Dメール - No.13 to:恋歌の歌姫(3)

 白石さんの死体が発見された後の葦香ホール内は騒然となった。予定されていたライブは当然中止となり、舞台も警察関係者以外は立ち入り禁止になっている。舞台に出演する予定だった出演者を始め、舞台袖に居たスタッフや夜一達も警察による取調べを受けることになり、ホール内にある空き部屋に集められた。
 今回の捜査を担当するためにやって来たのは、またも夜一の父の燈夜とその部下の斯波であったので、夜一はその二人、特に斯波と眼があった途端、崩れんばかりに自らの顔を顰めた。斯波の方も、夜一と渚に気付いて軽く舌打ちをする。何も示さずいつも通りのにこやかな笑顔で居るのは燈夜だけだった。
 燈夜はまず、白石さんの死体を発見し悲鳴を上げた、第一発見者の下妻さんに話を聞いている。
「貴方が遺体を発見された経緯を詳しく教えていただけませんか。誰かとすれ違ったとか、何かを見たとか。覚えていませんか?」
「……わ、分からないわ。舞台袖は、結構暗かったし……リハーサルが終わって舞台袖に入ったら妙な臭いがしたから、何かと思って倉庫の方を見に行ったのよ。そうしたら、床から赤い血が染み出ていて、倉庫を開けたら白石くんが倒れていたのよ……」
 下妻さんの証言を聞いた龍二は、何かに気が付いたのかそそくさと空き部屋を出て行った。夜一も追いかけようとしたが、渚が手で制したので踏みとどまり、そのままこの場に留まった。一通り前後のアリバイや人物関係を聞かれた後、下妻さんは自身の控え室へと戻って行った。
 次に話を聞かれたのは新見さんだった。新見さんは警察に対しても全く怯まず、寧ろ堂々とした態度で黒いソファーに腰掛けている。
「新見さん。貴方は亡くなった白石さんに、相当の恨みをお持ちだったようですね。その事について詳しくお聞かせ願えませんか」
「フン。恨みが即刻、殺人に繋がると言いたいのか? 警察の無能な捜査になんぞ、付き合って居れんわ。それに儂にはその時間帯、プロデューサー達と共に観客席にいたというアリバイがある。現場に駆けつけたのも一番最後だったというのに、どうやって殺せたというつもりじゃ?」
 新見さんの言葉に、彼の後ろに立っていたプロデューサーやスタッフ達は一斉に頷いた。それに、リハーサルを撮影していた映像もあったため、新見さんのアリバイは完璧といえるものだった。
 結局、あやめさんに手を出そうとしていた事に怒っていたと延々三十分以上愚痴りまくり、それを燈夜が笑って聞き流す形で新見さんの事情聴取は終わった。彼は、プロデューサーたちと共に空き部屋を去って行った。
 続いて事情聴取されたのは週刊誌のカメラマンだという渋川さんだった。渋川さんは一眼レフを首からぶら下げたまま、笑みを浮かべている。
「貴方は週刊誌のカメラマンということですが、何かお調べになっていたんですか?」
「んん、それは秘密ですよ。私らも生活がかかっているので、秘密裏に綿密に調べないと。最近の読者はゴシップに飢えていますし」
「そのお調べの事で新見さんと随分と揉めていたと、関係者から聞きましたが?」
「そうかもしれませんね。んん……しかし私としては、取材しなければ話になりませんからね。そこを譲るつもりはありませんよ。それに……大きなスクープが手に入るかもしれませんし」
 最後に意味深な言葉を残しつつも渋川さんはテキパキと質問に答え、一眼レフを大事そうにケースにしまい、空き部屋から出て行った。
 最後に事情聴取を受けたのは、あやめさんと夜一達だった。暫くあやめさんのアリバイなどについて聞き終わると、燈夜は話題を夜一達が調べているストーカーの件へと向けた。
