つばめ - 想い、この胸に抱いて 〃

 ホワイトデー翌日の夜中、またもや素敵な晩ご飯を振舞ってくれた美央が帰ってから小一時間程度経った頃。お風呂から上がった僕がリビングに向かう途中で、廊下に置かれている家庭用電話機からコール音が鳴り響いた。僕は特に何も考えずそれの受話器を手に取って耳に当てる。
「はいもしもし、源川ですが」
『俺だ』
「オレオレ詐欺ならヒャクトーバンに掛けるといいですよ」
『誰がオレオレ詐欺犯だ』
「冗談ですって」
 この平常時でさえ何となく鋭い印象を持つこの声の主は、もちろんゴーストスイーパーであり先日卒業生となった黒沢先輩である。
「何か用ですか?」
『実はお前に黙っていたことがあってな。今夜それについて話がしたい』
「それって隠しごとか何かですか? まさかつばめさんは実は不治の病で……」
『いや、この件につばめはほとんど関係ない。そもそもあいつは病に無縁だ。幽霊なんだからな』
 しかしゴーストスイーパーである彼が僕に隠しごとなんて、つばめさんに関わること以外だとまったく考えられない。ひょっとして僕のノートパソコンからほとんどのデータが消えていたのは、まさか黒沢先輩の仕業だとでも言うのだろうか……データは全部ディスクに入れて保管しておいたから良かったものの、何て酷いことを。
『違う違う、お前のパソコンなど知らん』
 なんだ、違うのか。じゃあやっぱり壊れただけなのかな?
 とまあそんなことはさて置き、僕は黒沢先輩からさっさと本題に戻りたそうな空気を感じたので、彼に話を続けるよう促すことにする。
「じゃあ、僕に黙ってたことってなんですか?」
『お前に関してのことだ』
 聞いた途端、頭の中にハテナマークが浮かび上がる。はて、僕のこととな。それはいったいなんでしょう。
『今、お前の家の門前まで来ている。家族に覚られぬよう、こっそりここまで来てくれ。待っている』
 そしてブツッと通信が切られる音。僕は受話器を所定の位置に戻し、さて何だろなと疑問を抱きながら玄関へ向かう。わざわざ僕の家に出向いてまで話したいという僕に関することって何だろう。
 靴置き場に到着してから鍵が外されっぱなしな扉の取っ手に手を掛け、それをガチャリと開く。うおう寒い。もう春だと言うのに外の寒気は凄まじく、風呂上りの身体には大変応える気温でございます。
 玄関を開いてすぐ見える門の向こう、そこに佇んでいた真っ黒な色のコートに身を包む黒沢先輩に、僕は身体と共に震える声で呼びかけた。
「黒沢先輩、今うちは僕一人でお留守番状態ですから、遠慮しないで上がってください」
「そうなのか。では、失礼する」
 門を開けてこちらにやって来る黒沢先輩。扉を閉める寸前まで寒気が僕の全身をなぶっていたため、そのコートがずいぶん暖かそうに見える。
 それから場面は変わりリビングへ。先輩をリビングのテーブル横に置かれてある椅子へと腰掛けさせた後、僕はキッチンにて用意した軽いおもてなしを黒沢先輩に差し出した。
「はい、どうぞ。僕の大好きなちょっぴり濃いめのココアです」
 コートを脱いで畳んでいた黒沢先輩は白いマグカップに注がれたそれを見下ろして、口元を若干微笑ませながら言う。
「ありがとう。最近ずっと寝不足でな。思考力の低下している今、甘いものはとても助かる」
 どういたしましてと言いながら僕も椅子に座り、手元のあったかいココアを口に持っていく。ズズズ。
「早速だが、本題に入らせてもらう」
 僕はカップをテーブルに置き、目の前に居るゴーストスイーパーさんへと視線を向ける。なんとなく真剣な面持ちだ。
「節分の時に言えれば良かったのだが、あることを危惧して黙っていた」
「あること、ですか」
 先輩も白い取っ手をつかみ、ココアをひと口のどへ流し込む。そして心を落ち着かせるように「はあ」と息を吐いてから、また口を開いた。
「お前がつばめのことを好きでなくなるのではないか、とな」
 しばらく沈黙。僕が黒沢先輩の言ったことをちゃんと理解するまでにかけた時間は約三十秒。
「そんなわけないじゃないですか」
 僕がつばめさんを好きでなくなるということは、僕の彼女を想うこの抑えきれない気持ちが崩壊する、もしくは偽りのものだったということになる。どんな理屈を持ってしても、そもそも考えるまでもなく、そんなことはあり得ない。だって僕はこんなにもつばめさんが好きなのだから。
 ココアの入ったマグカップを再び手に取り、僕は言う。
「僕はつばめさんが大好きなんです。この大好きな甘いココアよりもずっと」
「知っている。だが、とある理屈を持ってすれば、お前の今口にした言葉が歪んでしまう可能性も出てくるんだ」
 先輩の言っていることに、僕は段々不愉快な気持ちになってきた。歪むわけがない。僕のこの気持ちは完全無欠絶対安定永遠不動だ。
「霊は己に宿る霊力の大半を消費することで、自分が憑依した人間の記憶を隠蔽したり、思考を少しだけ操ることができる。その痕跡がお前の中で見つかった」
 突然長々と語られる聞き慣れない霊関係の話に、僕は思わず置いてけぼりをくらいそうになる。ええと、何だって。記憶を、隠蔽?
 少しの心当たりが脳裏をよぎる。
「これがどういうことか分かるか? つまりお前は今、何者かに憑依されている。そしてそいつに何らかの記憶を隠蔽された上、思考回路もかなり無理やり改ざんされているようだ。そこまでするには大量の霊力が必要だから、その霊は直に消滅するだろうがな」
 この間からたまに突然頭に浮かんできた小さな女の子二名ほど。彼女たちのことは以前から知っていたような気はするものの、どこの誰だったかは思い出そうとしても全く思い出せないでいた。ひょっとしてこれこそが、その隠されているという記憶の一部なのかもしれないと思うと、僕はほとんど無意識で目の前のゴーストスイーパーさんに質問していた。
「先輩には分かるんですか? 僕の隠された記憶が何なのか、思考をどのようにいじられたのか」
「……節分の時、お前は俺の結界に触れたろう。あの時に全てを読み取ったからな」
 便利な結界もあったものですね。でもその時すぐに詳細を教えてくれなかったところを見ると、黒沢先輩はやっぱり最初に言っていた通り、僕がつばめさんを好きでなくなることを恐れているらしい。そうなることでつばめさんが悲しむかもしれないということを考えると、真実を口にして言い難い先輩の気持ちもなんだか分かる気がしてきた。
 でも僕には、たとえどんなことが起ころうとつばめさんを想い続けていられる自信がある。だから、
「その僕に憑依した幽霊さんをここに呼び出すことって、できますか」
 確かめてやる。その亡霊が僕の記憶や思考をどういじったのか、どうしてそんなことをしたのか。そして、何故記憶が戻ることによって、僕がつばめさんを好きでなくなってしまうかもしれない可能性が出てくるのか。
「つばめただ一人のことを、愛しているか?」
 僕の目を鋭い眼光で見つめながら唐突な問いをかけてくる黒沢先輩。質問の真意をつかめない僕は、ただ素直な気持ちだけを答えとして述べる。
「はい、愛しています」
 すると先輩は目を閉じ、一言「分かった」と呟いて立ち上がった。先輩はそのまま座っている僕の傍まで歩いて来たかと思えば、今度は右腕を力強く僕の頭上にかざす。
「お前に憑依した霊――“彼”の霊力は、既に風前の灯火だ。呼び出しても滅ぶだけなので、今から“彼”を俗に言う“あの世”へと送還する。いいな」
 視線を上に向けて見えるのは、ものすごい迫力のこめられた、禍々しい何かを感じさせられる五指。
「言い忘れていたが、これが原因でお前の霊感が失われることはない。安心しろ」
 頭の中で記憶の海が荒れ狂うような、そんな感覚が僕の全身に起こって――


