電話は突然 - コールセンターの戦場指揮官

荒野のアゲハ


 プロローグ


 平和な昼下がり―――

 今年で二十七になる加々美野 雲雀(かがみの ひばり)は、職場の休憩室で缶コーヒー片手に考え事をしていた。そう、彼氏について、である。
「最近、人肌が恋しいのよね……」
 前の彼氏と別れてもう一年になる。その彼氏とはもうキッパリ縁を切ったつもりでいたが、つい先ほど金を貸してくれとメールが来たのを無視した雲雀は、すこし名残惜しい気持ちもありつつ新しい彼氏を探していた。いわいる、婚活というやつだ。
 雲雀はもともと、パッとしない性格と存在で高校生活を無難に過ごしてきた事もあって、男を最初にもったのは高校を出てから大学へ入ってすぐの時である。二年ほど続いたものの、彼氏の浮気が発覚し消滅。それから数人と付き合うも上手くいかない日々が続いていた。
「さて……」
 缶コーヒーを飲み終えた後、自分の持ち場へ戻る。ポイと右手で空き缶を青カゴへほると、左手がとっさに出て拳銃の形を作り、
「パァン」
静かに呟く。その後間を入れずに空き缶が底へ当たる音がする。
「コルト・マークフォー。もってこればよかったな」
 何を隠そうこの女、加々美野 雲雀は、恋する銃マニアなのだ。こんな一部始終を目撃されれば何を言われるかわからないが、今この場所にいるのは雲雀のみだ。
 ちなみにコルト・マークフォーは彼女の持つ中で最古のエアガンで、一番のお気に入りだったりする。ただし、かなり古いのもあってたまにがたが来るのは毎度の事だ。
 家にあった父のコレクション(といっても五種程度)を見て以来、雲雀はモデルガンに魅せられた。十八歳未満では買えない物は父に頼み、それでも駄目なら、似た物を祭りなどの出店にあるくじ引きで当たるまで粘ったりもした。
 頭の中でどんな種類を持っているか思い出しながら、手の感触を思い出しては狙いを付けてみる。と、そうこうしているうちに、もう昼休みも終わりかけで雲雀は急いで持ち場へ戻った。ヘッドフォンをかけて、通話スイッチを入れる。そして今日も、電話が鳴ればこう答えた―――
「ご利用ありがとうございます。多目的お悩みコールセンターでございます」
  
 CODE/1 電話は突然

 いくつか電話をこなすうち、勤務終了数分前の二十二時だった。もちろんあまり電話が鳴らなくなる。他のところはもう上がる中で、雲雀ももうそろそろかなと思っていた。静かなコールセンターは、ひっきりなしに鳴られるよりはましだが、全く鳴らないと寂しい気もする。
 そんな中で、腰を上げようとした時、電話が鳴った。
「はい。ご利用ありがとうございます。多目的お悩みコールセンターでございます」
「えーっと、悩み、といえないかもしれないけど、いいですか?」
 その声は高校生ぐらいの女子の声だった。息が上がっているようで、間々で息遣いの荒さが出ている。
「大丈夫ですよ。ご用件は」
 もう終わりなのになと内心落ち込みつつも対応する。
「戦略を考えてほしいんです。あなたは、チェスは得意ですか?」
 戦略と言われ、一瞬たじろぐ。チェスなら何度かやった事は雲雀もあったが、得意とまではいかない。しかしこのまま切ると向こうの身が危ないと判断した。
「わかりました。そちらの状況を詳しく教えてください」
「ありがとうございます!」
 歓声が電話の向こうで上がり、彼女は驚いた。こんなにも、コールセンターを頼るほど、向こうの状況は切迫しているのかと。
 とりあえず、電話の向こうから言われたように地形と状況をメモした。

