ミニ物語 - 修学旅行

       一
 
十一月六日 修学旅行当日 午前六時
「行ってきまーす」
誠は静かに言うと家を出た。
空はまだ真っ暗だ。
誠は旅行カバンを籠に入れ、自転車を走らせた。
修学旅行はスキーに行くらしく、誠は楽しみでたまらなかった。
(ちなみにスキーは初めてで滑れるかどうかは別らしい)
誠の通う水島第三男子高校の他に別のところの学校が一緒になるという根も葉もない噂もありそれも一つの楽しみにしていた。
・・そしてもう一つ、そのスキー場には雪女が出るという噂もあった。
その根も葉もない噂は、誠は何となく、信じたくない気持でいた・・・。


スキー場に着いたのは午前九時ごろだ。
誠たちは荷物を各自の部屋に置き、先生の指示で宿の前に集まった。
「さっそく自由時間とする。集合時間は十一時半、くれぐれも問題だけは起こすなよ〜。面倒だから」
まったくやる気のない先生の話も終わり、やっと初めてのスキー体験!

 ・・・残念なことに誠は不器用だったようだ。
スキー板で立てもしなかった。
しかも恥ずかしい事に、同じクラスの奴に笑われた。
おそらく嫌がらせの意もあるのだろう、ご丁寧に周りにも聞こえるようにかなり大げさに笑っていた。
誠は少しムッとしながらも、完全に無視して無関係を装いながらなんとか下の方まで行くと、まずは立つ練習から始めた。

九時三十六分
立てるようになった。
だが本来スキーとは滑るものだ、滑れなかったら意味がない。
次は滑る練習だ!
と、思ったとき。
「あれ?やっぱりお兄ちゃんだ」
「ま、麻衣!」
誠の前に妹の麻衣が友達とおぼしき女子二人と立っている。
麻衣よりこの二人の方が可愛い。
と思ったのは、あくまで誠、個人の感想だ。
麻衣は誠の三つ下の中学二年生だ。
(そういやあ、麻衣も修学旅行スキーだって言っていたな。あの学校、修学旅行の行き先、投票で決まるからな・・・自由で良いけど・・)
誠の学校の噂は一応当たったようだ。それなりに期待していたのでガッカリだ。
「お兄ちゃんもここだったんだ」
麻衣は妙に楽しげだ。
(麻衣のやつ、俺が滑れないこと分かって言ってやがるな・・)
「やなやつ、麻衣ってばホント性格ひねくれてやがる」
そっぽを向きながら呟いた。
聞こえないように言ったつもりだがどうやら麻衣だけには聞こえてしまったようだ。
ものすごい目で睨まれた。コワッ。
「初めまして。私、麻衣の友達の美紀といいます」
と麻衣の斜め後ろにいた子が言った。続いて
「同じく理沙です。よろしく」
と言われたので
「あ、ども麻衣の兄の誠です。初めまして」
と返した。
いきなりなのでちょっとびっくりしたが感じの良さそうな子たちだ。
麻衣とは大違い。
と思ったのはこれもあくまで誠、個人の感想だ。
「いつも麻衣がお世話になってます」
さっきのお返しとばかりに少し嫌味っぽく言ってみた。
「はい、ホントに大変で」
誠の意図を察したのか美紀って子がノってくれた
理沙って子も笑っている。
「ちょっと美紀 !どうゆう意味よ。理沙も笑わないでよ」
麻衣は自分の友達が誠の方に加担したのが相当悔しかったようだ。
「そうゆう意味だ、バカ」
「うっさい!不器用!行くよ、美紀、理沙!」
こうして、二人はめでたく喧嘩別れした。
「けっ!単細胞が!」
《・・・思春期なのだ。二人とも・・・》
「さ〜練習、練習」
そう言ったあと誠は凍った雪で足もとをすくわれ硬い地面の上にダイブした。
「痛っってぇええ」
スキー場に誠の悲鳴がこだました。