      ***


 ――ぼんやりした視界。そこに見えるのは、夕焼けの橙色が塗り染められた道の真ん中でうずくまる一人の女の子。
 思えば小学生の頃、僕たちの関係はこの出逢いが始まりだったのかもしれない。幼稚園ぐらいの女の子が一人で泣いているところに出くわしてしまった僕は、子供心にも見て見ぬフリなど出来ず、ついつい話しかけてしまっていた。僕だって門限が近いというのに。
「どうしたの? 早くしないとお月様出てきちゃうよ」
 それから二言三言話しかけると彼女は泣き声を大きくしていき、ついには抱きついてきてさらに大声を出す始末。僕は困り果てる中で、彼女の小さな頭を優しくなでながら聞いてみた。
「ねえ、きみ迷子? だったら僕が一緒に君のお家を探してあげるよ。だから、ね。もう泣かないで?」
 それから徐々に泣き声を抑えていき、こくんと頷いてくれた女の子。
「素直でよろしい」
 僕たちはお互いに手を繋ぎ合い、当てもなく歩き始める。
 未知の住所を突き止めるにはとにかく情報が必要だ。僕はまたこの小さな女の子に話しかけてみる。
「僕の名前は源川悠樹。君のお名前は?」
「しまき、かおる……」
「かおるちゃんだね。君のお家ってどんなのかな。屋根の色とか、家の周りにあった物とか覚えてる?」
「屋根、ない……わたしんち、マンションだから……」
「そっかー。あれ、そういえばこの辺ってマンション一つしかないよ。ここからだとちょっと遠いけど」
 というわけで迷子事件の真相(かおるちゃんの住所)はあっさり判明したわけだけど、しかしマンションの入り口まで来て、かおるちゃんは僕の手を全然離そうとしてくれなかった。ていうか僕の腕を絶対に離すもんかと言わんばかりに抱き締めてくる。懐いてくれたのはとても嬉しいんだけど、やっぱり困っちゃうんだよなあ早く帰ってもらわないと。こっちの門限に間に合わなくなっちゃうし。
「ねえかおるちゃん、このマンションは入り口で鍵を使わないと入れないみたいだよ。鍵持ってる?」
 こくりと頷くだけで鍵を出そうとしないかおるちゃん。そして僕の腕をさらに強く抱き締める。
「しょうがないなあ。じゃあ部屋の玄関まで一緒に行ってあげるから、ね。早く鍵出して」
 何とか説得してマンションに侵入、そして数分後。
 かおるちゃんのご両親からはえらく感謝された。聞かされた話によると、日曜日のこの日は親子三人で遊びに出かけていたんだけど、かおるちゃんだけ帰り道ではぐれちゃったらしくて、探しても見つからなかったからすごく心配していたという。
「ばい、ばい……」
 それから玄関先で僕や彼女のご両親に説得され、ようやく僕の腕から離れて帰宅する決意をしてくれたかおるちゃん。僕は弱々しく手を振る彼女に「ばいばい」と同じく手を振り返して、このマンションのエスカレーターへ向かって歩き出す。
 やっぱりこの時のことは、薫先輩が僕を好きになるきっかけだったんだろうな。
 そしておそらく、今見ているもの、これから見るであろうもの全てが、僕の隠されていたという記憶。

