〜第二章 薔薇 - 夢の中

PJ2
 次は、あの星。
 良いのか?
 実験物を降らす。これで未来は変わる。
 了解した。
 ターゲット・ドロップ―――

 プロローグ 

 今から十年前、隕石が落下した。場所はデルタニア領のフェルフェンド沖。
 落下、とは言い切れない部分が多くある。隕石が落下直前にありえないことを行ったからだ。逆噴射という、ありえないことを。
 証拠ならいくつか確認されている。落ちたのは海の上なのに、津波が起きていない。そして、その隕石から発せられた正体不明の電磁波によって、航空機のレーダーや広域レーダーが次々と故障し大事故を起こした。
 航空兵力が意味を無くした戦場で、人型兵器が開発されたのをきっかけに、戦場のパワーバランスは崩れ去った。 その隕石は、ジェネラルと名づけられた。

 デルタニア 首都キルスティン
 
 俺も今年で四十後半になる。隊長はもう引退寸前だ。今思えば、この部隊にもう二十年近くはいることになる。  
 コードネーム「パーティ」は俺の所属する部隊名でもあって、入隊当時からこれだ。今も部隊名は変わっていない。この世に汎用戦車、今俺の乗っているやつもそうだが、こいつができる前から戦車部隊としてあったらしい。
 一週間前に動きがあったこの地域に、俺は隊長とベテラン、長年専属の指揮車両の連中と共に配備されている。この部隊は、『老兵は死なずただ消えるのみ』という名前がよく似合う。良く言うといぶし銀というやつになる。
 機械音が聞こえる。モニターには反応が無いが、ソナーにはかかっている。
「パーティ2からパーティリーダー。敵反応、ソナーで確認した。距離三百」
 市街地戦闘は慣れたもので、ここ一週間ですでに三回ここで戦闘を行った。最近敵の動きが活発に思える……。国境警備隊の連中から通信が無いのから察するに、国境警備隊が全滅した可能性が高い。警備隊とはいうが、軍とそれほど変わらない戦力は持っている。あまり想像したくないのは確かだ。
『……そっちで対応カ可能か? こちらでも二機確認した』
 こちらは一機、対応可能という他に、返答事項は無い。三機ある部隊機のうち、一機と二機に分かれて敵に対応している。おそらくGWACS……指揮車両が戦域ぎりぎりで待機しているので、万が一の時応援は呼べなくも無い。しかし、一機では呼ぶ必要も無い。 
「対応可能。こちらは一機です」
『一機か……気を抜くな。敵との距離は?』
「二百五十」
『二百から攻撃開始。生きて、俺たちの家へ帰るぞ』
「了解……通信を切ります。作戦後、会いましょう」
『死ぬな』
 隊長の太く小さな声が聞こえる。心底心配している時の隊長の声。
「了解」
 敵はこちらに気がついていないのか、ゆっくりと近づいてくる。
「あと少し」
 赤外線カメラで、緑色に染まったモニターの中にある、射撃マーカーを建物の影にいる敵に合わせる。こいつの積んでるガトリング砲はだてじゃない。戦車でも風穴を開ける。
 二百、百五十……意外と早い―――ふと、ソナーから目を離しモニターを見た。その瞬間、息をのむ。真正面に敵がいた。ソナーには映っていない。
 映らないはずがない。焦った時には、全てが後手に回る。
「ちっ!」
 反射的にトリガーを引く。
 発射音が鳴り響く。が、モニターに敵の姿が無い。
 次の瞬間、機体が殴られたように転倒した。
「クソ!」
 そこで、自分の機体以外の機体が武器を発射する音が聞こえた。意識が遠のく。 
 死ねない。死んでたまるか! 妻はどうなる! まだ学生の子供も残して……ちくしょう、フィオ、ミティア―――