「夜一は私の息子でして。長井さんは、息子にストーカーで悩んでいると依頼をしたわけですね」
 あやめさんは頷く。夜一は斯波と睨み合いながら座っている。夜一の隣に座っていた渚は、上目遣いに燈夜を見た。燈夜もそれに気がつき、頷いて返す。
「長井さん、貴方は、自分をストーカーしていた男が白石さんだと思いますか?」
 燈夜が静かに発した質問に、部屋の空気が一変した。夜一も、思わず渚を見た。あやめさんは実際に白石さんにしつこく迫られていた事がスタッフを始め、夜一達にも知られている。彼女の返答次第では、あやめさんにも白石さんを殺す動機があったと思われてしまう。
しかし、渚の方は大丈夫だと言うように夜一の手首を手で押さえつけた。何も言うなと、真っ直ぐな視線が訴えていた。
あやめさんは考えるように俯いてから、やがて頭を上げて言った。
「……確かに、白石さんじゃないかって疑った事もありました。でも、それだったら私を、その……殺すべきなんじゃないかって思って。彼は、私に随分入れ込んでいたみたいでした。それなのに、自分自身が死んでしまうなんて……!」
 泣き崩れたあやめさんの肩にスーツの上着をかけ、彼女の体を支えたのはマネージャーの相馬さんだった。高槻さんにあやめさんを任せて、相馬さんは言った。
「もう十分ですよね。これ以上彼女の事を根掘り葉掘りお調べになるようでしたら、警察だろうと名誉毀損で訴える事も出来る。警視庁の現職刑事が訴えられるなんて不祥事は嫌でしょう?」
「不祥事ね。言っておくが、怪しいから調べるんだ。泣いて見せたって、それが嘘泣きとも限らない。感情に左右されて捜査を見誤るほど、落ちぶれちゃ居ないんでね」
 相馬さんの言葉に、斯波が睨みを利かせて言い返す。お互い譲らない二人の間に割って入り、燈夜は言った。
「まあまあ。長井さん、もう結構です。ありがとうございました」
 あやめさんと相馬さん、それに高槻さんが出て行くと、斯波が燈夜に言った。
「……四人が四人とも怪しいですね。それに、あの相馬という男も……」
「そうだな。けど、今は事故なのか事件なのか、それが重要だね。さて、彼女は判断してくれたかな……」
 燈夜がそう言うと、斯波が少し目を泳がせていた。何だか、何かを言いたいが非常に言いにくそうな表情をしている。
「どうした?」
「いや、その……彼女って、尼子(あまこ)さんですか?」
 尼子さん、という言葉が斯波から発せられ、それに燈夜が頷いた瞬間、夜一達の周りにいた警官達がどよめき始めた。まるで雷でも落ちたかのような驚きぶりに、夜一は渚と顔を見合わせる。
 渚自身は警察関係には詳しいらしかったが、彼女自身も初耳の人物らしかった。
 警官達は燈夜がたしなめるのも聞こえないのか、顔を青ざめながら話しこんでいる。
「な、何で『骸姫(むくろひめ)』がここに……!」
「馬鹿野郎、その渾名で呼ぶな! 解剖されるどころか、木乃伊にされるぞ!!」
「『本物の』全身骨格標本が欲しいって舌なめずりしてた人だぞ!」
 聞くんじゃなかったとでも言うように斯波が目に手を当ててため息をつく。夜一は、今回ばかりは斯波に賛成できると思った。警官達を此処まで震え上がらせ、怖がらせ、且つ遠ざける。そんな人物、稀に見ないし、おそらく周囲の人物を無駄に混乱させてしまうからだ。
 それに、『骸姫』という渾名が普通でない事をはっきりと表しているし、木乃伊にされるなんて言われているし、本物の、理科室にある模造品ではない、人間の骨で出来た全身骨格標本が欲しいなんて言っている人物が普通であると思っているなら警察は既に終わっているからだ。
 しかし、燈夜だけはにこやかな笑顔で言った。
「大丈夫だよ。彼女は僕が最も信頼する仲間の一人だから」




