りれしょ物語 - 何ごとも計画的に

『花火? 夏休みにもなってないんだぜ。まだ早いだろ。ていうかその日ちょっとバイト入っててさー……え、何でバイトしてるかって? そりゃあ秋と楽しいデートするためだよ』by村崎。

『あーごめん、明後日って平日だよね。もう高校生だって言うのに、僕の父さん門限にうるさいんだ。五時までならオーケーなんだけど』by御堂。

『彼女さんと二人きりでやってろ』by雛利。

「くそ、薄情な奴らだ」
 俺は夕陽に染まる道路を歩きながら、右手の携帯電話に向かって悪態を吐いていた。咲さんに言われて電話番号を知っている奴に片っ端から連絡してはみたが、どいつもこいつも軽く断りやがる。
「仕方ないわよ。皆にも用事があるんだし、無理に呼び出しちゃ悪いわ」
 怒る俺を優しくなだめる咲さん。それに続いてマリーが「ワン」と鳴く。
「それにごめんなさいね、私の思いつきに付き合わせちゃって」
「別にいいっすよ。人は多い方がいいなって思ったのは俺も同じですし」
 さて次はどいつに掛けてやろうかな――しまった、煽や九条先輩の電話番号知らないや。御堂と雛利から連絡するように言っておくべきだった……いや、別にいっか。煽は御堂が、九条先輩は雛利が来ないとつまらないだろうし、それに集合場所は須藤家の庭だ。いきなり大勢で集まれば須藤一家にかなり迷惑をかけるだろう。
「秋には私から聞いてみるわ。村崎君が来ないなら私も行かなーいとか言うでしょうけど。ね、マリー」
「ワン」
 もしその通りの展開になれば、花火に参加するのは最初に小雪の家で集まった俺らだけってことになるな。
 あまり騒がしくならないようで良かった。ところで思ったんだが、小雪の庭って草とかが生えてなかったっけ。鉢に花もあったぞ。庭で花火は危ないんじゃないか? ていうか近所迷惑も甚だしいぞ。
「なら近所の川原にでも行けば大丈夫よ。そこなら水も近くにあるしね」
 それを聞いて俺は少し安堵する。……俺って結構心配性だったりするのかな。思えば草ぐらい花火なんかで燃えたりしないだろうに。ご近所さんで文句言って来る奴が居ればそいつは追い返せばいいんだ。俺は何を憂いていたのだろう。
 それからしばらく取り留めのない会話をしていると、道路は駅近くの喫茶フィオーレへ続く道と俺の家に続く道の分かれ目に差し掛かる。遠い向こう側にて沈み行く夕陽は大して眩しくない。
 そこで俺はふとあることに気付いた。
「あれ、いつの間にか雨止んでますね。てっきり帰る時もずぶ濡れると思ってたのに」
「あら、本当に花火なんかで不運を取り除けるとでも思ってたの?」
 何かとんでもない発言が俺の耳を通過する。
「へ? じゃあ花火で水難を追い出すってのは嘘だったんですか」
「昨日言ったでしょう。明日一日、水に気をつけなさいって。つまり今日という日をしのげば問題ないの。時間で言うと八時間ぐらい我慢してれば水難とはおさらばだったのよ」
「それを早く言ってくださいよ!」
 俺の絶叫に対して、咲さんは「あら、ごめんなさい」と会釈する。こっちの衝撃とは裏腹に随分軽い反応ですね。
「じゃあ、明後日は小雪ちゃんのために花火してあげてね。ちなみにその日は私も用事があるから行けないの。ごめんなさい」
「ワン!」
 この人、言い出しっぺのくせして別れ際になんてことを。俺の呆然とした気分を知ってか知らずか咲さんはにこにこ笑いながら、マリーに連れられて日に染まる道の向こう側へと歩いていく。
 ……まあいっか。正直雛利の言うように、花火なら小雪と二人きりでやりてえなーと思ってた所だ。夜はキリカ先生も自宅に戻るだろうし、まさに二人きり。
 俺は咲さんが向かった道とは別の、自宅へと続く道路に向かって歩き出す。