 ――光が一転、視界に映る光景が一気に変わった。
 そこはとある商店街で、おつかいを頼まれていた当時中学生の僕が、必要な物を求めて数々のお店を回っていた時のこと。この日の空模様はなんだか雲行きが怪しかったので、僕は念のためにと紺色の傘(実はお気に入り)を持って来ていた。
 そして案の定降り始める雨。広げられるお気に入りの傘。
 きっと必要な物は全て買い揃えた後だと思う。僕は重くなった買い物籠を傘のJ状取っ手に引っ掛けたり手に持ち直したりしながら歩いていた。
 そこで不意に視界をよぎるのは一人のブレザー(どこかの学校の制服かな)を着込んだ小さな女の子。その子はお花屋さんの広い屋根の下、ぼーっと空を眺めるように立ち尽くしていた。
 僕はその子が誰なのか知っている。ていうか覚えていた。この再会に少しだけ感動を覚えながら、気付けば僕は思わず、
「ねえ、傘持ってないの? お家まで送ってあげよっか」
 話しかけていた。それから数秒、ようやく自分に声が掛けられたことを自覚した彼女は、空へ向けていた視線をゆっくりとこちらにずらしていく。
「…………」
「…………」
 お互い見詰め合った状態で少しだけ沈黙。先に口を開いたのは女の子の方だった。
「な、ナンパ……ですか? だったらごめんなさい、私には昔から忘れられない人がいて……」
 かなり消極的で控え目な態度。いつも「ゆーくーんっ」と僕の右腕に抱きついてくる現在の薫先輩と比べて、過去の薫ちゃん(よし、これからは彼女への呼び名を「薫ちゃん」に統一しよう)は随分おとなしそうに見える。
「ナンパじゃないよ」
「そ、そうですか。そうなんですか。安心したような、ちょっとだけ残念なような……」
 ナンパされたかったんだね。
「帰ろうよ。天気予報は雨長引くって言ってたし。ほら、待ってても止みそうにないよ?」
「でも、見ず知らずの人の傘に入れてもらうなんて悪いです」
 見ず知らずって……どうやら薫ちゃんは僕のことを全然覚えていないらしい。一瞬だけ人違いなのかなと思ったけど、この容姿はどうみても薫ちゃんだし、やっぱり忘れられてるだけなのかな。ちょっと寂しい。
「遠慮しないで。ほら、行こう」
「え、でも、あの……は、はいっ」
 歩き始める僕の右隣にちょこんとついてくる薫ちゃん。
 この先の記憶は見なくてももう十分思い出せる。僕の家に到着した時、それから薫ちゃんを家まで送ってあげようとしたところ、遠慮深い彼女は「そこまでしていただくわけには……」なんて言い出すものだから、この日は仕方なく傘だけ貸して帰ったんだ。
 確かその傘は――

 ――再度一転、視界に映る光景がまた変わった。
 今度見えるのは、僕の右手の平に乗っている一枚のハンカチ。それは桃色の布に赤いハート型のアップリケ、さらにそのハートの中心で僕のイニシャルが施された、おそらく手作りの可愛い一品。
 生まれてはじめての相合傘を体験した日から数日後、このハンカチは貸していた紺色の傘と共に玄関のそばまで届けられ、手渡された。僕がインターホンに呼ばれてドアを開いた時、
『あの私、すごく嬉しかったんです』
 顔を真っ赤にした薫ちゃんの華奢な指から、
『だからその、これを受け取ってくださいっ!』
 僕の指へと。
 これらは今まで隠蔽されていた、僕の一番大切な記憶。
 可愛い色の包装紙で包まれていたハンカチを取り出し広げた時、僕は目に見える薫ちゃんの健気さ、可憐さを前に、ふと気付かされた。胸の内で今までに感じたことのない、暖かな気持ちが芽生え始めていたことを。
 愛しくて、たまらなかった。
 これは決して忘れてはならないはずだった大切な想い。
 僕は、薫ちゃんのことが――


