Their trip - 第栽叩Х劼る世界

第栽叩Х劼る世界


 どこか、神殿のような場所だった。
 上へ上へと立ち上る白い階段が目立って見え、その建物を覆うように柱が4本立っている。
 それらは皆白亜だったが、曇った空が渦を巻いて世界を見渡している為、その白亜はまるで鼠色のようになっていた。
「ネル。貴方は契約をやぶりましたね?」
「・・・・・・はい」
 そこで、ネルと呼ばれた白いワンピースを着たルビーのような赤い目を持った少女と、もう1人、若い女性が立っていた。
 そこはその神殿の最上階。
 つまりはあの長い階段を上ったその上だった。
「仕方ありません。最初の少年を呼ぶしか―――」
「まっ、待ってください! 私がっ・・・・・・私がなりますから!!」
 少女は叫ぶ。とても必死に。
 だが、それを聞いて、女性はとても冷たい目を少女へ向けて、こう言う。
「私は、そんな返事を待っていたのではないのですよ?」
「やめてぇぇ!!」
 少女の声が、哀しく響き、やがてそれが消えていくのが判った。



乾いた大地に、1人の少年がいた。
空は曇っていて、砂は吹き荒れ、まるで視界が暗い。
ゴーグルをしたその少年は、青い髪を持った精悍な顔つきの少年だった。
黒いブーツが暗闇に混じってみて見え、薄い布生地のベストの上からマントを羽織っていた。
腰にはちらりと短剣が見える。
少年は自分の青い髪を一つまみしてそれをくるくる指に巻きつけていた。
まるで子供が自分の髪で遊んでいるよう。
「またこんな場所か・・・・・・・・・」
 少年は力なく呟いた。
 風が強く、それは少年の髪、共に耳につけているイヤリング、それに大地の砂を撒き散らした。
 なんともいえない微妙な顔で、少年は見えるはずもない前を見つめた。
「うーん。またハズレ、かな」
『アロク? 大丈夫?』
 すると耳につけているイヤリングから幼そうな少女の声が聞えた。
 13〜15歳ぐらいの間の声だった。
 少女は心配そうにその少年に話しかける。
「うん。少し進んでみよう。前は見えないけど」
 アロクは呟いた。
 彼が世界を点々と渡るようになってから数日が経つ。
 よく判らないところにとばされるのが慣れてしまう頃だった。
 空間の狭間なんてそうそう現れるものじゃないだろうなと思っていたアロクだったが、まるで取り付かれたかのように彼の周りにはそれが現れた。
 そのたびに飛ばされ、そのたびにそこがどこかと頭を悩まされた。
 時には町だったり、時には森だったり、時には海だったり。
 そして今回。
 乾いた砂が舞う荒野だったり。
「僕の明日はどっちだろう」
『アロク、本当に大丈夫?』
 色んな意味で心配になったらしい少女。
「大丈夫だよ、ユニア。軽い冗談」
 笑いながらアロクは言った。
 だが、もちろんイヤリング越しの少女、ユニアにその表情は窺えない。
「さて、進んでみよう」
 アロクがそう言って、一歩踏み出した時だった。
「アロク・・・・・・」
 砂嵐の音に混ざって、深刻そうなユニアの声がイヤリングごしに聞えた。
「どうしたの?」
 アロクは怪訝顔でユニアに聞く。
「おかしい。前にも言ったけど、世界の空間の狭間は、自然現象なもので、誰かが起こそうとして起こせるものじゃないわ。・・・・・・なのに、無理やり開こうとしている誰かがいるわ」
「え? そんなことできるの?」
 アロクは不安そうな表情でユニアに尋ねる。
 ユニアは数秒黙り、口をゆっくりと開く。
『普通はできないわ。それこそアロクのような人種は。・・・・・・でも、私という存在がいる時点で“それは不可能じゃない”と照明してしまう。いろいろな世界が繋がるこの世界で、人間しかいないなんて断言できる人物はいない。だから、もしかしたら・・・・・・私よりも強大な力を持つ者なら――――』
 ユニアはそう言って話を続けた。
『言うのを忘れていたけど、私とエリルが守っているあの塔は、空間の狭間を管理する為のモノなの。だから空間がどの世界でいくつ発生しているかわかるわ。でも、今現在自然発生していない狭間がある。これは誰かが“無理やり”こじ開けているという事。そんなことしたら世界が余計不安定になるわ』
「余計?」
 彼女の放った言葉に違和感を感じ、アロクは思わず呟いてしまった。
 ユニアはその言葉に少し焦り、時期に
『・・・・・・そうよ、本当は狭間なんて無いほうがいいの。―――この世界はその狭間で繋がることが出来る。どうして繋がるか判る? それは、世界と世界がぶつかり合っているから。例えば、それ以上伸びたりしない、つまりはビンなどに、無理やり何かを入れたとする。それはぎゅうぎゅうにつめられて、隙間も無いほどに密着するでしょう? それと同じ。世界と世界が密着しすぎて狭間は生まれる。でも、だからと言ってどれか1つ世界を消すなんて方法も取れない。本当は、密着してしまっても狭間が生まれないほどの強い空間になってもらうのがいいのだけど・・・・・・私とエリルだけじゃ難しい。そんなときに無理やり抉じ開けるなんて・・・・・・!!』
 ユニアは説明しながら少し怒りを見せた。
 アロクはそれに対し苦笑し、数秒後には真剣な顔つきになった。
「それって、さ。間違いなく人ではないよね」
 そして、それだけ呟いた。
 ユニアも同意して、
「そうなるわね。しかも、その反応近いわ。気をつけて」
 ユニアの言葉に、再び前を見つめた。
 だが、砂が吹き荒れてて誰かが現れたとしても、それに気づける可能性は低い。
 相手は人間じゃない。
 だが、アロクは人間だ。
もし、相手の狙いが、彼なら・・・・・・。
「あくまで、もし。だけれど」
 ユニアは微笑んでそう言った。
 アロクも微笑み、先を見る。
 やはり、砂嵐で何も見えない。
 アロクはゴーグルごしに見える目の前を、しばらく見つめた。
「止みそうにない。進むしかないか」
 そう呟いて足を一歩踏み出した時。
『! アロク!!』
「―――――――ッ!!」


