汎球の小さな息吹 - 世界の始まり

「では話に入ろうかの。ところで、私らが住んどるこの世界はいつ始まったかじゃが、1億年とも1億5千年前とも言われておって、定かにはなっていないらしいが、想像つかん限りで同じじゃな。そのころこの惑星はこの広い宇宙に浮かぶ小さなくず達だったそうである。神々の世界では小さなくずを集めて惑星を作ることが行われていたんじゃ。いつの日かミトレスという女の女神がいたそうで、女神ミトレスも同様にくずをいくつも集めて小さな球体を作ったそうじゃ。そして、命を吹き込み、長い月日が球体を育てて、この惑星が出来上がったのだ。少しずつ膨張して今の姿に近づいていったそうだが、初めは水と岩ばかりで生き物なんていなかったそうだ。しかし、女神ミトレスはあるとき、そんな寂しい姿を見て大粒の涙を流して、それが惑星に降り積もることでくっつき固まり、パンゲアという大陸ができたのじゃ。」

とそこで、アレンが質問をした。

「あのー、ほかの大陸もあるってことになりますよね」

「ほっほっほっ、どうかな、わしらの間では伝説になっているのじゃがな。いかんせん見たものがいないのだから証明はできないのだよ」

「そうかあ、でも、海の向こうにはきっと何かがあるんですよね」

「そうじゃな、ただ説明できるような人がいないからな、勝手な憶測ばかりで話すことはできんな。だが海はとっても広いらしい。ここには湖はあるが海はないのでな、わし自信見たことが無いのじゃよ。お前たちの中でも海なんてもの見られるのは一人か二人といったところかな。どこまでも続く水面と噴き上がる波飛沫、その上を飛び回る鳥と白い雲、想像してみなさい」

と聞くと、海の近くに行ったことのない青年団のみんなは圧倒的な水量の海とその先にあるかもしれない別の大陸を創造しようとした。見たことのない物を学校で使った教科書に書いてあった絵だけで思い浮かべることはできなかった。

「では、話を戻すとするかな。神とは言え万能ではない女神ミトレスは岩と海と大陸しかない自分の星を見て、生命を根付かせたいと思っていたのだが、その方法が分からなかった。苦しみの果てにミトレスは良人(おっと)を見つけたのじゃ。その彼の名はオタマイ。二人は毎日のように目合い続け、多くの子供を作った。それらは神ではなく大地の子として生まれてきた。それらは木や草、目に見えんほどの小さな生物となり、やがて彼らが世界中に散らばると緑で一杯になった。初めは石の上では長く生きていることはできなかったが、時間とともに小さな生き物たちが積み重なり土が生れ、ミトレスは召使として蛇や狼、羊、牛、豚、魚、鳥などを作ることができるようになった。するとその召使を使い、自らの傍らに置いたり、世界中に派遣したりして世の中に秩序を作った。そして、私達人間もその一部として生まれ、世界各地に遣わされたのじゃ。」

「・・・・・」

世界の中心にいるのは人間ではない。多くの生き物の中の一種として生まれてきた。

「それからも淡々と時間は進んだが、楽なことばかりではなかった。艱難辛苦の末現在に至るのじゃ。だが、ここら辺でわしは疲れたので、先を知りたいものは改めて聞いとくれ」

「えっ」

さすがに90歳もの高齢になると、大勢の人を前にして話すのは疲れるようであったが、話がこんな中途半端なままではだれも納得できない。

「では、最後に一つ聞きたいことがあるのですが、その話が本当ならばこの星を作った女神ミトレスは今はどこにいるのでしょうか。私には人間が縦横無尽に闊歩しているように見えるのですが」

