「都市伝説」シリーズ - 都市伝説 第二章 〜ひきこさん〜

都市伝説 第二章 〜ひきこさん〜

彼女は、教室に入る。
・・・いつもと変わらない毎日。

でも、私にとっては許せない・・・・・嫌な毎日。
・・・・いつからだったかは忘れたが、気がつけば私は周りから疎まれていた。
「先生に、贔屓ばっかりされやがって!贔屓のひきこ!贔屓のひきこ!」
男子は、そう言って私をからかう。・・・・最初は、それだけだった。
それだけならまだ、耐えられた。
・・・・でも、「いじめ」はエスカレートした。
女子は、抵抗する私を無理やり抑えて手足を縛り・・・・・・私を引きずりまわした。
顔をぶつけようが、鼻を折ろうが、口が切れて出血しようが、女子たちは私を引っ張る
その手を、止めてはくれなかった・・・・・・。
(私は、何もしていないのに・・・・・・。)
そうは思ったが、口には出せない。

家に帰っても、酒乱な父に引きずりまわされる。
母も、父親に怯えてそれを止めようとはしなかった。

だんだん募っていく「怒り」や「憎しみ」
・・・でも、それを分かってくれる人はいなかったし、分かってほしいとも思わなかった。私は、学校へ行くのをやめた。
父は、そんな私を引っ張った。・・・・でも私は、家具に必死にしがみついた。
(・・・・絶対に行くもんか!)
その思いだけが感覚を失いつつあった指に活力を与えた。

数日が経った。
私は、部屋にしっかりと鍵を閉め絶対に外には出ないことにした。
両親は、そんな私に怒り、「そんな奴には、飯などやらん!」と食事も与えなくなった。
両親はそれによって、私が部屋から出てくることを期待したから・・・・。
・・・でも、私は部屋から出なかった。
さすがに心配になったのか両親は、私の部屋を覗きに来た・・・・・・。
そこには目は真っ赤に血走り、身体は衰弱してやせ細った身体で虫を貪り食う私がいた。
それを見かねた両親は、しぶしぶ100円のおにぎりと申し訳程度の水を私にくれた。
さすがに、あんなものを見てしまったからにはそうせざるを得なかったのだろう。
・・・・それから数日が経ち、両親が部屋をのぞくと、私は死んでいた。

それからでした。雨の日になると「彼女」が現れるようになりました。
彼女は、雨の日が好きでした。
雨の日に現れるヒキガエルは、彼女の醜さを忘れさせてくれるようでした。
真っ白いぼろぼろの服を着て、人形のようなものを抱えていました。
彼女の顔は、ズタズタで口が耳まで裂けており、目は吊り上っていました。

・・・・私は「獲物」を見つけ、それに襲いかかった。
「私は醜いかぁ〜!」
私はそう叫ぶ。・・・・・そして全速力で相手を追いかけ、捕まえて引きずる。
そうしてその「獲物」を引きずりまわし、やがては肉の塊になってしまうまで、その手を放すことはない。
抱えていた「人形のようなもの」は、よく見ると彼女が捕まえた「獲物」の肉の塊だった。

もう何年・・・・これを続けてきただろう?
今まで襲ってきた「獲物」たちは、別に私とは何のつながりもない。
別に、私をいじめたわけでも、引きずりまわしたわけでもない。
・・・・でも私は、これをやめるつもりはなかった。
だって、これによってみんな、私の事を思い出すと思うから・・・・・・。
いつかみんな、こんな風にしてあげるからね・・・・・・。
私は、さっき持ってきた跡形もない肉片を、優しくなでた。


・・・・・・今のは何だったのだろう?

中島直樹は、急いで黒板に顔を戻した。
うたた寝をしてしまっていた。
「おい!中島!・・・・・これ解いてみろ。」
「はい・・・・。」
俺は何となく立ち上がり、黒板に解答を書いた。
・・・・あれは、本当に起きたことなのだろうか?
今まで、夢で過去や未来に行くことはあっても、他人の心の中に入り込むことはなかった。

そうだ・・・・俺は、「夢の中で時空間を行き来する」と言う、特殊能力を持っている。
前回、その能力を使って「口裂け女事件」を解決した。
それから、もう2ヶ月近くが過ぎていた・・・・。

今までは、「都市伝説」なんてものはまったく信じてはいなかったのだが、前回の事件以来、考えが変わった。
最初は、俺の持っている特殊能力も、誰も信用してはくれなかった。
・・・・だが、今じゃみんなが、俺の能力を信じている。

