僕と村の魔女 - かぼちゃと魔女と春の海__04__

札木翼
「もっと高いところに登ったほうが見えるよな?」

チャパは、倒壊した灯台の代わりにカンテラを代用しようとしていた。
小さな明かりだが、それなりの高度があれば遠くまで目えるはずだ。

「こら! 何をやってる!? おい、チャパ、危ないから下りてこい!!」

土砂を掘り返している年配の男がチャパに気づいた。

「大丈夫だよ! それに明かりが無いと親父達の船が、帰ってこないだろ!」

下の方にはチャパを心配して港にいた大人達が集まってきた。
後を追うにも大人の体重では崩れてしまうかもしれないので
チャパを追うこともできない。
誰もが二次被害を恐れた。

そのとき風にチャパが煽られバランスを崩した。
大人達は皆息をのむ。何とか持ちこたえると、安堵の声が聞こえる。
が、カンテラを落としてしまった。
大人達はチャパの気がすむまで見守るつもりでいたので
ようやく言うことを聞くだろうと胸をなでおろす。

「チャパ、よくやった。もういいから早く下りて来い。
船の連中なら、ちゃんと朝方帰ってくる。
もう少しの辛抱だ。だから、早く下りて来い」
「…わかった」

しぶしぶだが足元に注意を払いながら土砂を下り始めた。
足元がぬかるんで何度も落ちそうになりながら、地面を目指す。
登ったときはそれほど高い位置まで来ていないと思っていたのに
なかなか地面はやってこない。
慎重に降りてきたため一瞬だが気の緩みが生じ始める。
それでは駄目だと自分をいさめるが徐々に焦り始めてきた。
早く降りられることと土砂が崩れてしまうのではないかという不安。

突然大きな雷鳴が轟いた。
空気がびりびりと波打っている。
目を瞑った瞬間、足元の土砂が無くなった。
遠くで年配の女の声を聞きながら
時間がゆっくりと過ぎていくのを感じていた。
かなり経ってから自分が落ちたということを自覚した。

「あいたたた。あれ、おかしいな。
何で埋まってないんだろう?」

チャパは土の下いると思っていたのに一行に息苦しさを感じない。
身体にのしかかるはずの土の重みも全く無かった。
不思議に思い頭を巡らせると一番初めに目に留まったのは隻腕の魔女だった。

「魔、女? どうしてここに。それより、どうしたんだ その腕!?
さっきはまだ在ったよな!?」
「静かに。きちんと聴いて。 ここから出る方法、教えるから」

魔女はうっすらと脂汗を浮かべて呻いた。腕が傷むらしい。
頭上でコップにひびが入るような嫌な音が響いた。
よく見ると、
二人を取り囲むようにガラスのようなドームが土砂を防いでいる。
そのドームにひびが入ったのだ。

「分かったよね? もう大きいんだからそれくらいできるよね?」
「できるけど…、でも」

脱出方法は分かった。後は実行するだけだが…。

「やっぱり、駄目だ! できっこないっ こんな事って…」
「いいから、それに私は魔女よ。絶対に死なないわ」
「何言ってるんだよ、そんな腕で。
あんたを置いてくなんて俺にはできないんだよ!」

ひびがひどくなった。
後どれくらい持つか分からない。選択は二つに一つ。

魔女を見捨てるか二人で埋まるか。

この二択はあまりにもチャパに酷である。
選べるはずが無い。十一,二歳の子供に。だから…。

「やめろっ 駄目だ、そんなことをしたらアンタが!」
「いいから行って! 子供は黙って大人の言うことを聞くものよ」

魔女はチャパをそっとドームごと外に、土砂の向こうに押し出した。

「手をっ 手をつかんで、ミモレットー!!」

魔女はチャパの手を取らなかった。
土砂で見えなくなっていく魔女はどこか驚いた顔をしていた。
そして、見間違いかもしれないが一瞬だけ笑ったように見えた。

「チャパ、しっかりしろ! おい、誰か上着を借してくれ!」

 首を傾けると何重にも包まれているトミーが見えた。

「船は?!」

もう駄目だろうか?
この嵐では港に入れない。
たとえ海で過ごしたとして皆が皆、無事だとは思えない。
そう思い壊れた灯台の方に視線を移した。
すると不思議な光景が辺りを覆っていた。
蛍が…。否、こんな天気に蛍はいない。              
第一、今は春だ。
とてもじゃないが蛍のいる環境でも、季節でもなかった。
船の汽笛が聞こえた。

「入れた…の?」
「あぁ、帰って来た。遅い帰港だがな」

安堵のせいか涙があふれた。
帰ってきた。帰ってこれた。奇跡だ。
誰のおかげで…?