 そこは、どこかの砂浜だった。
 そんなところに、赤い髪をした、半袖にその上からベスト、膝を少し越すぐらいのズボン。そして茶色のブーツという格好をした青年がただ1人いた。
 青年は、首の後に手を持っていって、困った表情をしていた。
「どぉなってんだよ・・・・・・」
 そして一言それだけそう言った。
 青年が見ているのは青く輝く海だった。
 そこはどこかの島の砂浜のようだった。
 人の気配は、ない。
「・・・・・・俺は、無人島に取り付かれたのか?」
 青い顔をして青年は力なく呟く。
 後を向けば無人島。前を向けば海。
 行き場の無い場所だった。
 青年は空を見上げる。
 映るものは、青だけ。
 青年はただぼーっと空を眺め続ける。
「たそがれてるの?」
「!?」
 すると、後から少女の声がした。
 青年は慌てて振り返り、少女を凝視する。
 少女は、アクアマリンのように蒼い眼をしていて、白い、半袖に短いズボンをはいていた。
「なんで・・・・・・ここは無人島だろ?」
「そうよ。でも、私には特別な力があるから」
 少女はニコッと笑う。
 彼女のアクアマリンのような蒼い眼が青年を見つめる。
 青年はついつい少女が何者かという事を忘れ、その眼に見入ってしまった。
「貴方でいいか。たまたま見つけた人間だし」
「は?」
 そこで青年は我に帰る。
 この少女は何を言っているのか。
「私にはね、やらなきゃならないことがあるの。だから、貴方には犠牲になってもらう」
「―――――ッ!?」
 そこで、青年の視界は暗闇に変わった。



 そこは、神殿のような場所だった。
 上へ上へと立ち上る白い階段が目立って見え、その建物を覆うように柱が4本立っている。
 それらは皆白亜だったが、曇った空が渦を巻いて世界を見渡している為、その白亜はまるで鼠色のようになっている。
 そこに、1人の若い女性と、2人の13歳ぐらいの少女達がいた。
「ただ今戻りました」「ただ今戻りました」
「お帰りなさい。早かったですね」
 若い女性は2人の少女に微笑みかけ、そう言った。
 少女達は何も言わず、ただ無表情にその場にいるだけだった。
 すると、
「そういえば、ネルはどこです?」
 アクアマリンのように青い眼を持った少女が女性へ質問をする。
 女性は表情を変えず、淡々と
「彼女は私を裏切りました。なので、牢屋にいますよ」
 と言う。
 2人の少女は眉を顰める。
 どうして彼女が? と2人は同時に思った。
「ネルが? あの真面目人がですか?? ありえなーい」
「・・・・・・私も同意かも。何故、彼女が?」
 2人は訝しげに女性を見る。
 すると女性は目を細めて、
「いいでしょう。教えて差し上げます。ネルは、彼女は生贄にと登録した少年を外して欲しいと言ってきました。なので、私はチャンスを与えました。強大な力を持つ者をその少年の変わりに差し出せば、少年は見逃してあげます。と」
 やはり、女性の声は淡々としている。
 悪いのは、ネルなのだからと言い聞かせるように。
「でも、ネルはそれも出来なかった。そう言うのですか?」
 青い眼をした少女は女性を睨んで言う。
「そうです。私が信じられないのなら、彼女に直接聞くといいです。でも、逃がすなんてことをしたら・・・・・・。判ってますね?」
 次の瞬間、2人の少女は消えた。
 1人残された女性は、奇妙な笑みを浮かべていた。
 神殿の中に、2つの声が生まれた。
「どう思う、マラ」
「ナザ。少し落ち着きなさいよ。私も少し不思議かも。だって、彼女が人間の為に動くの?」
「そうよね・・・・・・まさか、昔自分が人間だったよしみ・・・・・・とかじゃないよねぇ?」
「さぁ。私は彼女の考えてる事がたまにわからなかった。今回もそうかも」
「それは、どんな悪夢?」
 少女達の会話は、そこで終わった。
 それから、神殿の中を4・5分歩いたと思われる頃。
 1つの牢屋が見えた。
 そこに、1人のルビーのように赤い眼をした白いワンピース姿の少女がいる。
「ネル〜。どういう風の吹き回し? どうして貴方が、人間の為に動くの? いつも無口でいたのは、関わりを作らない為じゃなかったわけ?」
 その少女に向けて、ナザが問う。
「・・・・・・・・・・・・」
 だが、尋ねてもネルは何も答えない。
「ナザ。もうちょっと根本から聞きなさいよ」
 ナザと呼ばれた少女の姿をしたそれは、むすっとした顔になり、口を閉ざした。
「ネル。どうしてか、理由を教えてくれないかしら? 私達に言えないこと?」
「・・・・・・私は、皆を裏切った。だから、もう・・・・・・・・・」
 ネルは、それだけ言って、それからは何を聞いても答えなかった。
「マラ、こりゃダメ」
「・・・・・・そうみたいね」
 何度も話しかけた2人だったが、とうとうダメだと判断をした。
 マラはエメラルドのように翠に輝く瞳をそっと閉じる。
 そして、2人はネルに背を向けた。
「迎に来るから」
 ただ、それだけの言葉を残して。


