僕と村の魔女 - かぼちゃと魔女と春の海__02__

「ウルセーぞ、お前ら。ここはいつから屋内遊技場になったんだ?」

 奥の書斎から青年がマントではなく、白衣を翻しながらやって来た。
右手に余るほどの文献、左手にトラベルケース。
彼はもともとこの村のものではなく、
魔女の噂を聞きつけてやってきた流れものだった。

「どっかに行ってきた旅行者みたいだな」
「…みたいじゃなくて、行ったんだよ。今帰ってきたところだ」

 重そうに持っていた荷物をどさどさっとおもむろに置くと、
肩に手をやり凝り固まった筋肉をほぐしながら小さく息を吐きだした。
彼が魔法使い見習のパルノだ。
見た目はアドニスと大して変わらない青年だが、
まぁ、それなりに年をとっている。

 パルノに続いて奥の書斎から、黒いロングスカートの女性も出てきた。
そう彼女こそがこの村の、ミモレットと呼ばれる魔女である。
しかし、玄関は反対側だ。
それに彼女も両手に余るほどの荷物を抱えている。さすが魔女。謎だらけ。

「スーラン、手伝ってくれる?」

しかし ここに該当する人物はいない。
なぜなら この空間には魔女の他には男が五人。スーラン、名前からして女。
だが、一体何処にいるのだろう?

 すると、何処からとも無くカーテンの陰から
淡い緑色のエプロンをかけたメイドが現れた。
ミモレットから文献を受け取ると奥の部屋へと消えていった。
 先ほどから ただただ唖然としている子供たちに目をやると
開いた口が塞がっていない。

 見習い君はのんきにもティータイムの準備をしている。
西洋人はお茶が好きだということは本当らしい。             
 すると魔女は紅茶をカップではなくお盆に注ぎ始めた。
耳をすませると何かを呟いているのが分かる。
小声なので何を…とまでは理解不能。
最後に何か淡い色の粉を振り掛けて、その不思議な作業は終了した。
    
「どうでした?」

 子供たちにスコーンを渡しながらパルノが訊ねた。
 どうやら魔女は占いをしていたようだ。
 しかし返事は返ってこない。表情は険しいままだ。
あまり良い結果ではなかったのだろうか?

「アドニス、皆を連れて帰りなさい。できるだけ早く」

 声に抑揚が無く相手に否と言わせないような感じで口を開いた魔女は
暖炉に薪をくべている。
普段はこのような感じはみじんも感じないのに。
 何がなんだかわからず、アドニスはパルノを見つめた。
パルノは肩をすくめ、彼らを玄関へと促すと

「悪いな、どうやら急用だ。それより早く帰った方がいい」

 そう言い、少々焦り気味にカンテラを押し付けるようにして渡すと
扉は閉じられた。

「なんだよ、一体。って、さっきまであんなに晴れてたのに」

 外はいつの間にか日が陰り、冷たい風が頬をなでる。
海の果てまで曇天は広がっており、
ひと嵐来てもおかしくないようにさえ思えた。
見えるはずもないが目を凝らして遠くを見つめていると、
服の端をくいくいと引かれ足もとに目線を下げる。

「なぁアドニス、親父たち大丈夫だよな?」
「今日は、海での漁が解禁になったので父さん達が…」

 見る限りでは船は一艘も帰ってきてはいない。
 風が強くなってきた。海は次第に時化はじめ、波も高くなっている。
いつも明るい灯台の灯りさえ心もとなく感じる。
しかし子供たちを変に不安にさせるよりは
ありのままの事実を告げなくてもいい時がある。

「多分大丈夫だ。お前ら、自分達の親父 信じてないのか?」
「なっ、信じてんに決まってんだろ! バーカ!!」
『バーカ』

 子供達は口早にそう言い残すと駆け出して行った。
 天候は悪化する一方で、
実際 船がきちんと帰ってくるかどうかは良く分からない。
でも今までだってそういう日もあった。
きっと帰ってくるはずである。

 春の天気ほど気まぐれなモノもないな
と思いながらアドニスは帰路を辿った。


         *                   *


「そっちはどうだ?!」
「だめだ! いつ崩れるかもわからねぇ!!」               

 外はとっくに夜になっていた。
しかし沖に出た者が帰ってこないばかりか、土砂崩れまで発生していた。
すでに五人ほどが助けれているがまだ何人かは土の下にいるようだ。
船の帰りを待っていたらしい。
         
「おい! いたぞ、引き上げろ!」

 崩れた土砂を地道に掘り返すこと数十分。
子供の手のようなものが顔を出している。
大人たちはなるべく慎重になおかつ迅速に作業をしなくてはならなかった。
なぜなら厄介なことに土砂崩れは
灯台のすぐ後ろの岩壁が崩れたものだからだ。
船が予定道理帰って来れなかったのはこのせいだ。

 しかし いつまでもこの状態が続くのは非常に危険なのだ。
またいつ崩れてもおかしくない状態で、二次被害が予想されている。
それに最悪、
船は港がわからず海の上で嵐をやり過ごさなければならないかもしれない。
そして無理にでも港に戻って来ようものなら、
暗礁に乗り上げ沈んでしまうだろう。
波が荒いので舵はいつもの三倍近くは言うことをきかないはず。

 ただ時間だけが過ぎてゆく。
 その時 集まっている村人の中から助けられた子供のそばに
駆け寄る小さな影があった。
カンテラがあるとは言っても風が強く、明かりが心細い。

「トミー! おい、トミー!!
なんでこんなっ。家から出るなって言われたじゃん」

責めるような、悲痛な叫び声に近い子供の声があたりに響いた。

後書き

補足説明です。
この物語の魔女・魔法使いは呪文をあまり唱えません。
ご了承ください。

この小説について

タイトル かぼちゃと魔女と春の海__02__
初版 2010年1月29日
改訂 2010年1月29日
小説ID 3775
閲覧数 749
合計★ 0
札木翼の写真
熟練
作家名 ★札木翼
作家ID 637
投稿数 10
★の数 9
活動度 1113
はじめまして、こんにちは。
のんびりと掲載していきたいと思っています。
よろしくお願いします(m^□^m)

コメント (0)

名前 全角10文字以内
コメント 全角3000文字以内 書式タグは利用できません
[必須]

※このボタンを押すと確認画面へ進みます。