時止めの輪舞曲 - 時の回廊

春燕

 世界は今、コンピューターに頼った経済で動いている。その中でも一番高性能で、中枢を担うコンピューター。それはマスターコンピューターと呼ばれ、十四年前に一度、世界恐慌を起こしていると教科書に載っているけれど定かではないらしい。
 私の一家は普通の家族で、普通の中学校に通う中学二年の生徒だ。何か他の家族と違う場所と言うと、私の家には、童謡本がたくさんある。その本はすべてこの世界には時止めと呼ばれる種族がいるらしいという記述のある本だ。実際、私の母は時間の行き来を書いた小説も書いたりしている。
 私は半信半疑だった。
 でもそれを確定させることが起こった。それは夏の日のある平日のこと。
「後五秒待って!」
 これが全ての始まりだった。つい昨日までは、私はただの中学生だった。でも、今日の今この時が止まっている。おそらく私の力で。
 お茶を持ったままで止まっている母、新聞を広げたまま動かない父、いつも活発的なオス猫のミケが、歩き出そうとしたのか足が上がったまま止まっている。
 これ、戻るわよね……
 そう思った瞬間、またいつもの朝が始まった。
「こら春香、早く行かないと遅刻するわよ」
 母に言われなくても行きますよ、と、立ち上がったとたんに、目の前が真っ暗になった。
 次に目が覚めた時、私は病院のベットで寝ていた。あの後、母たちが救急車を呼んだらしい。
 まあいきなり床に倒れこんだら普通は呼ぶか、と思いつつ時間をつぶしていると、ふと、ここでも同じことが出来るのかと思った。
 五秒で倒れたので三秒ならいけるかもしれないと、三秒待って、と願ってみた。すると、その辺を飛んでいた鳥が空中で止まっているのが見えた。
 また止めれたと思って、喜びがこみ上げてきた時、止まっているはずの空間のドアが開いた。びっくりすると同時に私は布団に隠れる。
 とりあえず耳を澄まして、誰が入って来たのかを探っていると、聞き覚えのある声が聞こえた。母だ。
「春香、怒らないから出てらっしゃい」
 私が布団から顔を出すと、父もいた。
「これから話すことと、お願いは、誰にも言ってはいけません……話して信じる人はあまりいないでしょうけどだからといって、話してはいけません、約束できますか?」
 私はうなずいた。
「春香、あなたは今で何回目の時止め?」
 時止めは時間を止めることらしい。でも種族の名前って書物では書いてあったけど。
「倒れた朝の時と今の二回だけど」
「そう……やはり覚えて無いのね、あなたは、前にあった世界恐慌の引き金を
引いたのよ、あれはあなたが生まれた直後におそらく時間が一時間ほど止まってるの」
 いきなりで話が見えてこない、世界恐慌なら学校で十四年前にあって始まった日が私の誕生日……偶然だと思ったけど
「今、理解したけど、なぜ私にこんな力があるの?」
「あなただけじゃなく、常葉家全員にある力なの、だからあなたのお祖父さんもお祖母さんも、みんな持ってるの」
 どんどん話が大きくなるにつれて、私は話を理解するだけで精一杯だった。
「でも、今までに全世界を一時間も止めたのは、あなたが最初なの。常葉家代々ね」
「血の繋がりではないらしい。この能力はなぜか嫁いだ方にも与えられる。まったく厄介な事だよ」
「なぜ、世界恐慌は起きたの?全て止まったのなら……」
「マスターコンピューター、つまり全世界の金銭を管理するコンピューター以外止まったら、どうなると思う?」
 答えはすぐに出た。
「時間にずれが生じる。しかも膨大な。でもなんでマスターだけ?」
 少し疑問に思った。
「理由はわからないけど、何か特殊な物なんでしょうね。それが悪い方向に向いただよ」
 目を回すぐらいの速度で動く金銭流通が止まったなら、起きてもなんら疑問は無い。
「それじゃあ、戻しますか」
「ああ」
 その一言の後、また時間が流れた。
「ああ、そういえば春香、時を止めたいと思ったら五秒以内にしとけ、でないとお前の体が持たん」
 この時父の言った一言がようするに、朝みたいなことになるぞと言ってるぐらいにしか、この時私は思っていなかった。
 今日は学校を休むことになり、病室で一日を過ごす間私は、母と父が言った言葉を思い返していた。
 話には無かったと思うけど、推測するに数人の時止め、ようは時間を止められる人が集まると、時間を止められる限界が増すような気がする。でないと、父が最後に言った事と、私たちが話をしていた時間とでは大きく差が出るからだ。
 朝から色んなことがあり、疲れきった私は、少し考え事をした後、寝てしまった。
 
 起きた時間は午後四時三十分。もう学校は終わっている。
 誰か来ないだろうかと、期待しつつ、この前買った文庫本を読んでいると誰か入ってた。
「起きてるか、トキワ」
 同じクラスの喜多見 修だ。修とは付き合いが長く、小学生の頃からの友達だ。
 あと、私の名字の常葉の発音が少し違うがいくら言っても直らないので、私は半ば諦めている。
「なんかお前が倒れたって聞いたもんだから、看まいに来たんだけど……」
「ありがと、でも大丈夫よ、来てくれてありがと」
 ふうと、一つ修はため息をつくと、ほおを赤めながら後ろに隠していた花束を私に差し出した。
「元気でよかった、ホント俺、お前が倒れたって聞いて今日一日完全に上の空だったんだ。でも無事でよかった」
 修はそう言い残すと、花束を置いて部屋を出て行った。
 結局、修は何がしたかったんだろうか? この花って……百合?
 そうふと思った時、またドアが開いた。母だ。
「あら、お客さんは?」
「この花置いて、行っちゃたよ。これってゆりよね? 修のやつ漢字調べて持ってきたみたい」
「百合うと書くものね、でもたしかあまり病室に合う花じゃないわね」
「なんでなの?」
「置いたところで会うってことだから長く病室にいるってことだからよ」
 確かにと思い、母に持って帰ってもらうように言って、私は本を読みつつ寝るまでの時間をつぶした。
 床に入ってから何時間たっただろう、三時ごろにふと、目が覚めた。
 昼間に数時間寝てしまっているので、しかたないかと、本を取ろうと体を起こした瞬間、かなしばりのように体が動かなくなった。
 何で動かない無いんだろうと不思議だった。腕が中途半端な場所で止まっているし浮いた腰が戻らない。
 まるで時間が止まったように―――
 そんな時、ふと声が聞こえた。
「君に、屋上に来てもらいたい」
 聞き覚えの無い男の人の声だった。
 その言葉の後、かなしばりのようなもの、おそらく時止めが解けた。
 さすがに空耳のような気がしなく、屋上へ行ってみると、黒い服に黒い帽子のいかにも怪盗のような装束をした人が立っていた。ここからだと遠過ぎて顔が見えない。
「あなたが私を止めた人ー?」
「ええ、そうですよマドモアゼル。この私、時渡り、リング・タイムによって、止まった。そして今も空間世界は止まっているのですよ、ミス、トキワ・ハルカ」
 そう言いつつ、その自称時渡りさんは私に近づいてきた。
「あなたの目的は?」
「いえ、今回は挨拶のみですよ。今から十四年前の事件を起こした本人が力を取り戻したって聞いたものなんでね、気になっただけですよ、ミストキワ」
 そう言うと、私の目の前に来て、私の顎に手を添えた後、自称時渡りさんの目の色が変わった。
 最初は少し黄色い目だったのが、スカイブルーに変わったと同時に、私は意識が遠のいた……
 