 その時間帯、別の場所で、違う3人がこの神殿に存在していた。
「ん・・・・・・? どうなって」
 アロクは牢屋の中と思われる場所で、上半身を起こす。
『アロク? アロク!』
『大丈夫??』
「2人とも・・・・・・一応。どうやら、牢屋みたいだよ」
 アロクは、イヤリングごしに聞える2人の少女に返事を送る。
 そして、それからまずは状況判断に周りを、隅々まで見渡す。
 すると、直ぐに自分の目に入って来たのは、同じ牢屋の中、数メートル先で倒れている2人の人間だった。
「僕意外に、誰かいる」
『誰が? まさか敵??』
 ユニアが心配そうに、声を尖らせてアロクに言った。
 だが、アロクは違うと思うと否定した。
「この人たちは見たところただの人間だよ」
『どうして判るの?』
「なんというか、ユニアやエリルとかと、僕ら人間は何か感じるものが違うんだよね。だから、かな」
『なるほどね』
 ユニアはその答えに取りあえず納得したようだった。
 アロクはどうするべきかと、数メートル離れた所にいる、赤毛の青年を起こそうとした時。
「このっ、無人島め!!!」
「!?」
 ビクッ! と体が揺れた。
 たった今起こそうとした人間がいきなり叫びながら起きたからだ。
「ん・・・・・・? 無人島じゃ、ない・・・・・・」
「え、えーと・・・・・・・・・」
 どうしたらいいものかとアロクは苦笑した。
「お前、誰だ? てかここ・・・・・・・・・」
 すると、その手間も省けた。
 青年の方から話しかけてきたのだから。
「僕も・・・・・・そんなに状況は把握できていないんだけど・・・・・・ここは何処かの牢屋かな」
「牢屋?」
 青年は周りを見渡し、それが本当だと理解する。
 でも、何故自分は牢屋にいるのか。
 この目の前の少年たちも、どうしているのか。
 アロクは自分が判っている事を目の前の青年にすべて話した。
 自分の名前、どうしてここにいるのか。
 そして数分してそれが終わる。
 すると、今度は青年が口を開く。
「――――、つまり。アロクは誰かに捕まり、ここに連れてこられたわけか」
「ええ」
 アロクは判っていることはすべて話、相手の質問に力強く頷く。
「・・・・・・俺は、最初無人島にいたんだ。そしたら、後から13歳ぐらいの少女に話かけられた。そいつは、「犠牲になってもらう」俺にそう言ってきた」
 アロクは真剣な顔で、
「と、なると・・・・・・カイエンと僕が同じ場所にいるってことは、その少女にここにつれてこられた可能性が高い。つまり、僕ら3人はその「犠牲」ってわけか」
 アロクはまだ気絶している1人の少年に目をやりながら言う。
 カイエンも頷き、ずっと思っていた疑問を口にした。
「でも、判らないことがある。俺は無人島にいたんだ。あの少女は一体なんだ? それに、アロク。お前も何処からきた」
 アロクは少々苦笑する。
 やはり、これを喋らずに話しは進められない。
「判った。すべて話すよ。おかしいと思われるかもしれないけど・・・・・・。それでも、聞いてくれるか?」
 アロクは一度カイエンに問、彼はそれに頷いた。
「わかりました。・・・・・・僕は何日も前、それこそ最近は、ただの旅人だった。・・・・・・でも、ある時荒れ果てた大地に辿り着いた。僕はさっきまで、こんな場所にはいなかったのに。そう思ったよ」
 そこまで話して、カイエンは目を見開いた。
 それもそのはず。自分も、似たような経験をしているのだから。
「そして、僕はある塔の管理を勤める、ユニアとエリルという少女2人に出逢った」
 アロクはそこで一旦話を区切り、息を吸って、話を続けた。 
「でも――、彼女達は決して人間ではなかった」
「なっ・・・・・・?」
 その言葉に、カイエンは首をかしげ、驚いた。
「彼女達は僕にこう教えてくれた。この世界には様々な世界が存在しており、たまに空間の狭間というものが生まれ、その狭間に吸い込まれたものは別の世界へ飛ばされてしまう。だから、自分のいた世界に戻れる可能性はその狭間に捕まった時点で低くなる。それでも、僕はこうして世界を歩き回っているけどね」
 アロクは笑っていった。
 一方カイエンは苦笑したままアロクに尋ねる。
「じゃあ、その2人の少女のように、俺達を連れてきたあの少女もまた人間じゃなく、その狭間を無理やりこじ開けて別の世界の俺とアロクを連れてきたって言うのか?」
 アロクはその質問に淡々と答える。
「そうなるよ」
 アロクが嘘をついているようには思えない。
 すぐに信じるというのも難しいが、信じるという約束だ。
 それに、それなら自分が飛んだ理由も頷ける。
「なる・・・・・・ほどな。俺も、その狭間を通ってたわけか」
 そこで、アロク・ユニア・エリルが同時に驚く。
 もちろん、2人の驚きが聞えたのはアロクだけなのだが。
「貴方も、狭間に・・・・・・?」
「そう。俺が意識を取り戻した時そこは海の上だった。最初は思ったさ「どうして?」と。俺は仕事を仲間と一緒にしてたんだ。でも、気づいたら海の上。しかも周りに陸地はない」
「・・・・・・じゃあ、どうやって?」
 アロクは、ならどうして海の上で、しかも陸地が見えない場所で貴方は生きているのかと尋ねた。
 カイエンは一度息を吸って答える。
「そこに、たまたま海賊が通りかかって助けてくれた。船長のエノって言う奴が、女とは思えないほど強くてな」
 青年は語りだす。
 自分に何があったのかを。
 カイエンとアロクの会話はそれからも続いた。
 アロクとカイエンが共に、狭間を通った事があるものどうしだと判り、話は少し簡単になってきた。
 無理やり狭間を作ったその少女は何かの目的の為に、自分達3人を用意した。
 そして、まだその時ではないのか、自分達は牢屋にいる。
「じゃ、問題はここからだ。俺はこのままその少女の言うとおり「犠牲」になる気はない」
「それは僕も同じさ。約束もあるから」
 2人の意見は一致。
 残りは直ぐ隣で未だに意識を乗り戻さない少年がどう思うか。
 しばらく時間が過ぎる。
 頭の整理には丁度いい間だった。
「ん・・・・・・」
 すると、丁度よく残り1人の少年が目覚めた。
「起きたか?」
 カイエンは何気なく話しかけ、少年はカイエンのほうへ顔を向ける。
 寝ぼけているのか、何も発しない。
「大丈夫??」
 それを見てアロクも話しかけた。
 すると、それで我に返ったのか
「ここは・・・・・・?」
 牢屋を見渡してそれだけを呟く。
 2人は、少年にまずは順序よくここはどうやら牢屋だという事を話、それからさっそくだけど・・・・・・と今まで話したことをすべて話す。
 少年の名はジード。
 狭間を通ったことはなく、最初は変に思われるかもしれないと思った2人だったが、ジードはあっさりそれを信じた。
 そして、ジードはよく判らないが、自分の部屋で本を読んでいたはずだったのに、気づいたらこの牢屋だったと正直に2人に話す。
「あ、でも・・・・・・」
「「でも?」」
 答えを合わせて尋ねてきた2人に、ジードは静にこう言った。
「前に、何日も前に、1人の少女が僕の住んでた町の砂浜にいるのを見かけました。そのこは無口で、自分のことは話してはくれなかったんですけど、僕は楽しく数日間彼女と過ごしてたんです。そして、ある時彼女は「またね」と言って・・・・・・消えてしまいました」
「「・・・・・・・・・」」
 2人はしばらく黙って何かを考えているようだった。
 そして、しばらくして、
「「それって、その少女が狭間を通って消えたか、または人間ではなく、もしかすると僕らを連れてきた人物の仲間じゃ・・・・・・」」
 2人は全く同じことを口にした。
 ジードはその答えに驚いた。
 その言葉が言っているのは、つまりはジードと数日間過ごしたというネルが、自分をここに連れてくるために一緒にいた事になるということ。
「そんな・・・・・・ネルはそんな子じゃ・・・・・・!」
 そこまで言い終えて、ジードはあることを思い出す。
 彼女と会って直ぐの会話だ。
 彼女は確か、「なら・・・・・・お前でいい」と言っていた。
「まさか・・・・・・そんな」
 ジードは、床に手を突いてどこまでも悲しそうな表情になった。
 彼女といて楽しいと思っていたのは、自分だけだったのか。
 彼女は、最初から自分をどうとも思っていなかったのか。
 最初から、すべてが―――偽りだったのか。