 思えば電話でなくとも、翌日は学校があるんだから煽や九条先輩と会えるんだ。花火に参加するかはそこで聞けばいい――のだが、俺はそんなことなどしない。やっぱり小雪と二人きりで花火をしたいからな、普段デートとか出来ないだけに。
「それにしても須藤と花火なんて、お前にしては粋なこと考えるじゃん」
 俺の机より一つ前の席に座って粋がどうのと抜かすこの野郎はもしかして、本村さんと付き合うようになってから机の上には座らなくなり、背筋もピンと伸ばすようになったあの村崎さんか。
「何か今、精神世界で気に入らない他人行儀な紹介をされた気がするがそれは置いといて。まあどうせ花火を考えたのは別の奴だろ。本寺みたいな気の利かないのが花火なんて言い出したら逆に笑っちまうぜ。げはははは」
「粋だと思うのか笑っちまうのかどっちかにしろ」
 あほな村崎を相手にするよりもどんな花火を買うかをよく考えた方が良いなと判断した俺は、そのまま村崎の言うこと全てに完全無視を決め込み思考する。
 小雪は怪我してるんだ、あんまり派手に火が散る物は駄目だろう。例えばロケット花火とか……あれ、そういえば俺って花火の種類あんまり知らねえぞ。線香とロケットとねずみの三種しか……そういえば蛇的な物もあったような無いような。
 知らない物は仕方ない。こうなったら店頭に並んでるそれらを一通り眺め回して、できるだけ安全そうなのを選んでやる。こんな結論に至るなら考えても無駄だったなあ――
「何か考えてるみたいだけど、花火の種類すら知らなそうなお前が何考えても無駄だって。はっはっは」
 それから二秒後、村崎は机の上に突っ伏した。どうしたんだ、急に気分が悪くなったのか?
「とぼけてんじゃねえ! くっそてんめえ本寺あ、思いっきり殴りやがってえ……」
 はて、なんのことかね。
「人に言われるとムカつくこともあるってことさ」
「分かんねえよ。殴られた理由も、何がムカつくのかも分かんねえよ!」


 くそつまらん授業も一通り終え、始まりと終わりで忌まわしさの度合いが過激に変化するチャイムにより、俺たち生徒はようやっと昼休みに突入する。
 ……腹減ったな。購買に行くか。そう思って立ち上がる俺の方を振り向き、村崎は言った。
「購買行くんなら俺のも買って来てくれよ」
「嫌だ」
「ちっ。じゃあ俺も行く」
 村崎も立ち上がり、俺たちは教室を出て購買へ向かおうとする。ていうか村崎、お前本村さんはどうした。いつも弁当作ってきてもらってただろ。
「夏の大会に向けて頑張らなきゃならないから、超早朝から始まる朝練のおかげで弁当作れないんだと」
「ほお、本村さんは運動部なのか。それにしても、小雪といい本村さんといい、彼女が運動部で頑張ってると、帰宅部の彼氏はなんとなく面子ないな」
「だな。そうだ、一緒に何か始めようぜ。どっかの部活入るとか。野球部なんかかっこよさそうだな」
 そんなやる気の無いくせにやる気満々な声で語る村崎の声を右から左へ……受け流すのも面倒なのでこいつの相手をするのもやめ、俺は教室の出入り口の向こう側へ足を一歩踏み出す。
 スポーツなんてもやしの俺からすれば面倒なだけだ。それに部活なんてやってたら小雪に会う時間もかなり限られることになるだろう。
「な、放課後部活見学して回ろうぜ」
「勝手にやってろ。俺は興味ねー」
 そういえば小雪はソフトボール部だったな。毎日頑張ってたみたいだし……あいつはあくまで趣味の範疇だとか言っていたが、やりたい部活がことができなくなって、小雪はどんな気持ちになっただろう。
 つらかっただろうか。
「……めんどくせえ」
「部活がか? 確かにめんどいけどさ、面子がないとか言い出したのお前だぞ。なのに興味ないとはどういうことだこの野郎め」
 小雪の気持ちも俺が小雪をどう思っていたのかも、気付かない方が良かったのかもしれない。気付いてしまったばかりに今の俺は小雪の心配ばかりしている。
「本当めんどくせえ」
 けど、悪くはない。好きな奴を心配したり、好きな奴のために面倒な目に遭う。何の色も無かった今までの俺の人生よりはマシなことだ。
 さて、購買にはまだ到着しないのか。