俺は解答を黒板に書き終えると、ボーっとしたまま席に戻った。
「おい中島!答えが違ってるぞ!・・・・しっかり人の話は聞いておけよ。」
担任がボヤく。
「はい・・・・すいません。」
クラス中が爆笑に包まれた。
・・・・嫌いじゃなかったし、むしろ好きだった。この雰囲気が。
紗希は、俺を呆れた顔で見ると、正しい答えを教えてくれた。

なんだか・・・俺は終始、ボーっとしていた。
帰り際に、紗希に声をかけられた。
「ねぇ直樹、2時間目からボーっとしてるけど、どうしたの?」
俺は、紗希にさっき見たことを話した。
「それ・・・・「ひきこさん」じゃない?」

紗希は本当に、「こういう話」に詳しい。
前回だって「口裂け女」の話を持ち出してきたのは、紗希だった。
「何だそれ・・・「ひきこ」って?」
「前回の「口裂け女」と似た類の話なの。」
紗希は、「ひきこさん」について話し始めた。

「本名は「森妃姫子」って言うんだけど・・・・・・。彼女は小学校時代に、
ひどいイジメに遭っていたの。家でも彼女は、虐待を受けていて・・・・・。」

・・・・背筋に何か冷たいものが走るのを感じた。
今までのところ、紗希の話は、自分が見たものと一致している。

その日、俺は「森妃姫子」と言う女についてずっと考えていた・・・・・・。
「お兄ちゃん?早く食べないと、ご飯冷めちゃうよ?」
妹の亜季が声をかけた。
「え・・・?あぁ、ごめん。」
そうは言ったものの、箸はまったく進まなかった。
・・・・・今日も雨が降っていた。

彼女は、「獲物」を捕らえるために動き出した。
さっそく・・・・・見つけた。
「私は醜いかぁ〜!!」
いつもの言葉を叫ぶ。そしていつものように、相手を睨む・・・・・・。
「引っ張るぞ!引っ張るぞ!」
「獲物」は、私にそう言った。

引っ張る・・・・・。過去の生々しい記憶がよみがえる。
「贔屓のひきこ!贔屓のひきこ!引っ張れ、引っ張れ、贔屓のひきこ!」
私をからかう男子の声が、鼓膜の奥に響く。
・・・・・許せない。
私の両親は、私が引っ張ってやった。・・・・・あの時の仕返しだ。
・・・・気がつけば私は、「獲物」を取り逃がしていた。
それでも私は、「獲物」を追うことはせず、憎しみに心を奪われていた・・・・・・。


「うわぁ!」
直樹は、自分の声に驚いた。
「何?お兄ちゃん?変な夢でも見たの?」
目をこすりながら、亜季が直樹の部屋の電気をつけた。
「・・・・いや、別に。」
全身から冷や汗を流しているのに、それはないだろうと自分で思った。
「あ・・・そう。おやすみ。」
亜季は、部屋の電気をつけたまま行ってしまった。
壁に掛けてある時計を一瞥した直樹は、またベッドに潜った。
・・・・深夜の3時だった。
直樹は無意識にケータイに手を伸ばした。
今のケータイには、便利な事に「ペア機能」と呼ばれる、登録してある相手の連絡先を、一瞬で呼び出す機能が付いている。
その、「ペア機能」を使い、「戸川紗希」の連絡先を表示し、電話を掛けた。
「・・・はい、もしもし?」
長ったらしい発信音の後、紗希の眠そうな声が答えた。
「あ・・・こんな時間にごめん。あのさ・・・・・俺、今また「ひきこ」の夢を見た。・・・・でも、ただ「見た」んじゃなくて俺があいつのなかに「居た」んだ。
おかしいよな・・・・分かってるんだ。
・・・でも、なんと言うか・・・俺自身が「ひきこ」だった。この前の時もそうだったんだ。俺自身が彼女になっていたんだ。どういうことか分かるかな・・・・?その・・・・紗希的に見てって言うか・・・?
お前、都市伝説とか詳しいから、こういう現象の事も何かわかるのかなと思って・・・・。」紗希は、直樹の話を聞きながら、だいぶ目が覚めたようで、
「う〜ん、私の知ってる都市伝説は、主に「怪談」系の話だから・・・・・・。
でも、たぶん直樹の能力は「都市伝説」の枠には入らないと思う。
どっちかって言うと、ファンタジックな能力だし・・・・・・。」
さっきよりもはっきりした声で言った。
「でも・・・・直樹が「ひきこ」自身だったって言うのは、なかなか興味深いね。あのさ、悪いんだけど私、もう寝てもいいかな?明日、学校でしょ?
遅れたら・・・・・ほら、田口がうるさいじゃん?だから・・・・・おやすみ。また明日、学校でね。」
「あぁ・・・ごめんな。おやすみ。」
紗希が電話を切った。