         二
  
十時六分
「なによ、お兄ちゃんのバカ」
麻衣は何度もそう呟きながら歩いていた。
「ちょっと麻衣、そんな何度も言わなくても良いじゃない?」
そう言っている美紀は少し笑っているように見える。
「けど凄いね、麻衣とお兄さん。普通人の前であんな兄妹喧嘩しないよ?」
と、妙に感心しながら理沙が言った。
「なんかイラっときたんだもん」
そう言った麻衣は頬を膨らませている。
「にしてもあのお兄さん、麻衣に負けず劣らず面白い人だね」
美紀の言葉に理沙も頷いた。
「うん、私たちがお兄さんに荷担したとき『してやったり』って顔してたもん」
「・・ってかさ麻衣、私たちあの人のこと『お兄さん』って呼んでるんだけど他人のお兄さんをそう呼ぶのなんかあれなんだよね・・『麻衣のお兄さん』ってのも長いし・・何て呼べば良いかな?自己紹介もしてもらったんだし、やっぱ『誠さん』?」
確かに。誠と麻衣は二人きりの兄妹だから他の人に『お兄さん』と呼ばれるのは何か違和感がある。(誠さんもどうかと思うけど・・)
「ん〜・・何でもいいと思うけど、やっぱ苗字か名前・・だよね」
「俺はどっちでもいいぞ?」
いつの間にか麻衣の隣で誠が同じペースで歩いていた。
どうやらスキー板でも立てるようになったらしい。
不器用のくせに覚えるのが早いな。
さっきの喧嘩の事はスキーのことで頭がいっぱいで綺麗さっぱり忘れているようだ。
誠のそのさっぱりした性格は、時に麻衣にとってイラっと来る原因の一つになる。
「じゃあ『水城』ね、美紀、理沙コレのこと水城クンって呼んであげて」
水城は誠と麻衣の苗字だ。
「・・・コレ・・?」
誠は微妙な表情だ。
分かった、と答えた美紀と理沙は完全に笑っている。
「・・・類は友を呼ぶってこうゆう人たちみたいなことをゆうんだろうな」
誠は小さく呟いた。
「何か言った?お兄ちゃん」
(地獄耳かコイツ)
「な、なぁ麻衣?このスキー場に雪女が出るって噂があるんだけど、知ってるか?」
無理やり話を逸らしてみた。
麻衣は初めの方こそ訝しそうな表情を浮かべていたがしばらくしないうちに首を横に振った。
「雪女って確か、白い着物を着てて何か冷たい感じの・・・?」
「一言で雪女って言っても結構色んな雪女の話があるんだ」
「そうなの?」
「雪女の話って悲しいお話なんですよね」
後ろについて来ていた美紀が言った。
理沙も、
「私は、雪女の話が外国から来たって聞いたよ」
と話に加わり、なぜか麻衣の後ろでは雪女の話で盛り上がっている。
「お兄ちゃん、雪女の話が外国から来たってホント?」
「うん、それが意外にも本当らしいぞ?悲しい話ってのも本当だしな」
と誠は妙に自信ありげに麻衣の質問に答えた。
「へ〜・・・。何で知ってんの?そんなこと」
「・・・ん〜?確かなんかの本で読んだんだよ・・なんだっけ?」
麻衣の言葉に一瞬止まった誠は斜め上を向きながら思い出すように言った。
(そんなうろ覚えのどうやったらあんなに自信満々に言えるんだろう?)
と思ったのは、まぁ当り前の話で。
「麻衣〜智穂がそろそろ戻らないとヤバいって〜。稲木先生に怒られるよ〜」
後ろにいた美紀と里沙が手招きしながら呼んでいる。
「わかった〜。じゃあねお兄ちゃん」
何の本だったかな、とまだぶつぶつと考えている誠に手を振って滑っていった。
スキーは麻衣の方が上手いようで、まだ歩くことしかできない誠はちょっと悔しい。
いや、それよりも
「稲木先生か・・大変だなアイツも」
誠の知る限り、稲木は生徒が少しでもルールを犯すと説教が軽く一〜二時間、加えて正座でするような人だ。
誠が中学の時、陸上部の顧問だった稲木にタイムが下がるとよく怒られたものだ。
しかも悪い時はゲンコツが飛んでくるため誠を含め陸上部の面々は必死でタイムを上げたのを覚えている。
「頑張れ、麻衣」
誠はさっき麻衣の滑って行った方に小さく呟いた。