 ところ変わって街外れの高校、久高高等学校―――
 
 電話の向こうの女性は、いいですよと言ってくれた。その瞬間、三年B組みの生徒全員が歓喜に満ちる。安全装置を外したままにされたモデルガンを肩から掛け、全員が当たり判定のリストバンドを身に着けている。状況を説明しないまま、電話をしていた少女は振り向いた。
「これで少しはましになると思う。頑張ろう! 皆!」
「おぉー!」
 携帯電話を片手に、二ノ宮 風(にのみや ふう)はクラスメイトに叫んだ。彼女の腰にはワルサーP38が挟まれており、背中にはショットガンを背負っている。ちなみにワルサーP38は、あの国民的アニメに出てくる三世代目の怪盗が愛用する銃でもある。
 すでに数を半分に減らされたB組も、場所を変えつつ立て篭もっている。つい先ほども全力疾走でこの理科準備室へ転がり込んできたのだ。夜中ということもあって周りは暗く、しかも怪しげな物満載の理科準備室を抜け出したいところなのは、B組全員が思うところである。
「ごめんなさい、そちらの状況は……?」
 電話の向こうから戸惑うような声が聞こえ、慌てて風は携帯電話を耳もとに当てる。
「すいません。メモは―――」
「できてます」
 用意できていますかと言おうとしたのを途中で遮られ、さすがはプロだと風は感心した。小さいところからできている人ほど、頭がよく回るというのが彼女の考えだ。 
「では、言いますね? ……まず、久高高校を知っていますか?」
 風がそう言うと、電話の向こうで小さく小気味良い笑いが聞こえた。
 雲雀自身、こんな偶然があるものかと腹を抱えて笑いたくなった。久高高校、創設三十二年、十二代校長、中山 太司(なかやま ふとし)。今でも卒業の時の事は覚えている。そう、雲雀の高校の母校はまぎれもなく久高高校だ。今雲雀がいるのは遠く離れた都心だというのに、これは一種の運命を感じる。
「知っているも何も、私の母校は久高高校です」
 そう言われた風は、さらに喜びが湧き上がってくるのを感じた。それを抑えて、状況、敵の数、建物の中の部屋の位置(ほとんど説明はいらなかった)を説明してから、風はこう電話の向こうへと告げた。
「あなたに、この学校のイチョウ並木の運命がかかっています」
 雲雀はそう電話の向こうの少女に言われて、一気に高校時代の通学路がよみがえった。高台にある久高高校は、高校までの道のりが緩い坂道になっている。その坂道の両脇には、坂道の初めから学校までイチョウが植えられていて、秋から冬にかけて道を黄色と朱に染める。
 学校へ通うたび、あのイチョウ並木の下をくぐっていたのを思い出すと妙に懐かしい気持ちになった。しかしそのイチョウが危ないということは、どういうことなのか。そう思った雲雀はすぐに聞き返してみる。
「イチョウ並木が、危ないんですか?」
「はい。時間が無いので、手短に説明しますね……あの坂道の、改修工事が決まったんです、道を広くしようって。それで、イチョウを切るか移すかしようってことなんですけど、三年を中心に著名運動しようとしたんですよ……そしたら」
「そしたら?」
「三年の中で諦めてる連中で、高級住宅街から来てるボンボンどもを中心に、車が通りにくいんだから広くしろって動きがあって。しかもイチョウを残すのにもろいろと手続きがありますし……それでこじれたあげく、武力衝突というわけです」
 風は自分で言いつつ、ボンボンども相手に苛立ちが増してきた。足下にあったダンボールを軽く蹴った後で落ち着かせる。
「………」
 事情を聞いて、雲雀も腹が立った。学校から少し下がった場所に高級住宅地があり、車で登校はあたりまえで先生の言う事はまともに聞かない。しかし親が先生の上と絡んでいるため手の出しようがない。
 規模が小さい分人数は少ないが、問題視されているのは毎年の事だ。雲雀が卒業する年もいろいろあった。
 あのイチョウ並木が無くなるかもしれないという事なら、雲雀としても見逃せない。あのイチョウ並木は私の高校時代の私の支えだ。
「とにかく、状況は言ったとおりです。A組とC組、さらにD組も敵で総数は百二十弱、こちらはB組とE組の八十。でもE組の大半がやられたので、今残ってるのでだいたい……」
 風は一度携帯電話から耳を離し、数えていく。だいたい四十を超えたあたりで数えるのを止めてもう一度携帯電話に耳を傾ける。
「四十か五十いくかどうかです」
 三分の一の戦力でこの戦況をひっくり返す。風はもちろん雲雀も指揮官の経験などまるで無く、雲雀はただのコールセンター員、風はただ学級委員長ということでクラスの指揮官になっている。
「武器は」
 雲雀が一番気になるところがそこだ。ボンボン連中が全員電動マシで来ているのはだいたい予想できる。しかし電動と比べて劣りやすいノーマル主体で武装しているとすれば、撃ち合いになればこちらの方が不利だ。
「ほとんどコッキング式で揃えました。金額的にも電動は難しいかったので、えっと、コッキング、手でレバーを引く……」
「わかります。銃種は?」
 雲雀の知るところでは、金額的にスナイパーライフルはまず期待できない。電動マシンガンが無いのもいたいが、ノーマルなサブマシンガンのみというのがまず難しい。
「私が兄から譲ってもらったショーティ、ショットガンと、クラスの男子二人がスコープ付、女子が一人TSR−X、スナイパーライフルを背負ってます」
 スナイパーライフルを持っている女の子をはじめて聞くが、雲雀の思い込みの範囲なので詳しくは考えない事にした。
 風はショットガンを持ってきたとき男子からあれこれ言われたが、スナイパーライフルを持ってきた女スナイパーこと四十万 夕(しじま ゆう)はそれを超えた。いつもはおとなしく、眼鏡をかけた文学少女が、コンタクトに変えて眼鏡を外し、ライフルケース片手に学校へ来たのだから。
「ごめんなさい、その女の子と変わってくれる?」
「わかりました。夕……」
 四十万という名字が好きではないし眼鏡も嫌いな夕は、男子であれ女子であれ先生であれ夕と呼んでもらえるように頼んでいるようないろいろとコンプレックスをもつ。ただし、それはいつもの夕である。今の彼女は、女スナイパー四十万だ。
「四十万 夕だ。あなたが指揮官と聞くが、自信はあるのか?」
 夕はこの戦いを敗北で終わらせるつもりなど全く無い。それゆえにこの状況を周りの人間以上に好ましくないと感じていた。戦略的にも、戦術的にも。失礼だとは感じつつも、電話の向こうの相手が無能なら頼る意味は無い。
「自信はありません。ただ、私の母校である久高高校の地形は把握していますし、イチョウを守るという同じ目標を持ちます」
 雲雀は夕という男勝りな声の低い女の子に自信はあるのかと聞かれ、心の中で迷いが生じた。この子たちの勝利とあのイチョウ並木の運命を背負えるほど、雲雀は自信があるわけではない。しかし思うところと到達点は同じだ。
「……了解した。あなたを信じよう。私はワンマンで考えてくれてかまわない」
「ありがとう」
 ここから、雲雀の指揮の下、風と夕を含む総数五十人の生徒達―――いや、兵士達の大反抗作戦が始まる。

