窓の内と外

 窓を開けると、冬の白い空気が入ってきた。肌を突き刺すような冷たさはないも、起きたばかりの体には辛いものがある。こんな時はベッドの温もりが恋しいが、目覚めなくてはと彼女は窓を閉めて部屋を後にした。
 窓を開けるのは彼女の日課だった。寒かろうが暑かろうが、窓がビクともしない限り開けるのだ。この習慣は、気づいたらそうだった。気づいたら既に窓に手をかけていて、気づいたら毎日開けていた。

 部屋を出た彼女は、まず洗面所に向かった。スリッパなんてものがないから、冷たいフローリングが憎らしい。足裏からも寒さがじわじわと侵略してくるのだ。
 彼女はなるべく床についてる時間を短くするべく、爪先立ちで小走りした。
 洗面所にはマットがひいてあるから、早く行こう。その一心だった。

 ジャーと音を立てて流れ出す綺麗な水は、生きる力になってくれる。だが今は恨めしいだけだ。冷たすぎる。
 だが、だからといってお湯を出すにはもったいない。お湯が出るまで流しっぱなしは、この北国の水道代には厳しいもので。彼女は我慢した。

 時刻はAM05:36だ。まだまだ暗闇に包まれている。夢の中にいない人間は、どれくらいだろうか。早い人ならば既に活動し始めているのだろう。 顔を洗いすっかり目覚めた彼女は、鏡に映る自分を見てふと笑った。今日も元気だね、と語りかけているようだ。

 さっきみたいな小走りはせず、ひたひたとリビングへの扉を開けた。まだ暗い。彼女はスイッチを押した。 ぱっと明るくなり、朝日のようとまではいかないも、明かりには温かさ感じる。
 彼女はそのままテレビの電源を入れて、おなじみのニュースに切り替える。土曜日だ、いつものキャスターじゃなく少しがっかりした。

 報道されるのは国外での災害や戦争、あるいは国内での火災や遺体発見。何をとっても悲しいニュースばかりで、ならばバラエティー番組にでも変えようかと悩んでしまう。
 だけど彼女は変えることなく、片耳で音を聞きながら朝食の準備に取りかかった。朝はしっかり食べなければ、力が出ない。健康的な体でいるためには欠かせない食事だ。

 包丁片手に野菜を切って鍋に入れる。火の側にいると体が温まり、ほっと一息つけば、タイマーセットしてあった炊飯器がなった。ご飯が炊けたよと、知らせてくれた。
 時刻はAM06:00ちょうどになった。

 しんしんとふり積もる雪が、リビングから覗ける外の世界を覆っていた。


 少し早い朝食を食卓に並べ終わった彼女は、テレビの音量を少しだけ上げて二階へと駆けて行った。階段を上がり、先ほど自分がいた部屋へと足を運ぶ。まだ温もりの残るそのベッドの端には、人がいるのか膨らんでいた。
 彼女は何を思ったのか、ガバッと羽毛布団を剥ぎ取って声をあげた。オハヨウ、朝だよ。元気すぎるその声は、家中に響いた。

 布団を突然剥がれたからか、眠っていた彼はすぐさま飛び起きて眼を擦った。もう6時か。そう言ってまだぐずる体を起こし伸びをして、ベッドから降りた。
 冷たい床に足をつけず、彼女の用意したスリッパに足を通す彼は、寒いなと呟いた。冬の朝は身にこたえる寒さが家の中でも健在だ。布団から出たくないと、誰もが思うだろう。
 そんな彼を笑顔で見守る彼女は、誰もいなくなったベッドからシーツを剥いで、マットレスの熱を逃がした。

 ふと窓から外をを覗けば、相変わらず振り続ける白い世界があった。いつもなら見えるはずの木が見えず、相当積もっているのだろうと用意に想像できる。彼女は一つ息を吐いて下へと戻っていった。


 テレビから聞こえてくる今朝のニュースは、ちょっと前に聞いたのと同じ内容を喋っていた。そうそう違うネタで何時間もニュースは出来ないし、早くに家を出る人の為にも、遅く家を出る人のためにも、与える知識に差が出てはならないからだろうか。
 彼はテレビの音だけを聞き、リビングに入る前に取った新聞に目を通していた。テーブルの上で綺麗に並べられた朝食はまだ温かい。注がれるコーヒーはもっと温かく、心地よい湯気が上がっている。