      ***


「“彼”はお前の思考を操れた。故にお前が島木と再会したところで、以前にどこかで会ったようななどという既視感が起こることはあり得なかった。実際そうだっただろう。だからお前は今まで、自身の記憶が隠されていたことを察せなかったんだ。いや、“彼”の霊力が尽きかけていた今であれば分からんがな。どちらにしろお前は今、全てを思い出せたはずだ」
 室内を漂う甘いココアの香りが鼻腔をくすぐり、霞が晴れていく途中のような意識の中、
「もう一度聞く。お前はつばめただ一人のことを、愛しているか?」
 目の前に立って冷淡に問うてくる黒沢先輩の鋭い声が僕の鼓膜に響いてくる。
「それは、いったい……」
 僕は彼がこちらにぶつけてきた質問の真意について問いただす。すると黒沢先輩は僕の目を見据え、テーブルの上に置いてあった真っ黒のコートを手に取りながら言った。
「明日は修了式だ。その日、手遅れとなる前に答えを見つければいい」
 いつの間にか彼の前に置かれてあった白いカップは空になっている。
「邪魔をした。まあ精々、悔いのないようにな」
 そのままリビングから出て行く黒沢先輩。僕は見送る気にもなれず、彼の去った後、閉じられたリビングの扉を、ただただじっと見つめていた。
 手遅れとなる前に……おそらくこれは、彼の隠された親切心による警告。
 もう時間がない――それがどうしてなのかはよく分からないけど、僕はタイムオーバーとなる前に決めなければならない。きっとそういうことなんだ。
「どうすれば……」
 決めなければ――選ばなければならない。僕が想いを寄せる二人の女の子から、どちらかを。
 つばめさんか、
 薫ちゃんか。

 その日の深夜、睡眠中の僕を襲ったのは果てしないまでに世界を広げた夢だった。
『――また……会いま――』
 汚れさえなければ純白であろう、生地の薄い着物を見に纏ったつばめさんが、僕に向かって何か言っている。それはもう一生懸命な顔で、そしてつらそうに眉をしかめて。
 こないだふと脳裏をよぎった着物の女の子……やっぱりあれはつばめさんだったのか。
『――ああ。また、会おうな……――』
 つばめさんの苦しみを帯びた言葉に答える声。これは僕のものでなく、いつか空を眺めている時に聞いた、つばめさんを呼び捨てにする男の声。
 以前つばめさんから聞いたことがある。彼女が生きた戦乱の時代、離れ離れになってしまった前の恋人がいると。
 夢が明けたのは、それから一瞬先のことだった。
 寝ている間に見たものをきれいに忘れ迎える朝に、僕はいつものごとくカーテンを開け、目を細めてしまう。



 翌日。今日は黒沢先輩の言っていたように修了式で、今はステージに立つ校長先生のお話が長々と続いている真っ最中。ここ体育館内に集まった全校生徒は揃って校長先生の頭(バーコード模様)を眺めている。そんな中、僕だけはなるべく頭上へと視線を持って行き、いわゆる考えごとをしていた。
 好きな人が二人もいる。その内一人とは既に恋仲。もう選ぶ選ばないは関係ないはずなのに、どうして僕は迷っているのだろう。
 つばめさんの顔を思い浮かべてみる。
 次に、薫ちゃんの顔を思い浮かべてみる。
 どういうわけか、以前よりつばめさんのことが好きでなくなっているような……なんだか、あの可憐な幽霊少女へ向けていた想いが、少しだけ治まっている感じだ。薫ちゃんと天秤にかけてしまったからなのかな、つばめさんに対してあまり熱くなれなくなっている。
 今、頭上ではつばめさんがこくこく頷きながら、時に感心しながら、さらにはつぶらな瞳を濡らしながら校長先生のお話を聞いていた。
 僕はこのまま、つばめさんの恋人を続けてて良いのだろうか。

 式は終了し、次はいよいよ教室にて通信簿を渡されるという大変な行事が待っている。体育館から一年二組の教室まで続く廊下を歩く僕に、美央は混雑する人ごみをすり抜けてこちらに近づき、話しかけてきた。
「通信簿返されるわね」
「そうだね」
 僕は左側からかけられる声に軽く返事をする。
「校長先生は本当に立派なお方ですねっ。私は特に鮭は川魚であるというくだりのお話に感動しました!」
 右側からかけられる声には返事が出来ないので黙っておく。つばめさん、すっかりはしゃいじゃって。
「ねえ悠樹。ところであんた、さっきからポケット気にしてばっかりだけど、どうかしたの?」
「へ?」
 気がつけば美央の言う通り、僕はいつの間にか右手をズボンの右側ポケットに突っ込んでは抜き、突っ込んでは抜きを繰り返していたようだ。だって不安なんだもの。この中にはとても大切な物が入れてあるからね。
「ちょ、ちょっとお財布間違って持ってきちゃってね。落とすんじゃないかって不安なんだ」
「ふーん……」
 そうこう話している内に、僕たちは一年間お世話になった教室へと辿り着く。押し入れの奥から一生懸命探し出し、そして御守り代わりに持って来た薫ちゃんお手製のハンカチを、割れ物注意のラベルが貼られた箱を扱うがごとくそっと気にかけながら、僕はそこに足を踏み入れた。