 第一章 決意

 デルタニア国境の町、フェルフェンド

 朝の日差しが射し込み、私は目を覚ました。カーテンでも遮れないような、良い太陽の出方だった。気温は低いようで、上布団を深くかぶっても冷える。
 しばらく布団の中でうずくまって、その後ベットから出る。カーテンを開けると強い日差しが射しこみ、目にしみた。ベット脇の目覚まし時計を見ると、朝七時をさしていた。 
「今日、休日か……」
 もともと人の集まりが嫌いな私は、部活や行かなくてもいい行事は行かないので、休日は完全に休みの日として過ごす。
 なので今日は学校も無いし、やる事もこれといって無いので、今日一日何をしようかなと思ったときだった。
「ミティア、母さん買い物に行くから!」
 下の階から母さんの声が聞こえた。私の部屋は二階にあって、下りた階段の先に玄関があるせいか声は良く聞こえる。母さんは昔から早起きで、前聞いた時には四時起床と言っていた。
「はーい」
 それだけ返事をして、またベットに潜り込んだ。
 家族は両方とも軍人だった。でも母さんは私が生まれたと同時に辞めたらしく、父さんがまだ戦場にいる。少し気になるところはあるけれど、待つほうはどうしようもない。
 父さんがたまの休みで帰ってくると、私は父さんと遊びつくす。長期休暇の時ぐらいしか休みが無いし、帰ってきても四日が最長だ。しかしそんな小さな休みでも、絶対に何をしようか考えて首を長くして待つ。部活や行事をやらないのは、これが理由かもしれない。
 昨日も、父さんの配属された地区で戦闘があったらしい……正直つらいところがある。母さんは私が生まれてから十六年間、こんな気持ちになり続けていたのだから、つらかったに違いない。
 いつ帰ってこなくなるかもしれないのはわかってるし、それを覚悟して父さんをいつだって待っている。でも、帰ってこなかったとき、私はどうすればいいのかわからない。
「今日、久しぶりに遠出しようかな」
 考えると気が重いので、頭を切り替える。いつも休みの日は、買い物とか友達の家に行ったりして暇を潰している。ちなみに予定が何も無い時はカメラ片手に近所の散策に出るけれど、最近は友達も忙しいらしいのでそればかりになっている。
 今日もカメラ片手に出かけるついで、買い物にでも行こうかなと思いながら朝食のパンを片手に身支度をする。
 一通り身支度を終えて、玄関へ行こうかなと思った時、呼び鈴が鳴った。
「はい」
 小走りで玄関へ行ってドアを開けた。すると、ドアの向こうに軍服を着た黒い角刈りの大柄な男の人が立っていた。軍服に付いたマークに見覚えがあり、たしか父さんの部隊マークだ。かなり図体が大きく、小柄な私からするとかなり大きいイメージを持った。
「ミティア・ファルトゥルデさんですね? 私、ダルク・トルガイヤといいます」
「えっと、何の用で……」
 ハスキーな低い声で喋る人らしく、顔の渋さと上手くあっていて男らしいというのを連想した。
 それよりも、軍の人が家に来るのは私の記憶ではこれが初めてで、どう対応すればいいかわからず、とりあえず玄関ではなんなので中へ入ってもらった。
「あなたは、ジャック中尉の娘さんですね? 私は、あなたの父親であるジャック・ファルトゥルデの上官です。今日はあなたの父親の……戦死の報告にあがりました」
 最初は、何を言われたのかわからなかった。ただ少しづつ、少しづつ頭が理解していく。血の気が引いて、動揺が隠せなくなった。
「え、え? ほんと、ですか?」
「はい。昨日、二十一時に。首都近郊の戦闘で」
 信じられないのと、信じたくない気持ちが交錯する。嘘であってほしい、夢なら覚めてほしい。でも意識は鮮明で、目は覚めている。
「本当ですか? 父さんがそんな、父さんが死ぬわけ、ないですよね?」
「本当です。お悔やみ、申し上げます」
 耳が遠くなって、最後の方が聞こえなくなって、次に体が脱力してストンと膝が崩れて。軍人さんに支えられてなんとか立ち上がる。
「お母様は、どうなされました?」
 私の肩を支えながら、隊長さんが聞いてきた。混乱する頭でなんとか答える。
「……先ほど、出かけました。呼び戻しますか?」
 頭から何かがぽっかり抜け落ちたような感じと、何も考えられないままただ聞かれた事を答えるだけだった。
「いや、かまいません。待たせてもらっていいでしょうか?」
「どうぞ……」
 下駄箱のあたりで待ってもらっていたので、居間まで上がってもらう。その後客用の座布団を出して座ってもらい、私はお茶を出して居間の隅にあるいつも使う座布団に座った。
 長く長く沈黙が続く中、私は心の整理に必死だった。父さんが死んだのは本当のことだと思う。この人が嘘をついているとは思えない。でも信じたくない。
「いきなり訪れて申し訳ない。しかし、私が、私自身が謝らないと気が収まらなかったのもあります。私がふがいないばかりに……あなたの父親を死なせてしまって。本当に、申し訳ない」
 軍人さんがゆっくりと口を開いた。この人が今言ったことは、自分に全て責任がある。と言っているように聞えた。
「謝らないでください。誰かの責任とかじゃなくて……」
 目の前が曇る。それ以上言葉が出なくなって、耐え切れずに居間から飛び出して自分の部屋へ階段を駆け上がった。自分の部屋に逃げ込み、ベットへ倒れて枕に顔を押し付けた。
「嘘。夢なら覚めて」
 自分に言い聞かせるように繰り返して、逃げたい逃げたいと頭の中で意識が混雑する。
 しばらく泣きじゃくって、その時、はっと気が付いた。自分がどれだけ弱い物で父さんの存在を確認していたのか。前に帰ってきたときからもう一ヶ月は経つ。最後の休みの日、何をしたのか覚えていない。あんなに楽しかったはずなのに。普通忘れるのがあたりまえだけど、それしか頼るものがない。
