りれしょ物語 - わらしべ長者

「あ、居た。本寺くん。それにいーちゃんじゃない」
 未だ花火を購入する手立ても思いつかないまま、俺がキリカ先生に引きずられていると、俺達の声を聞きつけたのか、咲さんが杖をつきながら歩み寄ってきた。キリカ先生が、咲さんを導くように手を取って支える。
「今日は犬と一緒じゃないのか」
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。杖があれば、歩けるし。ああ、そうそう本寺君。花火の事だけど、秋もパスって言ってたわ。やっぱり村崎くんと一緒がいいのねえ」
 咲さんは小さく笑いながら言う。そうなると、これは本格的に小雪と二人で花火が出来そうだ。花火を調達できる資金さえあれば。
 キリカ先生に金を借りようと思ったが、先生に借りるときちんと返さなきゃいけない。一円の狂いも一秒の遅れも許されない。そこまで金に関して困りたくないので、俺は自力で何とかしようと思ったのだが。
 キリカ先生は俺を小雪の家で説教したいらしく、俺は自由に動けもしない。このまま抵抗せずに居ると、問答無用で地獄の説教が襲ってくる。
 何か逃れる手は無いかと、俺が辺りを見回していた時。キャップを被った小さな男の子が、道端で泣いていた。思わず俺はキリカ先生に言った。
「せっ、先生。あの子、泣いてるみたいなんで話聞いてあげてもいいですか?」
「……逃げるつもりじゃないだろうな?」
「ま、まさか。イタタッ、ほ、本当ですって!」
 耳をつねってくるキリカ先生に、俺は必死で言う。そりゃ、逃げようと思ったけど、逃げたら後が怖いのは分かりきっている事だ。咲さんに説得され、キリカ先生が後ろから見張っているという条件付きで先生は納得し、俺はやっと解放された。すぐに男の子の傍に駆け寄る。
「どうした?」
「グスッ……ふーせん……お母さんにもらったの、引っかかっちゃった……」
 男の子は泣きながらそう言う。上を見上げると、街路樹の枝先に、ピンク色の風船が引っかかっている。俺は、街路樹によじ登って枝の先へと手を伸ばした。もう少しで届きそうなところで、俺の指と身体は悲鳴を上げ始めた。
 指は引きつるし、身体というか腰は引けるんだし。これが、運動していないツケか、と思っていた瞬間、俺の手は風船の紐を掴んだ。と、思った時、枝から滑り落ちて俺の身体は重力さながらに下へと急降下した。
「ぎゃああっ! ぶべっ!!」
 とても無様な声と共に、俺は下、街路樹を囲むように植えられた植木の上へ落下した。元々そんな高さは無く、せいぜい二メートルくらいで、植木もクッションとなってかなり衝撃は緩和されたはずだが、それでも背中は痛かった。体中に葉っぱが付いて緑の妖怪みたいになったし。
 それでも俺は、離さず持っていた風船を、男の子へ手渡した。男の子はにっこり笑って、お礼にと、小さなレモン味ののど飴をくれた。
 のど飴一個でも、喉は潤うかと思ったが、俺は後で食べようと思ってポケットにのど飴を入れ、キリカ先生達の元へと戻った。


 咲さんの計らいで何とか引きずられずに済んでいる俺だが、花火への道は一向に開かれていなかった。現時点で俺の手元にあるのは、丁度三百円とレモン味ののど飴が一個。絶望的過ぎる。
 事情を知った咲さんは、俺に同情してくれてお金を貸してくれようとしたが、俺自身の事に首を突っ込むのは良くないとキリカ先生が言い、結局ナシになった。流石に迷惑かけすぎだし、やっぱり駄目だよな。
俺がため息をついて、キリカさんたちと共に横断歩道に差し掛かると、隣に居たおじいさんが突然咳き込み始めた。
「ゲホッ、ゲホッゴホッ!!」
「だ、大丈夫ですか? これ、どうぞ」
 余りに辛そうなので、俺はポケットから先ほどもらったのど飴を取り出しておじいさんにあげた。おじいさんはのど飴を舐めると咳が落ち着いた様で、俺に深々と頭を下げてきた。
「す、すまんのぉ。助かったわい。お礼といってはなんじゃが、ほれ」
「は、はあ」
 そう言っておじいさんは林檎が沢山入ったスーパーの袋から林檎を一個取り出して俺にくれた。
「いいんですか?」
「構わんよ。お礼じゃ」
「あ、ありがとうございます」
 俺も頭を下げて、ありがたく林檎を受け取った。後で小雪の家に着いたら剥いて、食べさせてやろう。
 そう思った矢先、通りかかった公園で行き倒れているホームレスを見つけ、お腹が減っているというので林檎をあげると、とても感謝された。一緒に住んでいると思われるホームレス仲間の所へ連れて行くと、これまた偉く感謝され、助けてくれたお礼にと一リットルの牛乳をくれた。
 のど飴が林檎になり、そして牛乳になったのを見て、咲さんが嬉しそうに言った。
「本寺君、わらしべ長者みたいね」
「わらしべ長者……ああ、一本のわらしべから段々価値の高いものに交換していって、最終的には長者になるってやつですよね。でも、わらしべ長者っていうより物々交換の気が……それに出来るなら、お金が欲しいし」
「贅沢言うな、全く。人を助けて感謝されて、物まで貰えるんだ。充分長者だろう」
 先さんとは対照的に、キリカ先生は俺をたしなめる様に言う。確かにそう言われれば、そうなのかもしれないが。肝心の花火、或いはお金とは全く無縁なのも事実だった。