その後は、なかなか寝付けなかった。
その日の午前中は、何度も自分を襲う睡魔に必死で耐え抜くことに集中した。
昼休みになり急いで屋上に駆け上がった直樹は、いつも陣取る“特等席”で仮眠を取った。

また、「ひきこ」の中にいた。

・・・・私はあのあと誓った。
私をいじめ、引きずりまわした連中を見つけ出し、両親のようにしてやる・・・と。
そして私は、行動を開始した。
まずは・・・・・主犯格から狙うとしよう。
名前は思い出せないが、顔はしっかりと覚えている・・・・・・。
そうだ!あいつだ。「山田佳奈美」・・・・あいつから引きずってやる・・・・・・。

「直樹・・・・・直樹・・・・・。」
優しい、よく通る声が、俺の鼓膜に響いた。

紗希が俺に微笑みかけている。
「また「例の夢」でも見てたの?・・・・ものすごい冷や汗だった。」
さっきまで、俺の心にあふれていた「不安」や「恐怖」が吹き飛んだ。
「あぁ・・・また、「ひきこ」の中にいた。」
俺は、青ざめた顔で紗希を見つめた。
「あのさ・・・・購買で買って来たんだけど、食べる?」
そう言って紗希は、持っていたビニール袋からパンを取り出した。
「あ・・・うん。もらうよ。・・・ありがとう。そう言えば、お腹すいてたんだ。」
紗希がくれたパンに、俺はかぶりついた。
・・・・イチゴジャム味だった。口の中にほどよい酸味と甘みが広がる。
「どう?おいしい?」
紗希は、俺をずっと見つめている。
あの時以来・・・・俺はずっと、紗希が好きだった。
紗希のすべてが好きだった。
優しい声、端麗な顔つき、優しい気遣い・・・・・・。
紗希が隣にいてくれるだけで、俺の心は一時的に「ひきこ」を忘れることができた。
・・・・でも、何か紗希に伝えるべきことを忘れている気がする。
まぁいいや。・・・・・どうせ、くだらないことだろう。

どこか遠くで、たった今確実に、一人の女性の息の根が止まった。
なんとなくだけど、俺はそう感じた。
でも、俺はそれを「くだらないことだ」と感じてしまった・・・・・・。

最近、俺と紗希は、ちょっとした噂の的だった。
「直樹、お前さ、戸川と付き合ってんのか?」
帰り際、俺の悪友の雄也が声をかけてきた。
「いや・・・別に、付き合ってはないけど・・・・・何で?」
「え・・・。だって、さっきだって屋上で二人っきりでイチャイチャしてただろ?」
雄也は、ニヤけた顔で俺に迫った。
「イチャイチャなんて、してねぇよ。」
俺は、雄也を振り払う。
「え・・・?じゃあ何だよ?「恋人未満」ってやつか?」
雄也は、さらに俺を問い詰める。
「うるせぇ。そんなんじゃねぇよ。ただの幼馴染み。あんなの、別に何とも思ってないし、それに、あれのどこがいいんだよ。あんな理屈っぽいやつ。俺のタイプは、もっとおしとやかで、おとなしい女性なんだよ。」

・・・・ごめん。紗希。
俺は心の中で謝った。必死に謝った。

「なぁんだ。つまんねぇの。ま!いいけどな。・・・・・抜け駆けはすんなよ?」
雄也はやっと、俺を解放してくれた。

なんとなく申し訳無い気持ちで、俺は紗希と並んで帰った。
・・・・もう、「恋人」と呼んでもいいのだろうか?
そんな気分で俺は、紗希の長くてサラサラした髪の毛から流れてくる甘い匂いを感じた。俺は今、幸せだった。
「ひきこ」のことは、完全に忘れていた。

ウキウキした気分で夕食を食べていた俺に、親父がツッ込んだ。
「何だぁ?お前、今日はやたらテンション高いなぁ・・・・。これでもできたか?」
親父はそう言って小指を立てる。
「うるせぇよ。親父。」
言葉に反して、顔はニヤニヤしていた。

そうして夕食を終え、自分の部屋に戻った俺は、いつもの癖でケータイをチェックした。
「新着メール 1通」
ディスプレイに表示されたその文字を見たとき、俺は違和感を感じた。

・・・・あれ?珍しいな。紗希はいつも電話をかけてくるのに。

そんな思いで俺は、ケータイを開く。メールボックスを確認し、受信したメールを開く。
送信してきた相手は、「佐倉洋子」
・・・・中学時代の同級生だ。中学の頃はよく一緒にカラオケなどに行ったが、高校に入ってからはあまり会うことが少なくなった。
「あいつからか・・・・珍しいな。」
俺は、そう呟くと内容を読んだ。