 前は手紙も考えたけれど、父さんはあまりそういうのが上手くないらしくて、軍の検閲で見られるのが嫌だとも言っていた。だから、顔を見るのも話をするのも一ヶ月に一回あるかないかぐらいだ。
 父さんのいる基地までぎりぎり自転車で行ける距離なのに、遠く思えて仕方が無い。
 そんな小さなものを頼りに今まで耐えてきたのが、もう綱渡りしていたようなもので。毎回毎回同じくらいの時間が開くから、だから私は、無理にそのわずかな休みの時間を記憶に残すために楽しくしようしようと力んでいたのだと気づいてしまった。
「……ほんとに、会えないんだよね、父さんに」
 体全部を布団に埋めて、混乱する頭の中が収まっていくのと同時に少しづつ現実が流れ込んでくる。振り払いたい……でも振り払えない現実があった。
 そんな時呼び鈴が鳴って、間をいれずにドアを開ける音が聞えた。
「ただいまー。忘れ物忘れ物……あれ、お客さん? ミティアー! いるんでしょー!」
 母さんが帰ってきたらしい。聞えた声から母さんは何か忘れ物をしたらしい。ふらりとベットから出て、頬を濡らしていた涙をぬぐいながら玄関へ向かう。
 母さんと目を合わせた瞬間、母さんの表情が変わった。
「どうしたの? 何かあったの?」
「……父さんが」
 俯いて、涙をこらえながら出したかすれ声の後、後ろで軍人さんが頭を下げる。
「ダルク・トルガイヤといいます。あなたの夫の、戦死報告に上がりました」
 軍人さんがそう告げた瞬間、母さんの表情が固まった。その一瞬の表情から、私は一瞬危険を感じて母さんを支える。それとほぼ同時に母さんは私に体を預けて倒れかけた。
 母さんを二階の寝室まで軍人さんに手伝ってもらいつつ運んで、母さんと私を寝室に残して軍人さんには部屋から出てもらう。
「下のリビングで、待っていてください。母さんは軍人だったけど、今は心は弱いから……落ち着くまで待ってください」
 私がそう言うと、軍人さんは手に持っていた帽子を深くかぶった。
「今日は、ここで失礼します。葬儀は明日の朝九時からです。フィオ・ファルトゥルデ元大尉には、軍服での出席をお願いしておいて下さい」
 そう言って軍人さんは、静かに踵を返して階段を下りていく。その後静かにドアの開ける音と閉める音が交互に聞えて、また静かな土曜日が顔を出した。
 もともと明日も休みなので、母さんが起きるまでずっと横にいることにした。顔色が少し悪いので、濡れタオルを額にのせて定期的に取り替える。寝室の時計は、すでに昼過ぎをさしていた。
 しばらくその作業を続けていると、不意にあくびが出た。その直後、強烈な眠気がおそって来る。寝てはいけないと思いつつも、瞼が重くなっていくのが感じれて、ふっと、意識が途切れた―――
「ただいま」
 父さんが、玄関で立っている。軍服姿で。
「おかえりー!」
 走り寄る私。今も変わらない栗色短めの髪をさらりといわせて、小さいころの私が父さんに抱きつく。
「良い子にしてたか? ミティア。ほら、お土産だぞ」
 そう言いながら父さんは、大きなクマのぬいぐるみを小さい私に渡した。あのぬいぐるみには覚えがある。たしかボロボロになるまで好きだった。
「お帰りなさい。ご飯できてるわよ」
 リビングから玄関へパタパタと音をたてて母さんが走っていくのが見える。どうやら私は、階段から降りる一段前の場所にいるらしい。 
「今日はパーティよ!」
 そう母さんが言ったとき、三人がリビングの方へ歩き出す。
 そして……光のように母さんと父さんが消えた。残された小さな私は、私を見ていた―――
 目が覚めたのは丁度その時。何も羽織らずに寝てしまったはずが、毛布がかけられていた。そして、ベットの中は空だった。背筋が凍った。あの時倒れるくらいショックをうけたし、さっきの夢が夢に思えない。
 急いで家中を探す。寝室から近い部屋から順に回り、下の階へ降りて真っ先にリビングへ向かう。リビングから一階のすべての場所に行けるので、まずはここへ来る。
 リビングで周りを見渡すと、端にある大きな窓が開いていた。白いレースが風になびいているのが見える。
 その窓の向こうは小さなバルコニーになっていて、そこからはこの家の立地上、都市が一望でき、そして、足場がバルコニー分と下の家の屋根。
「母さん!」
 私が悲鳴のように叫ぶと、母さんがひょいと窓から顔を出した。
「ゴメンね、母さん黄昏てた……ミティアも来る?」
 ほっと胸を撫で下ろし、ゆっくりと母さんのそばに行く。窓の前でそっとそよ風が私の頬を撫でた。空は茜色に染まりかけて、街と海を一面茜色に変えていた。
「母さんは……悲しくないの?」
 私がそう聞くと、母さんは少しだけ笑った後にベランダの手摺にもたれかかった。
「悲しいよ。たぶん、ミティアがいなかったら、母さんここから飛び降りる」
 そう言いながら微笑む母さんの目から、涙がこぼれた。私も涙を堪えきれそうになくなり、母さんに抱きつく。
「父さん、もう帰ってこないんだよね? もう、会えないんだよね?」
「……そう。帰ってこない。これからは、私たちは私たちで守らないといけない。この家もこの国も、もちろん私たち自身も。今まではお父さんが守ってくれたけど……」
 私を抱きしめながら母さんは泣いている。
 その時私の中で、あるものが意識として浮かんだ。守れと。家族を、この自分の生まれ故郷を自分で守るしかないと。それは考えるにつれて、意識することから決意へ変わった。
「私が、守ってあげる」
「ミティア……」
 すっと、母さんが私の体を放して、目を合わせる。
「私が母さんを、守る」
 この日が、私の一つの転機になった。夕刻の空は、私の決意を押してくれた気がした。