 もうすぐ小雪の家に着く。俺が半ば諦めかけていた時、突然咲さんが近くのコンビニを指さして言った。
「コンビニで飲み物買って良い? 喉が渇いちゃって」
「ああ、はい」
「別にいいが、早くしろよ」
 俺が頷くとキリカ先生は急かすかのように言う。早く俺の説教をしたくて堪らないって顔してる。俺は覚悟を決めることにした。
 コンビニへと入ると、咲さんは後ろにある飲み物の売り場へと歩いていく。俺とキリカ先生も咲さんについて行って飲み物の所へと辿り着く。既に夕方なので店員さん二人と、他に一人、眼鏡をかけ、藍色のエプロンを着た真面目そうな男性しか居ない静かな店内だった。
 しかし、穏やかな雰囲気は一気に崩れ去った。勢い良くコンビニの自動ドアから一人の男が入ってくる。全身黒ずくめで、覆面までしている。男は近くにいた藍色のエプロンを着た男の人の腕を掴むと、その首にナイフを突きつけた。その場に居た俺達全員の表情が強張る。
 俺とキリカ先生は咄嗟に咲さんを守るように彼女の前へと立ち塞がった。咲さんも目は見えないのだが、何かの違和感を感じ取ったらしく、大人しく手に取りかけたジュースを棚に戻して俺とキリカ先生の後ろへと隠れた。
「金だ、有り金全部よこしやがれ! さもないとこいつの命はねえぞ!!」
 覆面の男は酒にでも酔っているのか、ふらいついた足取りながらも大声で叫ぶ。店員二人は茫然していたが、人質となった男性を見て、急いでレジの中のお金をビニール袋へ入れ始める。
「ちっ……あいつ一人なら、私が何とかするんだが……人質が居るとなると厳しいな」
「それに、酔っているみたいですし。興奮させると厄介ですよ……」
 俺とキリカ先生が小声で話していると、咲さんが思いついたように、俺達の肩を叩いてきた。
「ね、私に良い考えがあるの。協力してくれる?」
 咲さんの考えを聞いた後、俺もキリカ先生も頷いた。
 覆面の男は、余程お金に目が眩んでいるのか、せっせとお金を袋へ詰めている店員の方を見入っている。咲さんとキリカ先生、それに俺は足音を立てない様にそっと覆面の男の方に近付いて行く。
 咲さんとキリカ先生が先立って俺の前に立つ。
 咲さんが、そっと覆面の男へ声をかける。
「あの……」
「ああん?」
 覆面の男が振り返った瞬間、咲さんは開けておいた牛乳を覆面の男へとぶちまけた。男の覆面が白く濡れる。
「ぶわっ! な、なん……」
 男が全てを言う前に、キリカ先生は素早く男に足蹴りを喰らわせ、男がキリカ先生の蹴りと床に零れた牛乳に滑って転ぶと、俺は即座に人質になっていた藍色のエプロンの男性を覆面の男から遠ざけた。
 そうして振り返ってみると、キリカ先生は既に男の腕を捻り上げ、覆面を剥いで男を憤怒の形相で睨みつけていた。
「強盗なんてセコイ真似するな、このどアホが!!」
「すっ、すみませええん! 許してください!」
 覆面の男は最早酔いを通り越し、真っ青になって必死でキリカ先生に土下座している。それもそうだ。キリカ先生の憤怒の表情、それは俺や店員も思わず息を飲んでしまうほどの怖さだったからだ。


