むりやり解釈百人一首 - 5.猿丸太夫


5.猿丸太夫

奥山に もみぢふみわけ なく鹿の 声聞く時ぞ 秋はかなしき
 Okuyama ni, Momiji fumiwake, Naku shika no, Koe kiku toki zo, Aki wa kanashiki



 世間で私は『伝説の歌人』と呼ばれているということを、最近風の噂で聞いたのだが、私はそんな空想上の生き物扱いされたくないのだが。ただ、こうしてあちこちを旅して歌を詠んでいるだけなのに―――。

 今は秋。紅葉が鮮やかに辺りを紅に染め、近くを流れる小川も小さな水音を立てるばかりで、景色と音とが見事に調和している。
 さて、こんな感動的な景色を目の前にして、歌を詠まないわけにはいかない。伝説の歌人の名折れだ。………思わず自分を伝説扱いしてしまった。
 でも、いくら私とは言えども突然素晴らしい歌をひらめくわけではない。私は天才ではない、努力の人なのだ。
 しかし素晴らしい景色だ。空もだんだん茜色に染まってきているし、非の打ちどころがない。これから先未来永劫、この景色を守っていければいいなぁ、なんて思うけどそれは私の子孫たちの仕事か。
 こんなところでぼーっと立ってても何もひらめくはずがない。少し、この紅葉の森の中へ入って行ってみようか。





 ほう、外から眺めるだけでも十分美しい景色であったが、中に入ってきてみると神々しさまで感じるほどだなぁ。
 散った紅葉のじゅうたんを踏みしめ進んでゆく。踏んだ時の音も、心地よい中にどこか虚しさが感じられるのは気のせいではないだろう。
 しかしきれいだ。美しい。同じことをさっきから何度も繰り返しているが、本当に素晴らしい景色である。できることなら、この景色を切り取って常に持ち歩きたい。
 春は桜、夏は若葉、秋は紅葉、冬は雪。四季折々の表情を見せてくれるこの国は本当に素晴らしい。ほかの国に四季があるのかどうかは、残念ながら私はそれほど博学ではないのでわからない。
 と、どこからか私以外の足音が聞こえてくる。誰だ、まさか動物か?
 後ろから聞こえてくるようだな。………明らかに人影だな。どうやらこっちに近づいてくるようだ。
「あ、どうもー」
 あくまで気さくに声をかけたつもりだが、こんなところに1人でいるのは明らかに不自然だろう。しかしこの人、めちゃくちゃ美人だな。紅葉が安く見えるほどだ。
「こんにちは。もうすぐ日も暮れますし、早めに下山されたほうがいいですよー」
 笑顔で彼女は忠告してくれたが、足を止めることなくそのまま山の奥へ進もうとしていた。
 彼女は背中に竹かごを背負っている。この辺りは何か山菜か何かがとれるのだろうか。彼女と少しでも話がしたかった私は勇気を出して話しかけた。
「竹かごを背負ってどこに行かれるんですか?」
 すると彼女は足を止めて私のほうを振り向いてくれた。
「この山の頂上付近に、良い山ぶどうが採れる場所があるんですよ。あ、これ私を含めてごく少数の人しか知らないですから、黙っててくださいね」
 なんて笑顔が可愛いんだ。な、名前を聞かなくては。
「山ぶどうですか。私はてっきりキノコでも採りに行かれるのかと。しかしこんな夕暮れに行かれるとは危険ではないですか?」
 素直に聞けない自分が恨めしい。この小心者!
「ありがとうございます。昼はちょっと忙しかったもので。大丈夫です。15分もあれば登れる山ですし、谷も川もない安全な山ですよ。見ての通り紅葉見きれいだし、登山するのであれば文句なしの山だと私は思いますねぇ。ところであなたはこんなところで何を?」
 わぁ、彼女から話を振ってきてくれるとは。少し緊張で声が震える。
「あ、私旅の者でして。途中こんなきれいな紅葉に惹かれて、ここまでやってきてしまいました」
「この辺りの人ではないんですね。じゃあ山ぶどうの話が人に伝わることはないですね」
 いい雰囲気で会話が続く。私は今までこんな風に人と、いや女性と会話をしたことがなかったかもしれない。楽しい。あぁ、これがうわさに聞く―――。
 そう私が思った瞬間カラスが鳴きながら私たちの頭上を飛んで行った。私と彼女は思わず空を見上げる。
「あ、ずいぶん空が暗くなってきちゃいました。私行きますね。これからも旅、頑張ってください」
 そう言うと、彼女は一礼して山をしっかりとした足取りで登って行った。なんて強い女性だろう。
「………恋しいな」
 しばらくその女性のほうを呆然と見つめていたが、ふと我に返った。何か動物の鳴き声がする。
「この鳴き声は………鹿だな」
 鹿の鳴き声は独特だ。ぴゅー、という、風が強く吹いた時のような感じである。
 鹿は私のすぐそばにいた。ここまで近づいているのに気付かないとは、相当彼女に見入っていたのだろう。
 がっちりした体つきをしている立派な鹿だ。ごつごつした角にも威厳が漂う。たぶんオスなのだろう。
 鹿のオスはこの時期、相性のいいメスを求めて野山を駆け回るのだそうだ。しかしこの鹿はどこか元気がない。駆け回るというよりは、歩き回っているという表現のほうが適切だろう。
 どうやら、メスがなかなか見つからないのだろう。
「………さみしそうだな」
 私は鹿に歩み寄った。さくさくと、足音が鳴る。
 鹿も私のほうに心なしか近づいてきたような気がした。私よりも足音が小さい。そこにわずかながら哀愁を感じた。
 鹿は私が近付いても全く逃げなかった。人間慣れしているのだろうか。いや、推測するに、私にもこの鹿と同じような雰囲気が出ているのだろう。仲間だと思われたんじゃなかろうか。いや、そんな悲しい仲間なんてごめんだ。
「ぴゅー」
 私が鹿の鳴き声をまねてみると、それに呼応するように鳴いてくれた。思わず笑みがこぼれる。私は鹿の横に座るのに丁度よい岩を見つけたので、そこに腰かけた。
「そうか………お前もなかなかいい女性が見つからないんだな。わかるよその気持ち。私も旅の者だから、妻を作るのも気が引けるのだが、やはり晩年一緒に過ごしてくれる女性は欲しいものだな」
 なんで鹿に愚痴をこぼしているのか自分でも判らなかったが、今私の一番の相談相手は紛れもなくこの鹿だ。私と同じ悩みを持っている。
 またしばらくそこで呆然と座っていた。すると突然鹿は何かを察知したように駆けだした。
 暗くてよく見えないのだが、あの影は人間ではない。きっとメスを見つけたのだろう。
「ははっ、よかったじゃないか」
 私は動物に先を越されてしまったようだ。