 次に目が覚めたのは病室のベットの中だったどうやら気がついた人が運んでくれたらしいとりあえず昨夜あったことを思い出してみることにした。
 あの人の名前はリング・タイム、たぶん偽名だと思う。
 あと挨拶と言ってたからもう一度会えるんだろうなと思った。いろいろ思い出していると、ドアを開く音が聞こえた。
「起きてる? 春香?」
 母の声だ。
「え? 起きてるよ」
 少し恐い顔をして、母が入ってきた。
「春香、昨日の夜に時渡りと名乗る人に会ったでしょう」
「………」
 何で知っているんだろうと疑問を持つ間もなく母から次の質問が飛んできた。
「リング・タイム、でしょう?」
「……なんで、知ってるの?」
「分かってたのよ、あなたが時止めを覚えた時、いえ、正確には思い出したときに、あなたが彼の目に留まるのは」
 ようするに母は時渡りさんを前から知ってたような口調だった。
「どういうこと?」
「この前、十四年前の事言ったわよね?」
「時渡りさんからも聞いたわ」
「あの時、リング・タイムに襲われたのよあなたを産んだすぐに。その時誰も思わないようなタイミングで、あなたは時止めを行った。それでも、リング・タイムが止まった時間に割り込んだから、お父さんとお母さんでその場を何とかしのいだのだけど……」
「その戦いの間私は、止めつづけていた」
「そのとおりよ。彼の目的は分からないけどおそらくあなたが目当てだと思うわ」
 私が目当て? このまれに見る私の時止めの能力が欲しいから? ―――そう思った。
「とにかく、時止めをあまり使わないでね、使うと彼に位置が分かってしまうから」
 この日、私は言われた約束を破るものかと、心に誓った。
 今日で私は、病院を退院した。
 実際私自身どこも悪い気はしなかったし、医者も、何が原因か分からないが、身体に悪い場所もないので、退院となった。とりあえず今日は休日で私にとっては昨日学校に行ってないので、三連休になるけれどいろいろありすぎて、昨日は休んだ気がしなかった。
 母の運転する車に乗って家に帰ると、私はとりあえず疲れがたまっていたのか布団にもぐりこむと、すぐに寝てしまった。ふとインターホンによって起こされた私は、眠いながらも、玄関のドアを開けた。すると玄関先に立っている人は、いきなり部屋に上がろうとした。私はそれを阻止しようと、
「なんのようですか?!」
と言って、その人の前に立ち塞がった。
 すると、その人は私の顎に手を添えて、こう言った。
「お迎えにあがりましたよ、ミストキワ」
 その時、私の脳裏にスカイブルーの目が浮かんだ。また意識を飛ばされる。そう思うと同時に、私は彼の目に私の目を合わせて、こう願った。
 ―――止まれ!
 それを悟ったのか、時渡りさんは宙返りをしてかわすと玄関から出ていく。うちの家の玄関はそこそこ広い。私はそれを後ろから追っかけたが、玄関を出た瞬間、私が止まった。
 やられた! そう思ったのもつかの間、止まった私に、時渡りさんが近づいてくる。
「出来ればレディを傷つけたくは無いのですが……」
 その時のその人の顔は、殺気に満ち溢れた表情だった。いまさら気がついたが、止められると言葉を喋れなくなる。口が動かない。
「………」
「君をここで葬るのは容易いのだがね」
 その言葉と同時に私の胸の少し上の辺りに手を置いた瞬間、いきなり胸が苦しくなったと思うと心臓が押しつぶされるような激痛に襲われた。
「ぅぁ!」
 言葉でないような事しか出ない。
「君が私の元へ、ん? 邪魔が入ったか。娘、命拾いしたな」
 すうっと痛みが引いていくと同時に私の意識も遠のいた。その時修の声がした。
「おい春香! 大丈……」
 修の声が遠のく。
 あの人の言った邪魔って、修? そこまで考えたあと、完全に意識が消えた。