「――――! ・・・・・・ジード?」
 別の場所で、小さく儚げに少女の呟く声が、響く。
 それは、その場でやがて消えた。

「準備は整いました。―――2人とも、いいですか?」
「「はい」」
 女性の問に、少女達は淡々と答えた。
「それでは、始めましょう。終焉に向けて」
 ドオンッ!!
 神殿中に振動が響く。それは地震と言っても過言ではなかった。
「わっ!?」
「何だ!」
「・・・・・・まさか」
 3人は同時に顔色が青くなる。
『はじ、まった・・・・・・』
 少女も1人顔を青くして呟いた。
 その頃、神殿の頂上では、
「始まりです!」
 女性は楽しそうにそう言うと、高い声で笑い始めてた。
 その笑い声は、虚しく世界に響き渡る。
「さぁ、貴方達も持ち場に着きなさい。あの人間達を連れて来るのです」
「判りました」「了解しました」
 やがて、その場には女性しかいなくなる。
「まずい!! まずい・・・・・・このままでは、世界が・・・・・・ジードが」
 1人牢屋の中、ネルは嘆くように呟く。
 どうすればいいのか。自分の力じゃ、止められない。
 でも・・・・・・。
「・・・・・・私は、私にやれる事だけをやる」
 そして、ネルの姿は牢屋から消えた。


