僕と村の魔女 - かぼちゃと魔女と春の海__03__

駆け寄って来たのはチャパだった。
チャパは雨と埋まっていて冷たくなっていく トミーの手を握った。
握り返してくる気配も無い。
数時間前まで一緒にいただけに
とても酷なその様子に追い打ちをかけるように闇夜から魔女がやってきた。

「なんだよ、あっち行けよ!
どうせ トミーを連れて逝こうと思って 来たんだろう?!
来るな、こっちに来るなってば! 何処にも逝かせないんだからなっ」

薄暗いカンテラの傍に膝を折ると、魔女はチャパを見てトミーを診た。
カンテラが魔女の濃紺の瞳を照らしている。
空色よりも青く、深海よりは淡い、
それでいて漆黒のような不思議な瞳だった。

何を思ったか魔女はトミーの閉じられたまぶたに手を置いた。
首を横に振るかと思いチャパは慌てたがどうやらそうでもない。
まだ、手にはかすかだが温もりと
風にかき消されてはしまうが呼吸も聞こえる。

不思議と不安の混ざった瞳で魔女を見つめる。
初めは何をしているか分からなかったが風が弱くなると聞こえる。
とても小さな声だが、何かの歌のような一説が耳に届いた。

雨はまだ強い。風もまだ止む気配は無い。
そのとき、かすかに握る手がピクッと動いた気がした。

「トミー!トミー!」

魔女がのせていた手を避けると、
閉じられていたトミーのまぶたがゆっくりと開かれた。

「トミーっ よかった、もう起きないかと思った」
「あれ、どうしたんですか? 魔女さんまで」

惚けたような事を言うトミーに       
チャパは呆れながら困った顔をしている魔女を見た。

「おい、船が近くまで来ているぞ!!」
「なんだって!?」

誰かが叫んでいる。
どうやら船は波に もまれながらすぐ近くまで来ているようだ。
しかし、港に入ることは不可能である。
肝心の灯台が無い。代わりになるような明かりも無かった。

「どうすれば…。どうすればいいんだっ、あんた知ってんだろ!?
教えてくれよ! 魔女なんだろ!!」

トミーを抱きかかえたままチャパが魔女に食って掛かる。
トミーも魔女の返事を待っている。
魔女は暗闇を見つめたままだ。
痺れを切らしたのか、
チャパがトミーを魔女に押し付けると駆け出して行った。

「魔女さん、救ってください。村を、父さん達を。
僕の身体、あげます。
僕、知っているんです。
魔女に何か頼む時は何かを犠牲にして成就するってこと。
代価は僕の身体です。だから、村を…」

けれど魔女はトミーの唇に人差し指をたて言葉を遮った。

「何でそんなことを。そんなことは口にしてはいけないものよ?」

カンテラの明かりが揺れた。

「だって、じゃぁ、何のために村に魔女はいるんですか?
何かあった時、贄を差し出して村人を助けるんじゃないんですか?!
もし違うんなら、あなたは何のためにここにいるんですか?!」

魔女が体を揺らすのを感じながらトミーは激しく咳き込んだ。
長時間の雨が体温を奪っている。
魔女は上着でトミーを包むと何かを囁いてその場を去った。

数分送れてパルノが海岸に辿り着いた。
すぐに薄暗いカンテラの傍にいるトミーに気づき、抱きかかえた。

「おいっ しっかりしろ。今、医者に…って、俺かっ!」

するとパルノの裾をトミーが強く握り、非常事態を告げた。

「何だって、ミモレットが?!」
「どうしよう、僕…とても酷い事を言っちゃった」

服を握っている手が震えている。
たぶん体感温度にも問題があるようだ。
トミーは、先ほど魔女に言ってしまったことを後悔しながらパルノに言った。

「誰かを犠牲にして村が助かるならって思った。
でもそんなこと魔女さんは望んでないことぐらい分かってたんだ。
なのに…僕は。何のためにいるっなんて…」

「分かってる。大丈夫、ちゃんと分かってる。
他の奴らだってそう思っているさ。魔女は不吉だって。
何か悪い事とかがあると真っ先に疑われる。そんなモンさ。
でも、ミモレットは違う。本当にこの村が好きなんだよ?
だから、ここにいるんだ。
この村に。…いつでもお前らの傍に」

海は依然荒れたままである。


ここで数分前にさかのぼる。
雨も風も止まない中、小さなトミーは魔女に訴えかけていた。

「あなたは何のためにここにいるんですか!?」

ミモレットは一瞬 遠い遠い過去の記憶を思い出していた。
しかしすぐにトミーが咳き込んだため、深くは考えなかった。

左腕がひどく痛んだ。あの時 痛めたようだ。
まだパルノはやって来ない。
でもこうしてる間にチャパは。

あの子は危ない。無鉄砲で、自分が何でもできると過信している。
何か行動を起こさなければいいのだが…。
さっきの言葉が気にかかる。後を追わなければ。
でも…この子を見捨てられない。
どうすれば、どうすればいい?

かすかだが、明かりが見えた。
こちらに近づいて来ているようだ。
パルノならこのカンテラに気づくだろう。
村人なら…?
 
分からない。

昔はよかった。自分達を分かってくれる人達がいた。

でも、今は…。

古くからいるこの村でさえ、魔女を快く思っていない人が増えてきた。
気づいてくれるだろうか?
もしあの明かりが村人なら、ここを離れなければ。
この子は助からない。
せめてあの明かりが近くまで来たら、チャパを追わなければ。

霞がかった暗闇に一つ、今にも消えそうな明かりが風に揺れていた。

後書き

物語は華僑に差し掛かりました。
船は無事に港に辿り着けるのか?
駈け出して行ったチャパは一体…乞うご期待!

この小説について

タイトル かぼちゃと魔女と春の海__03__
初版 2010年2月14日
改訂 2010年2月14日
小説ID 3797
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札木翼の写真
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作家名 ★札木翼
作家ID 637
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はじめまして、こんにちは。
のんびりと掲載していきたいと思っています。
よろしくお願いします(m^□^m)

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