 次に目が覚めたとき、私の部屋にいた。
 修が運んでくれたのかな……そう、ぼーと、考えていると目のピントずれが直ってきた、その時見えた光景に私は自分の目を疑った。修が私の上にいる。
「……修?」
「……あ、ごめん! ごめん! あの、別にそうゆうのじゃないから!」
 思わず私は、自分の上布団ごと修から離れた。
「修が……運んでくれたの?」
「ああ、でもホント何もしてないから!」
 修顔真っ赤。その時何を考えたのか私は、
「ありがと! あのさ、目、瞑って」
「何? いきなり……」
「いいから」
 たぶんこのとき、私も修も顔真っ赤だと思う。私も目を瞑って、あとたぶん三秒、二秒。
「二人とも何してるの? ケーキがあるって……」
 母が入ってきた。私たちの唇の近さはあと一センチほど、その場を見れば一発で何しようとしたか分かる。
「お邪魔でしたか?」
「………」
 修は呆然と母を見ているし、私も頭の中でパニックになっている。
「続きをするのか、ケーキを食べるかどっちがいい?」
 母は満面の笑みで聞いてきた。
「「ケーキ食べます!」」
 母はクスと一つ微笑して私たちをキッチンへ案内した。私たち二人はケーキを食べた後、何も話さないまま、部屋に戻った。部屋に戻ってしばらく時間がたち、何も喋らないまま静かな時間が続く。
 そんな時、母が大事な話があると、修を下へ連れて行った。
 私は待ってるよ、と言って待っていた。
 すると、しばらくして修が少し難しそうな顔をして私の部屋に入ってきた。
「春香、お前が何ものであれ、俺はお前が好きだ」
「……え? いきなり告白? と言うより母から何を聞いたの?」
「お前が時止めだって……」
「なんでそれに告白が入るの?」
「母さんがその方がお前のためになるって」
 最初はどういう意味で母がそう言ったのかわからなかったが、その意味がわかることを思い出した。父の言葉だ。
「血の繋がりではないらしい、嫁いだ方にも与えられる」
 でも私たちはまだ十四歳なのだけど。
「年齢なら関係ないって母さんが言ってた」
「なら?」
「契約に近いらしい」
 契約? とゆうより、修ってこんな記憶力良かったっけ? 
「それで、何で修が選ばれたの?」
 修は顔を赤らめて、
「そりゃお前、あんなとこ見られたらきまるだろう」
「それで、私と修をくっつけて母は何をさせたいの?」
 そこで母が入ってきた。
「それは私から話すわ。春香、あなた自身を守るためよ」
「なんで?」
「たぶん気づいてるでしょうけど、一人より多いほうが能力が飛躍的に高まるの」
「だからそれを利用してってこと?」
「春香、あなた次にリング・タイムにあったら、殺されるわよ」
 そのときの母の顔が、殺意を持った時渡りさんの顔によく似ていた。気のせいだろうか……
「でも俺、寝泊りできませんよ」
「たしかに……」
「学校にいる間や、行き帰りだけでも安全でしょ」
 確かにそうだけど……
「それでも、私は時間を止めるだけしかできないし、修の能力も未知数だし相手は人を殺せるのに……」
「春香、あなたも殺そうと思えば殺せるのよ人の一人や二人」
 何だか私が、殺人鬼のように聞こえた
「もちろん、私も父さんも、修君もみんなこの能力を持った人全員」
「そうなんだ……」
「それと止めるだけでなく、物体へなら、進めることも可能よ。戻すことも」
「どのくらい戻せるんですか?」
 修が横から聞いた。
「人によるけど、私はざっと百年ぐらい行き来させられるわよ」
 百年戻せたら、人にすれば殺すのは容易いだろうなと思った。
「まあ襲われなかったらいいのだけど」
「それで春香、答えは?」
「なんだかせこくない? 断れないよそんなの」
「じゃあOK?」
「うん……まあ、私も好きだったから」
 赤面する私たちを母は、にこやかに眺めていた。それから数日たった日、私たちが授業中にいきなり時間が止まった。
「春香?」
「ええ、たぶん時渡りさんのご登場よ、どこにいるの! 時渡りさん!」
「探さなくともここにおりますよ」
 見覚えのある黒マントの男が教室のドアから顔を出した。
「時渡りさん、時と場所を考えてくださいますか?」
「これは失礼、できればこのような狭い空間では戦いたくないのですが」
 学校の中で広い場所……体育館は授業してるだろうし、屋上なら。
「それじゃあ屋上でまた会いましょう」
「よろしいですよ、そこのボーイフレンドもいいみたいですので、お待ちしてますよ」
 そう言うと、消えたようにいなくなった。
「行こう」
「ええ」
 とにかく私たちは屋上へ急いだけれど、屋上へ続くドアに鍵がかけてあった。
「鍵かけてあるな、これ」
「……ちょっと待って」
 私はドアノブへ向けて風化せよと願うとドアごと錆びていった。それを修が体当たりでこじ開けると、時渡りさんが待っていた。
「少し遅かったですね、まあ結果は見えてますが」
 少しむかついたので、修に、
「何か物ちょうだい、何でもいいから」
「俺の鉛筆あるけど」
「貸して」
「ほれ」
 そう言って修が投げた鉛筆に風化せよと送る。すると鉛筆が空中で粉になった。
「ほう、それぐらい出来てもらったほうが私も嬉しい」
 そう言いつつ、目の色が変わった。ハッとしてその場から離れる。
「修! 避けて!」
「遅い」
 修が止まった。いきなり私たちが劣勢に立たされた。
「さすがに二対一は厄介なのでね、特に君達時止めは」
 それでもまだ数は一対一のイーブン。これでもくらえ! と先制攻撃をかけるひらりと避ける相手にもう一発飛ばす。
 マントのはじをかすめたが本体に当たらないと意味が無い。向こうからも来るのを全力で避ける。はっきり言って止まったら、前みたいに殺されかけるか、殺されるかだ。
「いいかげん私のこと諦めたら? しつこい男は嫌われるわよ」
 そんな言葉に返事もせず向こうからの攻撃はいっこうに止まない。
 どれくらい時間が経ったときか、私がそろそろ疲れてきたころ、久しぶりに時渡りさんが口を開いた。
「結構粘り強いみたいだが、そろそろ終わりにさせてもらうよ」
 その言葉のあと、いきなり姿が消えた。探している時、一瞬悪寒がしたと思うと、彼は私の真後ろから私の肩に手を置いた。
「君の負けだよミストキワ」
 私はもうすでに止められていた。
「………」
「一度時止めを解く。その間にボーイフレンドへの別れの言葉でも言いたまえ」
 その言葉の後、すーと力が抜けた。
「ごめん修、私たちここでお別れみたい。このこと、親に言っといて、でも……探さなくていいって言ってたって伝えて。必ず帰って来るから。そして、時渡りさん」
「なんだね?」
「私をここへ、帰してくれると約束してください。それなら私はあなたへついていきます」
「ああ、そもそもあることの実行のために、君にはついて来て欲しいのだから」
「ほら、だからまた会えるの、だから、だから……さよならは言わないで」
 気づけば、目の前が霞んでいた。修も涙が止まらなかった。
「わかった。それじゃあ、またな」
「うん……」
 その後私は、時渡りさんに抱え上げられて、ハンググライダーのようなもので屋上から飛び、離れていく学校と修を眺めていた。
 そこから見慣れた風景が続いた。飛び立って少し飛んだ後、私は車に乗せられそこからは目隠しをされてどのような道を進んだかはわからなくなった。
「すいませんトキワ様」
 聞き覚えのない声が聞こえた、使用人か何かだろうか?その言葉の後、私は目隠しを声の持ち主に外してもらった。ずっと視界が暗かったせいか、目がちかちかしたが、治った時に見えた風景に驚いた。
 綺麗な西洋式の屋敷が広がっていた。
「ここが時渡りさんのお屋敷?」
「さようでございます」
「あなたは?」
 少しふけたお爺さんのように見えた。
「私はお坊ちゃまの使用人をしておりますタイムメーカーでございます」
「タイムメーカー? 本名は?」
「リンカス・セバスチャンと言いますが、爺さまと呼んでいただければ」
「わかりました、爺さま」
「爺、お客を待たせるなよ」
 そう言いつつ近づいてきたのは、たぶん時渡りさんだ。かなり私服でわかりにくい。
「これはすいません、トキワ様、お茶が入ってますので」
「トキワ様はやめてください、なんだか落ち着きませんから」
「春香殿でよろしいですか?」
「うーん、まあいいわ」
 私からすればこんな大きな屋敷を見るのは初めてで、胸が弾むけれど、ちゃんと生活が出来るのかが心配だったが、テレビや娯楽のようなものが一切無いこと以外は、別になんら変わりはなく、勉は爺さまが教えてくれたおかげで、中学二年生にして高校卒業レベルまで教わった。爺さまに問い詰めると、昔教師をやってたらしい。どうりで教えるのがうまい。
 この屋敷に来て一ヶ月がたち、私もここに慣れてきたとき、時渡りさんが話があると私を屋敷の裏庭に呼び出した。
「なんですか? 時渡りさん」
「覚えているか? 私が君を連れ出したときに言った目的を」
「あることを実行するためって」
「あれのことを今から話す。君はこのまま人類がどういう末路をたどるか、わかるい?」
「……いえ、わからないです」
「じゃあ今人類が一番何に頼って生きているか知っているかい?」
「機械、コンピューターですかね?」
「マスターコンピューターが今や世界を握っていると言っていい」
 確かに今の時代、コンピューターの無い家が世界的に無いと言っても過言じゃない。
「それで、マスターコンピューターと私と何の関係が?」
「君も知っていると思うが、マスターコンピューター以外が止まったのは、十四年前、君の誕生日だ。そしてマスターコンピューターの反乱の日でもある」
 どういうことかさっぱりわからない。
「ようは、あの日時間が一時間近く止まった要因は、君だけじゃないってことだよ」
「えーと、ようするにマスターPCの力もあって、世界恐慌があったってことですか?」
 うむと、時渡りさんはうなづいた。
「たまたま、君が生まれた日と、反乱が重なった」
「で、それがどう関係が?」
「もう一度必ず、マスターPCが反乱を起こす。それまでに君を私と肩を並べる時止めに育てることが、私の使命だ」
 ようは彼は私を相棒か部下にしたいらしい。
「でも、時渡りさんは一人でもマスターPCを止められ るのでは?」
「私は一人より二人のほうが強いのでね」
「私たち時止めがもつ能力と同じ?」
「そうだ」
「でもいつ起こるか分かっているのでか?」
 少し時渡りさんはしかめた顔をして、
「分からないから、急ぐんだよ」
 そう言うと時渡りさんの目の色がいきなり変わったので、私は全力で避けた。
「これからやつの反乱が始まるまで、特訓だ」
 この日から、私の忙しい日々が始まった。
 