 
   
 
To Be Continued

後書き


けっこう根気入れて書いてます。

上手くないです。非現実的です。ネタが無理やりです。
でも書いてみました。

この小説について

タイトル コールセンターの戦場指揮官
初版 2009年12月19日
改訂 2009年12月19日
小説ID 3691
閲覧数 709
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コメント (4)

柊 宇宙 2009年12月21日 20時41分08秒
どうも。早速コメしました。

ものすごい荒れてますねww
でもライフルも現実であっても面白そうですよねー。
まぁそんなお金は持ってないのですが←

面白かったです。では次回も頑張ってくださいw
荒野のアゲハ コメントのみ 2009年12月21日 21時03分40秒
コメント、ありがとうございます(≧≦)

荒れているのは皆同じ、皆で荒れれば恐くない! という信念の下、彼女達はモデルガン片手に学校を走り回っています。
スナイパーライフル、調べてみたところ、セットで四万を超えていました。
頑張ってみます。が、期待にこたえられるかどうか……

と、とにかく、全力をつくします。


★水原ぶよよ 2010年3月25日 22時31分58秒
銃の知識はまったくありませんが、
実際のコールセンターに勤めている水原としては、このネタはスルーするわけにはいきません。
まずこの主人公の雲雀さん、お客様に対する言葉がなっておりません。
「お電話ありがとうございます。多目的お悩みコールセンター担当 加々美野でございます」
という名乗り、
「かしこまりました。それではさっそく御客様のご登録内容について確認させて頂きます」
出だしはここが基本です。
応対する上で、基本を怠るとクレームを招く恐れがあるとして、電話に出させていただけません。
学園ドンパチ、というところが今一なんですが、タイトルと発想が面白いので引き付けられてしまいました。
学園にとどまらず、もう少し大きくしたら面白くなりそうなのに。
「かしこまりました。それでは安全装置のはずし方ご案内させていただきます」
「そこは地雷が仕掛けられている可能性があるので、その先は進まないようお願いいたします」
「ご不便おかけして申し訳ございません。援軍を回しますのでご連絡先のお電話番号お伺いしてよろしいでしょうか」
コールセンター経験者(現役ですが)として、かなり興味あるネタですね。
今後に期待しております。
荒野のアゲハ コメントのみ 2010年4月1日 7時44分26秒
はじめまして、こんにちは水原さん。
コメントをいただいて、ものすごく嬉しいです(笑 ずいぶん前に投稿した作品だというのに掘り出してくださって。
まさかコールセンターに勤めておられる方がいるとは知らず、記憶から応答などを探ったので不自然極まりないと感じたかと思います(汗 勉強が必要ですね…
とりあえず、すでに筆の止まっていたこの作品ですが、今後に期待などと書かれてしまわれてはもう掘り返して書くよかありませんよね(汗
もう数ヶ月単位でブランクを持っている作品と作者(自分)ですので、一からの書き直しと添削を行い、また投稿しようと思います。いつになるかは未定ですが(汗
興味があるなどと言われると、もうそれだけで満足しそうなくらいな人間ですので、向上心のあまり湧かない人間でして(汗 どこまでできるかは分かりませんが…
とにかく、なんとかやってみます。

では、失礼いたします。
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