 小雪は最近なんとなく元気がない。言動のはちゃめちゃさは事故に遭う以前と比べて差異など全くないが、あいつの気色はよく見なければ分からない程度だが悪くなっている。体が病むと心も病むらしいからな。きっと怪我のせいでいろいろ不安なんだろう。
 俺にできることは、その不安を少しでも取り除いてやることだけだ。いろいろ世話を焼いてやりたい所だが、はて何をすればいいのやら。
「なあ雛利。俺、どうすればいいと思う?」
「知るかそんなの。ていうか今は忙しいんだから話しかけるな」
 そんなこんなで放課後の現在、校庭すなわちグラウンドにて、俺は何故か雛利を相談相手にしている。ちなみに村崎は本村さんの所へ向かうためどっかに行った。そんなことよりもお前、本当は全然忙しくないだろうが。体操服に着替えて大好きな九条先輩を観察してるだけじゃねえか。
「つれないな、お前って」
「うるさい。だいたいお悩み相談なら他の奴あたれよ。何で私なんかに……」
 いやな、最初は俺も咲さんを相談相手に選んでたんだが、偶然視界にお前が居てさ。
「なんとなくだが、お前ならいい案出してくれると思って」
 俺が呟くと、途端に沈黙してしまう雛利。どうした、俺の相手が面倒になって無視する気か。まじでつれないな。まあ俺もよく村崎を無視するが。
「……すれば」
 唐突に雛利はぼそぼそと何か呟く。
「聞き取れないからもう少しはっきり言ってくれないか」
「だから、何かプレゼントしてやればいいんじゃないかって言ってんだ」
 九条先輩の方を見つめながら怒った口調で吐き捨てる雛利。
 ほう、プレゼントか。
「で、何をやればいい?」
「どこへでも身につけて行ける物が良いと思う。後は自分で考えろ」
 雛利はぶっきらぼうに吐き捨てると、それからどこかへ向かって歩き出した。方向からして多分サッカー部の部室に行こうとしているのだろう。
 かなりツンツンしてはいたが、一応相談に乗ってくれたわけだし、礼ぐらい言っとくか。
「ありがとな、雛利」
 足元の砂をザッと鳴らして立ち止まる雛利。その肩が若干震えているように見えたのは気のせいだろうか。
 どういたしましてみたいなことを言うのかと思って待ってたら、雛利はそのまま何も言わずに去って行く。何だったんだ、さっきの一時停止は。


 それからしばらくして、俺は女の子の喜びそうなアクセサリーを陳列させているおしゃれショップへ向かったのだが、まあそこにはいろんな種類の物がすごい数置かれているわけで、要するに何を選べば良いのか分からずに困り果てていた。
 それにしても分からんな。こんなジャラジャラしてて面倒くさそうな装飾品のどこか良いんだか。どう見たってただのおもちゃじゃねえか。
「いらっしゃいませ。今なんとなく女の子の宝物を大きな主語で馬鹿にされたような気がしましたがそれはさて置き、本日は何をお求めでいらっしゃいますか?」
 俺が眉間にシワを寄せながら整列されているアクセサリーどもを眺めていると、突然店員らしき女性が俺に話しかけてきた。
「彼女にプレゼントしてやろうかと立ち寄ったんですけど」
「かしこまりました。すぐに当店のおすすめ商品をお持ちしますね」
 慣れた様子で話を転がし、それから店の奥へと消えて行く店の人。きっとプレゼント選びに来る客が多いせいだな、やけに対応がスムーズだ。若そうに見えたがあれで意外とベテランなのだろう。
 しばらく待っていると、店員のお姉さんはその手に何やら華やかな色の物を持ってこちらに戻って来る。
「お待たせしました。これなんかどうでしょう、彼女さんへのプレゼントに」
 それはいろんな部分が桃色の小さな時計。キーホルダー用のチェーンに繋がれたコイン型の代物だ。
 この時計と小雪の姿を頭の中で照らし合わせてみる。……小雪にはなんとなくピンクが似合う気がしてきた。ていうかどうせセンスの無い俺が選ぶより、アクセサリーショップのおすすめ商品であるこれの方が小雪も喜ぶだろう。俺はコイン型時計の購入を決意する。
「じゃあこれにします。値段はいくらすか」
「はい、二千円でございます」
 レジまで移動し、さっそく財布をぱかり。しかしその中を覗き込んだ俺は絶句する。
「…………」
 どういうことかは、言わなくても分かるよな?
「初回サービスということで、三百円程度なら割り引きますけど」
「……頼みます」
 気の利くお姉さんで、本当助かった。