直樹へ
久しぶり!元気してた?あたしは相変わらずかな・・・・?
そんなことより、紗希ちゃんとはうまく行ってるのかな?
・・・ごめん。余計なお世話だったね。
本題に入りたいと思います。
昨日、あたしの家のポストに変な手紙が入っていました。内容は、
「わたしは、ひきこ。あなたを、ひきずってあげる。」
・・・・ね?変でしょ?キモくない?
だからさぁ、私その手紙捨てたんだけど、なんか怖くって。
あたし、誰かから恨まれるようなことしたかなぁ・・・・?
ねぇ、直樹はこれ、どう思う?・・・・返信、待ってます。

・・・やばい。
俺は直感でそう感じた。
直樹は急いで「ペア機能」から紗希の連絡先を呼び出し、紗希に電話をかけた。
「はい・・・もしも」
「紗希!?中学校のころ一緒だった「洋子」ってやつ、覚えてるか?」
・・・・思わず叫んでいた。
「え・・・?覚えてるけど、どうかしたの?」
紗希は、直樹の声の調子に動揺していた。
「あいつが狙われてるんだ。・・・「ひきこ」に狙われてるんだ。」
早口でまくしたてる俺がいた。
別に、洋子が心配な訳じゃない・・・・・・。
なんだか、動かなきゃいけない気がした。・・・・・直感で。
「落ち着いて、直樹。「ひきこさん」は、今は大人なのよ。どうして、高校生の私たちを狙う必要があるの?私たちは、彼女をいじめられないのよ。」
紗希の声は震えていた。
「でも・・・洋子から「どうしよう」ってメールが来たんだ。・・・・だから間違いない。間違いなく「ひきこ」は、洋子を狙ってる。」
俺は、自分の説に納得していた。・・・・・・ある一言がしっかりと書かれていたのに。
「だから・・・、彼女が私たちを襲う動機なんて無いのよ?」
今や、涙声で、紗希は俺を説得していた。
おそらく、今の俺は相当恐ろしい剣幕で話をしていたのだろう・・・・・・。
実際、なかなか話を理解してくれない紗希に、多少イライラしていた。
「動機なんて、あいつにはどうでもいいんだ。洋子は、あいつからの手紙がポストに入っていたって言ってた。・・・・だから」
「ちょっと待って。直樹・・・今、なんて言った?「ポスト」って言った?」
涙声ではあったが、さっきよりはっきりした声で紗希が言った。
「え・・・言ったけど、それがどうしたの?」
「いい?・・・落ち着いて聞いてね。その「ひきこさん」からの手紙は、洋子の家のポストに入っていたのよね?」
紗希は、だいぶ落ち着いたみたいだった。
「あぁ・・・入ってた。だから、それが何だよ!」
「だから、落ち着いて聞いて。・・・あのね、単刀直入に言うけど、「ひきこさん」は、洋子じゃなくて、洋子のお父さんかお母さんを狙ってるんじゃいかな?
ほら・・・・、だってそうすれば、年代的にもつじつまが合うし・・・・・・。きっと「ひきこさん」は、洋子じゃなくて、洋子の親を狙ってるんだと思うの。」

俺の心から、何かが引いて行った・・・・・・・・。

そうだ。忘れていた。

確かに、洋子からのメールには、
「ポストに手紙が入っていた。」と書かれていた。

紗希の言うことは、本当につじつまが合う。
・・・・なんてバカな事をしてしまったんだろう。

「あ・・・その、ごめん。俺・・・なんて言うか・・・」
「もういいよ・・・。その代り、今度駅前のパフェ、おごってよね?」
紗希はおそらく微笑んでいるのだろう・・・・・・。
声の調子から、その様子がうかがえた。
紗希との会話を終えた俺は、とりあえず深呼吸した。