 とりあえずもう一度遺体発見現場に戻ってみようという燈夜の提案で、夜一は燈夜と斯波と共に倉庫へと繋がる廊下を歩いていた。
 夜一は、斯波の後ろを歩きながら携帯をいじっていた。勿論、空き部屋に残った渚とメールでやり取りするためだ。
 渚は急に警官たちと共に空き部屋に残ると言って来たので理由を夜一が聞き返すと、渚は実に納得の答えを返した。
「遺体発見現場に行きたい、なんて言ってみろ。また斯波刑事に怪しまれるだけだからな」
 今更だが、斯波には渚と夜一が探偵をやっていることなど知られていない。こうやって事件現場についていけるのも、父である燈夜が居るという条件付きだからだ。
 居心地の悪さを感じながら、夜一は渚にメールを打った。
『そういえば、四人が四人とも怪しいってどういうことだ? 皆ちゃんと証言していたし、怪しい所なんて無かったけど』
『一つ目、下妻さんは薄暗い舞台袖で、何故床を見ただけで血を認識できたのか。二つ目、何故新見さんのアリバイはあんなに完璧なのか』
 一つ目の下妻さんに関しての疑問は夜一も僅かに怪しく思っていた。舞台での照明の明るさに比べれば、舞台袖は正反対に薄暗く、床の色も暗くて判別できなかった。血だと分かったと言うよりは、血だと知っていたと考える方が妥当に思えるからだ。
しかし、二つ目に疑問を覚えた夜一は、渚にもう一度質問した。
『アリバイが完璧じゃいけないのか?』
『そうじゃない。しかし……都合が良すぎる。まるで白石さんが殺される事を知っていたかのようだ』
 渚からの返信に、夜一は息を飲んだ。もしかしたら新見さんは端から白石さんが殺されるということを知っていて、その時に自分が怪しまれないようにアリバイを作っていたということになる。わざわざ、スタッフやプロデューサー達までも証人にして。
 それならば、新見さんが下妻さんに白石さんを殺すように唆し、殺しを実行させたのではないか。新見さんは白石さんを疎ましく感じているし、下妻さんは白石さんに捨てられた事を恨んでいた。動機は十分あるし、アヤメの花も、あやめさんを狙っているストーカーの仕業に見せかけようとしたとしたら、辻褄が合う。
 その事をまとめて渚にメールで送信すると、渚はこう返してきた。
『私も一度はそう考えたが……だとすると残りの疑問が解決できない』
『残りの?』
『三つ目、渋川さんの言っていた大きなスクープとは何なのか。四つ目、他に白石さんに恨みを持つ者はいないのか』
 四つ目は、警察が四人しか取り調べていない以上他のスタッフ達は怪しくないと思っているのだろう。しかし考えてみると他にも、容疑者となるような人物が夜一には思い当たった。
『相馬さんが怪しいな。白石さんと凄く口論していたし』
『そうだな。だが……ここで議論していても仕方ない。現場で分かったことは、後でメールしてくれ』
『了解』
 夜一が送信し終えると、夜一の目の前に遺体発見現場となった倉庫が見えてきた。携帯を閉じ、夜一は倉庫のドアを開けた。
 

後書き

ふわあああ……あ? うあ、スンマセン。まだ九時だっていうのに眠い……。
『骸姫』については次回登場いたしマス(笑
実はずっと前から考えていたキャラなんですよ。法医学的な人ですが、マッドサイエンティストみたいではありません。それに近いような怪しさは持っていると思いますが(汗

受験終わるまでマトモにパソやらせてもらえないかもしれない……。
今回はテストで赤点あったらテレビ禁止でパソに向かわせてもらいました。赤点無かった! 奇跡だ、神様ありがとうッ!
……って、愚痴が過ぎましたね。失礼しました。
次回もまた、精一杯(苦しみながら)知恵を絞って頭を捻って書きたいと思います。
それでは。

この小説について

タイトル No.13 to:恋歌の歌姫(3)
初版 2009年10月19日
改訂 2009年10月19日
小説ID 3570
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ひとり雨の写真
作家名 ★ひとり雨
作家ID 223
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コメント (1)

★ 2009年10月24日 21時17分39秒
どうも、丘です。とても忙しいので簡単にいきます。

少し硬すぎですね。ミステリー的には良いのですが、もう少し遊びを入れても良いと思いました。

そろそろ佳境に入ってきますね。楽しみにしています。
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