短編作 - 屋上と空

越冬燕
 昼下がり、俺はぼんやりと空を見上げる。

 昼休みもちょうど真ん中を過ぎたあたりで、中庭で談笑中のカップルや教室で怪しげな事をしている奴もいる。

 俺がいる場所が旧校舎の屋上なので、嫌でも見える。

 だから、俺は空を見上げている。白い雲が点々と見えて、青い空にアクセントを加えていた。ずっと見上げてても飽きないような、穏やかな気持ちに誘われて、仰向けに寝転がる。

 昼食に食べたパンの袋がそよ風で自分から離れていくけれど、気にせず袋と床が擦れる音に耳を傾ける。

 気づくと瞼が少し重くなってきた。どんどん眠くなっていく中、不意に旧校舎のドアなら開ける時にいつもする鈍い音が鳴る。

「ん?」
「鈴木ー……もう昼休み終わるぞ」

 同じクラスの飯島 春喜が、俺をわざわざ呼びに来てくれた。好意は感謝するけれど、彼女を上の名前で呼ぶのはいかがなものかと思う。

「わかった。すぐ行く」
「おう。京、お前女なんだから、もうちょっと女っ気のある言葉使えよな」

 一人称俺、言葉使い男、生物学上女だけれど、それで何が悪い。

「うるさい」

 寝転がったまま反論する。春喜は俺の彼氏で、同じクラスの中で……いや、学年全男子の中で、俺のこの性格に疑問を持たずに近づいた男子だった。だから俺は、春喜に好意を抱いたのだと思う。紺色のような短い黒い髪に、整った顔立ちも理由かもしれない。

 カッターシャツの一番上のボタンだけ開けて、ちゃんとズボンに入れている。こういうところがしっかりしていたのは、会った時からか。俺の学校で、校則守ってる男子は少ない。

「空、見上げてるのか?」

 春喜の問いに、無言で頷く。確か俺たちの出会いも、こんなんだった。

「お前も、寝転がれよ。気持ちいいぞ」

 俺がそう言うと、春喜は一つ小さくため息をついてから、俺の横に寝転がった。

 昔から空は好きで、小さいころから河原の芝生に寝転がって空を見上げていた。雨も好きだし、夕日も好きだ。

「よく飽きないな」
「好きだからな」 
   
 そこからしばらく沈黙が続いて、また眠くなってくる。
 少しづつ、少しづつ、目の前が暗くなってくる。何も考えられなくなっていくにつれて、暗い世界に沈んでいく。
 
「一緒に、いて……」

 独り言のように呟いて、くるりと寝返りをうったとき、俺は意識が途切れた。

 春喜に寝込みをおそわれてもいいし、授業なんて頭に無かった。くるりと寝返った方向に、春喜の姿が見えたのが、俺を安心させたのかもしれない。

 今日ほど、心地良く迎えたサボりは、今までなかった気がする。 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 昼食を終えた時、すでに教室には誰もいなかった。と言うのも、俺が食べるのが遅い事に原因がある。
 
 昔から小食の俺は、いつも飯に悩まされる。

「また最後か……」

 弁当箱を学生バックにほうり込み、教室を出る。
 
 いつもなら教室を出るとドアのそばにいる奴がいない。早い話が彼女なのだけど、いろいろ事情がある。
 
「また屋上か……」

 俺の彼女は、よく旧校舎の屋上で空を見上げている。特に理由は無いらしいけれど、好きだとは言っていたと思う。

 なにもする事がないので、とりあえず屋上へ向かう。途中で、他の教室にある時計をチラッと見ると、昼休みは半分を過ぎていた。

 旧校舎屋上へはすぐで、俺ら、三年生の新校舎の階の端にある、渡り廊下先の旧校舎のすぐ上にある。鍵は開けっ放しで柵も低いので、夏になると怪談話のネタによくなる。

 屋上のドアを開けると、やっぱり彼女がいた。

「ん?」
「鈴木ー……もう昼休み終わるぞ」

 俺がそう言うと、鈴木 京が頭だけこちらに向けた。彼女は一応俺の彼女で、もう付き合って一年半になる。

「わかった。すぐ行く」
「おぅ。京、お前女なんだから、もうちょっと女っ気ある言葉使えよな」

 俺がそう言うと、京は一瞬顔を曇らせてからそっぽを向きながら「うるさい」と呟いた。その一瞬の曇りが、なにげに可愛いくて、俺はこいつに惚れた。ショートカットの黒髪に、華奢な体つき。ただし、男のような性格に女っ気の無い言動は半ば詐欺に近い。