「どうなって・・・・・・」
 神殿の牢屋の中、アロクが呟いた。
 どうじに、イヤリングから声が聞える。
『アロク、聞えてる?』
「あ、ああ。聞えてる」
 アロクは落ち着いて会話に集中した。
 それを見たカイエンとジードは例の? とアロクの声に耳を済ませる。
『何が起きてるの?』
「判らないけど・・・・・・地震?」
『地震? なら、それは地震じゃないわ』
 ユニアはイヤリングごしに冷静に呟く。
 アロクは眉を顰め、どういうことかとユニアに尋ねる。
『私にもよくは判らないけど、どうしてか、世界が消滅しようとしている』
「なっ? この地震は、その反動だっていうのか?」
『・・・・・・そうなるわね。塔にいる私達だから判る。この振動は世界をギリギリまでに密着させて、消滅させる』
 ユニアが語るなか、アロクは絶句。
 そんな中振動は続き、ジードは立っていられなくなり、床に膝を付く。
 カイエンは何とか立ってはいるが、いつ倒れてもおかしくない。
「ユニア、それはどうにかできないの?」
『起こしてる人物を叩けば同時に止まると思うけど・・・・・・』
 その人物はおそらく、いや確実に人間ではない。
 ただの人間のアロク達に止められる可能性はゼロに近い。
『仕方ない・・・・・・エリル』
『はい。判ってる』
「? 何をする気だい??」
 振動が止まらないなか、イヤリングごしに2人の会話を聞き取る。
 2人は、何をする気なのか。
 そんな時。
 ギィィィ・・・・・・。
 牢屋の扉が、開いた。
 扉の先には、2人の少女の姿がある。
 1人は、アクアマリンのような蒼い眼をした、白い半袖に短パン姿の少女。
 1人は、エメラルドのように翠な眼をした、白いドレスのような姿の少女。
「って、脱走せずにいたわけね。う〜ん、誰がネルの助けたい人か判らない・・・・・・」
 1人が3人を凝視してそんなことを呟いた時。
「ネルを知ってるの!!?」
 ジードは突然に膝をついた状態のままでネルの名を口した少女に向かって叫んだ。
 聞かれた少女は驚いた表情も見せぬまま、ジードに言う。
「彼女は、私達を裏切った。貴方を助ける為にね」
「僕を・・・・・・助ける、ため・・・・・・?」
 ジードは力なく呟いたまま、力ずくで立ち上がる。
「ちょっと。ナザ、何を考えているの」
「いいの。ネルもどうせ何かするでしょ」
 ナザはこれから何が起こるのか知っているようにマラに返す。
 マラは思いつめたような表情になり、口を閉ざす。
「なぁ、お前達は何をしようとしている?」
 沈黙を破り、カイエンが少女2人にだめもとで尋ねる。
 すると、意外なことに少女から返答がくる。
「女神は、消え行くこの世界を見守るのはイヤだと言ったのよ。だから―――」
『だから、ほかの世界を消してしまおうと考えた?』
 ナザの言葉の続きを呟いたのは、アロクのイヤリングから聞える声だった。
 アロクはイヤリングを耳につけずに、手に持っていた。
 そして、皆にその声が聞えるようにすっと手を前に伸ばす。
「誰?」
 ナザが率直に聞いた。
 聞きたいのは、アロク意外の全員だった。
『私はユニア。貴方達と同じで、人間ではない存在よ』
 ユニアが正直にいうと、
「「・・・・・・」」
 ナザとマラは黙り、
「・・・・・・・・・」
 ジードは何も言わず、
「アロク、それが言ってた少女の1人、なのか?」
 カイエンは少年に尋ね、
「そう」
 アロクは正直にそれに答えた。
『今すぐ止めさせなさい。この世界1つの為に何個他の世界を消す気?』
「なら、この世界は速やかに消えろっていうの!?」
 ナザがユニアの言葉に叫ぶ。
 その叫び声は、牢屋中に響き、ユニアにもよく聞き取れた。
『・・・・・・そうは言ってない。ほかに方法があるかもしれないじゃない』
「無いと思うわ。世界は増えすぎた。なら、どこかの世界を消さなければ、もう保てないのよ」
 そう言ったのはナザではなくマラだった。
 確かに彼女達が言っていることは正論だ。
 世界が増えすぎれば、時期にどこかが破裂する。
『でも、だからって他の世界を消そうなんて考えに同意なんてできないわ!』
 それでもユニアは引かず、2人の少女に叫んだ。
 少女達もそれは判っているのか、その言葉に口を黙らせた。
『それに、それを行うのに、アロク達を使う気なんでしょう?』
「「「!!」」」
 3人は驚き、
 少女達はそれに答えなかった。
『図星のようね。その女神とやらを、一発殴ってやりたいわ』
 ユニアのその発言に、
「女神様は必死なのよ!! この世界を守るために!!」
「そうよ! それを悪く言うのなら、貴方だって同じだわ!!」
 空気が静まり返り、
『そうね・・・・・・ごめんなさい』
 ユニアは2人に誤った。
『でも、世界の管理者としては黙っていられないわ』
 そして、それだけは譲れないと決意を見せる。
 アロクとカイエン。それにジードは黙って見守る。
 つまり、自分たちの考えは外れていなかった。
 その女神が、自分たち3人を生贄に使い、「この世界」を生かすために、他の世界を消そうとしている。
 全ての世界の管理者のユニアとエリル。
 彼女たちなら、どうにかできるのだろうか。
 この世界を。
 他に方法があるかもしれない。
 でも――。
 女神は既に始める気だ。
 そのために目の前の少女2人はこの牢屋に来たのだ。
 どうすればいい。
 人間の自分たちには、何も出来ないのか?
 それで、いいのか?
「女神は、どこにいる」
『アロク・・・・・・?』
「彼女の力があれば、他の世界を消さずとも、この世界を救う方法があるかもしれない!」
「そんなことができるなら、女神様はとっくにやってる。それでも、この世界を救う方法は、それしかなかったのよ」
 ナザは浮かない顔で言った。
 マラも、そんな表情だ。
 彼女たちも、好きでやっているわけではないんだ。
 救いたいけど、救えない。
 どうしようもない。
 それは理のように、変えられない事実。
 それでも。
 このまま捕まって生贄になるわけにはいかない。
 約束だって、ある。
 ドオンッ・・・・・・!!
 神殿に響く振動が、さらに大きくなる。
「さぁ人間。時間がないわ、私たちと一緒に来てもらう」
「やばいぞ、アロク」
「・・・・・・ネル・・・・・・」
「っつ・・・・・・」
 どうすれば――!
「ぐっ!」
「っつ!」
「え?」
 何が、どうなって・・・・・・。
 突然、マラとナザが苦しみだした。
 心臓の位置を抑え、呼吸が荒くなっている。
「もしかして・・・・・・」
「ネル、なの・・・・・・?」


 女神は、ゆっくりと降り返る。
 その長く綺麗な髪を揺らしながら。
「・・・・・・ネル。やはり、私に楯突くと言うのですね」
「――――。私は、ジードを・・・・・・助けたい」
 鳴きそうな声で、ネルは言った。
 無口な彼女が、今回良く喋る。
 それほどまでに必死だと、女神はわかった。
 何故なら、彼女を救ったのは、この女神いがいの、何者でもないのだから。
「私を助けてくれたこと・・・・・・今でも感謝してます! でも――ジードのことも、同じくらい・・・・・・大切で」
 ジードを助けたい思いと、女神を裏切ってしまった哀しいが、涙となって彼女の頬を伝う。
 女神は、それでも淡々と言った。
「裏切るの、ですね?」
 女神の視線が、鋭くなる。
 ネルを見る目つきが、憎しみに変わる。
「っつ・・・・・・・・・・・・」
 女神、様――。
「敵ならば、私は容赦しません」
「・・・・・・私は、知ってる。ナザも、マラも知ってます。貴方が、本当はこんなことする人じゃないって!」
「・・・・・・目の前の私は、貴方にはどう映るのですか? 私がいましようとしていることは、私以外を救いはしない」
 判って、いるのでしょう?
 こんなこと、いけないって。
 なのに――。
 お願いです。
 いつもの優しい貴方のままでいて。
 私を救ってくれたときのように。
 貴方は、今自分で自分を悲しめてる。
 だから――!