十一時五十二分
スキーの自由時間も終わり誠たちは食堂にいた。
食堂を一通り見渡してみた、居るのは一般客ばかりで麻衣達の学校とは時間帯が違うようだ。

一時二分
昼食も終わり、自分の泊まる部屋へ向かう途中廊下の隅の方で女子たちが二、三人集まって話しをしていた。
横を通ると内容が耳に入ってきた。
「ここ雪女が出るんだって」
「嘘ぉ」
「私知ってる〜もう十人近く居なくなってるんでしょ?」
「怖〜」
「手招きしながら呼ぶんでしょ〜」
「気をつけないとねぇ」
「連れて行かれるの嫌だもんね」
(・・・雪女の噂、ホントだったんだ・・) 
妙なことにまきこまれない事を祈りながら誠は部屋に戻った。


         三

午後十時二十分
自由時間だ。
誠は友達とトランプをしていた。
さっきからぼろ負けしているがそれなりに楽しい。
今しているのは、ありきたりだがババ抜き。これで負けたら十五連敗だ。
(あ・・負けるなこれは)
と負けを覚悟したとき
バン!という威勢のいいドアの開ける音と一緒に
「お兄ちゃん!」
というこれまた威勢のいい叫び声が重なった。
「・・・ま・・麻衣・・?」
誠とその友達は当前のごとく唖然としていた。

十時三十二分
「お前の友達が雪女に付いて行った?」
「うん、武志っていうんでけどね・・」
麻衣のいる部屋に上の階の仲のいい男子が三人遊びに来たのだそうだ。
その中の一人が武志だ。
しばらく遊んでいると女子の一人が「あれ?外に誰か立ってるよ」と窓の外の『誰か』に指を指して言った。
見てみるとその『誰か』は手招きしているように見える。
男子の一人が
「あれ雪女じゃね?」
と言い出した。
「うっそぉ」
「絶対そうだよ!出るって聞いたぜ」
部屋にいるみんな、雪女の話で盛り上がっている。
今日は二回目だ。
麻衣は半ばため息交じりに、もう一度窓の外を見た。
外にいた『誰か』はこちらに背を向けて歩いている。
向かう先は深い森だ。
「あ!行っちゃう」
と麻衣が言ったとき、雪の中を『誰か』と同じ方へと走っていく男の子がいた。
「あれ武志じゃねぇ?」
武志は麻衣の通う学校でも、大のオカルトマニアで有名だ。
「おい武志ぃ!危ねぇぞぉ!」
「もうすぐ先生たちが見回りにくるんだぁ!戻ってこい!」
叫んだ男の子の声が聞こえたのか武志が振り返った。
「大丈夫ぅ!ちょっと調べるだけだから、すぐに戻るよぉ」
満面の笑みで返し、『誰か』を追いかけ森へと走って行った。
「・・んで、戻ってこなかったと」
「うん・・・」
麻衣は少し涙目になっていた。
「先生には言ったのか?」
「うん、武志が二十分以上経っても帰ってこなかったから、部屋にいた何人かで見回りに来た稲木先生に言ったら・・」
「先生、何て?」
誠は稲木先生の顔を思い出してしまい、苦い顔をしながら恐る恐る聞いてみた。
「それが、怒られると思ったんだけど言った後すぐに場所を聞いて飛び出していった」
「・・・・」
あり得ないことではなのだ。
先生になるくらいだ、生徒の事を一番に思っていても不思議ではない。
・・ただ、稲木先生の場合は少し似合わないだけ。
「先生が出ていく前に『他の先生にも言っとけ!』て言われたらしくて男子たちが大慌てで走り回ってた」
「・・それはいいんだけどさ、麻衣?何でまったく関係のない俺に言うわけ?」
誠はさっきから疑問に思っていたことを述べた。
麻衣はしばらく誠の方を見て黙っていたが『当たり前じゃん』と言わんばかりの顔で
「だってお兄ちゃん、こうゆうの得意そうじゃん」
と一言。
「・・・・は?」
そりゃあ確かに、幽霊は六年生ぐらいの時からほとんと毎日のように見ている。
もう馴れろよ、と言いたいところだがソレを目の前にするとやはり恐かったりするのだ。
麻衣の言う『得意そうじゃん』には万に一つも当てはまらないはずなのだが・・・。
「・・・まあ、今のところは置いといて、武志君を捜すのが先だ、それに・・」
空には厚い雲が幾重にも重なっていて、月の光はおろか星の一つも見えない。
風も強くなってきて降る雪もほぼ真横に落ちて来ている。
「吹雪になる」
誠は小さく呟いた。