 第二章 薔薇

 私はたくさんのものを失い、一つの切符を手に入れた。汎用戦車乗りへのチャンスを。
 十八歳を迎えた私は、高校を卒業すると軍学校への進路を選んだ。決意を通すために、あの日から自分の生活から変えた私は、この道を選ぶ事に躊躇しなかった。しかし私も、ひよっこには変わりなかったことはケーニッヒ軍学校に入って最初に思い知らされ、逆境の中で軍学校生活を送りながら課題を無難にこなし続けた。
 厳しい試験をいくつか乗り越え続けて、一年が終わる。それが毎年続き、仲間もたくさんできた。消えていく仲間もいた。前線で一緒に戦えるのは、何人かの仲間のうち何人だろう―――そんなことを思いながら、一日一日を過ごした。
 私は、目覚し時計の大きな音で目を覚ました。
 今日は実技試験を中心にやるらしいということを、昨日教官から言われた。卒業の近い私達軍学校の生徒は、最終テストや実技の大会を目標に忙しい。
 今日行う実技試験は、卒業前の汎用戦車乗り志願者全員での大会の予選で、結構重要な大会だ。私ももちろん出る。大会とは名ばかりの、ベストジュウロク以内で試験をいくつかパスでき、課程終了に近づく試験のようなもの。
 私の寝ていたベットの上で、静かでリズムの整った寝息を奏でている人がいる。聞き慣れたこの音。音というよりは音色とも思えるような寝息を立てるのは、私の良き友人の一人、イヴ・シュバッテン。イヴは一つも欠課を出さずにコツコツとこなしていくできる人だ。私はたまに落とす事があり、そのたびに彼女には助けられる。
「イヴ、起きなよ。今日は大事な日なんだから」
 二段ベットの上へ上がり、梯子の切れた場所の方に頭を向けて寝るイヴに問いかける。私に背を向けていて、起きているのか寝ているのかは定かではなかった。
「うん。起きる。今起きる」
 そう言いながらこちらに寝返りをうち、三秒。小さい間私と目を合わせて、その後イヴは上半身を起こして目を擦る。はだけたパジャマ姿のイヴは、スタイルが良いせいか女の私でもジンと胸にくるものがある。
 少しの間虚ろな目でどこか遠くを見ていたイヴは、一度、パンと良い音を頬で響かせて、私の方に這って来た。ベットの下に降りたいという考えずにも理解できる彼女の求めに答えて、私は下を確認しつつ降りる。
 二人とも着替えを終えて、パイロットジャージを羽織ってから部屋を出た。季節はもう冬の終わり、基地の向こうに見える山はまだ白く化粧をしている。
 私達の寝泊りしている寮から、歩いてだいたい十分ぐらいの場所に格納庫がある。暇な時、暇な時と言っても休日ぐらいしかないけれど、そういう時は格納庫へぶらりと立ち寄るので、ここにはよく来ている。整備士も私の顔を覚えたらしく、顔を合わせると片手を挙げてくれたりする。
「今日、たしか大会だったわよね?」
 ふと、格納庫の丁度真ん中あたりでイヴが私に聞いた。
「うん。一応集合はここの格納庫だけど……集合時間まであと三十分あるよ」
 ブーメランE9(イーナイン)とアルファベットでマーキングされた機体が、四機並んでいた。私達が乗る機体はたぶんこの機体ではないはずだと、私もイヴも大会の事を知らされたとき思っていた。この機体は訓練生の憧れでもある。
 ブーメランはデルタニア軍主力汎用戦車で、私達訓練生がさわらせてもらえるような代物ではない。私達の場合、エイフD8(ディーエイト)という訓練機が慣れ親しんだ機体で、二足歩行型初の武装搭載型汎用戦車だという。すでに旧式化しているからか、訓練用や補給部隊などに使われていることが多い。
 エイフがこの格納庫に無いところを見ると、どうやら大会で使うのはエイフではないかもしれない。格納庫の天井にある格納庫ナンバーを確認したけれど、集合場所に間違いはなかった。
「ブーメラン、かな? 私達の大会で使うのって」
 私がそう言ったとき、イヴはブーメランに見とれているようだった。鼻が高く、白の後ろでくくった髪が彼女の横顔を綺麗に見せた。時にイヴは、パイロットとは思えないほどに綺麗に見える。モデルといっても過言ではないかもしれない。背丈も小柄な私と比べればかなり高い。  
「え? あ、そうかもしれないわね……でも、四機じゃ大会できないよね」
「ってことは、ベストフォー以上が乗れる?」
「……さあ」
 上の空で返事をするイヴを横に、私は溜め息をつきながらブーメランをもう一度見る。
 父もこの機体に乗っていたと思うと、なにかこの機体に親近感のような懐かしさを覚える。今から六年前、まだこの国の首都がこの国のものであったころ、首都防衛部隊だった父は当時十六歳の私と母を残してこの世を去った。
 あの日の決意、父の亡霊を追ってここまで来たけれど、私には後戻りという選択肢は無い。母は今、病院生活を送っている。私がAMT(汎用戦車)乗りへの道を進むたび、母は喜びつつも心を痛め、私が軍学校に入ると同時に病に倒れた。母も今年で五十を越えた。