「ありがとうございました」
 店員の優しい声を背後に受けながら、俺は空がすっかり赤くなっていることを確認しつつ店を出て行く。
 それにしても時計って高いんだな。小さい物だからてっきり百円程度の物かと思ったのに。
「よう本寺。こんな街中で会うのは珍しいな」
 誰かの不穏な声を背後に受けながら、しかし俺はそれを無視して歩き続ける。それにしても最近段々暑くなってきたなあ。夏も近いってことか。
「おうこら本寺。私を無視するとはいい度胸してるな」
 誰かのやはり不穏なセリフをも無視しつつ、夏休みはまだ始まらんのかという思いを募らせる。
「この野郎」
「いだっ!」
 頭頂部辺りを殴られた。グーか鈍器で。
 ていうかいきなりマジで殴る奴があるか。まあ俺の知り合いにはそんなのが数人もいるわけだが、この不穏な声の持ち主はそれらの中で最も危険な人物に当たる。
「何するんですかキリカ先生」
「先生を無視しやがるたあふてえ野郎だなあ本寺剛」
 今日は何やら江戸っ子なキリカ先生。俺は瞬間的に走って逃げるか媚びて調子乗らせた隙に逃げるかまあ何にせよ逃れようと画策を練るのだが、しかしキリカ先生は絶対逃がさんぞオーラを嫌な感じに放出している。
「私は青い空も好きなら白い雲も大好きだ。でも何が一番好きかって言うとな、私の気分を害した野郎をぶん殴ることだ」
「無視なんかしてませんってー気付かなかっただけですよー」
「思いっきり目を泳がしながら何言ってやがる。よし決めた、今日は小雪の家で本寺の説教大会だ」
 嫌なこと思いつくなこの人は。
 キリカ先生の腕に首をがっちりとつかまれて連行というか拉致らている間、俺は一つだけあることを思い出す。
 もともと水難デイに大量の着替えを買ったせいで財布の中身はかつかつだったんだ。なのにプレゼントなんか買っちまったってことは、やっぱり財布の中身はもう目も当てられないほどあれな状態に……。
 花火セットなんてとても買えねえや。明日の花火、どうしよう。

後書き

くれぐれもお庭で花火なんてしちゃいけませんよ。でないと近所の奥さまに「ちょっと、うちの洗濯物煙くさくなっちゃったじゃないのよどうしてくれんのよクリーニング代だしてくれんの!?」と怒鳴られます。花火は迷惑になる人の居ない場所で楽しみましょう。
今回は受けを狙ってコメディっぽくしようと試みました。そろそろ修羅場が欲しい所だなあとは思いつつも、どうすればいいか全然思いつかないのですよね。困りものです。

次回はひとり雨さん、その次は梨音さんの提供でお送りすると思います。


……コメントへのお返事……
梨音さんへ
お久しぶりですー。
いいですねー自宅のお庭で花火。洗濯物を干したままだとなお良しということですね!
彼女へのプレゼント……剛いいですなあ。僕もプレゼントしてあげられる彼女が欲しいですー。
花火、どうなるのでしょうね。せっかく咲さんが思い出作りの後押しをしてくれたというのに、剛ってば。

丘さんへ
毎度りれしょ物語への応援、ありがとうございます!
とてもおもしろかっただなんてそんな、鼻の下が伸びちゃいますよー。僕ってば褒められると弱いなあ。
安定してました? そういう風に言われると、僕も自分のやり方にますます自信を持てます。本当にありがとうございますね。
本寺に共感してくれましたかー。本寺の気持ちは僕の気持ちであると言っても過言ではないので、共感してくれて嬉しいです。
恋人がそばに居てくれたらと思うと、やっぱり憧れずにはいられませんよね。ああ、密かに想いを寄せるあの子へ声を掛けられる勇気が僕にもあればなあ。

この小説について

タイトル 何ごとも計画的に
初版 2009年9月2日
改訂 2009年9月7日
小説ID 3476
閲覧数 923
合計★ 4

コメント (2)

★梨音 コメントのみ 2009年9月3日 19時59分35秒

お久しぶりなコメントですな。
私は庭で花火してましたよ? 田舎の古い一軒家だからか、隣のおばさんも文句は言いませんでした。
洗濯物? 二度洗いしましたが何か?

彼氏からのプレゼント……。小雪ちゃん羨ましいなぁ。私も彼氏ほしいなぁ。
花火、どうなるんでしょうね。
★ 2009年9月6日 20時38分41秒
読ませて頂きました。
とてもおもしろかったです。
日直さんの書き方はとても安定していて僕好みの作品でした。
本寺の心情に少し共感しました。
僕も彼女がいたらなー。
では、失礼。
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