          四

十時五十六分
誠は防寒服をできるだけ沢山着て、リュックサックをからって、懐中電灯を持ち、麻衣には来るなよと釘を刺して外へ出た。
外は『吹雪のなりかけ』という感じだ。
懐中電灯で照らしても二メートル先が見えない。誠はしばらく突っ立っていたが意を決して、森の中へ入って行った。
森の中は真っ暗だ。
降る雪で武志の足跡は完全に消えていた。
この分じゃ誠の足跡もすぐに消えてしまうだろう。
まったく、武志という奴は人騒がせな!・・・会ったことないけど。
ここでこんな事を考えていても状況が変わるわけでもないので誠は勘を頼りに武志を探すことにした。

十時五十六分
麻衣は待つことしかできなかった。
(話を持ち込んだのは私なのに当の自分は何もしないで待つだけなんて・・・これでお兄ちゃんも戻って来なかったら私、どうすれば・・・)
すぐにネガティブ思考になるのが麻衣の悪い癖だ。
自分は頭を抱え込み考えることしかできないの?
「・・・ダメよ、ダメ!お兄ちゃんや先生達が頑張ってるのに私だけのんびり待っているだけだなんて、私も探しに行こう」
パンパン、と自分の頬を叩いて気合いを入れ直した麻衣は防寒服を着て外へ出た。
手にはもちろん懐中電灯を持って、だ。
誠は出て行く前に麻衣に『来るなよ』と釘を刺している。
捜しに出たら間違いなく怒られるだろう。
普段は意外とあまり怒らない誠だが(喧嘩は除く)実を言うと怒ると稲木先生より怖かったりする。
・・・本人は気づいてないようだが・・。
「・・・大丈夫よ麻衣!怒られないよ!大丈夫!・・多分・・!」
麻衣は無理やり自分に言い聞かせ森へ向かった。

十一時八分
誠は暗い森の中をあてもなく歩いていた。
迷子にならない為に一応通って来たとこの木の枝に目印の白い布を結んでいるのだが、どういうわけか同じ所を何度も回っているようで目印のとこに戻って来てしまう。
「・・・俺、方向音痴だからな〜・・・あくまでも“軽い”方向音痴だがな!断じて重くはない!この差はデカいよ!うん!」
ぐるぐると同じ所を回るのにも飽きたので、無意味な独り言(励まし)をしていると、二十メートルほど先に光る何かが見えた。
「?」
遠い上に少しぼやけているのかそれが何かはわからない。
誠はその光の方へ向かって行った。

十一時十一分
麻衣は森の中を進んでいた。
所々木の枝に目印がある、おそらく誠か先生が付けたやつだろう。
同じ道を行ったら誠に会ってしまうので麻衣は目印のない方に向かった。
ふと上を向いて見たが木が覆い茂っていて空も見えない。
そのせいか雪もあまり降ってきておらず、風だけが『ゴォォオ』と低い音をたてていた。
懐中電灯を照らしてもあまり遠くまで見えない。
周りに人の気配もない。
はっきり言って怖い。でも
「今戻る訳にはいかない!」
麻衣は森の中をずんずんと進んで行った。

十一時十一分
誠はあと何メートルもないとこにある『光』に向かって歩いていた。
下が雪なので多少歩きづらいが近づくにつれて徐々に形がはっきりしてきた。
「・・・・」
女の人だ。
白い着物で長い髪の女の人。その顔は無表情で言っちゃ悪いがちょっと不気味。
多分あれが噂に名高い雪女なのだろう。
雪女は幽霊じゃなく妖怪の類のはずだ、恐くない!)
「ゆ・・雪女・・さん?武志って子知りません?アナタについて行った男の子なんですけど・・」
「・・・・・」
雪女は答えなかった、答えはしなかったが、右手を上げて誠からして左の方を指差した。
指差す先は崖だ。
「・・!まさか」
誠は急いで崖の縁に行き、懐中電灯で崖の下を照らした。
あまり深くないようだが表面に凹凸はあまりなく、落ちたら登ってくるのは難しそうな所だ。
「おぉ―い、武志ぃいるかぁー?」
そう言った後、耳を済ませてみた。
「・・・ぉーぃ・・・」
微かだが聞こえた。
誠はさっきから懐中電灯を下に向けて照らしている、これが見えているなら真下に来ている筈だ。
「すぐ助けるからなぁ」
そう言って、からっていたリュックサックを降ろし中に入れていたロープの端を一番近い木にくくり付けて反対側の端を下へと投げた。