 あれから四年、すでに手遅れとも言われた母は、私に迷惑をかけたくないのか面会を拒絶している。私は会いに行きたいのだが、そうもいえない。
 私は今、守るべきものの一つを失いかけている。
「百人に一人」
「え?」
 私の横でイヴが呟いた。
「AMT乗りになれる、歩兵や私達訓練生の確率よ」
「そうなんだ……」
 何気なく答えたが、よくよく考えればここに入学した時にいた生徒の半分近くがいなくなっている。試験に落ちたり、単位を落とせば即いなくなるという感じだったのを、今さら思い出した。国を守るため、家族を守るため、理由は何でもあり、たくさんの人間がそれぞれに思いここへ来たのかもしれない。今その上に立っているのは、まぎれもなく私達だ。
「国のために、か。戦う理由って」
「私は家族のために。ミティアは、両方だったんでしょう?」
「前は、ね。今は故郷を無くしたくないからかな。私の生まれ故郷、国境のフェルフェンドなの」
 私がそう言うと、イヴは驚いた様子だった。今敵対している国、レジアスと真逆の方角だったのもあり、フェルフェンドが陥落すればデルタニアは無くなるとまで言われるほど端にある街だ。それに、たしかイヴには初めてこのことを話すと思う。
「そうなんだ……。私は首都で生まれたの。家族もまだ首都にいる」
 そう話すイヴの顔は真剣で、自信に満ちていた。私とは違う、明確な何かを支えにここまで来たような感じがする。
 集合時間まで時間があるので、二人でブーメランの内装や外装について話し合っていると、後ろで声が聞こえた。
「そこの二人、早いな! どうした、待ちきれないか?」
 後ろを振り向くと、すぐ近くに私達の教官が立っていた。気配を消していたのか、まるで気がつかず、驚きながら敬礼した。
「おはようございます、教官」
「お、なかなか張り切っているようだな。私としては君達二人には期待している。今回の大会でも頑張ってくれたまえ。これから君達の大会審査員として行かねばならんのでな。わかっているとは思うが、君達の集合はここだ。あちこち行かないようにな」
 期待されているとは思っていなかったので、少し驚いた。イヴはともかく、私はそれほど好成績はとってない。
 教官はそう言い終えると、軽く敬礼をして私達の横を通り過ぎて行った。ここまで心の優しい教官にめぐり会えた私達は、けっこう運が良いのかもしれない。名のらないのが主義とかで、おそらく訓練生の全員があの人の名前を知らない。しかし、だいたいあの教官や優しい教官で通じる。
 しばらくして、ぞろぞろと訓練生の人が格納庫に集まってきた。集合時間十分前のことで、最後の一人が来た後さっきと違う教官が来るまでほとんど間がなかった。全員の前で、教官が大きく溜め息をつく。
「全員いるな? いないようなクソ野郎はいないはずだ。これから貴様らは、言われたことを耳かっぽじってよく聞け! ……今日の大会は、貴様らがAMTに乗るに相応しいかを決める大会だ。A、B、Cグループに分けて、他の基地の連中も来てもらった! そして貴様らにはエイフに乗ってもらう! これだけでもありがたく思え!」
「イエッサ!」
 声を張り上げて、全員が声をそろえる。これは儀式のようなもので、慣れたものだ。
「大会はトーナメント戦で行い、ベストジュウロクに入れば貴様らは課程終了をかけた大会に出られる! ベストフォーならば幾多もの試験を通り越して候補生だ! しかもABC全てのグループ内でだ! ありがたく思えひよっこども!」
「イエッサ!」
「以上だ! わかったらさっさと隣の格納庫に行って、自分の玩具に乗って演習場に来い!」
「イエッサ!」
 その後、次々と走って訓練生全員が隣の格納庫へ走る。もちろん私達も走り、隣の格納庫へ向かう。私とイヴの機体は隣同士で、格納庫出入り口から見て手前がイヴ機、奥が私の機体だ。結局エイフだったけれど、それはそれで良かったと思う。いろいろとエイフとブーメランでは操縦などの勝手が違うらしいというのを、優しい教官から聞いた事がある。 
 コックピットまではだいたい七、八メートルくらい。そこまで上るのに、コックピットハッチ横に足をかけるワイヤーがある。整備士が機体を整備する時にも使われるので、そのままの状態のなっている。
 降りる時も使うこのワイヤーは、ぶら下げられたままになっている。それに足をかけて、コックピットに乗り込んだ。
 機体システムを起動して、イヤホンマイクをかける。
『十三番機、聞えるか?』
 かけて間もなく、整備士の誘導員から通信が入る。
「聞こえます。誘導願います」
 システムのスイッチ確認をしながら、通信に答える。左右操縦桿感度良好、モニターも良い。整備士に感謝しつつ、誘導棒を持った整備士が前に来たので、機体のヘッドメインモニターのカメラのランプを点灯させる。無線を使わない合図のようなものだ。
 モニターのみの方向を左の操縦桿で変えて、イヴ機を確認する。私の次に出るようで、ランプを点灯させた。それを確認した後、モニターを元の位置に戻してから移動調整の左右ペダルを軽く踏んで、誘導棒を振る整備士に従い格納庫から出る。