「!!」
「まずい!!」
 振動が、さらに激しくなる。
 アロクとカイエンもとうとう立っていられなくなり、膝をつく。
「どうなって・・・・・・」
『まずいわアロク』
「どうしたの?」
『私は全てを知っているわけじゃないから、正しいかどうか判らないけど・・・・・・この世界を救いたいその女神を、誰かが消す気でいる』
「誰かって・・・・・・」
 アロクの呟きに、ジードが顔を真っ青にする。
「ネルッ!!」
「あの子・・・・・・女神様を」
「止めに行くわよ! ナザ!」
 その瞬間、ひゅっと2人の少女が消える。
「僕も!」
 牢屋を飛び出そうとするジードを、カイエンが止める。
「待て! 行けば俺たちは使われることになるぞ!」
「でも! 今ここで彼女を助けなきゃ――」

――彼女は私たちを裏切った。貴方を助けるためにね――

「今ここで彼女を助けなきゃ、いつ助けろって言うんだ!!」
 ジードはカイエンを手を振り払う。
 そして、牢屋を全速力で抜け出した。
 次第に、彼の姿は見えなくなる。
「ジード・・・・・・」
「カイエン、僕たちも行こう」
 ここまできたら、逃げてもどうにもならない。
 いや。
 最初から逃げるなんて選択肢は選べなかった。
 僕らはただの人間だ。
 空間を飛ぶ事も、何も出来ない。
 ユニアとエリルの力を借りるにしても、空間を渡るのは無理だ。
 最初から、道は決まっていたんだ。
 ここに来たときから。
「・・・・・・判った」
 カイエンも了解して、アロクは耳にイヤリングを付け直した。
 女神がいるのは、あそらくこの神殿の頂上。

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
 ネル!
 君は、僕を助けようとしてくれていたんだね。
 なのに、何も出来なくてごめん。
 だから。
 だから、今から助けにいくから。
 ジードは地下を抜け出し、外に出た。
 空を見上げると、嵐のように風は吹き荒れ、ねずみ色の雲は奇妙に空を泳ぐ。
「ネルは――」
 長い階段の上を見る。
 すると、そこに自分が探している人物と、もう1人。
 麗人な女神がいた。
「いた」
 ジードは呟き、その長い長い階段を一段一段上っていく。
 風が強い。
 今にも階段から足が浮き上がり、何処かに飛ばされてしまいそうな勢いだ。
 だが、落ちるわけにはいかない。
 彼女を助けるまでは。
 ジードはスピードを上げて階段を駆ける。
「ネル・・・・・・貴方は、そこまでしてその人間が大事なのですか? 前に、人間に何をされたかお忘れですか?」
「・・・・・・忘れてなど、いません」
 ネルは、声のトーンを低くして呟く。
 女神はそれを見やり、目を閉じて言う。
「それでも、その人間が大事だと言うの?」
「・・・・・・・・・・・・」
 女神の問に、ネルは答えなかった。
 答えて良いのか、迷った。
 確かにその通り。
 ジードは大切。
 でも、女神も。
 ・・・・・・大好きだからこそ、彼女にこんなことはして欲しくない。
 いつもの優しい彼女に戻って欲しい。
 だから私は貴方を止める。
 止めなければならない。
「貴方は、1度死んだのよ? 人間に、殺されて。それでも――」
「私は!!」
 女神の発言をかき消し、ネルは大声をあげた。
「私は・・・・・・ジードはそんな人間じゃないと、思った」
 女神は黙り、ネルの言葉をただ聞いている。
「私を殺した人間とは、違う」
 ネルはハッキリと否定した。
 その頃、ジードはもう直ぐネルのいる神殿の頂上へ到着する寸前だった。
「ネル!」
「! ジード!!?」
 女神は、それでもネルにこう言った。
「貴方は、実の両親に殺されたのですよ――?」
「――え」
「・・・・・・・・・・・・」
 息の根が、止まるかと思った。
 ネルが、殺された?
 実の、両親に?
 なら、今ここにいるネルは誰だ?
「人間。不思議そうですね?」
 女神は、怪訝そうな顔をしているジードに何の前触れもなく話し掛けた。
 ジードは驚き、ネルは口を閉ざす。
「ここにいるネルは誰か? ネルですよ。本人です。私が――生き返らせたのだから。でも、人間ではない存在でね」
「――!」
 ネルが、死んだ?
 両親に、殺されて?
 そして今ここに、女神の力で生き返って、存在している?
「そうです」
 女神は頷いた。
 ネルは、何も答えない。
「怖いんじゃなくて? 私や、ネルのような存在は。人間は、そうよね?」
 女神の言葉を否定する声は、聞えなかった。
 沈黙が流れ、強風の音だけが響きだした頃。
 ジードは口を開く。
「確かに・・・・・・人はそれを「怖い」と思うかもしれない」
「ジード・・・・・・」
 ネルが、小さく呟いたのが判った。
 女神も、やはりという顔をしている。
 でも。
「でも、それが何だっていうんだ」
「「!!」」
 ネルと女神が、同時に驚く。
「ネルはネルだ。海岸で出会って、町を一緒に歩いて。その時間は、決して消えない。だから――ネルは、ネルだ!」
「ジード・・・・・・」
 ジードの答えに驚いたのか、女神は目を丸くした。
 ネル・・・・・・貴方は本当にこの人間のことが?
「貴方だってネルが好きなんでしょう!? そしたら、彼女が泣くようなことをどうしてするんだ!」
「ジード!」
 その発言を聞いて、ネルはジードに抱きついた。
「違う・・・・・・女神様は、本当は優しいんだ。でも・・・・・・世界が消えれば、自然と女神様も消える・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
 ネルは、女神に生きてて欲しい。
 こんな方法で世界をすくんじゃなくて、いつもの優しい女神様のままで。
 でも・・・・・・。
 ジードは牢屋での話を思い出す。
 方法は、無いに等しい。
 ビンの中のそれは、密着しあって、どれかが消滅する。
 どうすれば――。


