冬がやってきた。
窓の外を見れば、雪がしとしとと降っていた。
道理で寒いわけだ。
公園に行けば子供たちが楽しそうに雪遊びをしているだろう。
だが、俺は寒いのが苦手だ。
だから、仕事のない正月休みくらいこたつでぬくぬくしたっていいよな?
「こたつでみかん、幸せだ・・・」
俺は、特におもしろくもない正月番組を見ながらみかんの皮を剥いている。
ちゃんと筋まできれいに取って。
こたつでぬくぬく、みかんパクパク。
「ん?メールきてる」
メールを知らせる着メロ。
開けてみると友達からだった。
俗にいう正月メールってやつだ。
「最近会ってないなぁ」
会いたいけど、外に出るのはいやだ。
自宅に呼ぶのは・・・無理だな。
「まぁ、今度でも会えるか」
そんな答えを出したときに、おもしろくもないテレビから笑い声が聞こえてきた。
俺の手は、二つ目のみかんに伸びていた。
また、テレビから笑い声がしてくる。
でも俺は、眠くなってテレビを消した。
「寒い・・・」
おもいっきり身体をこたつの中に突っ込む。
さらにその上から毛布をかける。
これで俺の安眠は、保障された。
心行くまで眠りに就こう。
仕事のこと、上司のこと、接客のこと、全て忘れて眠ろう。
俺は今、こたつという名の子宮内にいるのだ。
声も外の音も聞こえない。
ただ、聞こえるのは母親の心音だけ。
そうして俺は、眠りと成長を繰り返す。
今の眠りは、現実逃避。
成長を遂げた大人が現実に少し疲れて逃避をしている。
それが俺。
昔に戻りたいってわけじゃない。
少しだけ今を離れたいだけなんだ。
どれくらい経っただろうか。
窓から見える太陽が西に傾いてしまっただろうか。
俺は、眠りから覚めたのか?
思考が働いているってことは、覚めたんだろうな、きっと。
覚めたのならば、起きなければならない。
「ん・・・俺、現実にいる」
こたつからは出たくない。
でも、腹減った。
「冷蔵庫・・・何もない」
外に出ろってことか。
しゃーない、買い物に行くか。
俺は、こたつから這い出てコートを引っ掴む。
玄関に行って防水付きの靴を履いて出る。
雪は降ったが、道は人が歩いて支障はない。
だが、寒さが俺に支障をきたす。
「寒い、死ぬ」
吐いた息が真っ白だ。
手袋してくればよかったかも・・・。
いいや、コートに突っ込も。
べちゃべちゃになった道を歩き進む。
街の雪景色はやっぱりきれいだなぁ、と思った。
でも、寒い。
ゆっくり見ていられる程俺は、寒さに強くない。
早くスーパーでも行って帰ろう。
スーパーなら少しは暖房も効いてるだろうしな。
そこまでの辛抱か。
俺は、スーパーへ向いている足を急かした。
やはりコートだけでは寒い。
このまま俺は、凍死してしまうんじゃないのかとすら思えてきた。
ああ、空が。
空を見上げた俺は泣きたくなった。
雲が厚い。
終いには、重たい雲の隙間から何やら白いものがちらちらと落ちてきやがった。
「うわ、眼ん中入った・・・」
冷たい。
早く行こう。
俺の足は更にスピードを速めた。
ああ、やっとこさスーパーの駐車場が見えてきた。
無意識に安堵の白い息が漏れる。
今日は鍋にしよう。
温かいものが食べたいから。
鍋は何鍋にしようか。
俺は温かい食べ物が大好きだ。
こたつで鍋、もう言葉では言い表せないくらいの幸せだ。
買い物は、ルンルン気分だった。
たくさん食料を買った。
外に出なくてもいいように。
さぁ、帰ろう。
温かい部屋に戻って、鍋づくりだ。
俺は、来たときとは比べものにならないくらい足が軽く浮き立った。
でも、このとき俺は、肝心なことをすっかり忘れていたのだ。
スーパーの自動ドアが俺の存在を感知して開く。
その視野を掠めたものに一瞬悲鳴を上げそうになった。
雪が、雪が降っているではないか!
どうやって帰れっていうんだ。
生憎傘を持って来てはいない。
俺の中である方程式が出来上がった。
雪が降る=温度が低い
凍死決定ということか。
寒い。
今まさに凍てつく吹雪を身体全体で感じとっている。
家に帰るしか道はないな。
この中を通って家に帰って鍋を食べるんだ。
よし、3つ数えたら出よう。
1、2、3
ダッシュ!
俺は、雪の降る中全速力で走った。
さぁ、早く帰ってこたつに入ろう。
そして鍋を食べるんだ。
明日も正月休み。
俺はまた、こたつという名の子宮内で眠りに就くだろう。
後書き
僕は、暑いより寒い方を好みます。
この主人公と真逆です(笑)
でも、雪は積もってほしくないです。
感想をお待ちしています。
どんな感想でも構いません。
それでは、失礼します。
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