 一人称も俺だし、女友達はいないんじゃないだろうかと思う。

「空、見上げてるのか?」

 京にそう聞くと、無言で頷いた。たしか前にも同じことがあった気がする。あれは、初めて京と会ったときだったか。

「お前も寝転がれよ、気持ちいいぞ」  

 少し考えた後、なんとなくため息が出る。面倒なわけではないけれど、すこし授業に遅れる事に気が引けただけで、言われたまま京の横に寝転がる。

「よく飽きないな」
「好きだからな」

 京が空が好きな事は会った時から知っていた。俺も空は嫌いじゃない。どちらかというと好きな方で、小さいころはカメラ片手に空の写真を撮りにあちこち出かけたほどだ。

 しばらく沈黙が続き、眠くなってくる。教室へ戻ろうかなと思った時、不意に京の声が聞こえた。

「一緒に、いて……」

 独り言のようにも思えたけれど、京はこちらへ寝返りをうって眠っている。そして、手を伸ばせば届くぐらい近かった。

 授業も忘れ、京の寝顔に見入った。起きている時とは比べものにならないくらい、落ち着いた少女の寝顔がそこにはあった。その時、すっと、瞼が落ちた。

 俺は今日、初めて授業をサボり、そして、サボるのもたまにはいいなと思った。

  

     
 
    

後書き

短編です。
ちなみに、『鈴木 京』の京は『みやこ』と読みます。
京と春喜のふとした会話を、二人の視点から書いてみました。

昔、燕という人がいたらしいですが、その人とは別人ですので。お間違いなく。
今後、よろしくお願いします。

この小説について

タイトル 屋上と空
初版 2009年8月14日
改訂 2009年8月15日
小説ID 3424
閲覧数 721
合計★ 6
パスワード
編集/削除

コメント (6)

★ 2009年8月14日 17時13分12秒
どうも、丘です。
では、感想を。
ほのぼのしていて、清々しい気分になりました。
あと、京ちゃんのキャラ設定。とても良いと思います。
越冬燕さんの良いところは、心情描写がとても上手なところです。
あと、風景描写を取り入れてみて下さい。空の様子とか、木々のざわめきとか。
では、失礼します。
越冬燕 コメントのみ 2009年8月14日 17時41分08秒
丘さん、ありがとうございます。

ほのぼのしていると思ってくださったのなら、ありがたいかぎりです。京のキャラ設定も、気に入ってくださったみたいで。

風景描写ですか…やってみます。心理描写と風景描写とのバランスも考えないと。
春喜はパッとしなかったようで、今後の課題ですね。

コメント、ありがとうございます。
★せんべい 2009年8月14日 19時23分54秒
こんばんわ―、せんべいです。


2人の目線から書かれていると気づいたときにアハ体験しました(笑)
それほど僕の中では新鮮な作品でした。
ほのぼのとした日常であって、それでいてつまらなくない。理由は分かりませんが…汗

ただ個人的に2人がもう少し付き合っている、愛し合っているというような雰囲気が欲しかったと思いました。
そのほうがまた違う部分が深まったかもです。


では、失礼しました。
越冬燕 コメントのみ 2009年8月14日 21時49分43秒
せんべいさん、ありがとうございます。

アハ体験ですか……新鮮さを感じてくださったのならなによりです。
ほのぼのした日常と皆さん思ってくださったようで。つまらないものは書きたくないですし。キャラに関係したのでしょうか?

二人が付き合っているというのが感じ難いのは、しかたないのです。短めにまとめ、その中で説明するのは難しすぎました。
コメント、ありがとうございました。
弓射り 2009年8月16日 22時05分27秒
ご依頼ありがとうございます、弓射りです。
まさか自然消滅させた気でいた書評所に依頼があるとは・・・びっくりんこ☆(←うざい
はい、では以下から「辛口」で書いていきます、ご覚悟を。


つまらない。短編の強みを生かせてないし。
この尺のショートショートなら、普通何かしら心に残るのですが、心に迫るものがゼロ。

●書きたい内容と形式のズレ
短編には短編にふさわしい題材がありますので、テーマ選びは作家にとって重要です。
この作品は読んだところ、どちらかというとラノベ寄りです(関係ないですが僕はラノベに厳しいです)
それは(理由はいくつかあるけど)キャラありきの小説だから。でも、この短編の中でいろいろ設定を作っといたにも
かかわらず、キャラを転がしきれてない。心の動きも、読者の共感を呼ぶほどの物でもない。
燕さんの書きたいのはキャラ紹介か何かですか? 結局、短編にもなりきれず、そんな印象です。