と、せめてこの部分だけを聞いておかないと気が済まなくなった男の子が聞いた。

「そうじゃな、それは建国神話にもつながるんじゃがな。誰かかわりに話をしてやりなさい」

「はい、ではここからは私が話しましょう」

とA地区代表として来ていた男性が答えた。

「おお、お前かよし頼んだぞ」

「はい、えーと。ミトレスとオタマイは木や草花たちを神の子として生み出した。そうやってミトレスの願いどおりにこの世界の緑を増やしていったのだが、いつしかこの惑星と女神ミトレスの命は一進一退の離れられないくらい融合していった。この惑星で生き物がなくなるたびにミトレスは嘆き悲しんだ。しかし、それでは体も持たないし、その度に地震や嵐といったものが起き、さらに事態は悪化していった。彼らが生んだ生き物たちには永遠の命は与えられていなかったからな、そして、彼女の起こす天変地異によって地形や山など色々な地形ができた。地形が変わり、二人の支配が行きとどかなくなると、それまで支配下にあった者たちは、自らの力で姿を変え、自由に生きるようになってきた。私たちはそれを進化と呼んでいるがな。」

「それだけで、神の力はなくなったということですか?」

「いやいや、単純にそうだとは言えんな。今から約4000年以上前だな、勝手気ままにふるまうようになったのは、私達人間たちだった。そして、人間は神の生んだ動物たちを無差別的に殺し始めたのだよ。そして、それに怒ったのはオタマイだった。彼は人間を滅ぼしてしまおうと、自ら一人で地上階へやって来て、一人また一人と人間を消していったそうなんだ。」

「なぜ、一人一人なのですか?」

「それは世界がしっかり確立されてきたいたわけではなく、各々が独自に進化し始め、さまざまな生き物が混じりあっていたためさ。彼らのような神の力では人間だけを消し去ることはできなかったのだ。それに彼らの力もだんだんと弱まっていたし、人間を消すなんて作業を手伝ってくれる他の神もいなかったらしいのでな」

「成程、ではその時ミトレスはどうしていたのですか」

「ああ、ミトレスはひどく衰弱していたのでな、それまで二人が生活していた、この世界のどこかにあるが、人のいる地上とは別のオルペファという楽園にいたのだ。だからオタマイが一人でやってきたということだな」

「はい」

「では続きに戻るのだが、幾ら神だとは言っても、オタマイだけではできることにも限界があったようなのだ。そこで、人間の迫害を受けていた鹿や獅子、虎、犬、狼といった者たちを連れて戦った。すると人間の方でも仲間を増やし、それまでのある程度平和な世界は、陵谷遷貿、戦いは各地で巻き起こり始めは人間側が押されていたのだが、、様々な武器や罠を開発し、なんと長い戦いの末に神であるオタマイを捕まえてしまった。そして彼をだましてオルペファへ行き、ミトレスとの直接交渉をした。さすがに神を脅したり殺そうとしたりはしなかったらしいがな。この話し合いでミトレスとオタマイはこの星の中心にあるといわれる核の部分に移り、地上世界は人々が治めるということになった。その時から人間はこの地上で大きな顔をして暮らしているのだ」

話している男の名はガムファ。50歳という年齢にしては少し老けているようにみえ、顔には皺が目立ち、白髪混じりで髭は真っ白、みなが黙って聞いているのを見ながら、黙り、怖い顔をしながら周りを見回した。

「しかし、人間が勝ったのはいいが、この広い世界をいきなり支配することは出来なかった。、また、ミトレスが置き土産としてこの世界に元々大きくあった地上を引き裂き、幾つもの大陸に分けたのでより困難になった。それでも人々は多くの動物を殺し、木を切り倒して統治しやすいようにしていった。人は利用できるものは何でも利用し食べられるものは何でも食べた。長い間全てのものの頂点に立つ王者だと疑うこともなかった。邪魔なものは燃やして世界を見渡せるようになると、次は人間同士で領地争いをしはじめた。当然周りの動物にも大きな影響を与えた。やがて人間自体も衰退期を迎えるかにみえた。人々は小さな部落を作り、そこで節度ある生活をする人たちと、変わらず争いを続ける者たちに分かれていった。多くのものも節度ある暮らしをするようになって、世界が落ち着いてきたのが約2000年前、そこから人々は何不自由のない暮らしができるようになった。」
 