・・・・・心を落ち着かせるためだ。

そして俺は、ケータイのアドレス帳から「佐倉洋子」の連絡先を呼び出し、電話をかけた。「・・・もしもし。」
洋子の、懐かしい尖った声が、受話口から流れた。
「あ・・・久し振り。」
本当はメールで返事をすれば良かったのだが、さすがに事態は深刻なので、口頭で伝えることにした。
「あのさ・・・・あのメールのことだけど、あれ、たぶんお前じゃなくて、お前の親宛てだと思う。親父さんかお袋さんかは分からないけど・・・・・・。」
まず、結論から話した。
「なんで?うちのババァ、何かやってたの?」
・・・・変わってない。そう思った。
洋子は、中学の頃から口が悪く、よく、担任とも張り合っていた。
おそらく今でも、それは変わらないのだろう・・・・・・。
中学の頃は、軽いチャラチャラした感じの年上の男と付き合っていた。
別に、それが好みならあれこれ言うつもりはないが、直樹は何となく洋子の将来を案じた。「いや・・・まだ、決まったわけじゃないんだけどね?」
「ふ〜ん。そう言えば、うちのババァ、高校の頃はワルで、結構先公からも目ぇ付けられてたらしいよ・・・・。馬鹿じゃんね?あたし、そう言ってやった。」
何のためらいもなく吐き出された罵声に、俺の心はダメージを受けた。
「あのさ・・・・相変わらず洋子は、親のこと「ババァ」とか呼んでるんだね?」
「え・・・?別にいいじゃん。うちの問題だし。」

・・・・・納得だった。

おそらく「ひきこ」に狙われているのは、洋子の母親なのだろう・・・・・・。
親が親なら子も子だ・・・・・。
どこかの偉人が、そんな事を言っていた気がする。

これはあくまで推測にしか過ぎないが、洋子の母親が高校生だったころ、「ひきこ」は、洋子の母親にもいじめられたのだろう・・・・・・。
そして今、それを復讐しようとしているのだ。

・・・・・なんとなく、身体から力が抜けた。

怖いからじゃない。・・・・許せなかったからだ。
洋子の母親だけを責めることはできないが、それでも洋子の母親がやったことは間違っている。

そんな事を考えている時、受話口の向こうから悲鳴が上がった。
・・・・・そして、電話が切れた。
その日は、雨が降っていた。

たった今、「ひきこ」が洋子を捕らえたのだ。

悟る必要などなかった。
女のおぞましい声が、受話口の向こうから流れてきたのだ。
「さぁ・・・・ママが待ってるよ。」・・・・・・と。
その手にはおそらく、母親の無残な肉片が握られていたのだろう・・・・・・。

・・・・なんだか呆然とした気分のまま、俺はさっきの一連の会話を細かく紗希に話した。「そっか・・・・・。やっぱり、私の推測はあってたんだね?たぶん、直樹の推測も正しいと思う。どうする・・・・?解決してみる?もっとひどいことになる前に。」
「あぁ。そうする。」
そうは言ったものの、俺の身体は恐怖に震えていた。

次の日も、俺と紗希はいつものように屋上で過ごした。
紗希は、「その事件」以来いつも俺のそばに居てくれた。
別に、現場を見たわけではないのだが「ひきこ」の発した、人間離れしたおぞましい声が耳を離れなかった。
「とりあえず、明後日までは晴れてるわ。・・・・それまでに直樹がすべきことは、一日でも多く彼女の中に入り込むこと。」
紗希は、俺の手を優しく握ってくれた。
「・・・できるか、わからない。昨日は・・・・入れなかったし。」
「そっか・・・。たぶん、一応は満たされたからじゃない?彼女の心が。」
紗希はなぜ、こうも他人の気持ちを汲み取るのがうまいのだろう・・・・・・。

幼稚園のときからそうだった。
俺が友達に「嘘つき直ちゃん」とからかわれている時も、紗希は優しかったっけ・・・・?一人で、幼稚園の土管の中で泣いていた時も、
「大丈夫。大丈夫だよ。」
と、ずっとそばに居てくれた・・・・・・・。

・・・・実は同情していた。「ひきこ」の境遇に。
別に、俺の家庭は円満だったが、その時は幼稚園に行くのが地獄だった。
「嫌だ。嫌だ。」と親の袖にすがって泣き、なかなか迎えのバスに乗らなかった。
俺のお袋は、そんな俺を決して怒鳴ったりはしなかった。

・・・・よく考えたら、俺はいろんな事に恵まれている。
いつもそばには、紗希がいてくれるし、家に帰ればお袋が温かくてウマい飯を用意していてくれる。・・・・親父は、なんでも話を聞いてくれるし、それに何より、絶対に怒らない。どんな時も、笑顔でしつけてくれる。
・・・・俺は、笑い声の絶えない家庭で育ったんだ・・・・・・。


でも、「ひきこ」は毎日が地獄で、家でも引きずられて、学校でも引きずられて・・・・・。特に何か、悪いことをしたわけでもない。ただ、普通に生活していて、先生にちょっと気に入られただけなのだ・・・・・・。