キャラありきの小説と書きましたが、それだって無理ある。
なぜなら長編の学園物のワンシーンを無理やり短編に詰め込んだ感じで、具体的シーンが不足してるから。
シーンが不足してると、キャラの特徴の書き方がわざとらしいし、煩わしい。
結果的に、短編に不向き、十分に描き切れてない、ということになります。

●会話や地の文がカタい
なんか文が自然じゃなくて気持ち悪いです。
>>一人称も俺だし、女友達はいないんじゃないだろうかと思う。
これは一例で、ほかにも具体例をあげればキリがないですが、「自分のことを言うとき「俺」とかいうし」の
ほうが、しっくり来るような気がします。なんか文体の端々にダメでクソなラノベの要素が見え隠れして
ちょっとげんなりします。自分で読み上げた時、ちょっと気持ち悪いなと思ったら表現をもっと軽やかにすると
良くなると思います。会話文も、こういうモチーフで書くときはなるべくカジュアルさを心がけてほしいです。

●わかりやすさ
読み手に無駄なところでわかりにくいです。
特に春喜と京はふたりとも1人称が「俺」です。 春喜のほうは「ぼく」にするとか
些細なところですけど、きちっと書き分けをしないと。

●1センテンスが意味の塊になってるのは、わかりやすい面もあるけど、単調になりがち
意味がわからなかったら追加で解説をしますが、読み直せばそうなってることがわかります。無意識だと思いますが。

●ハイライトする、何を伝えたいのか、何を際立たせたいのか明確に
先日お伝えした通り、たくさん書いても、読み手に届くのはほんの一部です。批評のように細かい分析的な読み方を
しない限り、多くの作者の意図が読み飛ばされて、結局何も伝わらない。
この作品で、「空」をひとつのモチーフにしたなら、そこで読者を惹きつける努力をすべきでしょう。
>>昔から空は好きで、小さいころから河原の芝生に寝転がって空を見上げていた。雨も好きだし、夕日も好きだ。
>>俺も空は嫌いじゃない。どちらかというと好きな方で、小さいころはカメラ片手に空の写真を撮りにあちこち出かけたほどだ。

へぇ、そうなの。これで終わりです。ここで「空の何が魅力なのか」「何故2人は空に惹かれるのか」を
ちゃんと書かないと、説得力がまるで無い。
(勘違いしないで頂きたいのは、この2人に説明させてほしいわけじゃないです。もっと2人が「空が好きだ」って
いう事実を読者にリアルに感じさせてほしい、ということです)
ここに燕さんの感覚、空に対する考えを言葉を選びながら反映させると、急激にこの部分がクローズアップされて
読者の中には感じる物が残ると思います。

●風景描写
丘さんが言及されている通り、風景描写には「読者がよりイメージを描きやすくなる」という利点があります。
けど、単なるクソみたいな説明文だったら盛り込むだけ無駄です。意味なんかありゃしない。
「なに、これ長www読む気しねwww」となるので、キャラの心情と関係付けて、意味のある風景描写をなさってください。

さいごに良かったところを。
春喜と京の視点を交互に描くのは、良い方法だと思いました。これで、2人の心が深く繋がってるのが
読者に伝わるからです。互いの考えやスタイルの辻褄もあってるし。相思相愛をきちんと表現できてたと思います。

評価ですが、小説の最低限のお約束は守ってはいるものの、つまらないので……☆1.5個といったところでしょうか。
四捨五入で2個にしておきます。
たぶんショックが大きいと思いますが、ひとつの見方だと思って、柔軟に受け止めてくださいな。
丸飲みにする価値などありゃしませんので。これに懲りず、「良いのが出来た!」と思ったら
またご依頼ください☆
冬を越すツバメ コメントのみ 2009年8月16日 22時45分04秒
弓さん、ありがとうございます。

おっしゃったとおり、きついですね。
多すぎて全てを確認するのに手間取りましたが、よく読むとそのとおりです。
もっと頑張らないといけませんね。勉強になります。
これは、復活するのは早そうです。再開が早そうです。書くのは合宿開けですが。

また良いのが書けたら、お願いします。
名前 全角10文字以内
コメント 全角3000文字以内 書式タグは利用できません
[必須]

※このボタンを押すと確認画面へ進みます。