Dメール - No.17 to:創立祭の道化師(2)

 通信が途絶えた後、夜一はすぐに渚に詰め寄った。『パーシヴァル』なる人物の事、相良の事などを聞くが、渚は『パーシヴァル』という言葉を聞いた直後から俯いて不安そうな表情になり、全く答えようとはしない。いつもとは正反対の彼女の様子に、夜一は声を荒げる。
「どうしたんだよ、渚! 渚!!」
 そんな夜一を強制的に引き剥がし、二人の間に割って入ったのは相良だった。
「……俺から話すわ。ええやろ、ナギちゃん?」
 目を伏せたまま黙っている渚にそう言うと、相良は夜一に説明し始めた。
「本当なら、やっくんは巻き込むな、ってナギちゃんからキツく止められてんねんけどな。……さっき言いかけたやろ、俺が追ってきた売人がどうとかって」
「それが、あの『パーシヴァル』って奴なのか? 何の売人なんだ?」
「まあまあ、落ち着きい。その名はナギちゃんが何年も追ってる武器密輸組織の幹部の名なんや。せやから、ナギちゃんの存在がばれるとまずいんや。それに、今回の事件、生徒が簡単に拳銃なんか持ち込めると思うん?」
 だからさっき咄嗟にやっくんの口を塞いだんや、と相良は締めくくった。
「じゃあ、学校で武器の取引をしたって事なのか……うちの、生徒が!?」
 夜一にはにわかに信じ難かった。いつも以上に人が多く、他人の目を欺くのが難しい今日の、しかも学校内で白昼堂々と武器の取引が行われているなど、非日常にも近い。更に、相良がもたらした情報は夜一を驚愕させた。
「そうなると、武器を『パーシヴァル』と取引したのはC組の生徒、しかもあの五人の中にいるっちゅうことや」
 夜一は、他の生徒と離れ、教室の黒板の前で固まっている男女五人を見た。難波美華(なんば みか)、旭川澪(あさひかわ みお)、初瀬香織(はせ かおり)、七飯浩(ななえ ひろし)、田布施祐樹(たぶせ ゆうき)。別に、これといって変な様子も見受けられない。とてもではないが、人に向かって発砲したように見える人間は居なかった。
 相良も五人をじっと見渡した後、夜一と渚に耳打ちした。
「状況から言ってもこの五人の中に犯人が居るのは確かや。けど、そうなると問題は証拠やな。肝心の拳銃はもう隠滅されてしもうた可能性が高い。……地道やけど、一人一人に話聞いて、怪しいとこ突くしかないなぁ。俺は、鎌倉先生の事、ちょっと調べてみるわ」
「分かった、俺が皆から話を聞く。渚、お前はこの教室を調べてみてくれよ」
「…………」
「渚?」
 返事が無いので夜一が聞き返すと、渚は急に大きい声を出されて驚いたようで、肩を震わせて夜一の方を見返した。
「……分かった。何か分かったら、メールしてくれ」
 無表情のまま夜一達から離れていく渚は、明らかにいつもの彼女とは違っていた。不安そうで、脆く、危うい。普段なら全く当てはまらないその言葉が、今は背後霊の様に張り付いて見えた。