 強盗犯を警察へと引き渡すと、俺達は警察、そしてコンビニの店員達からもお礼を言われた。警察からは感謝状も授与されるという。牛乳が、最終的には感謝状になったのだ。キリカ先生も良い事をしたとご機嫌になり、説教は短めにしてくれるという。
 咲さんは俺とキリカ先生に向かって笑う。
「うふふ、お手柄じゃない」
「いやー、咲さんの作戦のお陰ですよ。あと、キリカ先生の迫力のお陰……」
「何か言ったか」
「いえ、なんでもありませ……うがあっ!」
 俺がキリカ先生に首を絞められ、危うく窒息寸前になりかけた時、先ほど人質になっていた藍色のエプロンの男性が俺達の方に走ってくる。
「ありがとうございました。本当に感謝してもしきれないくらいです。何か、お礼をさせてもらえませんか?」
「いや、お礼っていっても……今必要なのって花火か、おか……がはっ!」
 お金、と言おうとしたところでまたもやキリカ先生に止められた。というか腹を思い切り殴られた。そんなもの強請るな、という目で睨んでくる。
 すると、藍色のエプロンの男性は笑顔で言った。
「花火ですか。丁度いい、私、花火屋を営んでいまして。宜しかったら、一式持って行って下さい」
「え?」
 俺の素っ頓狂な声と、キリカ先生や咲さんの驚きの表情に不思議そうにしながらも、藍色のエプロンの男性は笑顔のままだ。どうやら、夢でも幻でもなさそうだ。
「い、いいんですか? 無料で?」
「どうぞどうぞ。命を助けてもらったお礼には、安すぎるかもしれませんが」
 俺は一気に生き返ったような気持ちになった。キリカ先生は納得行かない顔だったが、咲さんは微笑みながらキリカ先生を宥めている。
 まさしく、今日一日の俺はわらしべ長者だったわけで、結果的に俺は小雪との約束の為の花火を見事獲得した。


後書き

お久しぶりですー。
うあ、小説自体書くのがご無沙汰です……。
受験生って嫌ですねえ。夏休みもあってないようなものでしたし。
キリカ先生も咲さんもなかなか目立つキャラに。生みの親としては嬉しい限りです。ま、私が押している面もありますが(笑)

次は梨音さんですね。肝心の花火残しちゃってすみませんが、お願いします。
はてさて、次はどうなるのか。楽しみにしております。それでは!

この小説について

タイトル わらしべ長者
初版 2009年9月23日
改訂 2009年9月23日
小説ID 3512
閲覧数 1024
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ひとり雨の写真
作家名 ★ひとり雨
作家ID 223
投稿数 91
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活動度 10590

コメント (2)

★日直 コメントのみ 2009年9月23日 21時06分45秒
読みましたー。うはあ、剛運が良いですね。水難等で不運続きだった分、運気が溜まっていたのでしょう。やあいがったいがった(笑) それにしてもキリカ先生って結構キャラが立ってますよね。スパルタ先生だからでしょうか。そういえば自分が書いている時もキリカ先生は個人的に動かしやすかったです。

さて、ここからはちょっと気になった部分を指摘しゃおうと思います。
最初辺りで男の子からレモン味ののど飴を貰う場面。あそこがなんだかやたら伏線臭くて、すぐに今後どうなるかの予想が大体ついてしまったため、面白さが半減してしまったような気分になりました。もう少し自然に流せれば良かったんじゃないかなあと思います。具体的に言いますと、男の子からのど飴を貰った後に
「ポケットにのど飴を入れ、キリカ先生達の元へと戻った。」
と文章を区切って場面を変えず、ここでもっと剛の感想を書き込んだり、キリカ先生達との会話文(咲さんが剛のしたことを褒めたり)を挿し入れたりすれば、読み手にのど飴を伏線として見られず自然体が築ける気がするのです。
あと、全体的に実況描写ばかりで、一人称形式にしては感情移入し難かったです。やはりもう少し場面場面で剛の感想が欲しいところですね。

いよいよ二人きりの花火大会が始まりますね。恋人関係を築く男女二人に花火と来れば、なんだかアバンチュールな予感がしないでたまらない僕であります。わくわく。
★梨音 2009年9月27日 10時15分53秒
わらしべ長者な剛くん。羨ましい。

たまたま入ったコンビにで強盗に出くわすとは、不運なんだか強運なんだか……。
スパルタなキリカ先生、私に書けるか不安です〜。

二人きりの花火大会になるか、邪魔者がでるか、ただいま思案中で〜す。
淡い青春の一ページを書く予定なので、気長にお待ち下さいませ^^
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