バサント

「いよいよ、本番がやってきたね」
「ああ、この日のために、一生懸命やってきたんだ、必ず勝てるよ」
「ええ、きっと勝てるわ」
「よし、そろそろ準備を始めようかな」
「ああ、いってらっしゃい」

こうして私ことラナは分厚い胸毛と白いあご髭を自慢するように胸を張って家を出た。家族とは会場で出会うことにしている。
道は混んでいる。長く続いた寒い乾季が終わり、ようやく春が近づいてきたのだ。
時は2月中旬、今年は雪こそなかったが、外に出ても周りには緑がなく、さみしい時期がだいぶ続いていた。宗教の問題で酒を飲むことはできない。あまり公にはできないのだが、こっそりとたばこを吸ってなんとかしのいできた。しかし、このおまつりが終われば静かに芽吹いていた木々が一気に開花し、野原には延々と続く色とりどりの花が咲き乱れることだろう。
根は明るい人が多いのがこの町の特徴だろう。街にはコンクリートで舗装された道などわずかしかなく、土埃の舞うがたがた道が入り組んでいる。すでに一昨日から祭りは始まっていた。だから、あちらこちらで露店が開かれ、普段は見慣れない外国の人もいる。

「おおお、お前も出るんだな。今年こそ、俺ん家が一番になるから、見てろよ」
「はは、お前ん家じゃ、無理だろ。まあ、ゆっくり楽しめ」
「うるさい、じゃあな。嫌なやつに会っちまった。」

あいつはこの辺では有名な金持ちだ。確か名前はジャハール。シャー家といえばこの町で知らない人はいないくらいだ。実は3年ほど前まではあいつの店で働いていた。歳は同じくらいのはずなのに、いつでも偉そうで命令されてばかりだった。
ある日レジにある現金を盗んだのがばれて、クビになっちまったが、今でも会う度に嫌みを言ってくるいやな奴だ。

今向かっているのはアクションパークというところ。ここで今日のメインイベントが開かれる。手には何も持っていないが、今は電車に乗って向っている。本当に今日は人が多い。毎年の事だから仕方がないが、後ろから蹴られたり、殴られたりされている気がする。まあ、これだけ体が密着していて上下に揺れてるのだから仕方がないが。

「おい、てめえなにしやがった」
「ああ?うるせえな、狭いんだから小さいことにこだわんなよ」
「小さいことだと。おれにとっちゃ大事なことなんだよ。なめんなよ」

案の定喧嘩があちらこちらで起きている。今は、ただ巻き込まれないように祈るばかりだ。
 ようやく、近くの駅まで来た。
「あれ、お〜い」
 しばらく見なかった顔を見かけた。私の元彼女だ。
「お〜い」
「あら、久しぶりね」
 実は彼女大学時代のミス・ユニバースで、私が言うのもなんだが相当美人だ。
「久しぶりだな。元気か」
「ええ、元気よ。あなたはどこに行くの」
「実はこれから大事な用事があってね」
「へえそうなの。」
「今は一人かい」
「これから、友達と一緒に試合を見に行くの。あなたも一緒にどうかしら」

 すごく行きたい。一緒に行きたい。彼女と別れてから、今までずっと彼女がいない。だから、これを機会に元に戻りたい。でも。
「実はその試合に出場するつもりでね、残念だけど準備とかいろいろあって、一緒には」
「そうなの、じゃあ、後で探してみるわ」
「うん。今年はかなり自信があるんだ。だから、ぜひ見に来てくれよ」
「ええ」

「お〜い、まったかい」
「あら、早かったわね。そういえば、まだ紹介してなかったわね。昔からの友達で、こちら・・・あれ」

 くっそ、よりによってその友達があいつかよ。きっと、今頃楽しそうにしてるんだろうな。早く忘れよう。
 速足でその場をたち去った。今は歩いて行くしかないが、すぐに着くだろう。しかし、下を向いてとぼとぼ歩いている余裕はない。みんな早歩きだからだ。ゆっくり歩いていたらすぐに喧嘩になるだろう。みんなそれぞれに楽しんでいる割にけんかっ早いから。

 ようやく到着した。結構大きな広場である。傍には大きな湖があるが、ボートを浮かべて試合開始を待っている人が大勢いる。目的の場所はもう目の前。

「おーい、配達や。どこだ」
「おおう、そこか。ほらよ」
「どうも」

 どうにか荷物が届いた。この国では人が移動するときには何も持たないのがふつうである。もちろん、財布や時計など小さなものは自分で持つが、手に握ったり背負ったり、時には弁当なども届けてもらったりする。そんなわけで今日も大切なたこをもってきてもらった。たこです。ええ、たこです。とてもかわいいたこです。

 しばらくすると家族がやってきた。白いガウンのような服を着ている父とその隣に煌びやかな格好をしているが、いろいろな人がいすぎてまったく目だっていない母親。そして、兄のエイモンもやってきている。私は手続きのため一人で先にやってきていたが、今日は兄と二人で試合に臨む。
 すでに周りではタコの組み立てが始まっている。
「よし、ラナ。そろそろ俺たちも始めようか」
「ああ。」
 気持ちが揺らいで力強い返事ができない。ちょっと情けないが先ほどの元恋人との出会いが、まだ頭から離れない。でも、今は年に一回しかないこのおまつりに集中しよう。