「そうだ、魔女は!? まだ埋まってるんだ!!」

自分を抱えている村人を仰ぎ見た。
村人は首を横に振る。もう手遅れだと。

「そんなっ、助けもしないで!?
この光も魔女が起こしてくれた奇跡なんだろ?
なのに、見捨てるのか!?」

そのとき、チャパは自分が何かを抱いていることに気づいた。
これは脱出する時、魔女が必ず自分も外に出る。
だから腕を預かってくれと言って渡されたものだった。

「死んでなんかいない。だって魔女だろ? 魔女は死なないんだろ?
こんな奇跡のために死んだなんて言わせないからな!!」
「こんなはあんまりね。少し失礼よ?
それにちょっとや そっとのことでは死ねない。
私は魔女なんだから。あ、ありがとう、ちゃんと持っててくれたんだね」

振り返ると魔女がいた。
自分では立てないのか、パルノが横抱きにしている。
腕はパルノが受け取った。
魔女は蒼い顔をしている。

「ったく、無茶しすぎで困るぜ、うちの師匠は」
「まぁまぁ。でも しょうがないじゃない。
さっきの段階で皮一枚つながっているかって状態だったんだから。
それが取れただけの話でしょ?」

さすがは魔女。考え方が違う。

「さて、帰りますか。まだ、持ってきた本も読んでないからね」
「師匠〜、とりあえず腕の治療が先ですから。お忘れなく」
 

      *                   *


後日。村での死者は誰もいなかったという。
しかし、それが村の魔女のおかげだということは
ごく一部の村人しか知らなかった。
相変わらず、向かい風だが少なくとも考えを改めた者もいた。         
「ミモレットー、これ。母さんが持っていけって」
「ありがとう、綺麗なハーブね。そうそう、チャパが好きなお菓子があるよ」      
そう、あれほど喧しかった子供達はあの一件以来とても友好的になっていた。
ゲンキンだと言われるかもしれないが、
少なくともこの魔女は大丈夫だと思ったのだ。
村のために尽くす良い魔女だと。



そして50年たった今も。
私もいい年になったが、相変わらず魔女は魔女だった。
彼女は年を取らないのだろうかとよく思う今日この頃である。
この村は今日まで、幾度と無く困難なことも強いられたが
やはり最後には魔女に助けられている。

もうすぐ私はこの世から消えてしまうだろう。
平和な時ばかりではない時代もあったが何とか乗り越えてこられた。
その中でも一番肝を冷やしたのは
魔女狩りがヨーロッパ全土で広まった時だった。

だが、この話は今ここで語られるべきではない。
来るときにまた話してやろう。
私という存在は消えてしまっても、私の意志はいつまでも生き続ける。
人々に語り継がれることで。
まずはお前達が引き継いでくれ。
遠い日にそっくりな私のような危うい孫達よ。
 
大切なものは語り継がれるという意義だ。
途絶えさせないでくれ。
私の生きてきた軌跡を。
いつまでも語り継いでほしい。
私が歩んできたこの人生を。
けして無駄ではない、人生という名の軌跡を。

思い出せ。
どうしても駄目だった時、救いの手を差し伸べてくれるのは神ではない。
自分を信じることを、思い出せ。
そして、背中を押してくれるのは神ではない。

私達の傍に、いつも傍らにいる、魔女。
彼女が私達の背中を押してくれる。
さぁ、今こそ勇気を出す時である。                   



     〜END〜

後書き

最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございました。
物語はまだ始まったばかりということをお忘れなく。
またの閲覧、お待ちしております。

この小説について

タイトル かぼちゃと魔女と春の海__04__
初版 2010年2月22日
改訂 2010年2月22日
小説ID 3810
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