          五

十一時一六分
麻衣は闇雲に森の中を進んでいた。
すると、急に『カサ』っと草の動く音がした。
「!?」
な、なんだろう。もし人なら、誠であってほしい。
そう心の中で思いながらじっと音のした方を睨んだ。
・・・・。
何も出てこない、良かったと安心しかけた時、不意に肩に軽い重みを感じて麻衣は自分の肩を見た。
そこには明らかに手がおいてある。
心臓が止まりそうになった。
「き・・」
思わず叫びそうになったがあることに気づき、変なとこで止まった。
おいてある手は暖かい。しかも男の人の手だ。
「水城か?こんな所で何してるんだ」
この声は・・・。
麻衣は後ろを振り返って続けた。
「稲木先生・・・?」
そこには誠の大嫌いな陸上部顧問の稲木先生が立っていた。
そういえば、最初に探しに出たのはこの人だ。
・・・すっかり忘れてた。
「お前も渡辺を探しに来たのか?」
渡辺は武志の名字だ。
「はい、心配でじっとしていられなくて」
元々怒られ覚悟で捜しに来ている。こうゆう時はホントの事を素直に言うに限る。
「・・・そうか・・・まぁ捜すのは多いに限るからな、説教はバカ辺(渡辺)を見つけてからだ」
やっぱ有るのか、説教。
「・・・ん?」
稲木が不意に耳をすまし始めた。
「?」
麻衣も耳をすましてみた。
「すぐ助けるからなぁ〜」
人の声だ、しかも
「お兄ちゃんだ」
声からして結構近い。
「行くぞ!」
「はい!」

十一時二四分
「お〜も〜いぃ〜」
誠は必死にロープを引っ張りあげようとしていた。
陸上部で足には自信がある誠だが腕の力はいたって標準だ。
実はちょっと小太りの武志を一人で引き上げるのは、はっきり言って無理がある。
誠が頑張っても半分引き上げるのが精一杯だ。
雪が降っているくらい寒いので手がかじかんでしまってロープを掴んでいるのがやっとという状態になりかけているのだ。
放すわけにはいかない。
左手にロープを2度3度巻きつけて持ち直した。
だが足元は雪が積もっているので結構滑る。
手元は良いけど足元はヤバいな。
そんな事を考えてたら後ろから
「お兄ちゃん!」
という聞きなれた妹の声と
「水城!」
というなるべくなら一生聞きたくなかった稲木先生の声が聞こえてきた。
「麻衣!稲木先生!」
麻衣と稲木にも手伝ってもらい武志をやっとの思いで持ち上げた。
(あぁ手にロープの跡が・・・)
誠はその事と安心感で、ため息をつきながら座り込んだ。
それにつられたように麻衣も誠の向に座った。
上がってきた武志を見ると寝間着姿だ。
そのためか、少し凍傷になりかけている。
雪女を追いかけるために無我夢中で飛び出して行ったため仕方ないと言えば仕方ないのだが。
見ていて寒いので誠はリュックに入っていた毛布を出してかけた。
「あ、ありがとう・・ございます」
誠は苦笑いで返した。
そのあと、稲木の方を向いて。
「先生、お久しぶりです」
と一礼。
そのまま横にいる麻衣に
「家に帰ってからだ」
と一言。
稲木と武志にはなんの事だか解らなかったようだが麻衣にははっきりと解った。
(稲木先生だけで十分なのに・・・)
麻衣は心の底からため息をついた。
「お前ら、のんびりしている暇ないぞ。森の外は吹雪だ。急いで戻るぞ」
いつの間にか武志をおぶって立っていた稲木が言った。
「はい!」
と言った誠と
「吹雪!?」
と言った麻衣が同時に立った。