 とりあえず一人ずつ話を聞いていくと、五人の主張は男女で真っ二つに分かれていた。まるで、お互いを犯人だと決め付けているように。
「絶対に七飯君と田布施君のどちらかが撃ったのよ。あたしたち、聞いたもん。黒板側のテーブルを片付けていた時、外から銃声が聞こえたの。だよね、澪、香織」
 難波さんの言葉に、旭川さん、初瀬さんは同じ様に強く頷いた。まだ恐怖が拭えないのか、小刻みに震えている。その言葉に、夜一が一つ尋ねた。
「じゃあ、その時すぐに鎌倉先生の方を見たのか?」
「そりゃそうよ。吃驚したから。でも、もうその時には……鎌倉先生が傷口を押さえて一人で倒れていたの。本当よ、嘘なんか吐いてないわ!」
 必死に言う難波さんを宥め、今度は七飯と田布施の話を聞くと、ここぞとばかりに女子側を犯人だとまくしたてた。
「絶対に難波達三人が協力して鎌倉先生を撃ったんだ。三人居れば、撃つ奴と、銃を処理する奴、鎌倉先生から生徒を遠ざける奴。一瞬でも完璧にこなせるじゃないか」
「そうそう。俺たちは見たんだ。教室の中から銃声が聞こえたあと、先生が背中から倒れたのを」
 言いながら七重はしきりに指を擦り、田布施は窓の外を気にしていた。夜一が話の内容を渚にメールで報告した後、どうしたものかと頭を抱えていると、鎌倉先生の事を調べ終えたらしい相良が夜一と強引に肩を組んできた。夜一が振りほどこうとするが、それを許さずに相良は口を微かに開いた。
「話聞いてると、女子三人か男子三人が共謀して鎌倉先生を撃ったみたいに聞こえるなぁ」
「実際それしか考えられねえだろ。でも、凶器を処理する、って点では三人の方がいいのかも……」
「七飯くんらも、三人やったかもしれんで?」
「は? 何でそうなるんだよ。つーか、いい加減放せ」
 夜一が離れると、相良はいけずやなあ、と言った後、くるりと背を向けて渚の方を見た。何故か、目を細めて、不安があるようにも見えた。不思議に思っていると、携帯のバイブが響く。渚からの、『Dメール』だった。
 そこに書かれている名前を見て、夜一は一瞬息を詰まらせた後、すぐにその本人達に向かって声をかけた。
「……七飯、それに田布施。お前達なんだな、鎌倉先生を撃ったのは」
 夜一の言葉に、難波さん、旭川さん、初瀬さんはその場から距離を置くように一歩退いた。相良も続けて言う。
「鎌倉先生に、成績の事とか大学の事を色々言われてたらしいやん。動機にしては、随分短気なもんやけど」
七飯と田布施の二人は、表情を崩さずに夜一に言葉を返した。
「何言ってるんだよ。俺達は教室の外に居たんだぞ。どうやって鎌倉先生を撃ったんだよ」
 夜一に詰め寄ってくる七飯をじっと見返した後、夜一は『Dメール』に書かれていた通りに話し出した。
「そこだよ。廊下側の窓を少し開けて、鎌倉先生を狙い撃ったんだ。田布施、お前の言葉が疑問を生んだんだ」
「……俺が? 何を?」
 首を傾げる田布施を真っ直ぐ見つめ、夜一は続けた。
「犯行の瞬間、教室はドアも窓も閉まっていた。教室の中に居た難波さん達でさえ、鎌倉先生が倒れた瞬間は見ていなかった。外に居たお前らは尚更、教室に入るのに女子達よりも時間がかかったはずだろ。何で背中から倒れた事、知っているんだ?」
 夜一の言葉、渚の推理に、七飯と田布施はたじろいだ。明らかに、動揺しているのが窺えた。おそらく拳銃の発砲の影響で痛んだ指を、七飯は必死に擦っている。田布施は目を逸らし、夜一と相良から一歩遠のく。そんな二人の手首をそれぞれ掴んで、相良は問いかけるように言う。
「先生ら、もう警察呼んでるやろなあ。硝煙反応、って刑事ドラマとかで聞くやろ。君らの体に、まだ染み付いてるかもしれへんなあ? 拳銃の、しつっこい煙が……」
 相良の声に抗うように、七飯と田布施は手を振り解いた。降参したか、と夜一が携帯を仕舞おうとした瞬間、七飯の口から驚くべき言葉が発せられた。
「じゃ、じゃあ、拳銃は? 俺達二人が、どこかに隠したって言うのか。一瞬のうちに?」
「それは……え、えーと……」
 口ごもったのは、夜一の方だった。信じられないことに、渚からの『Dメール』は途中で途切れていた。銃をどうやって隠したのか。その答えなど、どこにも書かれていない。
 七飯と田布施の二人が鎌倉先生を撃ったのは間違いない。だが、肝心の拳銃は、見つかってすらいない。それでは、夜一の言い分は通らないのだ。
 言葉を紡ぐ事の出来ない夜一を見て、七飯と田布施は勢いづいてしまう。
「はっ。正義感ぶりやがって。迷惑なんだよ、考え無しにそういうこと言われるのは」
「そうそう、俺たち二人には、そんな事出来ないって」
 夜一は、がっくりとうなだれた。頭を捻って考えても、何も浮かんでこなかった。携帯も、黙ったまま何も言わない。見放されたかのように、夜一は茫然とした。所詮、夜一が一人では探偵など務まらない。渚が居て、二人でなければ夜一は探偵として生きられないのだ。
「二人で……?」
 自らの頭に浮かんだ単語を、夜一は自然と口に出していた。一人で出来なければ、二人。二人で出来なければ、三人目がいればいいという事になる。
 一瞬で繋がった考えを、夜一はすぐさま披露した。
「三人目が居たんだ。お前等には、協力者が居た。……名前は、『パーシヴァル』。違うか?」
「!!」
 七飯と田布施の顔が歪んだ。真実を暴かれた、そんな驚き、そして戸惑いと共に。
 夜一は話を打ち切って、教室の外に出た。窓を開け、親指と人差し指でピストルの形を作り、教室内に立っていた七飯と田布施に狙いを定めた。発砲したような動作をした後、夜一は皆を外へ呼んだ。
「今やったとおり、七飯と田布施は窓を少し開けて鎌倉先生を撃った。そして、その後……」
 夜一は、廊下にある窓を開けて、皆に下を覗く様に促した。窓から顔を出した皆の顔が大きく変貌する。
 窓の外は吹き抜けになっており、その下には中庭が広がっていた。見通しも良く、上空から差し込む光が眩しく照らしている。
「凶器の拳銃は、ここから三人目……『パーシヴァル』へと渡された。教室側の窓の外は校庭で、人も一杯居る。凶器を渡すのは無理だし、第一、そんな事していたら後ろで控えている皆が真っ先に気付くだろ。……この犯行は、外に居たお前達にしか出来ないんだよ」
 低く、崩れ落ちる音がした。七飯と田布施は震えだし、頭を抱えてその場に蹲った。後悔、そして、恐怖。剥き出しの感情がそこに在った。



