むりやり解釈百人一首 - 1.天智天皇

1. 天智天皇

秋の田の 刈穂の庵の 苫をあらみ 我が衣手は 露に濡れつつ
Akinotano Karihonoiono Tomawoarami Wagakoromodeha Tsuyuninuretsutsu



「最近だいぶ朝晩冷えるようになってきたな。秋が近づいてきた証拠か。そろそろ農村では稲刈りが始まるころかな」
 私はそう独り言をつぶやきながら近くにいた側近に声をかけた。
「よし、今日は奈良の町を見回ることにする。すぐに支度をしろ」
 はい、とはっきり側近は答えると足早に去って行った。私は縁側に一人立ち、庭を見つめて物思いにふける。はぁ、最近奈良の治安が悪いんだよね、どうしたもんか。疫病がちらほら出て来たって言う噂も聞いたからなぁ。いいことないもんだね。
 庭の木々の葉は朝露で濡れ、ちょうど朝日を露が反射して辺り一面がキラキラと光り輝いている。何とも美しい光景だろう。日ごろの嫌なことなんか、一瞬で吹っ飛んでしまうようだ。
 そのままその光景に見入っていると、側近が何人か連れて戻って来た。
「天皇、準備ができました。牛車を表に配置しておりますので、お乗りください」
「うむ、御苦労」
 この景色から離れるのが少し名残惜しかったが、用意ができたのならば仕方がない。待たせるのは、人間として失格だろうからな。
 10分ほど歩かないと、屋敷の外には出られない。広い屋敷は無論歓迎なのだが、やはりこう冷えはじめる初秋などはつらいものがある。私はこう見えても冷え症なのである。
 ようやく屋敷の玄関に着いた。足先が冷えすぎてほとんど感覚がない中、私は履き物をなんとか履き終える。
「おはようございます」
 玄関から外に出ると、役人たちがそろって挨拶を私にしてきた。私も「おはよう」と言うが、それと同時にあくびが出てしまう。
「天皇、はしたないですぞ」
「まぁいいじゃないか。庶民派っぽくて」
 自分でも言っている意味がよく分からなかったが、私だって人間なのだ。挨拶の途中にあくびが出ることだってあるし、身分が上だからと言ってそれを制限されるのは気に食わない。
 しかしそんな事を言いつつも国の政治をここで造っていかなければならない。この国はまだまだこれからであるから、私が基盤を作らないと後世に安心して托せない。
 私がまだ中大兄皇子と呼ばれていた頃、悪い政治をもくろんでいた曽我氏を倒し、大化の改新を成功させた。その後私はこうして天皇の座に就くことができたのだが、やはり忙しい。もっと女遊びだってしたいけど、これも仕事。いや、奈良の街を見回るなんて簡単過ぎてそれこそあくびが出る。………今うまいこと言ったよね?
「では天皇、牛車にお乗りください。………それより、今日はどこを見回るおつもりですかな?」
「そうだなぁ、この前は市場に行ったから、今日は農業の方を視察に行こう。農村の方面に出せ」
「分かりました」
 牛車に乗って、しばらく政治やら私生活やらの悩み事を解決しようと悩んでいたが、それは徒労だった。全く答えが浮かばない。そうこうしているうちに、京都のにぎやかさもどこか薄れて、辺り一帯静けさが支配している。農村というのはこうも寂しいものなのか。
 またしばらくすると、牛車の動きが止まり、すぐに側近の声が飛んできた。
「天皇、着きましたぞ。お降り下さい」
 私は返事をせずに牛車から降りる。少し北に来たせいか、こころなしか肌寒い。
「相変わらず、何もない所だな」
 視察、という名目でここに日ごろの疲れを癒すために、療養目的でここに何度か来たことはあるが、秋に来るのは初めてだ。山に囲まれているということもあって、都よりは幾分か涼しい。夏は避暑地としても利用した。なんと悪い天皇だろう。国を発展させたいとは思いつつ、やはり休みはほしい。
 そんな事を考えながら辺りを見回していると、田のあぜ道のそばに小屋が立ち並んでいる。どうやらあそこが農民たちの寝泊まりする所なのだろう。
 小屋の屋根は菅や萱で編んだものだから遠くから見ても明らかに目が粗い。これからどんどんと寒くなってくる季節なのに、農民たちは凍え死んでしまうのではないだろうか。
 すると小屋の中から質素な服装をした人間が出てきた。どうやらあれが農民のようだ。気になった私はその小屋まで行ってみることにした。
「あそこまで行くぞ」
「あそこって、あの小屋ですか?」
「そうだ。別に着いてこなくてもいい」
「て、天皇! あんなあぜ道を歩いたらせっかくの着物が………」
 私にとって着物は命ではない。あの農民はあんなに質素な服装をしているではないか。なのに私が着物などに金を使っていることを農民たちが知ったなら、笑われるだろう。
 足場が悪いせいで、何度か転びそうになったものの、なんとかそこまでたどり着くことができた。すると、私に気づいた様子で驚いてこう言った。
「あ、あなたは………? なぜそんな大層な着物をお召しになって………」
「何を隠そう、それは私が天智天皇だからだ」
「て、天皇さまでございますか!?」
 それと同時に農民は一歩後ろに下がって地面に両手両膝をつけた。人が私を崇めるのはいつ見ても気分がいいものであるが、今の私は恥ずかしい気持ちでいっぱいである。なぜかって? そりゃあ―――。
「なぜ、あぜ道を通ってここまで来たのですか。そのお高そうな袴の裾が泥だらけでございます」
「そんなことなんてどうでもいい。洗えばまたなんとでもなるしな。私がここに来た理由は、お前に日々の暮らしについて尋ねようと思ってな」
「はぁ、日々の暮らし………税をおさめるために毎日せっせとこの目の前に広がる田でコメを作る日々です。毎日米の事を考えて生活しています。今日はちょうど今から米の収穫をする予定だったのです」
 毎日米の事ばかり考えて、か。もちろん税として米は払ってもらっている。自分たちが食べていく分も考えて米を作らなくてはいけない。そんなつまらない日々、自分は耐えれるだろうか。いつも平城京の大内裏で優雅に暮らしている自分が、なんだか恥ずかしくなってくる。
「………そうか、がんばれよ。少し、お前たち農民の気持ちが解った気がする」
「へっ?」
 私はそう言い残し、再びあぜ道を引き返して行った。








