むりやり解釈百人一首 - 4.山部赤人


4.山部赤人

田子の浦に うち出でて見れば 白妙の 富士の高嶺に 雪は降りつつ
Tago-no-ura ni Uchiidete mireba Shirotae no Fuji no takane ni Yuki ha furitsutsu



 私は上役と一緒に、東国から都へと仕事のため向かっていた。
「赤人、もうすぐ駿河の国に入るのだが、そこには日本一高いといわれている『富士の山』という山がそびえ立っているらしい」
「はい、噂には聞いたことがあります。なんでも本当に見上げなければ、その山の全貌をとらえることはできないとか。箱根の山も十分に高かったですが、それ以上となるとより期待してしまいますね」
 箱根の山を越え、伊豆の国に入ろうとした時は、背後にそびえ立つ箱根の山の雄大さに驚いたものだったが、その何倍もあろうかという富士の山となると、もうどのくらいの感動があるのか想像もつかない。
 最近仕事のほうもうまくいかず、上役に何度も怒られる始末。この仕事辞めてやろうかなぁ。おとなしく国で米作ってるほうがよっぽどマシかも。
 そんな愚痴も、隣にいる上役に対するものなので、吐き出すこともできずにいたのだが、今はそんなことも忘れていた。いずれ見えてくるであろう、富士の山に心躍らせていた。
「そういえばお前、都に行くにあたって天皇様に句を1つ詠めという指示があったよな?」
「はい、それが何か」
「まだ題材が決まっていないなら、せっかくだから日本一の富士の山で一句詠んでみてはどうだ? きっといい作品ができると思うが」
「なるほど、是非そうさせていただきます」
 実はもう題材は富士の山に決めていたのであるが、上役のせっかくのご提案、「もうそのつもりです」なんて言ってしまえば確実に殴られること請け負いである。これがうまい上役との付き合い方、ってやつかな。
 そうこうしているうちに、富士川を越えた。上役によると、もうすぐ『田子の浦』という場所に出て、そこが富士の山を見るには最も良い場所らしい。誰から聞いた情報化は知らないが。
 でも、もうすぐで富士の山が見られる。一体どんな姿を私たちに見せてくれるのであろうか、楽しみで仕方がない。
 と思ったその時、手の甲に何か冷たいものを感じた。私はそれが何なのかを意識せずとも確認するため、目の前に手の甲を持ってきていた。
「………水?」
 と同時に、雨が降り出してきた。私も上役も笠を取り出しかぶる。
「雨か………富士の山が見えればいいのだが」
「ですねぇ」
 上役のつぶやいた言葉は的中した。
 峠道をずっと来ていた途中、急に視界が開けた。空は灰色で決してきれいとは言えなかったが、目の前に広がる広大な海。青空のもとで見れなかったのが残念だ。
 いや、それ以上に残念だったのは、やはり―――。


「霧、濃いですねぇ」
「………残念だな」
 富士の山の絶景スポットか、たしかにその情報は間違っていなかったと思う。こんなに視界が開けた場所はそうそうない気がするし、海も山も見れるなんて、個人的にはとても好きな場所である。
 ただ、天候が悪すぎた。
 さっきまであんなに晴れていたのに、急に雨が降り出すなんて、運命に皮肉にしか思えない。
 奥のほうに薄っすらと富士の山の影らしき輪郭が見える。確かに高い山だ。さすがは日本一。………でも天候が―――。






「一句詠めなかったな」
 2人して肩を落としていたため、会話が全くなかったが、上役がその均衡を破った。
「………どうしましょう。天皇様は私の歌を期待してくださっているのに」
 私は涙目になっていた。自分で言うのも何なのだが、それも無理はない気がする。
 普段は私にやさしい言葉をかけることなどめったにない上役は、私の肩を軽くたたいた。言葉をかけるのは気恥ずかしいが、多少は行動で示してくれたのであろうか。
 すると上役は、私の耳元で何かをささやいてくれた。
 今にも泣き出しそうな私だったが、その言葉で救われた。………いや、この言葉のせいで多少の葛藤はあったのだが。





「よくぞ遠い東国から参られた。さ、面を上げ」
「ありがとうございます」
「………で、私が注文した歌のほうはできておるのか?」
 私と上役は顔を見合わせた。天皇様の前で緊張があったのだが、一瞬で表情もほころんでしまった。
「もちろん、できております」
 私はそう言うと風呂敷を広げ、歌を取り出した。
「では、富士の山を初めてご覧になった時を想像してお聞きください」

田子の浦に うち出でて見れば 白妙の 富士の高嶺に 雪は降りつつ

「………どうでしょうか」
 緊張で心臓の鼓動が速く、大きく聞こえる。だってこの歌は―――
「すばらしい、さすが東国で評判の歌人・山部赤人だ。これからは朝廷歌人としてここで働いてほしい。お前をわざわざ呼んだのは、このためなのだ」
「あ、ありがとうございます!!」


 富士山の頂上に、雪があるのかなんて、私は全く知らない。

後書き

オチを無理やりつけたらこうなりました。

コメント、批判、愛の鞭等、お待ちしております。

この小説について

タイトル 4.山部赤人
初版 2010年2月21日
改訂 2010年2月21日
小説ID 3809
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作家名 ★せんべい
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