 何時間紅葉の山にいただろうか。いつに濃い時間を過ごすことができた。これなら一句詠むことができるのは時間の問題だ。
 下山していると、登山口の道に行燈の光が見える。誰かいるのだろうか?
 目を凝らして見てみると、それは先ほどの女性だとわかった。傍には行燈を持った若い男の姿。
「………恋しいなぁ」
 私はそう呟いて、今晩の宿を探し始めた。


後書き

コメントよろしくお願いします^^


この小説について

タイトル 5.猿丸太夫
初版 2010年4月7日
改訂 2010年4月7日
小説ID 3895
閲覧数 1652
合計★ 5
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作家名 ★せんべい
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卓球とみたらし団子とピアノが大好きな変態です

コメント (2)

春燕 2010年4月7日 17時46分47秒
読ませていただきました。
いやあ、まあ、うまいこと相変わらずオチを綺麗につけるなあ、と・・・しかし、気持ち今回のオチはインパクトがある、というよりかしみじみ終わりと余韻をもったオチだった気がします
百人一首というものを全く覚えていない自分が言うのもなんですが、作風と元ネタ共に勉強になります。
人肌寂しい季節は秋から冬。ようやく冬を越えた今の季節、小説も恋もガンバッテみませんかな・・・
っと、脱線、最後の最後にクスッと笑わせてくれる場所がもうちょっとあってもよかったのではと思われます、たぶん。

では、次回作を楽しみにしております
弓射り 2010年4月11日 23時14分55秒
なんだろな・・・このシリーズ、取り上げたテーマは斬新で良いなと思ったんですけど、アプローチの仕方はありきたりだな、とこの作品を読んでふと思いました。

あと・・・なんだろうな。導入で「俺は猿丸太夫。私は―」と自己紹介風な流れで始まってしまうのは、ダメでしょうね。しかも、自分が有名だけど自分はそんな事気にかけてないアピールとか、後半の要素と何も絡んでないし・・・

この歌が自然の情緒の歌ではなく、恋の歌だったというのは面白い解釈の仕方だと思いました。
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