「天皇。その袴、洗濯しなくてもよろしいのですか?」
「あぁ、これは農民たちの痛みだ」
 側近は意味の分からなさそうな表情をしたが、そんなことはどうでもいい。
「なぁ、私は今日自分の恥ずかしさに気づくことができたよ」
「ほう、それはまた」
「私はここでのーんびりしながら気ままに句を詠んだり、遊んだり。なのに農民たちは一生懸命毎日働く。この差は何なんだろうな。身分が生み出している現象なのだろうが、あまりに違い過ぎると昨日初めて認識できたよ。農民がいるから私たちは優雅に暮らしていられることに感謝の気持ちをもって生活をしていきたいな。彼らの気持ちをすべて理解しようと思ったら難しいが、少しなら分かった気がする」
 側近は頷きながら聞いてくれた。私も今日一日で成長できたようだから、どこか誇らしげだった。そんなとき、側近が口を開いた。
「では、今のお気持ちを詠まれてはいかがですか? きっといい句ができますぞ」
「なるほど。すぐに用意しろ」
 しばらく待つと、すぐに用意は整った。
(農民たちに感謝の気持ちを………)
 そう思いつつ、私は筆を進めた。

秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ 我が衣手は 露に濡れつつ

「どうだ?」
「いい、作品でございます」
「………そうだろう」
 農民たち、ありがとう! 私はこの気持ちを胸にこの国をよくしていくぞ!
「どうでもいいですが天皇。袖にくっつきむしがたくさんくっついていますぞ」
「………げっ」

後書き

天智天皇が詠んだ歌なんだけど、実際これは農民目線の句なんじゃないかな。
だけどここではむりやり天智天皇を絡めて見たりしています。
だってこの作品は、そういういいかげんな作品。

リアリティのかけらもないけど、そこはご愛嬌。(すいません。
だって、天智天皇のいた時代の事なんか、わかんないもん;;開き直り

この小説について

タイトル 1.天智天皇
初版 2009年12月13日
改訂 2009年12月13日
小説ID 3678
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作家名 ★せんべい
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卓球とみたらし団子とピアノが大好きな変態です

コメント (2)

春燕 2009年12月13日 23時09分40秒
読みました。
こんな解釈もできるんだなぁと思いつつ、楽しく読みました。ギャグという分類でもぜんぜん通ると思います。
ああ、なんかもう百点を付けたくなるほど抜け点が無かったように思います。
細かい事は毎度のごとくなので、もう言わない方がいいと思ったので、いいません。
百人一首という着眼点、すごくいいと思いました。そういう場所があったかというビックリがありました。

では、また。
★けめこ 2009年12月16日 23時03分10秒
時代考証を無視しつつ、ここまでリアリティのある物語に仕上げられるとは、さすがせんべいさん。
天智天皇が妙に人間味があって、親しみやすいキャラでした。
最後に改心したりして、しっかり話がまとまっていますし。その改心の仕方もまた、天智天皇というどこか抜けた?キャラを際だたせています。
時代物なのに会話が古くさくないのもいいですね。

この調子で次回作も頑張ってください。
持統天皇…天智天皇の娘であり義妹にもあたりますね。
私個人としては、この辺の複雑な人間関係も書いていただけるとおもしろくなると思います。
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