 格納庫を出てからはこちらに操縦権が譲渡される。格納庫を出てから約三分、演習場が見えてくる。教官機のいる場所の手前から、ざっと二十機ほどが並んでいる。
 私がその並びの位置に機体を停止させてからそれほど間をいれずに、イヴ機が私の機体に横付けした。その後有線通信ワイヤーを私の機体に引っ掛けて、通信を入れてきた。
『どう、調子は?』
 有線通信は、名の通り無線で通信できない時にワイヤーを通信したい相手にかけて、かけた相手と会話をするというもの。糸電話の超強化版みたいなもので、隠密行動や、こういった無線を下手に使えないときに使われる。
「まあまあ。そっちは?」
 私が答えて、こちらから聞いた時にはすでに通信ワイヤーはイヴ機へ戻って行っていた。一瞬表情が恐くなってしまうが、次には自然に笑みがこぼれた。イヴはたまに、さっきのようなおふざけをする。見た目以上に堅苦しくないのも、彼女の良いところかもしれない。
『全機、聞えているか? これよりコックピット内で、ブリーフィングを行う。聞えていたら合図を送れ』
 イヴにされた事に対してどうやって返そうかと考えていると、教官機から通信が入った。優しい教官の声だったので、どうやらあの教官がこの大会の審判員みたいなものなのだろう。格納庫で会った時審査員をすると聞かされていたので、そう驚かなかった。
 ヘッドカメラを点灯させて、合図を送る。
『全員聞えたな? これからお前らは、戦場へ行く。場所はケーニッヒ高原だ』
『……どういうことかしら?』
 無線で教官の声が聞こえた後、すぐに何かが機体に当たる音がしてイヴの声が聞こえた。有線通信を使ったらしい。イヴは焦りを隠せないようで、声が少し上ずっていた。
「わからない……」
 そう返したとき、教官の溜め息が不意に聞こえた。
『有線で話すのは結構だが、聞いてなかったら知らん。二、五、九、十、十三、十四番機、聞け。お前らはこれから搬送トラックに乗り、この街から二キロ先のケーニッヒ高原まで行ってもらう。そこでレジアス軍侵攻部隊を迎え撃ってもらう』
 教官の言葉が切れた瞬間、いくつか集音装置が機体が動く音が聞えた。おそらくヘッド部分で互いを確認しているか、有線通信を行うためにワイヤーを発射する音か。レーダーの効かない戦場では、自分の目と耳だけが頼りになる。目がモニター、耳が集音装置となる。
『貴様ら、聞けと言ったはずだが?』
 すっと、集音装置が音を拾わなくなる。学校内の誰もが知る優しい教官の、初めて聞く背筋の凍るような声だった。
『武装は、お前らも演習でよく使うLL-M7小型マシンガン、『スワロゥ』と楯だ。射撃成績ランクAからB、さらに銃弾被弾率十パーセント以下のやつは、BB-M5中型マシンガン『イーグル』。知っていると思うが、こいつは両手で持つ武器で楯は装備できない……しかし、決定だ。今言った成績以上ならイーグルBB-M5を装備しろ』
 楯を持つと持たないとでは、かなりパイロットとして安心感が違う。守るための物があるか無いかでは、私達にとってはかなり違ってくる。重くなるから好きではないというパイロットもいるにはいる。イヴがその一人だった。
「イヴ、成績は?」
『射撃A+、被弾率二パーセント。イーグルね』
 そう言ったイヴの声には、不安の欠片すら見えなかった。嬉しそうにも聞こえた。
「私は射撃B−、被弾率八パーセント……ねえ、大丈夫かな、私?」
 自分の成績を、心底恨んだ。変な話だが、もう少し外していればC+かもしれなかった。今さら遅いのはわかっているけれど、イヴと同じ装備で出られるのは少し嬉しかった。でも少し恐さが残っている。
『いけるよ。ミティアなら』
「ありがと」
 しばらく教官が黙っていたのは、おそらく私達のように互いのことを確認したりプライベートなことを考えてのことかもしれない。そう思わせるのはやはり、今までのあの教官のイメージからなるものだと思う。
『全員、済んだか? ……よし。演習場外のトレーラーに武装はある。搬送トレーラーも外だ。ケーニッヒ高原に着くまでにもう一度ブリーフィングがある、無線は切るな』
 言い終えた後、教官が大きく深呼吸をする。通信機の感度が少し過ぎたのか、教官の深呼吸が大きかったのか定かではないけれど、かなり大きく聞えた。その後、教官機がヘッドカメラを点灯させた。
『全員、生きてここへ帰れ。俺からの命令は以上だ……作戦開始!』
『イエッサ!』
 全員が無線を機動して、合図を送りつつ答えた。
 演習場出入り口に近い順から演習場から出て行く。私も演習場から出て、後ろにイヴ機が続く。トレーラーまではそう遠くなく、あまり時間をかけず到着する。イーグルBB-M5は中型マシンガンで、スワロゥと比べて大きさがかるく一.五倍はある。説明の通り両手で支えないと撃った時安定しないので、両手で使う武器となっている。