 その日から爺さまも手伝って、私の特訓が始まった。
 一日のスケジュールはこうなった。
 朝起きた時、枕を寝る前の綺麗でしわくちゃになってない状態に戻す。
 朝ごはんを作った後、その朝ごはんを材料の状態に戻す。その後運動や体術を時渡りさんに教わって、爺さまに回避のしかたを教わる。そこからは、いつものように一日を送る。
 それを何日も続けた、何日も何日も。
 ある日、時渡りさんが、
「春香、俺と手合わせしろ」
「え?」
 そう言われて、私の名前を呼んだのは初めてだなと思った。それより手合わせ?
「いくぞ」
「ちょっとまっ……えい!」
 時渡りさんの攻撃を避けた後、こっちから時止めを放つ。万が一当たったとき風化では殺しかねない。しかし、私が避け損ねて服をかすめたとき、私は背筋が凍った。
 時渡りさんが飛ばしていた思念は、時止めではなく、風化だった。この時私は、時渡りさんが死ぬ気で相手をしてくれていることがわかった。
 こっちも風化を使って応戦することにした。もう何時間たっただろう、私も彼も、一歩も引かなくなっていた。
「これで!」
「まだだ、まだ終わらんよ!」
 その時二人の思念が消えた。
 そこで止めに入ったのは、爺さまだった。
「お二人とも、お茶が入りましたよ」
 私たち二人とも気が抜けたように止まって、私はストンと尻餅をついてしまった。
「やるようになったな、春香」
「何で名前で呼んでくれたの? 今までそんな無かったのに」
「お前を俺が認めたからだ」
 うれしいような、今まで認めてなかったことが悔しいような。
「もうそろそろいいころかな、爺?」
「ええ、もうよろしいのでは?」
「何のことですか?」
「ある程度お坊ちゃまに認められると、称号が与えられるのです」
「爺さまはタイム・メーカー、時渡りさんはタイム・リングで私はどんなのになるの?」
「タイム……何がいい?」
「タイム・キーパー……いまいちですな」
「メビウス・タイム。永遠に続く時間」
「よしそれだ。常葉 春香、今日より君はメビウス・タイムだ」
 爺さまも絶賛したが、自分でつけた名前を自分につけるというのは、変な気がする。
「さて、やつもまだ動かないし、修行も続けるぞ」