 パーン、パーン・・・ドーン

小さい銃声の後に大砲が放たれた音がした。つまりこれがスタートの合図となる。私たちの家のタコは四角形の一角に円形のものをくっつけ、黄色と赤色でペイントした簡単なデザインである。ただ大きさはシングルベッド並みの大きさがある。もちろんサイズの規定や使える素材は決まっている。しかし、それ以上に相手のタコを落とす練習に力を入れてきた。
 優勝する為には最低20近くのタコを落とさなくてはいけない。しかし、そこまでの強度を持っている糸などないのである。そのため、一度だけ交換が許されている。
 
「おい、ぼーっとしてるんじゃないぞ。もう試合は始まってるんだからな」
「ああ、わかっているよ」
「ほら、右からなんかやってきたぞ」

 しばらく格闘をした。長くなれば4、5時間は平気で続く。その間タコをおろしていいのは糸の交換の一度だけである。広い公園とは言え何百というたこが揚がっている。ただ見るだけなら圧巻の光景であるが、やっている者にとっては果てしないだけ。

 兄と交代しながら取り敢えずタコを上げ続けることに集中する。はじめのうちから調子に乗って他のタコに挑んでいってもただ疲れるだけであるし、不意な事故で落ちてしまったら悔やみきれない。というか、以前にそういうことを経験している。
 ただ、向こうからやってくる分にはこちらも立ち向かわなくてはいけない。そして、一つ一つに集中していると時間はすぐにたっていく。すでに3時間は経過したようである。取り敢えず周りに見えるタコは10くらいである。全体でも20くらいにへっているであろう。

「おい、ラナ。そろそろこちらから仕掛けに行くが、体力はどうだ」
「腕が重いけど、大丈夫だよ」
「よし、いい答えだ。どうしたら相手のタコを落とせるかはわかってるな」
「ああ、大丈夫まかせてくれ」

ここからが本番。なぜなら、ちょうど前方20メートルくらいのところにシャー一家のだしているタコが2匹待ち構えているからだ。しかし、いっぺんに2匹も相手にすることはできない。まずは、近くにいた人に相談をしないといけない。

共闘・・・二つ以上の組織が共同して闘争すること

 取り敢えず近くにいるやつらに声をかけていく。しかし、シャー1家は毎年必ず優勝争いに残る強豪である。他にもいくつか強いところはいるが、一見ぱっとしないのは私たちだけ。だから、誰も相手をしてくれない。
 数が20を切ってからしばらくは、静けさが漂うからだ。相手が疲れるのを待って一気に攻勢に出るタイミングを待っている。そんな中で一生懸命ともに戦う相手を探すのはばかげているが、とりあえずあいつらだけは倒したいというのは兄のエイモンも同じだろう。
 
「おら、どうだ」
「なーにい、このやろう」
「うるせえ、さっさと帰れ」

遠くの方で戦いが始まった。こうなるともう手はつけられない、とにかく目の前にいる奴に突っかかっていくしかない。そうしないと、こっちよりも腕のいいタコにあっという間に落とされてしまうからだ。取り敢えず、近くにいた緑、黄色、黒色の三色凧に向かっていく。
とりあえず勝った。
「ラナ、気をつけろよ、敵はどこから来るかわからないからな」
「あっ、う、うん?」

なんか手が軽くなった。上を見上げようとした瞬間。目の前にタコが覆いかぶさってきた。家族や兄のエイモンらしき声が「あーあ」と、ため息をついている。
 まあ、一瞬で何が起きたかはわかった。俺も馬鹿じゃない。

 タコをそっとどかして、目を開けた。まず目に入ったのは向こうの方で勝ち誇ったようにしているあいつだ。というか、どうやら本当に勝ったらしい。兄のエイモンの目線をたどって、周りを見渡すと他の家族たちもがっくりしている。そりゃそうだ。

 ドーン、ドーン、パーン

「きゃー」
 終わりの発砲があった。と同時に悲鳴も上がった。まあ、よくない悪習ではあるが、誰かが流れ弾に当たったのであろう。だから、この国の人々は軍があまり好きではない。配慮が足りないから。

 速やかにタコをしまうと家族と一緒に家に変えることにした。でも、ふっと眼がいったら悲しいお知らせが舞い込んだ。といっても心の中に勝手にやってきた迷惑なものであるが。
 うん、元カノがあいつと腕組んでた。
もう、帰ろう。

「兄ちゃん。来年は勝てるかな」
「どうかな」
「そうだね」

後書き

ようやく、パキスタンのプレゼンテーションが作りおわった。その中の一つバサントとというたこあげのお祭りです。まあ、日本にもあるものですし、内容も新しいものではないのでおもしろくないと思います。
ここまで読んでくださった方がいるならありがとうございました。

この小説について

タイトル バサント
初版 2009年10月16日
改訂 2009年10月16日
小説ID 3562
閲覧数 704
合計★ 2
斉 圭玉の写真
ぬし
作家名 ★斉 圭玉
作家ID 541
投稿数 22
★の数 18
活動度 2364
趣味は農業です。

コメント (1)

★せんべい 2009年10月16日 21時00分20秒
始めまして、せんべいと申します。

なるほど、パキスタンのお祭りですか。
面白くないと後書きでは申されておられますが、僕には非常に興味深い作品でした。
日常、とはちょっと違った印象ですね。やはり、舞台がパキスタンだからでしょうか。
乾季とか、そういう言葉がそうさせたのでしょうか。

・・・と、話は変わり、連続投稿は控えられた方がいいんじゃないかなーとか言ってみたり・・・。
マナーの問題ですからね。(本当は自分もよく知らないので、こわごわ言ってみる)


では、また機会があれば斉さんの作品を読ませていただきますね♪
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