それなのに・・・・それなのに・・・・・・。

・・・・・殺してやる・・・・・引きずってやる・・・・・・・。
私は、さっき捕らえた「獲物」を握っていた。
もう跡形もない肉片だけがそこにある。

・・・・雨が降ってきた。予報ははずれたのだ。
紗希は、隣でぐったりする直樹の手を、しっかりと握った。

私は、次に「斉藤さやか」と「久保田敦子」を狙っている。
・・・・・おそらく二人を仕留めるのに、数時間はかからないだろう。

私は・・・・・学校の前を通った。
栄端学園高校。・・・・それは、私の母校であり、憎しみの巣窟だった。
私は、「斉藤さやか」と「久保田敦子」の家を思い浮かべた。


直樹の身体は、今や激しく痙攣している。
紗希はそれでも、直樹の手を握り続けた・・・・・。
「直樹・・・・がんばって。」
紗希には、なんとなく分かっていた。
直樹は今、「ひきこさん」の心の中を覗いているのだと。
そして、事件解決の小さな光を見つけたのだと・・・・・・。

直樹の身体は、静かになった。
・・・・死んでしまったのだろうか?
いや、そうではなかった。・・・・直樹の手は、まだ温かい。
「直樹・・・・直樹。」
紗希は優しく、直樹に声をかけた。

直樹の顔には、涙の筋があった。
「あいつは・・・・・「ひきこ」は、ここでいじめを受けていたんだ・・・・・。」
紗希の手の温もりが返ってきた。
紗希は、静かに直樹を抱きしめた。

温かかった・・・・・・。紗希の身体は。
雨に濡れているはずなのに、その身体にはしっかりとした温もりがあった。
「雨なんて、関係ないんだ。あいつは、自分で雨を作り出せる。あいつが、学校の前を通ったんだ。・・・・嘘じゃ無かった。たった今、本当にあいつは、この学校の前を通ったんだ。・・・・行こう。紗希。もしかしたら、まだ間に合う。」
紗希は、静かにうなずいた。
「でも・・・・まだ昼休みだよ。授業が残ってる。・・・・・時間が無いの?」
紗希は、直樹の耳元で囁いた。
「時間は、まだ大丈夫。・・・・そうだね。まだ、昼休みだった。」
直樹は、「ひきこ」の心の中で見た記憶をたどりながら言った。
放課後・・・・・俺はまた、「ひきこ」に意識を集中した。
今では、俺にはもう一つの特殊能力がある。
「夢で時空間を行き来する」ことと「他人の心に入り込むこと」
おそらく、前回の事件で二つ目の能力は片鱗を見せていたのだろう・・・・・・。
そうでなければ、「口裂け女」に同情することはなかっただろうし、彼女が振り下ろす鎌の軌道を逸らす事もできなかったはずだ。

俺は、「ひきこ」になっていた。
もう、「斉藤さやか」は引きずった後だった。
次は「久保田敦子」・・・あいつを引きずってやる。
久保田敦子の家は、結構な距離がある。
・・・・俺は、自分の心を失わないように、自分の心にも意識を集中した。
今までは、俺の心は完全に「ひきこ」に持っていかれていた。
家に帰って、自転車を取ってくるだけの時間はある。
・・・・・・彼女の記憶から、それを判断した。

そして俺は・・・・・自分の心に戻った。
「紗希、まず、家に帰る。そのあと自転車で「久保田敦子」の家に行く。・・・・どんな人かは分からないけど、その人を逃がして「ひきこ」を誘き寄せる。久保田さんには、なんとか、「ひきこ」に謝罪をしてもらえるようにこっちから頼んでみる。・・・・・どう?紗希は、この計画でうまくいくと思う?」
この時は珍しく、この後の行動がすべて決まっていた。

「うん。上手くいくと思う。」
紗希も同意してくれたわけだし、もう迷う理由はない。
俺は、紗希の手を引き自宅へと走った。

「ただいま!」
「おう!おかえり。直樹。遅かったな・・・」
「親父!自転車借りていい?」
事情は・・・・紗希の飼っている犬がけがをしたから。と言うことにした。
「あぁ・・・。構わないけど。車で送っていった方がいいんじゃないのか?」
「いや!大丈夫。ありがとう、借りてくね。」
俺は親父の自転車のキーと、自分の自転車のキーを持って外に出た。
紗希に、親父の自転車のキーを渡した。


とにかく自転車で走った・・・・・・。
紗希は、ちゃんと付いてきている。

「ひきこ」は、どのルートを使って「久保田敦子」の家に行くのだろう?
途中でばったり・・・・なんてのは、一番あってはいけない。
おそらく、出会ったが最後だろう。
だからこそ、ルートは慎重に選んだ。