 それから私は特訓に明け暮れる日々を過ごし、気づけば一年近くたっていた。
「もう修と別れて一年か……」
「会うか?」
「え?」
「お前もここの生活になれて、夜逃げするような心構えではないだろう」
「でもここからどうやって行くの?」
「ここは異次元の私の作り出した屋敷だ出口はどこにでも繋がる。行きたい場所を思いながら林道を抜けるとそこへ出れる」
「じゃあ、会いに行っていいの?」
「ああ、ただし、必ず帰って来い」
「わかってるわよ」
 まず何を話そうかや、あの後どうなったのかとか、聞きたいことがたくさん出てきた。私はそれを考えつつ、林道を抜けた。
 少し変な感覚がした後、見慣れた家の前に出た。修の家の前だ。
「帰ってこれた……」
 修の家の玄関先に掛けてある時計を見ると、四時過ぎ、もうそろそろ学校から帰って来る時間だ。もう帰って来てないかインターホンを押してみたが返事が無かった。諦めて学校へ行こうかと思ったとき、修の姿が見えた。
「修!」
「……まさか、春香?」
 修が驚いたような顔で近づいてくる。
「一年ぶりになるかしら」
「おい春香、何でお前私服なんだ? 確かお前連れてかれた時制服じゃなかったか?」
「一年間ずっと同じ服装してないわよ」
「そりゃそうだ」
 修も私もクスリと笑った。
「おかえり、春香」
「ただいま、修。でも一時的に帰っただけだから、帰らなくちゃいけないんだけどね」
「そうかぁ、まあいれる間でもゆっくりしてけよ」
「そうするわ」
 それから私は、修とたわいない会話を交わした後、自分の家に帰った。
「ただいま!」
「春香!?」
「むこうで休日をもらったの」
「心配したんだから! もう母さんも父さんも心配したんだから!」
 そう言いながら母は抱きついてきた。気づけば母は泣いていた、それは当たり前だと思った。子供に口だけで説明されて、一年も帰ってこなければ、心配もする。
「また戻らなきゃいけないの」
「それは修君から聞いたから、覚悟はしてるは、母さん」
「今日一日は居ていいと思う」
「わかったわ、今日はごちそうよ!」
 そう言うと母は、袖を巻くって気合をいれていた。その日はクリスマスでもないのに、豪華な晩御飯になった。
 今日は修の家族も呼んでの、パーティになった。
「おいおい、修君、そんなに食べたらくるしくなってしまうぞ」
「大丈夫ですっ……う!」
「修ったらのど詰めちゃっててるよ」
 ああ、なんか一年ぶりに帰ってくると懐かしいな、と思いながら、帰りたくないという気持ちは、不思議と出てこなかった。もしかすると、時渡りさんに会いたくなっているのかもしれない。
「春香、進学どうするんだ?」
 父が唐突に聞いてきた。
「高校には行くつもりだし、そこは一度時渡りさんと話してOK出てるから、受験当日はこっちに戻るつもり」
「ならいいんだ。悪いな、こんな日にこんなこと聞いて」
「いいわよ、私も次いつ帰ってこれるかわからないし」
「そうか、まあいい、今日は楽しめ」
「うん」
 今日ほど楽しい日はたぶん後にも先にも無いんじゃないかと思える日になった。
 私は十二時を過ぎたあたりで家を出て、屋敷に戻ることにした。
「もう私戻らないと」
「そうか、修、送ってってやれ」
「わかったよ父さん」
 修はそう言うと、私の後についてきた。私は玄関を出た後、少し進んだところにある空き地に屋敷への道を作る。
「またな、春香」
「またね、修。そうだ、一年前の続き、ここでしない?」
「お前の部屋であったことか?」
「ええ」
「お前が本当に帰ってきたときにとっとかないか?」
「……その方が良いかもしれないわね」
「そうしよう、じゃあ、またな」
「ええ」
 そう言い残すと私は林道へ入った。屋敷へ帰ると、爺さまが迎えに来てくれた。
「お帰りなさいませ、春香殿」
「ええ、ただいま」
「どうでした、久々の我が家は」
「良かったわ。皆変わってなかったわ、でも私は変わってしまったかもしれない」
「そうですか、ここでのんびりしていると風邪をひかれますよ」
 確かに寒い。あたりまえだ、今はもう一時を回っている。
「そうね」
 屋敷に帰ると、すぐに寝てしまった。次の日、時渡りさんに叩き起こされた。
「起きろ春香、やつが動き出した」
「え?」
「マスターPCが反乱を始めた。手遅れになる前に行くぞ」
「本当ですか?」
「ああ、世界の市場がストップした。 マスターPC以外の主要PCがオールシステムダウンさせられた」
「じゃあもう行かなきゃいけない!」
「ああ。行くぞ」
「でもどうやって?」
「異次元を通る。いっきにふところへ飛ぶ。あとこれに着替えろ」
「これは?」
 白色の魔術師の服のような服と、黒色の胸の上で止める型のしっかりしたマントを手渡された。あるRPGツートップをはるゲームの白魔道士のような服だ。
「三分待つ」
 そう言って時渡りさんは屋敷を出た。その後私はその服とマントを身に着け、時渡りさんの後に続く。
「来たか、行くぞ」
「はい!」
 その言葉の後、少し視界がゆがんだと思うと大きなコンピュータールームのような場所に着いた。
「シンニュウシャ、ケンチ、ハイジョ」
 私と時渡りさんの死闘が始まった。
「止まれ」
「消えて!」
 そう言うと、システムがどんどん劣化していく。そこから幾つか防衛システムがあったけど、時止めと風化の前には意味が無い。
 いくつか進んで、大きな扉が出てきた。これで最後の扉らしい。少し前までと雰囲気が違う。
「いいな、春香」
「ええ」
 ドアを風化させて中に入ると、マスターPCがあった。けれどその前にの前に人影が見えた。
「お待ちしておりましたよ、お二人共」
 聞き覚えのある声。この声は……爺さまの声だ。
「爺さま?」
「まさか、爺がなぜここにいる」
「お坊ちゃまのする事を止める為ですよ」
「なにが目的だ」
「あなたの……命を」
 その時、爺さまが消えた。
 私も時渡りさんも、周りを探してみたが見あたらない。
 次の瞬間、時渡りさんが背中から血を出しながら、倒れた。
「大丈夫ですか!?」
 返事が無い。
「まだまだ、甘いですね」
「どうすれば……」
 とりあえず時渡りさんを異次元に乗せて、私の家の中に飛ばした。もちろん身の安全のために。
「あなた一人で大丈夫なのですか?」
「どっちもどっちよ」
 とりあえず返答しただけでまったく勝てる自信が無い。
「まあ良いでしょう。」
「爺さま、これだけは聞かせて、あなたはなぜここにいるの?」
「復讐のためですよ、お坊ちゃまへのね。十四年前にあった事件にあなただけではなくお坊ちゃまも関わっているのです。そのせいで私の人生が狂ったのですから。そして、私の復讐はあなたへも向けられていることをお忘れなく」
 そう言うと爺さまは、風化の力を実体化して私の頭上から矢のように放った。
 それを私は何とか避けて、反撃に転じる。
「ふん!」
 それを爺さまは軽々と避ける。
「あまい!」 
 そう言って第二波を放つ。
 こちらも避けきれ……あれ? すでに体がいうことをきかない。
「止まってしまいましたか、残念です。おとりに引っかかったみたいですね」
 ようするに爺さまが放ったのはおとりで、私がそれを避けたときに出来る隙へ時止めを放ったらしい。
「覚悟は、よろしいですか?」
 父さん、母さん、ごめん。
 修、約束守れなかった。 
 一つ、涙がこぼれた次の瞬間
「待たせたな! 春香!」
 修が乱入して来た。
え? え?
「解」
 そう言って私の体に触れたとたん、私に掛かっていた時止めが解けた。
「来るなら、早く来て欲しかったな」
「おいおい、泣いてるのか?」
「邪魔なやつが増えたが関係ない。いなくなれ」
 そう言って空中止まった力の集合体を、修が全て止めた後、
「春香、風化の力を手に集めておけ、わかったら、俺の言った言葉に続け」
「わかったわ」
私も続けて集める。そして――― 
「「消!」」
 なぜ、二人の声がちゃんと重なったのか気になったが、考えるなと自分に言い聞かせて集中した。
 その瞬間、風化の域を超えた時間の進行と、かなりの効果範囲の風化が爺さまを飲み込んだ。
「避けれな……!!」
 光のような真っ白い衝撃波が、マスターPCごと爺さまを消し飛ばした。
「……終わったのかな?」
「たぶんな。まあ、こっから数百メーター何にも無くなっちゃってるけど」
 さっきの風化がかなり飛んだらしい。
「そういえば、爺さまの言葉に少し気になることを言ってたわ」
「気になること?」
 そこから私は修に時渡りさんが十四年前にどこにいたかと、爺さまの十四年前の事を話した。
「あれ? それじゃあ時渡りさんが二人いることになるな……」
「そうなのよ、何でなんでしょう?」
 二人で数秒間首を傾げたが結局わからず、修が痺れを切らした。
「なにがともあれ、無事だな」
「帰ったら時渡りさんに聞きましょう」
「ああ、そろそろ家に帰るか!」
「そうね!」
 そう言って私は異次元への入り口を開ける。
 そして入りぎわに、修の口にキスをして、
「おいてくわよ!」
「……」
修顔真っ赤。
 私は修の手を引っ張ったまま、自分の家に到着して、その足で時渡りさんの状態や、親へのただいまを全て言い終えた。時渡りさんは傷が思ったより浅かったらしく命に別状は無いらしい。
 世界はというと、マスターPCを初め、主要コンピューターが全て消えた原因はマスターPCにあ