「はぁ!」
 ビュン!!
 木の棒を握った誰かが、それを相手に向かって振っていた。
「邪魔しないで!!」
「無理。お前たちが女神のところに行ったら、もちろん加算するんだろう?」
 そこに、1人の人間と、1つの生命がいた。
「当たり前よ!! 女神様は絶対だわ!」
「・・・・・・お前は、それでいいと思ってんのか? 女神をこんな方法で救えて、嬉しいのか?」
「嬉しいわ!! 女神様がいるだけで、それだけでいい!」
 ナザは大声で、目の前の青年。
 カイエンへと叫ぶ。
「それで、本当にお前たちも、女神も良いのか? 他の世界を消して、自分の世界だけ救って」
「あんたに何がわかるの!? 大切な人が消えたら、悲しいのは、当たり前でしょう!?」
 少女の叫びに、カイエンは顔を暗くする。
 自分も、もう相当仕事仲間や、友人とあっていない。
 皆は、俺がいなくなって心配してくれているだろうか。
「――そうだな。確かに、大切な人が消えようとしているのに助けようとしないやつは一番嫌いだ。だが、その大切な人がいけないことをすると知っているのに、それを止めないのもどうかと思う」
 カイエンは、一旦そこで言葉を区切った。
「・・・・・・・・・・・・」
「いや、な。俺の知り合いだったらこう言うだろうなって奴がいるんだよ。女なのに強くて、自分にまっすぐで。部下にも慕われてて」
 ナザは黙る。
 判っていた。
 自分たちが、止めなければならない。
 大好きな人が手を汚そうとしている。
 そんなのは嫌。
 止めるべきだった。
 ネルは、止めようとしている。
「私は・・・・・・・・・」
「止めるんなら、手伝うぜ」
 カイエンは手に持っていた今にも折れそうな棒を強く握り締め、ウインクをして見せた。


『アロク、大丈夫!?』
『アロク!!』
「・・・・・・なんとか」
「懲りない人ね。私に、勝てるわけないでしょう?」
 目の前の少女。マラは落ち着いた口調でそう言った。
 カイエンと別れてしまい、彼はナザと。
アロクはマラと出会っていた。
 迷路のような神殿の中。
 今自分が何処にいるのかすら判らない。
 なんとかマラの攻撃をイヤリングの力でおさえてはいる。
 だが、このままでは埒があかない。
「もう終わり? なら、消えて」
『『アロク!!』』
「判ってたんだよね?」
 ピタッ。
 攻撃をしようとしていたマラの手が、その一言で止まった。
「・・・・・・判ってた? 何を?」
「・・・・・・そうやって、自分に嘘をつくのかい?」
 アロクの問に、マラは体をびくつかせた。
 そう。分かっていた。
「それでいいと?」
 アロクが言うと、マラは怒鳴る。
「うるさい!! 私たちが一番女神様を知ってる! 貴方なんかよりずっと!!」
「知っているなら、なお更さ」
「・・・・・・・・・・・・」
『アロク・・・・・・』
 イヤリング越しに、2人が呟いているのが判った。
 アロクは微笑んで、マラに近付く。
 すると
「私たちには・・・・・・女神様しかいなかった」
「え?」
「私たちは、皆訳あり。ネルも、ナザも、私も」
「・・・・・・・・・・・・」
 マラは休むことなく話しつづける。
「ネルは人間として死んで、女神様に救われた。ナザは、荒れ果てた地にいた奇妙な存在だった。女神様と出会い、彼女は救われた。ずっと独りでいた悲しみを、彼女は女神様と分かち合えた。そして私は――」
 マラが言葉を区切り、次にこう言った。
「そして私は、女神様が作られた存在。使い魔として」
「女神が・・・・・・作った?」
「そう。だから、私はずっと女神様の味方」
「・・・・・・・・・・・・」
 アロクが言葉を失い、数秒黙っていると。
「だから」
 ネル。
 貴方も、頑張っているのよね。
「だから、私は女神様を、止める」
 人間ではない存在。
 未知の生物。
 でも姿はまるで人間。
 言葉も話し、性格もあって、しぐさもあって。
 ユニアもエリルも、ネルも、ナザも、マラも。
そして――女神も。
 人間とは相容れない存在。
 でもそれほどに、分かち合えるはずだ。
「ネルも、頑張っているはずだから・・・・・・」
「行こう」
 そう言って、アロクはマラに手を差し出した。
 マラは、笑ってそれを握り返すのだった。



 女神の泣き狂った悲しみが、聞えてきた気がした。
「そんなにその人間の味方をしたいのですね。なら――」
 女神は、ネルに向かって“何か”をした。
 見えない力が働いて、ネルは数メートル後ろに吹き飛ばされる。
「ネル!!」
「っ、大丈夫・・・・・・」
 女神は、本気だ。
 ジードは女神に向き直り、彼女を怪訝な瞳で映す。
「どうして! ネルは、貴方を心から好いているのに! どうして!!」
「うるさい!! この世界は、私の居場所なのです。ここが無くなれば、私の居場所なんて――!」
 女神が泣いた。
 ような気がした。
 その頬に、涙は伝っていない。
 でも、どうしてか泣かないでと、声をかけたくなったんだ。
 女神の悲しみが、分からないわけではない。
 女神の言ってることが、理解できないわけでもない。
 それでも、いくつかの世界を犠牲にして得た救いなど、意味はあるのだろうか?
「何を言ってるんです」
 心を呼んだかのように、女神はジードにきつく語る。
「何かを得るには、何かを捨てるしかないのよ! 奇麗事なんて、まっぴらです!!」
 ・・・・・・・・・・・・。
 ドオン!!
「「!!!」」
 女神の心境と共鳴しているかのように、世界は大きく揺れつづける。
 このままでは、世界が。
 すると。
「女神様! お願いです! やめてください!!」
 ネルがこんなに叫ぶところを、ボクは始めてみる。
 やっぱり、女神が大切なんだ。
 なら、救ってあげたい。
 でも、ただの人間のボクに何が出来るんだろう。
 何も思いつかない。
 何も。
 頭が真っ白になる。
「私は! こうするしか――ないのです」
 そう言って、女神は両手を天に向けた。
 何かを広げるように。
「さぁ、終わりです!!」
 終わり?
 おかしいじゃないか。
 終わりって?
 女神はまるで、世界の終わりを知っていたかのように、そう呟いた。
 ボクには、そう聞えて・・・・・・ならなかった。