         六

十一時二九分
「ヤバいなもうすぐ0時になっちまう」
稲木の一言でそのことに気づいた。
消灯時間をとっくに過ぎている。
(怒られるだろうな、先生に・・・)
なんて言い訳しよう、とぶつぶつ呟いている誠と
(稲木先生とお兄ちゃんの説教か・・・)
なんて説明しよう、と悩んでいる麻衣が同時にため息をついた。
森の出口が見える。
稲木の言うとおり森の外は吹雪だ。
「向こうまで行けますかね」
森の外を眺めながら誠が口を開いた。
「何とかなる」
頼りは稲木先生だけなの何とかしてもらわないと困る。
程なくして森の出口に着いた。
予想通り来た時の足跡は綺麗に消えているようだ。
目を凝らしても誠達の宿泊している宿の光は全く見えない。
ふと稲木のおぶっている武志に目をやった。
毛布をかけたといっても、所詮はリュックに入っていた非常用の毛布。
寒いのだろう、唇が紫色になってきている。
早くしないとヤバいかもな。
そう思っていた誠の目に稲木が映った。
「?」
稲木はどこか一点を見つめていて全く動かない。
「先生?」
誠の言葉に麻衣も稲木の異変に気づいたのか
「先生?どうしたんですか?」
と、声をかけた。
「・・・アレ・・・何だ・・・?」
(?)
誠と麻衣は稲木の言う『アレ』に目をやった。
目をやった先には、着物を着た長い髪の女の人が立っている。
「・・・雪女だ」
誠は誰ともなしに呟いた。
「雪女・・あれが‥」
誠達は何もできずじっと雪女を見つめていると、雪女がついて来いと言わんばかりにクルッと後ろを向いた。
「・・・付いて行ってみる?」
麻衣が誠と稲木に聞いた。
「・・・ここにいても凍えちまうし、何より武志が危ない」
どうします?と問いかけるように、誠が稲木の方を見た。
「行くか!」
武志をおぶった稲木を先頭に誠、麻衣は雪女について行った。

十一時四十三分
その頃、誠達の泊まっている宿では先生達の間で騒ぎになっていた。
「雪女について行った渡辺がまだ帰って来ないのか!?」
「渡辺を探しに行った稲木先生と連絡がつかない!!」
「話しを聞いて水城くんが探しに行ったらしいぞ!!」
「妹の水城さんもいないわ!!」
「なにやってんだあの兄妹は!?」
何人かの先生が探しに行ったが、見つからなかった。
もう外はかなり吹雪いてきている。
これはヤバいぞ!
と先生全員が思っていた。
すると突然、玄関の方から『ガラッ』と引き戸を開ける音がした。
「な、なんだ!?」
先生達が玄関へ行くと、そこには武志を今にも下ろさんと行動を起こしている稲木。
疲れたのか誠と麻衣は床に座り込んでいる。
「稲木先生!良かった」
ひとりの男性教師が満面の笑みで叫んだ。
「良かっただ〜?」
それに比べて稲木は顔に青筋を浮かべながら言った。
「そんな事より早く渡辺を医務室へ運べ!凍えて瀕死の状態なんだ!」
さっきの言葉よりも更に鋭く稲木は叫んだ。
「は、はい!」
男性教師はかなり怯えているようだ。・・・まぁ当たり前なのだが・・・。
「あ・・しかし稲木先生、今ちょうど医務室の先生居なくて・・!あ、あの!少し前に電話したので二十分も有れば来てくれるかと・・・」
男性教師の言葉は最後まで言うことは出来なかった。
稲木が物凄い目で睨んできたのだろう、男性教師は固まったまま動かなくなった。
(この人のせいじゃないのに・・)
水城兄妹他、この場にいる稲木以外全員が思った。
「仕方ねぇ、とりあえず医務室に運ぶ、やり方はよく解らねえが用は温めりゃあ良いんだ!」
誠は武志を医務室へ運ぼうとしている稲木に、なるべく控えめに声をかけた。
「・・あの〜、稲木先生」
「何だ?」
稲木は相当気が立っているらしい、今にも頭から角が生えてきそうだ。
「あの・・温めるの・・解んないんなら手伝いますよ?時間をかけずに体温を通常までに戻す方法が有るんです・・けど・・・」
「・・・なんでお前がそんな事知ってる?」
稲木の疑問は尤もだ。
医学というものに無関係そうな誠が何故そんな事知っているんだ?
「いやぁ、実は俺高校、看護科入ってるんですよ」
一瞬時間が止まった。
誠のことを知る先生達が全員、絶句した。
あの水城が・・・看護科・・・?
「そんな事より今は武志を早く医務室へ」
「あ、あぁ」
流石の稲木もかなり驚いたようだ。
驚かせるつもりはなかったんだけど・・・。
誠はそんなことを考えながら医務室へ向かった。