「通信簿の数字があまり良くなかった君や君も、落ち込んでちゃだめですよ? 今日はもうチャイムが鳴らないのでこれにて解散です。皆さん、楽しくも充実した春休みを送ってくださいね」
 新米ながらも敏腕なことで有名な我がクラス担任教師のお話もこれにて終わり、委員長による号令が教室中の生徒を動かせる。起立の後に礼が済んだ途端、教室内はクラスメイトたちのささやかな喧騒で賑わった。
「ね、ねえ悠樹」
 よっこらせと椅子から立ち上がる僕に話しかけてくる美央。
「何?」
「えっと、その、一緒に帰らない?」
「ごめん、用事あるんだ」
「即答ってひどくない?」
 僕はこの後、普通の人相手では誰にも言えない大切な用事がある。
 心の中に在る僕の迷い。つばめさんと薫ちゃん、どっちも好きな僕はいったいどんな行動をとればいいのか。それのヒントを得るために、僕は昨夜あったことの全てを話そうと思っている。
 いつものごとく校舎の屋上にて、つばめさんに。

      ***

 昨夜はあんなに寒かったのに、なんだか今日はぽっかぽっかとやけに暖かい日和。屋上の床一帯に照りつけられた日光のおかげなのかな。じっとしてたら眠くなりそう。
「悠樹くん、私に大事なお話って何ですか?」
 床から数センチほど足を浮かせている幽霊少女は、そのつぶらな瞳で僕を見つめながら小首をかくんと傾げる。
「えっと、それがね……」
 さて、このひと気が全く感じられない場所へとつばめさんを呼び出したのはいいんだけど、これからどうやって話を切り出すかが問題だ。さすがに「恋人である君の他に好きな人がいたのを思い出したんだっ」なんてさらっと言うわけにもいかないし……。
「……ううぅ」
「話せば長くなりそうなんだけど……ってどうしたのつばめさん、そんなにしょんぼりして! 何かあったの!?」
「悠樹くんのそういう話しづらそうな態度、宿直室に設置されていたてれびという機械で見たことがあります。今の悠樹くんは、恋人に別れ話を告げようとする彼氏の顔をしています……」
 ギク。別にまだ別れ話になると決まったわけじゃないけど、何だか図星を指された気分。
「うーん、えっとね……どういう風に言ったらいいのかな……」
 つばめさんが僕の顔を覗き込むように上目遣いを向けてくる。うう、もし泣かせてしまったら逆にこっちの胸が深くえぐられそうなほど可憐な瞳だ。本当にどう話せばいいのやら……とそこで一つの閃き。
 僕はとにかく何か適当な世間話でも振って、そこから本題に繋げていけばいいと考えた。ナイスアイデアだね、冴えてるよ僕! これなら気まずい展開も極力避けられるはずだよね!
「昨日、黒沢先輩が来て……それで、薫ちゃんのことが好きだったんだ!」
 ぽかんという擬態語が彼女の背後に見える。僕だって驚いたさ。唐突な話題の上に、話の飛躍の仕方が半端ないからね。
 し、失敗は誰にでもあるというものさ! ここからどう挽回するかが僕のこれからを左右する!
「あのその、だからと言うかええとなんていうか……」
 本当に駄目だ、僕の口は最早役立たずと化してしまったらしい。何も切り出せないでいる。これじゃあ挽回なんてできっこない。
 どうしよう。とそこへ、
「……なるほど、理解しました。昨日、京介さんが悠樹くんのお家に出向いたのですね」
 ひたすら悩む僕に語りかけてくる幽霊さん。
「……あ、ああうん、まさにその通りだけど……」
 突然何を理解したと言うのだろう。本当に全部分かってくれたなら話す手間がかなり省けるんだけど、さすがにそんなわけないだろうし。
 それからつばめさんは瞳を閉じ、何やら思案していらっしゃるご様子。その間僕は何も言えず、彼女が口を開くのを待ち続ける。
「実はですね、卒業式の前日に京介さんからいろいろ聞かされてまして……今悠樹くんが私に話そうとしてくれていることは、私は多分もう知っています」
「……そうだったんだ」
 彼女のまぶたに隠された瞳が徐々に姿を現したかと思えば、それは僕を捉えることなく、フェンスの向こうに広がる大きな校庭を見つめ始める。
「悠樹くんにとある幽霊さんが憑依していることや、それから……」
 僕も彼女の視線を追うように校庭へと視線をやる。修了式を行った日でも運動部さんたちは元気に活動中。
「その悠樹くんに憑依した幽霊さんの正体が、私の前の恋人であるということも、聞いています」
 ところで美央は今日も玄関で待っててくれたりしてるのかな――なに、前の恋人だって?
「……、……」
「あの、悠樹くん? どうしたのですか、そんなに口をぱくぱくさせて」
 当然じゃないか。だって僕に憑依していたという霊の正体が、僕の恋人であるつばめさんの前の恋人なんだよ? 僕の恋人の前の恋人の恋人の恋人が僕なんだよ? 驚かないわけがないよ。
「悠樹くんが金魚さんみたいに口をぱくぱくさせたままなので、勝手にお話を続けさせてもらいますね。この間も話したと思いますが、その前の恋人というのは庄吉という名前でありまして……」
 落ち着け僕、つばめさんのお話を聞く前にまずは心の深呼吸だ。すーはすーは。
 よし落ち着いたっ。落ち着いたら今度はまずこんがらがった頭を整理しよう。僕に憑依していたのはつばめさんの元彼で……庄吉さんって言ったっけ。確かその名前は前につばめさんから聞いたことがあった。そして名前だけでなく、二人の末路も詳しく鮮明に。僕はつばめさんのお話を一旦右手で制止し、ゆっくりとそれについて思い出してみる。
 つばめさんたちが生きていた時代――今から軽く五百年くらい前のこと。当時まだ生きていたつばめさんの恋人、庄吉さんは、ある日合戦のためにと無理やり遠い場所まで駆り出されたらしい。噂によると庄吉さんはその時に戦死したという話で、つばめさんの方はと言えば後々敵側の者の手によって故郷の村を全て焼かれ、無論焼死。引き裂かれた二人は死ぬ時もお互い別々の場所で、つばめさんはとてもつらい思いをして……それで彼女はこの世に強く未練を持ち、幽霊としてこの世をさ迷い続けることになったんだそうだ。
 整理の終わった頭を一回頷かせ、つばめさんにお話を続けるよう視線で促す。つばめさんは一度僕に頷き返し、話を再開した。