ると思ったらしく、世界の枠組みが変わろうとしている。
 次の日からは私も修も学校へ行き、受験に備えて日々勉強だ。まったく嫌気が差す。
 あれから三ヶ月ほどたった今、ようやく受験も終わり、やっと落ち着いた日々が帰ってきたとき、

時渡りさんの屋敷に自分の物をとりに行った。なぜか修もついてきた。
 その時、時渡りさんに時渡りさんが二人説を言ったが、笑われた。
どうやら時渡りさんは知らないらしい。
 じゃあ誰が? という疑問で修と論争を繰り広げたが、結局わからなかった。
 行ったついでに爺さまの書斎へ入ってみた。その時、一枚の少し古い写真を見つけた。真ん中でに

こやかに笑う爺さまと、その周りに十人ほどが写っている写真だ。
 たぶん、最後に爺さまの行ってた私の人生はこれの事だったのかもしれない。
もっとも、それを知る人はこの世にはいないけれど……


 あれから二年。


 マスターコンピューターがこの世から消滅してから、もう二年の月日がたった。私と修はもう高校

二年になり、もう今から二年前の騒動を忘れかけていた。
 そんなある日の事、私と修はいつもどおり学校からの帰り道を帰っていた時だった。
「おい、今日のテストどうだった?」
 今日やったテストとは、やたらと難しい数学の小テストの事だ。
「私はまあまあかな」
「へー、けっこうやるな」
 ふと、修がしかめた顔をした。
「お前、まさか時間止めたのか?」
 時止めは時を止められる。物質の時間をいっきに早めたり戻したりできる。
「するわけ無いでしょう、それをやったら時渡りさんに殺されかねないもの」
 私がこの前、遅刻しそうなのを時止めで何とか間に合わせたのが時渡りさんにばれて、危うく殺されかけた。
「そらそうだ」
 時渡りさんは、二年前にマスターコンピューターを破壊する時に組んだ男の人だ。本名は……教えてもらってないと思う。あと、時渡りさんが二人説はわからないままだ。
 でもそれが、また私と修を時間の波がのみこんでいくのを、私も修もまだ知らなかった。
 学校から帰る途中、私と修はぶらり近くの本屋に立ち寄った。
「なんか良いの見つかったか?」
 修が私の読んでいた参考書を覗き込んだ。
「あまり……もういいわ、出ましょう」
「そうだな」 
 そう言って本屋を出たとき、ふと私は空を見上げた。大きなビルが建設中らしく、工事作業員の足場で建物ができていた。
「なにが建つんだろう……」
「さあな」
 その瞬間、凄まじい寒気が私の背中を走った。
「なに、今の」
「どうした?」
「いえ、なんでもないわ」
 なんだったんだろう? あの寒気……少し上を向いて、溜息ついたその時、鉄骨の一つが落下した。
「危ない!」
 言葉と時止め、どっちが速かったかわからないけれど、空間時間が止まった。全速力で時間が戻れば鉄骨が当たる人を、頭を守りつつ一緒に倒れるその数秒前に私の時止めが切れる。
 私の足元で大きな金属音が聞こえる。間にあったらしい。
「大丈夫?」
 よく見ると、私と修の母校である中学の制服を着た女の子だ。
「………」
 周りの人から見ると、一人の女の子が百メートルはある間を一瞬で詰めて、鉄骨に当たりそうだった女の子を助けたという、一種超常現象に見えている。すこしまずかったかもしれない。
 とりあえず助けた女の子に手をかして起こす。
「あ、ありがとうございます」
 そう言うと、一礼して、
「私、学校があるので……」
そのままどこかへ行ってしまった。たぶん私たちの母校の中学校だと思うけど。
 その後私たちは帰った後、ある事に気が付いた。学校は五時には終わっている。ようは、あの子がその場を離れるために嘘をついたということだ。

 その助けた女の子が、ひょっこり私の家を訪れたのは、三日後のことだ。
「どなたかいませんか?」
 少し大きな聞き覚えのある声だった。
 インターホンをなぜ使わないのだろうと、不思議に思いつつドアを開けた。
「あ、この前の」
「あの時はどうも……」
「立ち話もなんだから、家に入って」
 そう言って彼女を家に招きいれた後、自分の部屋に通す。
「お茶入れようか?」
「いえ、おかまいなく」
 とりあえず先に座ると、彼女は焦ったように座った。
「で、どうして今日は来たの?」
「あの時のお礼と、一つ聞きたいことが……」
 そう言うと、何かを吹っ切るように顔を上げると、小声で聞いてきた。
「あなたは、時止めですか?」
 そう言われた瞬間、ぱっと空間時間を止めてみた。この子が時止めなら動けるはずだ。
「……やっぱり、時止めですね」
 彼女は少し安心した顔をした。
「それで、あなたは何をしにきたの? 私を倒しにでも来た?」
 冗談交じりに言うと、大きく笑いながら、
「そんなわけ無いじゃないですか!」
と言った。
 とりあえず何をしに来たかをもう一度聞いた。
「ただ同じ人を探してただけです」
 同じ人とはおそらく時止めのことだろう。
「私、桧山 風香といいます。あなたは?」
「常葉 春香、十七歳です」
「私は十四歳です」
 十四歳か……私が自分の力に気づいた年齢だ。
「あなたは何歳のときに自分の力に気づいたの?」
「私は小学三年生の時に、ジャングルジムから落ちた友達自体を止めたんです」
それから何年も自分の能力に悩んできたわけか。
「そうなんだ……」
「ようやく見つけました、時止めを」
 そう言った風香の目が輝いていたのを、今でも覚えている。風香はそう言い残すと、ありがとうございましたと言って、家を出て行った。
 それからというもの、風香は私の家に頻繁に出入りして、日によっては泊まったりした。
「自分の家はどこなの?」
 ふと、風香に聞いてみた。
「家……ですか?」
 少し困ったような顔をして、私の方に振り向いた。聞くタイミングが無かったので、やむおえず洗面台を使ってるところで聞いたせいで、顔がぬれたままだ。
「そう、家。なんだか風香の家におじゃましてみたいなと思ったから」
 風香は顔を拭きつつ、あきらかに作り笑いをしながら私から逃げるように洗面台をあとにする。
「いいですよ、私の家はあまり綺麗じゃないですし、遠いですよ」
「場所だけでも教えてくれないの?」
 もう一度風香がこちらを向いた。何か重たい感じのいつもの風香と違う表情だった。
「私は……」
「おーい! 春香! 遅れるぞ!」
 風香が最後を言いかけた瞬間、修のでかい声が響いた。
「あいつ!」
「私、もう時間なんで行きますね」
 そう言うと風香は、そそくさと家を出て行ってしまった。
「修、あなたタイミング悪すぎる」
 そう言ってブルーの私を気にもせずに、最近顔を見せられない事を謝ったり、今度のテストの目標