誠も偶には役に立ち、武志はすぐに温まってくれた。
二十分後には医者も来てちゃんとした検査をして大丈夫だ゛という判断もでた。
これで雪女の一件は終わった。
だが誠達にとって大変なのはそのあとだった。
次の日、誠は担任の先生に、麻衣と武志が担任の先生と稲木に呼ばれ小一時間ほど説教をうけた。しかも誠は罰としてスキーは禁止。
部屋でスキー時間が終わるまで勉強をするはめになった。
麻衣と武志(特に武志)は一日中雑用をやらされた。
誠にとってきついだけだった修学旅行は幕を閉じた。


帰りのバスに乗っている麻衣は気が重いままだった。
確かに、雪女の一件は疲れたし一日中雑用ももうこりごりだ。
だがそれよりも、家に帰ってからの誠の説教があると思うと更に気が重くなる。
稲木のだけで十分なのに・・・バス・・このまま止まってくんないかな・・・。
深いため息をついた麻衣を乗せ、バスは順調に目的地へと向かって行った。



誠の説教は二時間以上続いた。
(まあ悪いのは約束を破った自分なんだし・・・)
説教が終わると、今まで立って説教をしていた誠が麻衣の前にあぐらをかいた。
誠は黙ったまましばらく向かいの窓の外を考えこむように眺めていた。
一応説教は終わったので麻衣は正座していた足を崩した。
二時間以上正座していたので足が麻痺している。
誠は二時間も立っていて平気だったのだろうか?
「何がしたかったんだろうな、あの人」
窓の外を眺めていた誠が口を開いた。
あの人とはおそらく雪女のことだろう。
「何で?」
「だって行動が意味不明だし・・・」
確かに、最初部屋にいるとき手招きをして人を呼ぼうとしたのに、崖の下に落ちた武志の場所を教えてくれたり、最後には宿まで案内をしてくれたりもした。
おかしいといえばおかしい。
二人はしばらく考えていたが、ふと誠が思い出したように
「スキー場でお前と会ったときの雪女の会話覚えてるか?」
と言った。
「うん、確か雪女は外国からきたとか子供がいたとか話したよね」
「それなんじゃないかな・・・」
「何が?」
「だから、雪女には子供がいたってゆう話」
「・・・話が見えない」
「だから・・・!」
前に乗り出すようにいった誠だったがそこで一度言葉をきり、座り直して少し下を向き呟くように言った。
「だから・・・寂しかったんじゃないかな・・・あの人」
「・・・」
妖怪に寂しいという感情があるかは疑問だが誠の言いたいことはわかった。
『雪女には子供がいた』と云う噂。
いた、という事は今はいないということと考えた方が自然だった。
誠はそのあと何も話さないまま部屋を出た。
麻衣はしばらくボーっと窓の外を見ていた。
(もし・・・本当に寂しかったのなら・・・今回の事で少しは寂しくなくなったかな・・・)
そうであってほしいと願いながら麻衣は部屋を後にした。


誰も居なくなった部屋の窓から小さな雪が落ちてきた。
その小さな贈り物は、まるで『ありがとう』と言っているように淡く輝いていた。

後書き

修学旅行の話書きたかったんですwww
書き始めたころは10月の後半だったのに
終わったころには1月をとうに過ぎてましたw

この小説について

タイトル 修学旅行
初版 2010年1月19日
改訂 2010年1月19日
小説ID 3758
閲覧数 733
合計★ 0
RYUKAの写真
駆け出し
作家名 ★RYUKA
作家ID 636
投稿数 1
★の数 0
活動度 101

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