Dメール - No.18 to:創立際の道化師(3)

突然の出来事に、B組は騒然となった。黒い拳銃を持ち、体中にダイナマイトを巻きつけた男の存在が、恐怖そのものとして生徒達の目に映っていた。『パーシヴァル』は拳銃に残された弾丸はあと一発だといった。しかし、その言葉が真実である証拠は何一つ無い。もしかしたら、他にも凶器が用意してあるかもしれないし、最初からダイナマイトを爆発させ、この場に居るもの全てを殺害しようと目論んでいるのかもしれない。
悪い想像ばかりが浮かぶのを、首を大きく振って振り払うと、夜一は渚を介抱している委員長、京極桜に声をかけた。
「委員長。頼む、今から俺の言うとおりにクラスの皆を誘導してくれないか」
「こんな状況で何言っているのよ、春日夜一! 無闇に動いたら、あの男が……」
「いいから。全員を無事に助けるためにも、まずはあいつから武器を取り上げなきゃいけない。それに、もしダイナマイトが爆発したときの事を考えても、この教室に大人数を残しておけない事くらい、分かってるだろ?」
「……自分一人だけ、犠牲になるつもりなの? 幾ら探偵気取りだからって……!」
 京極さんは何時もと違う不安そうな目で夜一を見つめる。それでも、夜一の覚悟は揺らがなかった。警察も呼べない、そして頼りの渚までもが気を失ってしまっている中、自分で考えて行動する他に道は無かった。グズグズしていると、『パーシヴァル』は容赦なく拳銃を発砲させたり、ダイナマイトを爆破させるよう男に命令するかもしれない。それだけは、何としても避けなければならないのだ。
 夜一は強い口調で言い切った。
「頼む。皆を、助けるために必要な事なんだ。俺と渚、それに相良は残る。その隙に……」
 暫く黙った後、京極さんは意を決したように頷いた。
「分かったわ。何をすればいいの?」
 京極さんに、夜一は自らの作戦を耳打ちする。京極さんは、それを小さなメモ用紙に書いてクラスの皆に回す。クラスメイト達は、戸惑いこそしたものの、男の所持する拳銃を恐れてか、誰一人声を発する事は無かった。幸い、拳銃を持った立てこもり犯の男は夜一達の動きに気づいておらず、興奮したように鼻息を荒げながら外を見ている。男に動きが無い以上、『パーシヴァル』にもこちらの動きは悟られてはいないらしかった。
「じゃあ、俺の合図で。……いち、に、さん!」
 小声で夜一が言うのに合わせて、京極さんの隣に居る秋月優架が立ち上がって声を絞り出す。
「……もう、いや……」
「優架?」
「もう、こんなの嫌……私、耐えられない! お母さんに電話して、お金持ってきてもらうよ!!」
「お、俺も! 殺されるくらいだったら……」
「一階に公衆電話があったはずだ。そこで電話すれば……」
「抜け駆けしないでよ! あたしが先よ!!」
夜一達を除いた生徒たちが、一斉に立ち上がり、教室から出て行こうとする。すると、そこで初めて男が動きを見せた。
「待て! 勝手に逃げるつもりかもしれない。生徒の半分はここに人質として残ってもらう。残りの半分は、身代金の調達係だ。裏切るとお友達が死ぬからな。行動は慎重になぁ……」
 そう言うと、男は左耳にはめているインカムに手を当てて何やら小声で話し出した。どうやら、『パーシヴァル』との連絡用らしく、すぐに男は夜一達の半分を銃で脅しながら外に出した。教室から出された者と、残された者。お金を持ってくると言った秋月さんを残し、座り込んでいた京極さんを教室から出そうとする。
その奇妙な相違点に気がついた夜一は、相良にこっそりと耳打ちする。
すぐに相良が行動に出た。男に向かって場違いな朗らかな声で言った。
「なあ、おっちゃん。俺も出ていいやろ? 俺、完全に部外者やん。こんなところで死にたないし。警察なんかより自分の命のほうが大事やから。な?」
 京極さんが演技ではなく、本気で相良のほうを睨む。にっこりと細目で笑んだ後、相良は京極さんの睨みをあっさりとかわして男に再び護摩をする。
 男は考え込んだ後、相良を教室の外に出した。



「どういうつもりなのよ! 春日夜一と親しそうに話してたじゃない、見捨てる気なの!?」
 B組の教室から出されたグループは、一階の公衆電話がある場所へと向かっていた。携帯電話だと逆探知されたりするとややこしいと思ったのか、使わせてはもらえなかった。
そのグループの筆頭、黒髪ショートヘアの女子の京極桜は相良に向かって噛み付いてきた。部外者だ、と言った事が余程気に入らなかったらしい。相良は肩をすくめて言った。
「まあまあ。そないに怒りなさんな。やっくんには、考えがあんねや。俺は、ご主人の相棒である彼に従ったまでや。今はご主人が不在やからなあ」
「何を訳の分からない事を……!」
「お、あれちゃう? 公衆電話」
 相良が指差した方向に、公衆電話を見るや否や、B組の生徒達はすぐさま公衆電話に群がり始めた。まかり間違えれば命の危険があるのだ。皆が焦るのも仕方の無い事かもしれない。
 しかし、桜は食い下がらなかった。
「もし、あの男が春日夜一達に発砲したら……!」
「それはあらへん。むしろ何とかせえなあかんのはあのダイナマイトの方や」
「え?」
「いやいや。何でもあらへんよ。ほれ、君も電話せえへんの?」
「するわよ、すればいいんでしょ!」
 桜は相良に一瞥をくれたあと、公衆電話前に出来上がった列へと並び始める。それを見送った後、相良はぽつりと呟いた。
「頼むわ、やっくん。こっちもきちんとやるからな……」