 モニターが、トレーラーに積まれたイーグルを捉える。すぐに腕の部分のシステムを操作して、イーグルを装備する。スワロゥと分けて置かれていたので、システムを変えるのに苦労はしなかった。
 搬送トレーラーがすぐ隣に並んでいて、私達より先に行っていた同級生の機体が次々と運ばれていく。やはり大半の機体が楯と小型マシンガンを装備していた。一両に四機が限度らしく、ペアで乗っていくようだ。
 私とイヴは同じトレーラーに乗り、その後私達の後ろに二機、おそらくペアが乗った。四機を乗せたトレーラーは、コンテナのハッチを閉めていく。モニター前が、ハッチが閉められていくのにしたがって、どんどん光を遮られ暗くなっていく。閉まりきった後、赤外線ランプが点灯して見える物が赤く見える。
 トレーラーのエンジン音がうなりを上げ、ごろごろとタイヤの重たい音が響く。武装のシステムを確認した後、ふとサイドモニターを見る。ほとんど前しか映らないエイフのヘッドカメラでも斜め前くらいなら映るので、イヴ機の少し膨らんだコックピット部分が見える。
 イヴは私と歳が同じ二十二歳、私も彼女も、本当なら今頃それぞれの住む場所で平穏な生活を送っていたかもしれない。戦場に出る時の不安を、掻き消すように私はいろいろな事を考えた。
『聞えるか? 全機トレーラーに乗ったので、ブリーフィングを行う。時間が無い、完結に話す』
 混濁する中、無線から通信が入る。あの教官の声だ。
『ケーニッヒ高原に到着後、スライド走行を使いトレーラーからいち早く離れろ。戦闘終了後は各自でケーニッヒ市街地まで戻れ。全機、幸運を祈る』
 軍学校や演習場の集中する都市ケーニッヒは、広大な高原の近くにある。ケーニッヒを越えればもう目の前にフェルフェンドが見える。訓練生でもない私達が駆り出されるということは、かなりデルタニアは危ないと思っていい。
 スライド走行は、前進後進共に使える高速戦闘用のタイヤをつかって走ることを指す。足の裏に付いた大型タイヤで、ある程度の間なら走行できる。
 ただしあまり走りすぎると、機体のバランスが崩れる危険があるので限界制御がかけられている。エイフでは連続走行三十秒、総走行可能時間五分といったところ。
『俺はトレーラーのおっちゃんだ。ひよっこども、もう少しでケーニッヒ高原に着く。無線通信をオンにしておけ。恐い奴もいると思うがな、冷静になれ。俺からは以上だ、全機、無事に帰れよ』
 突然トレーラーの運転手の通信が聞えた。もう少しで着くという宣告に、一瞬手が震える。
『ハッチオープン! 行ってこいひよっこ!』
 トレーラーのタイヤの音が消えて独特の息を吐くような音がした後、ハッチが開く。ハッチの間から光が差し込み、五秒もたたずに開ききる。
 無線を入れると同時に、移動ペダルを思いっきり踏み込むとカチリと音がする。少しタイヤが空回りする音がしてから、一気に機体はトレーラーから滑り出した。
 モニターに弾の弾道がいくつも映る。正面に敵、数は三機。
 運が良い。こちらは四機いる。
 射撃カーソルを調整して、敵機に照準を合わせ、射撃トリガーを引く。
 マシンガンの発射音を集音機が拾い、大きな音に耳鳴りがする。切っておくべきだったと今さら後悔しつつ、イヴ機が私の斜め前を走るのを確認した。障害物があればそこで待機できるが、今のところ見当たらない。
『十三! 二時方向岩陰に敵機!』
 イヴの声が聞こえた。モニターを確認すると、たしかにエネミーと表示された機体がいた。
「了解!」
『こちら十五、援護を……ひぎゃ!』
『レト! くそ十五が落ちた!』
『増援か? チッ、ひよっこかよ』
 通信機が同じ周波数の電波を拾う。味方の通信を全部拾っているようで、たくさんの声が聞こえる。
 岩陰の一機が顔を出した。進行方向を調整して敵機の直線状からずらす。
 イヴ機に気をとられていたのか、一瞬こちらの対応に遅れた。照準を調整しつつトリガーを引く。
「一機!」
 爆音が後ろで鳴り響き、すぐ近くにあった岩に隠れる。今のでぎりぎり二十秒弱。大事に使わないと後で後悔することになる。
『ひよっこ全機! 俺達正規軍の邪魔だ! 引っ込んでツッ……』
『アルファ2!? チッ、わかったらさっと下がれ!』
 デルタニア正規軍のパイロットが叫んだ。もちろん私達訓練生に反論する権利は無い。ブーメランも懸命に下がろうとするエイフも次々とやられていく。
 横で戦っていたエイフ二機が吹き飛び、さっきこちらを向いて怒鳴っていたブーメランも上半分が無かった。
「十四、三時に敵機!」
 モニターに映るエネミー表示を見逃さない以外に、今ここで生き残る方法は無い。
 警告した後イヴ機が敵機の背中へイーグルをぶっ放し、スライド走行中だった敵機は前のめりに転がっていく。下がる途中だったのか、背を向けて走っていた。
 障害物の少ないケーニッヒ高原では、撃ち合いをするか小さな遮蔽物で身を守るかしかできない。