「庄吉は戦いに赴く寸前、私と約束してくれました。絶対にまた会いましょう、と」
「また会う、か……そっか、そのためなんだね。彼が僕に憑依したのは」
 庄吉さんという人が僕に憑依した理由は分かった。しかし解せないことがまだいくらかある。
 僕に憑依したということは、言うまでもなく彼は幽霊だったんだ。実体の無いその体なら人目も気にせずどこへだって行けるのに、どうしてわざわざ僕に憑依なんてしたのだろう。
「実はこの学校、京介さんが張った強力で大きな結界に覆われているのです」
 僕の心の中で抱いた疑問に気付いて答えるかのように、つばめさんの話は続けられる。
「そしてその結界に出入りすることのできる幽霊は京介さんから特別な施しを受けた私だけ。庄吉は私のことをとっくに発見していたのでしょうけど、でもその結界のせいで会いに来れなくて……だから庄吉は、結界の中へ侵入するため、結界の影響を受けない生者に憑依したのだと思います」
「でも、庄吉さんって人は学校の中に入れさえすればよかったんでしょ? つばめさんに会いに来たんだから。だったら結界の中に入った時点で憑依を解けばいいのに」
 僕のふとした疑問に、つばめさんは「それはですね……」と寂しげな表情を浮かべて答えてくれる。
 この時既に、僕は察していたのかもしれない。彼女が次に口を開いた時、自分がどんな気持ちになってしまうのか。
「離れ離れになる前にした約束には、まだ続きがあるのです。また会おう……そして、ずっと一緒にいよう……って」
『また会えたら私、ずっとあなたのそばについて行くからね――』
 以前の既視感が目の前のつばめさんと重なるように蘇る。
 あの時見えた白い着物の少女は、やっぱりつばめさんだった。この記憶はおそらく僕に憑依していた庄吉さんという男のもの。
 薄々感付いてはいた。僕がつばめさんのことを好いていた気持ちも、実は全部彼のもので。
 僕がつばめさんを愛していたわけじゃなくて。
「彼は私とずっと一緒になるため、ここにやって来ました。しかし私たち幽霊は、未練が無くなれば成仏してしまい、あの世へと送られてしまうのです」
 つばめさんを想っていた頃のことを思い出し、僕の中にぽっかりと穴の空いたような喪失感が生まれる。好きだったはずの人のことを、好きなままでいられなくなってしまった。この屋上でつばめさんに告白したのも、今までつばめさんを想っていたのも、僕ではなく庄吉さんだったんだいうことをと思い知って――大切なものを失った気がして、目頭に何やら熱いものがこみ上げてくる。
「あの世がどんな所か分からない以上、再会しても成仏してから離れ離れになってしまうという可能性は十分に考えられましたからね。彼は多分、そのことを危惧していたんじゃないかと思います」
 幽霊少女の元気が足りない語りを聞く内に、僕の心は強い何かで固まっていく気がした。
「でも結局庄吉はあの世へ行ってしまいました。今頃どうしているんでしょうね、彼。ひょっとして天国と呼ばれる場所で楽しそうに――」
 僕はつばめさんの言葉がまだ続いているにもかかわらず口を開く。今度は初めて出会った時のような衝動に任せた告白ではなく、自分の意思から、決意を言葉にして、今の気持ちを伝えたい……その願いをもとに、言う。
「いきなよ。彼のもとへ」
 春一番に似た突風が僕だけにぶつかり、通過していく。
「……はい?」
 黒沢先輩が言った「手遅れになる前」とは、つばめさんのこの世に留まっている理由が消滅しようとしている時、すなわち今のこと。
「彼って……庄吉のこと、ですか?」
 彼女は庄吉さんに会うため、それから彼とずっと一緒にいるために、数百年もの間幽霊として現世に留まっていたんだ。たった一人、自分が愛した人のために、移り変わり行く永い年月の中を、ずっと。
「もう分かってるんだ。つばめさんは庄吉さんって人とずっと一緒にいたいんでしょ?」
「そ、それはそうなんですけど……でも今の私は、悠樹くんの恋人で……」
 僕はあたふたするつばめさんの口元に人差し指をそっと近づけ、心優しい幽霊少女の慌ただしく動く唇を制止する。
 多分、つばめさんは僕のことを見ていたのではなく、僕にあった庄吉さんの面影を見ていたのだろう。根拠はないけど、前からそのつぶらな瞳の奥では常に僕ではない僕を捉えている気がしていた。
「つばめさんは庄吉さんとも恋人なんだ。これって二股だよ? 昔はそれでもいい時代があったらしいけど、今は違う。いけないことなんだよね」
 そして今は、僕もつばめさんのことを見ていない。
「それに僕、本当は薫ちゃんのことが好きだったんだ」
 焦点が合っていないような瞳で僕を見つめるつばめさんに、僕は先ほど心の中で編み上げた答えを告げる。
 人は、想いたい者を想うべきだ。
「別れよう」
 ここから先、僕たちの間に会話はなかった。ただお互いに、瞳をそらすことなく見つめ合う。
 数秒してこくんと頷く幽霊少女。
 それに対し、同様に僕は頷き返す。
 つばめさんと出会ってからほぼ一年、僕たちは一緒にいることでいろいろな体験をした。新聞部の活動では力を合わせて精を出し充実感を得て、体育祭には彼女の応援を背後に受け頑張った結果びりっけつになり例年以上に残念な気持ちになって、文化祭ではつばめさんが絶えずわくわくしていて、卒業式が終わった後はつばめさんが感動のあまり絶えず涙を流し続けて。
 こんな僕たちの思い出は、多分これで終わる。あの世とこの世で離れ離れになるんだ。再び会うことはまずあり得ない。
 目を閉じ、桃色の唇をこちらに近づけてくるつばめさん。彼女の思惑が、普段は鈍い方の僕でも今はすぐにつかみ取れた。
 目を閉じ、同様に顔を近づける僕。これでつばめさんのこの世に留まる理由……未練が完全に断たれるのだとしたら、僕は喜んで彼女のこの行為を受けとめよう。
 近づく二人の面。
 二つの唇は触れ合うこともなく、真正面からすれ違い、視界ではお互いを見失う。
「またきっと会いましょう、悠樹くん。そうしたら今度こそ、悠樹くんのお家に遊びに行きますね」
「……うん」
 これが、背を向け合いながら交わす僕たちの最後の会話。
 頬に微かな生ぬるさを感じる中、背後に在った人の気配が、完全に消え去った。