 今日も一日雪だ、そうお天気お姉さんが伝えた。それを聞いて彼女も彼もうんざりといった顔をして、ようやく朝食に手を付けた。二人揃っての朝食は、この家での一つのルールである。せめて朝だけは一緒に食べましょうという、彼女なりの優しさだ。
 一人の食事ほど、虚しいものはないと思っているから。


 * * *


 風の動きに合わせて宙を舞い踊る粉雪が、窓の淵に辿り着いた。高い高いはるか上空から降りてきた粉雪は、徐々に積もり積もって一メートルにまで達していた。小さな子どもなんて、簡単に埋まってしまうほどの積雪だ。
 さらさらと流れるように積もった雪は、重たくなかった。が、やはり邪魔なことに変わりはなく。朝早くから外に出て、僅かながらも道を作っていった。

 スッコプを差込み、雪を掬い上げ、そして脇へと投げ飛ばす。その動作を何度も繰り返して、ようやくできた道。腰を曲げてのこの作業は、長く続ければ続けるほど反動がやってきて、きっと明日は筋肉痛だなと、彼女は寒空を見上げて息を吐く。
 やっぱり白い息を、思わず掴み取ろうと手が動いた。空しくも空ぶるその手に、笑みがこぼれる。

 足が、徐々にゴムを伝って冷たくなってきた。

 ガチャリと音がしたと思えば、コートをしっかりと着込んだ彼が玄関先から顔をのぞかせていた。ありがとう、行ってきます。そう言って、彼女の作った道を進んでいった。
 ざくざくと足跡を残して、その背中が見えなくなるまで見送った。降り続ける粉雪は相変わらずで、せっかく作った道をも既に埋めてきていた。

 「あー……さっき退かしたばっかなのにな〜」

 思わず漏れてしまう苦笑と、少しだけ辛い腰。それでも彼女は、道を埋めないようにと雪を退かし続けた。
 

後書き

何が言いたいのかといえば特にないのですよ。

なんと言うか、いつもセリフが多いなと思っていたのでどこまでいけるかなと書いてみたもの。
あまり深く考えずに書いていたら、セリフが一個だね^^ うわ〜、もちっとあってもよかったんじゃないの?とか思ってしまったよ。

もう少しで雪と触れ合えるので、少し雪を思い出してみました。

(に、しても。面白味の欠片もないなぁ〜)

この小説について

タイトル 窓の内と外
初版 2010年1月29日
改訂 2010年1月29日
小説ID 3774
閲覧数 736
合計★ 3

コメント (2)

弓射り 2010年2月2日 1時39分34秒
すきです、こういうの。

ひとつひとつの動作が、気持ちとつながっているのが、丁寧に書いてあるので伝わってきます。もうちょっとツッコんで書けばさらにリアリティが増すのに、と思う箇所もいくつかありましたが、目に浮かんでくるような描写は好きです。
セリフに関してですが、地の文が99%を占める作品だからこそ、たった1個のセリフに強烈な意味を込められることもあると思います。

一個だけひっかかったのが、朝6時前にバラエティはやってないのでは? って所でした。各局ニュースかと。

しかし、今日関東は初雪?です。あれ二度目だっけ。1m積もる地域の日常は想像できるようで出来ないなぁ。ニュースとかでは見るけど。
★只野 紅覇 コメントのみ 2010年2月5日 20時46分49秒
>>弓射りさん

ありがとう御座います^^
すきですなんて、嬉しいですねそう言ってもらえるのは。

人の動きには何らかの感情があるよな、と思い、一つ一つ自分が思うことを書いてみました。目に浮かんだようで、何よりです…!
セリフに、強烈な何かを込められていたのかは不安です……が、コメントを貰ってから改めて読み返したときに、「愛?」と思いました。←
彼はいい奥さん見つけたんだなって、思いました。

そのひっかかりはですね、簡潔に述べるならば“言葉足らず”です。
バラエティはやってません。バラエティがやっているならば変えたいなっていう、気持ちを言いたかったんです。

あ〜、雪でしたね。初雪かどうかは私も忘れちゃいましたが、今日は新潟で80センチ越えたようですね〜
アレはニュース見ていて同情しちゃいましたよ(苦笑
ずっと昔に車がうまってしまったことがあって、それを思い出しました。
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