 ふとそんな事を考えた時、モニターに映っていた岩陰の味方機が爆発に巻き込まれた。巻き込まれたというより、狙って放たれた爆発に見えた。
『榴弾砲……!』
 イヴが呟いた。名前だけ聞いたことがある。早い話が物に隠れた相手を物ごと吹き飛ばす爆弾だ。砲なので発射するタイプだろう。
「十四、場所移動!」
『わかってる!』
 銃弾の雨が降り注ぐ中をスライド走行で下がる。敵も装備しているのがマシンガンなのか、弾幕のように弾が飛んできては機体の手前で撥ねる音を拾う。
 狙わずにイーグルを乱射しつつ、下がれるところまで下がる。スライド走行限界まで走った後、正規軍のバリケードまで下がる。
 エイフは私達と、他に三機残っているだけだった。あとの同級生の乗るエイフは、言うまでも無い。ブーメランもかなり減ったようで、一個中隊分の七機が残っているだけだった。
『よう、ひよっこの生き残りども……全機、こっちの指揮下に入れ』
「十三番機、了解」
『十四番機、了解』
『こちら四番機、了解』
『七番機、了解』  
『二番機、了解』
 エイフ全機が答えた後、正面のブーメランがヘッドカメラを点灯させる。と、その時、ブーメランの後ろに敵機表示が見えた。
「六時方向、敵!」
 そう叫んだ瞬間、正面にいたブーメランがガトリング砲をヘッド側から後ろへ向けて撃った。薬莢が辺りにばら撒かれ、発射音が響く。そして間を入れず爆音が鳴る。
『すまない。この高原の後ろはもう街だ……全機、最後まで時間を稼ぐぞ。民間人の避難まで、ここは誰も通すな』
『了解!』
 正規軍も訓練生も両方全員が答え、ヘッドカメラを点灯させる。そして、全員が二機づつのペアになって散らばった。
 スライド走行を使わず岩陰まで行く。あとは岩陰を利用しつつ敵機へ向けてトリガーを引く。弾のある予備のカートリッジが残り一つと、今使っているカートリッジ分ある。おそらく弾には困らない。
『アルファリーダーから各機、弾数はあるか?』
『あります』
 またイーグルの発射音が鳴り、敵から飛んでくる銃弾と交錯する。
 十分、二十分、三十分……モニターの下にあるタイマーが、少しづつ時間を刻んでいく。
『十三、下がろう。もうこれ以上は』
「駄目。下がれない、下がれない」
 榴弾砲をくらわないために、あちこち移動しながら弾幕を張る。上半身旋回で上手く移動しながらトリガーを引きまた一機。
 イヴ機も戦闘開始から結構数を落としている。それでも敵の勢いは止まない。味方も何機生き残っているかわからない。
『こちらアルファ6、弾が切れた、メイデイメイッ……』
 味方機からの久しぶりの通信が、堕ちる間際というのは少し不安になる。私もイーグルのカートリッジが最初のが切れそうだ。
 イーグルは弾数がかなり多めで、腰部分につけるジョイントからはみ出すぐらいカートリッジが大きい。そのために両手武器だという。
『十三、弾は?』
「最初のが無くなる。予備はある」
 通信の後モニターに入った敵機を見つけ、照準調整してトリガーを引く。しかし当たらない。
「外した!」
 スライド走行で走る相手に対して、こちらは立ち止まっている状態ではまず当たらない。
 こちらも起動して追いかける。
『十三、深追いするな!』
 正規軍の人の声が通信ではいるが半ば無視して、照準を合わせて、トリガーを引くタイミングを計る。瞬間、敵機が反転させてこちらを向いた。
 トリガーを引く。市街地へ向かう道路まで来ていたので、これ以上行かせてはならないという思いが強かった。カートリッジを空にするまで撃つ。
 もちろん向こうも撃ち、進行調整をして避けようとした。その時だ、スライド走行限界をとうに超えていたタイヤはスリップを起こし、横向きに倒れた。
 背中を地面に擦りつけながら滑り、敵機の目の前で止まった。
「………」
 あ、死んだな私。そんな事を考え、こちらに銃口を向けた敵機を眺める。
 青い薔薇のマーキングの描かれた肩が目立つ、片手にイーグルと同じようなマシンガンを積んでいた。
 死んだ時ってどんな気持ちになるのだろうと、なんとなく考えてみたり、どこへ行くのだろうと考えていると、バコンと鈍い音がした。
 敵機がこちらに向けていた銃の、カートリッジが落ちた。
「え……?」
 落ちたカートリッジからは、鋼色の先の残った弾がかなりの数出てきた。
 その後青い薔薇の敵機は高原の方へ去っていった―――
 その日の昼前、デルタニア軍はケーニッヒ高原からの撤退を決定した。



後書き

長かったと思います。ごめんなさい。

続きはいつかわかりません。ごめんなさい。
かなり前に投稿した作品を、かなり手直しして再投稿しました。

あいかわらずの自分ですが、コメントをくださると嬉しいです。

この小説について

タイトル 夢の中
初版 2009年10月25日
改訂 2009年10月25日
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