そうして、40分か50分走った頃、「久保田」の表札を見つけた。
「ひきこ」は・・・・まだ来ていない。

紗希が、インターホンを押した。
「はい?どちらさん?」
無愛想な声だった。・・・・・でも、時間が無い。
「あの、とにかく逃げてください。・・・・・なんと言うか、時間がないんです。」
紗希が久保田を説得してくれている間、俺は「ひきこ」に、意識を集中した・・・・・。


・・・・・・もう、10分後には「久保田敦子」の家に着く。
そうすれば、主犯格は全滅だ。
これで、さらに私のコレクションは増える。

「紗希、あと10分だ。10分で奴が来る。」
自分の心と、「ひきこ」の心に意識を集中させながら、彼女の行動を探り続けた。

気がつくと俺は、車の後部座席に座っていた。
「大丈夫?・・・・さっきはありがとうね。直樹が、とっさの判断で彼女の心を探ってくれなかったら、私、パニックでうまく久保田さんを説得できなかった。」
紗希は、隣に座っていた。
車を運転しているのは・・・・・・久保田敦子だった。
紗希の役目は終わった。
・・・・ここからは、俺の役目だ。
「あの・・・「ひきこ」に、謝罪をしてくれませんか?俺たちが後ろからサポートするんで。彼女、家でも虐待を受けていたんです。なのに、学校でもいじめられて・・・・・・。」
俺は、伝えられるだけ正確に「ひきこ」の心を伝えた。

久保田も、「ひきこ」に謝罪することを認めてくれた。
どうやら本人も、深く反省していたらしい。

車を降り、しばらく待った。
おそらく「ひきこ」は、激怒している。
「獲物」を取り逃がしたから。
そして、直にここを嗅ぎつけるはずだ。

・・・・・何時間待っただろう。
雨が降ってきた。
いよいよ、「ひきこ」とご対面だ。
遠くの方に人影が見えた。
そして・・・・・・・見つかった。
でも、逃げるつもりはなかった。
だんだん近づいてくるにつれて彼女の顔がはっきりとした。
目と口が、大きく裂けている。
ぼろぼろの服を着て・・・・・・肉片を握っていた。
あれが・・・あの腕がおそらく「斉藤さやか」なのだろう。
「ひきこ」が、久保田の数メートル前で停止した。

「私は醜いか?」
ひきこは、あのおぞましい声で聞いた。
「森さん・・・・ごめんなさい。」
久保田は、そう言って頭を下げた。
「私、怖かった・・・・・。あなたをかばって、私までがいじめられるのが怖かったの。でも・・・でも、今はそれを、すっごく後悔してる・・・・。だからもう止めて。
引きずるのは、もう止めて。もうこれ以上、罪のない人たちに憎しみをぶつけようとしないであげて。・・・・本当に、ごめんなさい。」
久保田は、目に涙をためながら必死で謝った。
「お前は・・・・私の拓也を奪った。」

「ひきこ」にも、想いを寄せる男性がいた。
名前は「森田拓也」
「誤解なの・・・・・。彼は、最後まで森さんの味方だった。森さんが不登校になった時に、森さんの家にプリントやノートを届けていたのは拓也くんだったの。」


確かに・・・・・あれは彼の文字だった。
そうだったんだ。・・・・・彼が、毎日届けてくれていたんだ。
私は、そんな事も知らずに両親やクラスメート、学校や社会を恨んでいたんだ・・・・・。私の心には、申し訳無さが込み上げてきた。

「拓也くんに会いたい。」
「ひきこ」の心を覗いていた俺は、彼女と全く同じタイミングで呟いた。
明らかに、「ひきこ」の表情が変わった。

「ひきこ」の記憶を頼りに、俺は「森田拓也」がどんな人物だったのかを探っておいた。
彼女に、理想の男性がいたことは、かなり早い段階で知っていた。
俺は、「森田拓也」を想像しながら「ひきこ」に宛てた手紙を書いた。

俺はその手紙を取り出し、
「妃姫子さん・・・・読んでください。」
と、その手紙を手渡した。

手紙を読む「ひきこ」の顔が、だんだん元に戻っていった。
「あぁ・・・拓也くん。ごめんなさい。私の独りよがりだったのね。」
今の彼女の顔に「ひきこ」の化け物じみた片鱗はなく、そこに存在したのは、
一人の女性、「森妃姫子」だった。
彼女は、手紙を胸に当て、その手紙が放つ光を全身に浴びた。
「ごめんなさい・・・・・久保田さん。」
そう言って「森妃姫子」は、光に包まれ天へと昇って行った。