 一方、教室に取り残された夜一達は、拳銃を所持したままの犯人と、彼を操っているであろう『パーシヴァル』に以前支配されるままであった。
 夜一はちらり、と渚を見た。渚さえ起きてくれれば、自分の考えている事を話し、彼女の確かな意見を聞く事が出来る。渚の傍に座り込んでいる秋月さんが不安そうな表情で夜一に問いかけてくる。
「何で、桜ちゃん達が……? あたし、お金持ってくるって言ったのに……」
 答えてあげたかったが、これ以上話すと確実に秋月さんや教室に残った皆を驚かせてしまい、結果、犯人を刺激するような事にもなりかねない。夜一は仕方なく首を弱々しく振った。
 すると、間の悪い空間を振り払うように声をかけてきたのは、拳銃を持った犯人だった。
「正直に答えろ。お前たちの中に『雪代渚』という奴は居るか」
「!」
 教室の中が一気にどよめいた。皆は一瞬混乱したが、誰も気絶しているクラスメイトの方を見ようとはせず、辛うじて目を泳がせている。夜一は驚きとともに、初めて自らの推理に確信を持った。意を決して犯人に問う。
「居たらどうするって言うんだ? お金が目当てなら、俺たちのことなんて関係ないじゃないか」
「ふん、そんな事をお前に言うとでも思っているのか?」
「……居ないよ。そんな生徒、ここには居ない」
 夜一は男に唐突にそう告げた。クラスメイトたちも、夜一の方に視線を集める。男は怪訝そうな顔で夜一に詰め寄った。
「ああん? どういう意味だ?」
「そのまんまの意味だよ。ここには、居ない」
「そんな筈は……」
 男がそう口走った瞬間、軽快な電子音が教室中に響き渡った。それは秋月さんの携帯だった。男は訝しげに画面を見て、通話ボタンを押す。その次の瞬間、男の目が大きく見開かれた。
携帯電話からは、確かに声高な女子の声が聞こえてきた。
『私が雪代渚だが? 随分と荒っぽい呼び出しだな。上手く私を教室に残したつもりだっただろうが、詰めが甘かったな』
「お、お前本当に雪代渚なのか!? いつの間に……」
『言ったろう、詰めが甘いと。何なら、他の生徒に確認してもらえばいい。最も、皆、私が教室の外に居る事を驚いているだろうがな』
 男はすぐさま一番近くに居た女子生徒、秋月さんに携帯を持たせた。二言三言話した後、秋月さんはとても不思議そうな顔をしながらも犯人のほうを見て頷いた。
「ま、間違いありません。本当に、渚ちゃんです」
 犯人が混乱し始めたのを見て、夜一は自らの携帯を犯人の傍へと滑らせた。そして、タイミングよく携帯がメールを受信する。
「今度はなん……」
 そう言い掛けた男の顔が更に引きつった。
『弾丸の無い拳銃で随分と粋がっているものだな?』
 その文章、そして差出人、『雪代渚』の名前を見た途端、男の表情が凍りつく。たった今、電話で話していた人物から、メールが届いたのだ。携帯電話など、誰も使っている様子は見られない。
 そして、教室の中から再びどよめきが沸き起こる。褐色の髪の少女がゆっくりと体を起こして口を開いた。
「私が、雪代渚だ。お前が探しているのは、私のことだろう」
「どど、どうなってるんだ!? 『雪代渚』が、三人居る……!?」
 男と同様、クラス中も混乱した。たった今起き上がった少女こそ、本物の雪代渚。そう知っているクラスメイト達も見事に裏切る形で現実に三人の『雪代渚』が存在していた。


後書き

こんばんは。お久しぶりです。
ああ、言い訳の仕様も無い……。
更新一ヶ月ぶりって……私生活を理由に出来ませんよね。
これからもめげずに書き続けますので、見捨てないでやって下さい(必死

渚ちゃん、分裂しちゃったー☆
……なんて、そんないきなりファンタジー的要素になったりはしないのでご安心を。一応以前に伏線、というかヒントは書いてあるんですが……まあ、私の書いたものですので見つけ出すのが大変困難かもしれませんが;;

渚の分裂の秘密、夜一の作戦。全ては次で明らかになります。なるべく早めに、と思っているので、また読んでやってください。
それでは。

この小説について

タイトル No.18 to:創立際の道化師(3)
初版 2010年3月13日
改訂 2010年4月22日
小説ID 3843
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作家名 ★ひとり雨
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