 ――いや、消え去ると思った。

 しかしどれだけ霊感を研ぎ澄ませようと、その気配が消えそうな様子はまったく感じられない。話の流れ的にもう消えちゃっていいはずなのに、未だそれは僕の背後に感じられる。
 少し混乱した状態のまま何分くらい経っただろうか。僕はようやく後ろを振り向いた。
「つばめさん、成仏しないの?」
 そこにはこれ以上ないくらいにっこり笑みを満面に広げた可愛らしい少女がいて、そのつぶらな瞳は僕の方を真っ直ぐ見つめている。
「しようと思ったのですけど、できませんでした」
「それって……」
 死んだ人間は強い未練を現世に残していると、それが解消されるまでは幽霊となってこの世に留まり続けるらしい。
「悠樹くん、あなたのことが気になります。このままでは成仏なんてできません」
「いやでもさ、つばめさんの未練って庄吉さんって人のことじゃなかったの?」
 だからつばめさんはもうこの世に居られないはず……まさか。
「ふふ。そのですね、新しく未練ができてしまったのです」
「新しくって……ええっ?」
 そんなのって、ありなのか……。
 呆然とした気持ちを胸に、僕はとりあえず約束云々についてのことを聞いてみる。
「でも、つばめさんは庄吉さんとの約束を果たさなきゃいけないんでしょ? 再会したらずっと一緒にいようって、そう約束したんだよね?」
「大丈夫です。庄吉は優しい方なので、ずっと待っていてくれるはずですから」
「いや、でも……」
 そんなの認めちゃったら、僕の人生でこれから先もうないだろうと思われる大決心、“つばめさんと別れる覚悟”はどうなっちゃうのさ。涙流してまで覚悟したってのに。
「悠樹くんには振られちゃったのでもう恋人ではいられませんが、こうなったら浮遊霊から守護霊に転職することにします。だからこれからも、末永くよろしくお願いしますね」
「う、うん……」
 解せない。何だかものすごく解せない……なので、もう深く考えないようにしようと思います。どうせ考えるなら逆の方向で……そうだよ、良かったじゃないか。これでしばらくの間はまだつばめさんとお別れしなくても済むんだし、しかも独り身となったこれからは堂々と薫ちゃんのことを好きでいられる。良いこと尽くめじゃないか。
「分かったよ。じゃ、これからもよろしくね。つばめさん」
「はいっ。悠樹くんの恋が実るよう、私、精一杯お手伝いさせてもらいます!」
 つばめさんのその言葉に、ふとポケットに入れていたハンカチのことを思い出す。これはいつか来る大事な時のために、引き出しの奥にでも大切にしまっておこう。
「それと、実は悠樹くんの他にも未練がありまして……私、てれびはいつも宿直室の物で当直の先生さんと見てるのですけど、今はまっているどらまがいいところでして……正直、こっちの方が未練強いです。あと、明日の電話しょっきんぐのげすとさんも気になります」
「僕ってテレビ以下!?」
 ていうかつばめさん、すっかり俗ボケしちゃって……身体中から力が一気に抜けていく。
 快晴の空の下、頬を横殴りに吹いていく風が少しだけ痛かった。