などを喋っていた。なんでこんなやつと将来を誓ってしまったんだろう……成り行きでしかたないし、私も修も両思いだったけど、このごろ私の気乗りが悪いし、修も姿を見せなくなった。
 返事も生返事だし、どうもしっかりしてない日が多く、一日中上の空なんて日もあった。まあ、いいかの一つですませる時点でもう終ってるのだろうか?
 そんな事を考えつつも、まったく表情の明るい修にどうしろと言えばいいのだろう。
「おい春香、どうした? 気分でも悪いのか?」
 そう修が言ったのはもう昼食を終えたあたりだった。朝からずっと同じように考えてたのにもかかわらず、気づいたのは昼。
 しかも気づいた理由が私の箸が止まっているから気づいたらしい。
 もう三年目か……どうすればいい? ―――誰もいるはずの無い空に向かってぼやいた。
 それからは、いつものように一日が流れていく。
 風香が半分いそうろうになり、修がこのごろ迎えに来なくなった。どうせ、他に女でも作ったんだろう。修は案外もてるほうだ。
 中学生の時には、バレンタインデーに一回では家に持ち帰れない量をもらっていた。
 そんな日が数週間続ていた……
 私は、完全にいそうろうになった風香にたまに勉強を教える途中で、時止めとしてのスキルを教えていた。
「ここで空間時間を止めて、怪しまれないように距離も考える」
「なるほど」
「じゃあやってみよう」
 そう言って庭へ出る。
 もちろん時間は止まっている。というより止めたままが時止めの基本だ。風香と私の相性が良いらしく、近くにいると長時間できる。
「じゃあこれを……?」
「どうしたんですか?」
 このとき私は、修といたころの自分の時止めの能力と、今風香といる時の能力の差に驚いた。まるで違う。
「気にしないで、大丈夫だから」
 時止めどうしの共鳴というやつだろうか。
「本当に大丈夫ですか?」
「ほんと、大丈夫だから」
 でも何かが、私の中で変わっていく気がした。それから一時間近く、短い時止めの練習と中学の勉強を続けた。
「どうする? 続ける?」
「もう疲れました」
「ふう、今日はこれで……」
 ふと目に入った家の前の道路に、修がいた。
「どうしたんですか?」
 風香も同じ方向を見る。修がどこかの見覚えの無い学校の制服を着た女と一緒に歩いている。なにまざまざと見せつけてるの? そう、思ったが、抑えて部屋へ戻る。
「春香さん?」
「ううん、なんでもない」
「大丈夫ですか?」
「気にしないで」
 そう私が言うと風香は諦めたらしく、それ以上は聞かなかった。
 修に愛想が良くなかったのはわかっていたし、最近迷っていたのもある。なんだか、気持ちが下へ下へと向いていく。
 何気なく壁にもたれかかりながら、ふう、とため息を付く自分がいた。
 あいつは、修は今何してるんだろう……女のところでくつろいでいるのだろうか?
 あの女、見覚えの無い高校の制服だったけど、どこの高校だろう……そんな雲を掴むような話をひたすらに考えていると、もう外は真っ暗だ。
 いつも以上になぜか寂しかった。
 風香は私の部屋で勉強をしているらしい。今日は風香が晩御飯を作ってくれる日なので、呼びに行く。風香がいそうろうを初めていらい、こういう習慣がある。
「風香ー、ご飯。今日だよ」
「あ、すいません。今行きますね」
 しばらく風香がいた私の部屋にいると、下の階から私を呼ぶ声がした。
「できましたよー」
 下に下りると、風香特製の料理が並んでいた。風香の料理は初めて見たときから、なぜ見覚えがあるのだろうか?
「はい、こっちに座ってください。こういう疲れた時は美味しいもの食べて落ち着きましょう」
 にっこり笑ってこっちに振り向く。
 作り笑いじゃないけど、笑っているようにも見えない。悲しさと励ましが交錯した笑い方だ。
「ありがと」
 とりあえず食事に手をつけた。
 やはり、懐かしさを感じた。母の味付けに近いというより、そのままだ。ふとした推理が私の中でうかんだ。
「なんだか、母の味付けにそっくりだ」
「え? 別に、そんなことは、ないですよ」
 すこし変だ。怪しい。
「そんなことより食べちゃって今日は早めに寝ましょう」
「……それがいいわね」
 そう私が言うと、風香は安心したような顔でため息をついた。でも私はこのまま真実を闇に葬る気は無い。内心どうやって風香に言わせるかを考えていた。
 とりあえず今日はおとなしく眠った。
 もう修がいなくなってもう一ヶ月はたった。私も修のことはもう良かったし、あいつもあいつで楽しくやってると思う。
 そんな時、一つの嫌な噂を聞いた。修がこのごろ学校に来ていないし、連絡も無いらしい。
 もう五日は来ていないらしく、そろそろ心配しだしたクラスの人が頑張って探しているみたいだ。
「春香! お前にも手伝ってもらいたい。修が行方不明だ」
 そんな誘いも来たが、少しうつむいて
「あいつとは、もう終わったのよ」
 そう言って断った。
 それでも私の心のどこかで修を心配している私がいる。
 風香も修の噂のことを話すと、助けに行きましょうと私に言ったが、もう別にかまわないと言って風香の言葉に耳を貸さなかった。
 そのまま日にちが過ぎていき、いつか顔を出すだろうと思っていた修が、数週間過ぎてもいない。
ついには捜索願いまで出された。これは本当に危ないかもしれないと思った私は、時渡りさんに言う事にした。
 久しぶりに屋敷を訪れた私は、早速時渡りさんの部屋へ向かった。
「時渡りさん、いますか?」
「どうした? メビウスタイム、久しぶりだな」
 最後に会った時と、さほど変わらないいつものようすの時渡りさんに、事情を話した。
「私はどうすれば……」
 途中から目を瞑って、真剣に聞いていた時渡りさんが目を開けた。その瞬間、私のほおに痛みがはしった。時渡りさんが私のほおを叩いていた。結構痛い。
「お前はそれほどに強情な女だったか? よく思い出せ。お前につき合わされてきたあいつの気持ちは? ちゃんと考えろ」
 そう言い残して時渡りさんは部屋から出て行った。こんな場所でじっとしてるのだったら、行動しろ。そう言われた気がする。痛かったのは気づかせてくれたんだしあまり気にしないことにした。
「こんなとこにいる場合じゃない」
 屋敷からとりあえず家に帰り、風香と一緒に記憶をたどって修といた女の制服を思い出せた。そうとわかれば聞き込みをやりに、片っ端から学生に声をかけて見たこと無いか聞いていくと、一つの学校がでてきた。
 その学校に行って、他の学校のやつと付き合ってるやつはいないかと聞くと、一人だけいた。もう時間は六時をまわっている。
 大急ぎでその女の家に行くと、ぎりぎり間に合ったらしく、修とその女とはちあわせした。
「久しぶりね、いつ以来だったかしら、喜多見 修」
「春香か、どうしてこんな場所にいる?」
 横にいる女はおそらく時止めだ。いつの間にか空間時間が止まっているが、女は平然と修の横で動けている。
「この子が春香さん? それで、覚悟は決まったの?」
 女が修に問いかけた。
「ああ、もちろんだ。君の考えのためには邪魔な存在だからね……そういうことだ。死んでくれ、春香」
 その言葉の後、数百は必ずある風化の雨が私たちの頭上から降り注いだ。
 時止めで止めた後に、こっちは風香と秘かに習得した時止めの津波、ようは時止めの効果範囲を広げて、波のように放つ。止まればこっちのもの。これは爺さまから譲り受けた知恵だ。
 しかしむこうもだてじゃない。簡単にとまではいかないものの、避けられた。
「なかなか新しい相棒もやるじゃない」
 ひにくをこめて言ってみた。
「そうそうやられるわけにはいかないのでね」
 よく喋るほうの人だとさとった私は、こっちは黙ったほうが良いと考えた。実際、お喋りは禁物というのは、二年前にかなり仕込まれた。
 雨あられのごとく降り注ぐ風化と、時止めの津波による波状攻撃。どっちもどっちだが、風香に言って最低限の省エネで戦うように教えてきた分、こちらの方が長く持つ。私の思ったとおりに向こうは疲れが見え初めてきたのを見計らって、避けた後にできる隙に時止めをとばす。
「何!?」
「かかった!」
 ダブルヒットして、二人とも止まった。
「さて、あなたたちの考えを聞かせてもらいましょうか」
 距離は変えずに少し大きめの声で言いつつ、空間にかかった時止めを風香に外させる。
「あ、喋れなくないわよ、お二人さん。そのぐらいのテクニックは持ってるから」
 そう言って、二人の口元の時止めを解いた。修の横にいた女が驚いたような口元の動きをした。ちなみにこのテクニックは時渡りさんに教えてもらったものだ。
「私が喋るとでも?」
「なら修に喋ってもらいましょうか」
「ふん」
 二人とも喋る気配を感じられないので、あまりしたくなかったが、
「じゃあ、喋らざるおえない状態にしましょうか。風香、いいわね」
「ええ」
 結構風香も自信が付いたらしく、初の実戦にしては堂々としている。
「じゃあ、喋らなかったら?」
「あの世にご案内するだけよ」
 そう言って、さっき修たちの使っていた風化の雨を空中で止めたままにして、もちろん二人の方を向いたままだ。
「そんなまさか……」
 劣勢に立たされた修が呟く。
「誰もできないとは言ってないし、誰もできるなんて知らない」
 ちなみにこの時風香は何もこの時していない。何かあったときに、二人ともばててたのでは話にならないからだ。
「言う気になった?」
「……この時代に、マスターPCを破壊した本人がいるって聞いてね、今から十八年先から来たの」
 話が見えてこない。
「どういうこと?」
「二十年時代を戻るはずが、何らかのトラブルによってこの時代に来たと俺は聞いた」
 何らかのトラブル……もしかすると、私の思ってた風香の謎が解けたかもしれない。
「そうか、風香がこの時代に来た時のゆがみで二年ずれたんだ」
「春香さん、なぜそれを?」
「あなた、もしかして私と修の子供じゃない?」
「……知ってたんですか。そのとおりです。私の本当の名前は、常葉 風香です。春香さん、いえ、