青年団員は一人一人が考えた。今も女神ミトレスはどこかで生きていて自分たちを眺めているんだと。ガムファは知らないがミトレスとオタマイは、人間と一つの盟約をかわしてからこの星と融合していた。この星と共にいるということは人間側が出した条件ではなく、ミトレス自身が愛する我が家を離れることを嫌がり、他の場所に移るということを拒否した結果である。本当の神には寿命といった形での終わりはないが、だからこその約束もしていた。
 ミトレスにとって忘れることのできない小鳥たちのささやき声、色取り取りの花たち、空高く真っ直ぐに伸びている大樹、時には穏やかに時には激しく昂るミトレスの心を表すような波を起こす海。それら愛するものと別れ、自らの生みだした物の支配下にはいることの屈辱。それがどれだけ辛いことか。
 ミトレスと人間は約束をした。この星が今までに存在してきたのと同じだけの時間が流れるまでに、人間の支配が弱まり、他の生物が人間よりも上に立つようになったら、この星は消えてなくなるが、変わらず人間が支配をつづけていられのなら、それまでと同じ時間この星は消えずに存在するということを。つまり、人間たちは自滅という形でのみ大きな危機を迎えることになる。

「人間たちは平和な暮らしをしてはいたが、時には心の未熟なものも出てきた。彼らは部落からも追い出され、やがてそういったものが集まって人里離れた場所に部落を作りはじめた。いつの日からかそんな彼らが復讐として力のない村々を侵略していった。ここからは学校で習う教科書にも載っているのだが、あらすじのみ話しておくかな。
遠い昔には神が人に倒され、人と人が争いをし、ようやく世に平和が訪れたというのにもかかわらず、それを崩すのも人間たちであった。それまで同じ人間を殺すということを現実に考えたことのなかったものも、家族や友人が殺され、部落がつぶれ、落ち延びていく中で、譬えようのない怒りに支配され、それがいくつも集まって塊となると、果てしなく続く争いへとなった。先に争いを起こしたはぐれ者達の数は少なかったが、時間が経つにつれて、誰もが善悪の境がつかなくなり、両者の人数も力も拮抗してきた。そして、今から1300年程前に、長い戦いにも終焉がやってきた。その勝者の中の一つがガイストの前身でもあるわけだが、国として形をなしたのは1285年前、その時の指導者はビルトゥーソという名で、彼の名を取って暦年が刻まれるようになった。クラスタン家やオビロン家のような一族が王位を継承してきた国もあるが、ガイストでは王の子ということよりも、実際に能力のあるものが、選ばれた王となる国もあるのだ。そういった国が争いを続け、今ではガイスト、アクリプス、ローレル、ルピナス、ペルーリの5つの国が現在この大陸には存在している。だが、今もなお争いは続いている。」

とここまで聞くと聞いている方も一息をついた。心躍る楽しい物語りではなかったが、心に残る話であった。
講堂は古く全体的に黒ずみ、木の目が目立つ長机をいくつも並べているが、話が終わった頃にはどこからか差し込む光量も少なくなっていた。逆に灰色の穏やかな明かりを届けているようにも見える。そして、話している途中より雨音が聞こえはじめたが、話が終わる頃には、ドンドンと屋根をたたく音が太鼓が発する低く弾いたよう音を送ってくる。小さな揺れは低く唸るように足元から響いてくる。

文字として記すことのできない譚、取り戻すことのできない人間の過ちの歴史、次にいつ起きるか分からない狂瀾怒濤の争いへの恐怖。それらに加わるかのように降り頻る雨が、みなの周りに不安な雰囲気を生み出し始めていた。果たして誰が淀んだ歴史を修正することができるだろうか。元来難しい歴史の勉強が嫌いなアレンも答えのない問いが頭の中に渦巻いていた。出た答えはこれからの歴史をよくするしかないということである。

しかし、そういった沈んだ雰囲気も話が終わってからしばらくの間のみ。教官が立ち上がり、全員で感謝の言葉を述べると予定通りこの後は、二人のOBから昔の青年団に着いて話を聞いた。だが、先ほどの話を思い返しているのか、二人の妙齢の男性の話はあまり記憶に残るものではなかった。

この小説について

タイトル 世界の始まり
初版 2009年10月18日
改訂 2009年10月18日
小説ID 3566
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ぬし
作家名 ★斉 圭玉
作家ID 541
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活動度 2364
趣味は農業です。

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