 ここからは後日の話で、春休み現在。自宅の自室にて、僕はつばめさんと小さなテーブルを挟んで向かい合っていた。
「悠樹くん、お勉強ですか?」
「うん、考査の結果があまり喜ばしいものじゃなかったからね。来年度に向けて頑張っておかなきゃ」
 僕たちはあの修了式の日からずっと、同じ屋根の下で暮らしている。理由はもちろんつばめさんが今はまっているテレビ番組を彼女に見せるため。僕ってば本当に優しいよ。ねえ?
「今日は美央さんたちもいらっしゃるんですよね」
「そうだよ、皆揃って勉強会をすることにしたんだ。黒沢先輩も来るよ」
「すごく楽しみです。もう今からわくわくですよー」
 噂をすれば影。僕たちは階下から響いてくるインターホンの音を聞く。
 数分後。
「武雄くん、そこはそう解くんじゃないんだよ。もう、貸してごらん。ほら、ここをこうね、こうしてああしてこうっ」
「おお、さすが薫姉ちゃん。何だかんだで分かりやすさが半端ないぜ!」
「ねえ悠樹、ちょっと英語で分からないとこがあるんだけど」
「僕、美央より英語の成績低かったんだよね。そんな僕が君に教えられることは何もないと思う」
「役立たず」
「酷い」
「黒沢先輩に聞くからいいもんね。あの先輩、これなんですけど……」
「こんな簡単なもの、どう教えればいいのか分からん」
「これだから天才は」
「おい源川、何だその褒めながらも嘲るような言い草は。意図が読めん」
 とまあ、この通り僕の狭い部屋は大変賑わっております。ちなみにつばめさんは会話に参加できなくて退屈なあまりちょっとだけ眠たげなご様子。
「ふあ……うう」
 こうして、今日も僕たちのつばめさんに見守られた日常は過ぎていく。
「薫姉ちゃん、ここも教えてほしいんだけど」
「私、なんだか武雄くんよりゆーくんに教えたい気分」
「い、今……俺の胸には、得体の知れないダメージが……人を憎しみ妬む悪しき心が……っ!」
「じゃあ教えてよ薫ちゃん。ここなんだけどさ」
「ようし。私、頑張っちゃうよっ! えーと、そこはねー……」
「ちょっと待て悠樹、『薫ちゃん』って何だ『薫ちゃん』って! てめえ姉ちゃんの何なんだあっ!」

 つばめさんと本当にお別れしなければならない日はいずれ必ず来るだろう。その時まで、僕はこのつばめさんを含めた楽しい仲間たちと一緒に、もっとたくさんの思い出を築き上げていこう。
 はじまりの時から変わらぬ想いをこの胸に、そう思う。



後書き

さて、このシリーズつばめは次回のエピローグで完結するというわけですが、どうでしたかっ。なんだかまだまだ書けそうな気がしますが、しばらくはシリーズつばめ以外のお話をいっぱい書きたいなあって気分なので、今のところ続編は考えておりません。面白いと言ってくださっている方々には申し訳ない限りなのですけど、こんな僕を許してくださいっ。
それにしてこのつばめ、今思えば書きながらいろんなお話を没にしてきました。はい? どんなエピソードを没にしたのかって? それは言えませんですよおお客さん。もし続編を書くことになったらそのネタを使って書きたいなあって思ってるんです、だから口が裂けても言えません。ふはは。
……もうそろそろ毎度のごとく後書きに飽きてきた頃です。お開きにしましょう!

s:2958(第一話)
s:2997(第二話)
s:3260(第三話)
s:3560(第四話)
s:3575(第五話)
s:3585(第六話)
ちなみにこのシリーズ、文章量文庫本一冊分を目指しています。

この小説について

タイトル 想い、この胸に抱いて 〃
初版 2009年11月7日
改訂 2009年11月7日
小説ID 3599
閲覧数 759
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コメント (1)

2017.9.13xukaimin コメントのみ 2017年9月13日 10時01分48秒
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