「――女神様!!」
 ネルの叫び声が、世界が揺れる音よりも、ハッキリと聞えた。
「逃げるなら今の内です。もう私は、そうするしかないのですから」
 逃げる?
 終わり?
「女神様・・・・・・貴方はまさか――」
「女神様!!」
「ネル!!」
 そこに2人の少女と、2人の人間が現れる。
 少女2人が女神とネルへ駆け寄る。
 それは、女神に救われた残り2人の存在。
「女神様! もうやめてください」
「私たちと、一緒にこの世界を救う方法を探しましょう!?」
 マラとナザだった。
「・・・・・・・・・・・・」
 マラとナザの言葉に、女神はゆっくりと瞳を閉じる。
「もう、私に構わずに、世界を去りなさい」
 その言葉に、アロクは先ほど小声でユニアに囁かれた言葉を思い出す。
 女神は――・・・・・・。
 アロクが口を開こうとしたとき、
「女神様、貴方は・・・・・・独りで、消えるおつもりですか――?」
 先に言葉を発したのは、ジードだった。
 その言葉に、アロクとジード、女神以外の全員が驚く。
「そうか・・・・・・あんたは、だからこいつらに逃げろと言ったんだな?」
 カイエンの言葉に、女神は顔を暗くする。
 皆の為。
 女神は分かっていたんだ。
 この世界が助からない事を。
「最初は、本当にボクらを使う気でいたのでしょう? でも、ネルの言葉でそれが変わった。・・・・・・貴方に、ちゃんと3人の言葉は届いていた」
 周りが、言葉を紡ぐジードと、黙ったままの女神に顔を向ける。
「女神様・・・・・・」
 ネルが、か細く呟いた。
 その時。
 ドオンッッ!!
 再び、地震が起こる。
「そろそろ、世界がヤバイんじゃないか?」
 カイエンの言葉に、アロクも頷く。
 ユニアとエリルは、何も出来ない自分たちを情けなく思ったのか、何も話し掛けてこなくなった。
 このままでは、世界も、女神も――。
「さぁ、逃げなさい。この世界と消えゆくのは、私だけで十分です」
「まっ!」
 ジードが女神に何かを言おうとしたとき、
「お願い・・・・・・」
「ネル?」
「何も、言わないで」
 ネルがジードの発言を止めた。
 そして
「わ!」
「おい!」
 マラとナザもアロクとカイエンの手を掴み、
「ネル」
「ええ」
 ネルもまた、ジードの手を掴んだ。
 そして。


「いいのですか? 逃がすのは、人間だけで」
「もちろんです。私は、貴方の使い魔ですから」
「そうです。私たちは女神様と・・・・・・」
「ずっと一緒です」
 ピチャン。
 地面に、冷たい何かが滴る。
 それは、孤独にも哀しい雨と。
 女神の、涙だった。


 ジード――。

 ボクが最後に見た光景は、3人の少女と、美しい女神が、笑って消えていくところだった。

後書き

お久しぶりです。
かなーりお久しぶりです^^;
何ヶ月ぶりでしょう・・・・・・。
ここまで自分個人の小説をUPしなかったのは初です。

今まで進行スピード速すぎて悩んでいたほどなのに、今となっては逆です。
遅すぎて忘れられるんじゃないかと心配になってきました(汗

続きも頑張ります。
ちょっと急展開な栽辰任靴拭
掘Ν枯辰抜愀言がある話です。

この小説について

タイトル 第栽叩Х劼る世界
初版 2010年4月1日
改訂 2010年4月5日
小説ID 3887
閲覧数 868
合計★ 1
五月の写真
作家名 ★五月
作家ID 497
投稿数 60
★の数 171
活動度 11432
一言・・・・・・頑張ります。

http://simotukiharuka.blog.so-net.ne.jp/
自分の小説ブログです。
ここに載せた小説についていろいろ書いてます。

コメント (2)

★さんたろー 2010年4月16日 12時42分50秒
愛読者その1です。(笑)
リクエストに応えていただき、ありがとうございます!
3つの伏線がうまく繋がっていて、楽しめました。
これまでと違って、誤字がわずかになってますね。気が散らずに読めました。

あえて書くと、ストーリーが長すぎて、読み終わって疲れを感じました。
重要な回だったと思うし、2話に分けて、もう少しテンポを落としてもよかったのではないかと思います。

それでは、次回も楽しみにしてます!
★五月 コメントのみ 2010年4月16日 19時56分40秒
さんたろーさん>コメントまたまたありがとうございます^^
いえいえ! こちらこそ。
誤字少しはあったんですね(苦笑
気をつけたつもりではあったのですが;;

ああ。
やっぱり疲れましたか。
PCですからね・・・・・・
自分でも長いかなとは思ったのですが・・・・・^^;

次回もどうかよろしくお願いします(ペコ
名前 全角10文字以内
コメント 全角3000文字以内 書式タグは利用できません
[必須]

※このボタンを押すと確認画面へ進みます。