・・・・・・終わった。腰が抜けてしまい、地面に倒れこんだ。
気が付いたら、夜の7時をだいぶ過ぎていた。
久保田さんはわざわざ、俺と紗希を自宅まで送ってくれた。
久保田さんも一緒に、帰りが遅くなったことを謝罪してくれた。

・・・・・こうして、今回の件は幕を閉じた。
「もう嫌だ。」俺はソファに座り込み、亜季の出してくれた紅茶を飲みながら呟いた。
さすがに、もう二度とやりたくないと思った。
紗希も同じ考えだったことを、次の日に学校で伝えてくれた。


俺は、今回の事件で改めて家族や友達の大切さを知った。
・・・・そして、「いじめ」や「虐待」と言った「人の心の闇」が生み出すものがどれだけ恐ろしいものなのかも知った。

・・・そして、「人の心の弱さ」も知った。
友達がいじめを受けていると知りながら、それをただ見ているしかできなかった人間の、心の弱さを知った。
だから・・・・「優しさ」がどれだけ温かくて強く輝くものなのかを知ることもできた。

だからみんなも、「いじめ」はやめてほしい。
そりゃ、合う合わないは人間同士だから当然あることだとは思う。
・・・・でも、だからって「いじめていい」理由にはならないし、いじめられた方も、
とてつもなく辛い。いじめてる方も、とてつもなく辛いでしょ?
今回、「ひきこ」の心をのぞいてそう思った。



月が静かに、西の空へと沈んでいった・・・・・・。

<おしまい>

後書き

展開が、前回と被ってしまったのが、今回の大きな反省点だなぁ・・・。と、物語を読み返して思いました。「過去に婚約者や想いを寄せる人物がいた・・・。」以外に、展開が思いつかず、また同じ展開になってしまいました。第四章以降は、そういう点を改善しつつ、様々な「都市伝説」を自分なりの解釈で書き進めていきたいと思います。今回も、ご一読ありがとうございました。感想をお待ちしております。感想ですが、好評から酷評まで、どしどし受け付けております。(ただし、あまり辛口なコメントは耐えられないので、「中辛」くらいで、お願いします。)

この小説について

タイトル 都市伝説 第二章 〜ひきこさん〜
初版 2009年9月15日
改訂 2009年9月15日
小説ID 3490
閲覧数 2180
合計★ 8
かっぱの写真
駆け出し
作家名 ★かっぱ
作家ID 583
投稿数 3
★の数 26
活動度 301
初めまして!お目汚しとは思いますが、精一杯書きました。読んだら、感想をください。お願いします。

コメント (5)

初芽楓 2009年9月17日 15時58分01秒
今回のもとてもよかったです!!!

次回作もがんばってください、楽しみにしています。
匿名 コメントのみ 2009年9月17日 19時54分03秒
あんまり軽軽しく、5は付けない方がいい。初芽さん。
ランキングなどで不評を買うことは間違いないだろう。
自分の小説にもコメントがつけられなくなるかもしれないから。
注意だけはしておく。
ふざけ半分はよしてほしい。
コメントは、星をつけるためにあるのではなくその小説を良い良いものにするためにあるのだということをきちんと考えてほしい。

小説について…

度々視点が代わって非常に読みにくい。
小説上仕方がないのかもしれないがもう少し工夫をしたらいかがだろう。
小説のサポートピックというものも最近できたのでそこら辺を利用したり、しないとはっきり言ってボロボロだ。
ストーリーはいいものだが、そこら辺がダメ。
また、ちょっとベタな部分もある。
では失礼する。
なすび コメントのみ 2009年9月19日 17時47分14秒
たしかに、視点がかわってよみにくいけど、ボロボロってほどでもないよ!

だから自信をもってがんばってね!
★かっぱ コメントのみ 2009年9月19日 23時38分50秒
非常に温かいコメント、毎回感謝してます。今まで、「アドバイス」をくださる方が多いのも、非常にうれしいです。前の投稿サイトでは「ヘタ」だとか「読みにくい」と、何のアドバイスもなく終わってしまうケースが多かったので、ここで皆さんがしてくれるアドバイスは、自分にとって、非常に活力になっています。これからも、面白い作品になるように努力していくので、応援よろしくお願いします。
★仮面ライター 2009年9月27日 10時10分52秒
やっぱりおもしろい!
1章を読んでいなかったら、1章よりおもしろいと思います。

というのも、かっぱさんが自分で言うようにかぶっちゃってるんですよね。

あと、紗希が異常なくらい冷静でなんか・・・・うん。なんかです。

だって人が死にそうなのに、授業があるからってなにもしないなんておかしいでしょ!!
サボってでも行くべきです。

まぁそんな感じです。
じゃあまた3章で・・・
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