『アハハハハ! オメデトウ、第一関門、クリアダネ!』
 タイミングを見計らったかのように、相良が持っていたトランシーバーから、『パーシヴァル』のくぐもった声が響き渡る。夜一は、トランシーバーを掴んで、勢い良く吼えた。
「ふざけんなッ!! お前の所為で、学校が滅茶苦茶だ。絶対、俺が捕まえてやる!」
『僕ノ所為? ソレハ、違ウヨ。ダッテ僕ハ欲シガッテイル人ニ、武器を与エタダケ。引金ヲ引イタノハ……マギレモナク、ソノ子達ダヨ』
「てめえ……!」
『ソンナ事ヨリ、イイノカナ? 僕ナンカニ構ッテイテ。次ノゲームハ、始マッテイルンダヨ?』
「何、だと……」
 夜一が言うと、今度は隣の教室から、甲高い悲鳴と、ざわめきが巻き起こった。七飯達C組の生徒を戻ってきた他の先生に任せ、夜一と相良が声のしたB組の教室に飛び込むと、夜一の目に、唇から血を流しながら床に倒れている渚の姿が映った。渚を庇うようにして、京極さんと秋月さんら女子が固まっていた。男子も、その周りに集められている。
「渚!!」
「う、動くなァ!」
「!?」
 渚に駆け寄ろうとした夜一を、しゃがれた声が制した。声の主である中年の男は、薄汚れた黒いジャンパーから伸びる腕で、確かに黒い銃身の拳銃を握り締めていた。髭面に、嫌味な笑みを浮かべている。
『彼、銀行強盗スル勇気ガ無クテ。ダカラ、銃ヲアゲテ、学校デ立テコモッテミタラッテ提案シタンダヨ』
 『パーシヴァル』は面白そうに言った。つまり、この男は夜一達がC組で鎌倉先生が撃たれた事件に気を取られている隙に、学校に忍び込んだことになる。
 渚は、おそらくこいつが来た際、怪しいと思い、B組に戻って近付いた所をやられてしまったのだ。だから、否応無しにメールも途切れてしまったらしかった。渚は目を閉じたまま、床に突っ伏している。
「それ以上動いたら……間違いなく、こいつを撃つ。死にたくなかったら、親にでも何でも連絡して、金を持って来い。ただし、一人でも裏切って警察を呼びやがったら……」
 男は、ジャンパーを脱ぎ捨てる。その瞬間、夜一は目を見開いた。男の体には、ダイナマイトと思われる細い筒がこれでもかという程巻きついていた。男は、ポケットからダイナマイトの起爆スイッチらしきものを取り出す。
「これが何か位は分かるだろうな。言っておくが、俺は死なんて怖くない。一か八かの賭けって訳だ。……痛い死に方は、したくねえだろう?」
『拳銃ニ残サレタ弾ハ、アト一発。一体、誰ニ当タルノカナ?』
 男の言葉の後に、トランシーバーからの『パーシヴァル』の声が、夜一の耳元で静かに、だが笑いながら不気味に囁いた。


後書き

ふいー、どうも。作者のひとり雨です。
パーシヴァル、何かピエロっぽいって言われるんです。まあ、道化師みたいな雰囲気は出したつもりですが。あ、同じですか。

まだまだ終わってませんよ、今度はB組がピンチです。
期間が空いているので、申しわけありません。読み返したりしてもらえると、凄くありがたいです。
これからも頑張りますので宜しくお願いします。それでは。

この小説について

タイトル No.17 to:創立祭の道化師(2)
初版 2010年2月8日
改訂 2010年4月22日
小説ID 3787
閲覧数 1087
合計★ 0
ひとり雨の写真
作家名 ★ひとり雨
作家ID 223
投稿数 91
★の数 226
活動度 10590

コメント (0)

名前 全角10文字以内
コメント 全角3000文字以内 書式タグは利用できません
[必須]

※このボタンを押すと確認画面へ進みます。