろ!」
「はいっ!」
 西園寺さんは管理人室へ着くと、メモ帳を取り出して高砂さんに質問し始めた。
「貴方はここの管理人だそうですね。捜査資料によると八時前にエレベーターの不備に気がついたようですが、何故貴方はブレーカーを上げに行かなかったのですか?」
「い、いや……まさか中に龍二君達が居るとは思わなくて。龍一君は滅多にエレベーターを使わないし。それに、あのエレベーターは古いもので、良く止まったりするもんですから……」
 西園寺さんはしどろもどろに話す高砂さんをじっと見つめた後、メモ帳に何やら書き込んでいた。夜一は首をかしげた。西園寺さんは何がしたいのか分からなかったからだ。鎌をかける、と渚はメールで言っていたが、証拠は少なく、その殆ども龍二が犯人だと示すものばかり。
 多少は龍二に犯行は不可能だと証明できてきたが、それでもまだ確証には至っていない。
 それが犯人の計算だとしたら、犯人はかなり計画的にこの殺人を犯したことになる。そんな人物が簡単に何かを漏らすとは考えにくかったのだ。
 次に西園寺さんは白浜さんに話を聞いた。
「貴方は高砂さんと共にエレベーターから出て行く立花龍二君を見たとの事ですが……血塗れだったにも関わらず、何故そのまま行かせたのですか? 犯人だとは考えなかったのですか?」
「え? だ、だって……怖かったのよぉ。腰が抜けちゃったし……それに、殺人に遭遇してそんな普通の考え方、出来るわけ無いわよぉ。人は死んでるし、傍に居たそこの男の子はさっさと行っちゃうし、混乱してたんだから」
「……そうですか。では、最後に市島さん。お願いできますか」
 目を逸らしながら答える白浜さんを見ながら西園寺さんはメモ帳に書き込んだ後、市島さんの方を見た。市島さんも素直に従って質問を聞き始める。
「市島さん。貴方は科警研で被害者と同僚との事ですが、被害者と何か接点はありますか?」
「共同研究のDNA研究の事では尊敬していましたが、それだけですね。それにしても弟が殺人鬼とは。銃の指紋や髪の毛など、証拠は沢山出ているんでしょう? 一件目の殺人に関しても立花龍二が犯人で決まりだと思いますがね」
「……最後に全員に窺いますが、貴方達三人は事件が発覚してからこの管理人室から出ていませんよね? 事件の工作をしているということは無いですよね?」
 西園寺さんの言葉に、三人は一斉にうなずいた。その時、夜一はある事に気がついた。確信にも近い犯人の隙を、やっと見つけた感覚。それが今の夜一には満ちていた。夜一はすぐに自分が感じた違和感をそのまま文章にしてメールで渚に送った。
 すると、渚からの返信は、『Dメール』になっていた。その内容を見て、心を決めた夜一はそれを示すかのように静かに携帯を閉じた。


後書き

あう。夏休みの課題&夏期講習に追われて更新頻度落ちた……。
って、完全に言い訳モードです;;
次は完結編です。知恵と汗と涙(?)を絞って頑張って書きたいと思います。

>丘さん

どうもです。毎度毎度の丁寧なご感想、誠に感謝です。
そうなんでしょうか……安定しているんでしょうか。そう思っていただけるのなら幸いですが。
読んでくださる丘さんの期待を裏切らぬ作品となれば良いのですが;;
いえいえ、というか、文章も構成も全てにおいて指摘して欲しいです。
読み込んでくださっている方には特に。
楽しみにしていただける、ご厚意に応えるべく頑張りたいと思います、それでは。

この小説について

タイトル No.9 to:血塗れの転校生(3)
初版 2009年8月13日
改訂 2009年8月26日
小説ID 3418
閲覧数 1173
合計★ 4
ひとり雨の写真
作家名 ★ひとり雨
作家ID 223
投稿数 91
★の数 264
活動度 10590

コメント (1)

★ 2009年8月14日 17時05分05秒
どうも、丘です。
では、感想を。
やっぱおもしろいですよ。更新頻度は落ちても、作品の安定さが見受けられます。
すみません。僕は一人称を多用するのですが、三人称をこの作品では使われているので、文章の指摘とかは控えさせて頂きます。
では、ただの感想だけになってしまいましたが、完結編楽しみにしています。
失礼します。
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