母さんがつけてくれました」
 驚きを隠せない女と、状況をいまいち理解していない修。
「私は、春香さんの顔を知らないんです。なぜかは恐くて言えませんが、その原因はこの時代にある

事が分かったんです」
 私の顔を知らないということは、風香が生まれてから月日が経たないうちに、私は死んでしまった

のだろうか?
「その原因が私ってわけね」
 女が口を開いた。
「ようは、私に何も危害を加えずに帰ってほしいということね」
「そうはいかない。私の親の意志を受け継がなければならない」
「あなたの親は?」
「ガイアス・ゴットバイト。通称時渡りよ」
 まさか時渡りさんが? そんな事がありえるわけが……もしかして、私が死んだから?
「いまから十六年前にも父親の兄がマスターPCを止めに行っている」
 今から十六年前にマスターPCの反乱と呼ばれるものがあった。だから時渡りさんが二人いるように

思えたのか。
「私があなたが原因で死んだなら、あなたが帰る事で私は生き残って、時渡りさんを止める」
「あなた、称号はもらった?」
 唐突に聞かれて、少し戸惑ったが、
「もらったわ、メビウス・リングという名をね」
そう言うと彼女は、何か安心した顔で、
「分かったわ、私は帰る」
そう言った後、光が彼女を包んでいくとその場から消えた。それと同時に修の時止めを外した。
「じゃあ、私もそろそろ元の時代へ帰ります。お二人がこのまま手を取り合って教会に行かなかったら、私はこの世にいないんですから……末永くお幸せに、母さん、父さん」
 そう言い終えた後、風香を光が包んで行って、消えた。
「とりあえず帰りましょ。今回は私も悪かったし……不問で」
 私が微笑みながらそう言うと、修は頭の中がこんがらがったようで、難しい顔をしながら、
「そうだな。俺も、悪かった」
と返事をした。口を開いたその隙に唇を重ねたのはお約束。

 それからはいつもの毎日が続き、私と修は無事に卒業した後、大学に進学するかどうかで修と火花を散らせたが、今は修の親の経営する店で働いている。
 ちなみに私と修は二十歳の時に結婚式を挙げて、すぐに女の子が生まれた。
 そう、名前は常葉 風香。
 私は出産後も無事だし、それから数年たった今でもなんら変わりはない。あ、そうそう、時渡りさんが結婚して子供ができたって言ってた。
 そして今日も、時渡りさんの子供と私たちの子供とが、元気良く保育園へ出発した。私の今の楽しみは、読書と私と時止めの関係を書いた小説を作ること。
 それと、子供の寝顔を見ることが一番の楽しみになってる。
「おい、春香! 紙にばかり向かってないで外も見ろよ。天気が良い」
 そんなことを修に言われつつ、家業を手伝いながら毎日を送っている。なんだか、高校時代が懐かしい。
 ……そんな事を思う、今日この頃である。



END

後書き

うーん、大昔に書いた作品なので、突っ込みどころ満載だと思います。
話は気に入ってるんですが、なにぶん未熟だったもので内容がひどいと思います(汗

では、また。

この小説について

タイトル 時の回廊
初版 2009年12月13日
改訂 2009年12月13日
小説ID 3679
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