流るる水の如し

 「あー、やってらんねー」

 校門が目に入った瞬間、何の因果か弁当を忘れたことを思い出した。せっかく作ったというのに、なんてもったいないことをしでかしてしまったのか。目の前の学校からはチャイムが鳴り渡り、今から家に戻るなんてとんでもない。
 まずバスがないから帰れないし、例え帰れたとしても戻ってくるバスがない。再び校門を越える頃には昼になっているだろう。コンビニで買うという手もあるが、残念なことに財布にはお金が入っていない。日ごろの無駄遣いが悔やまれるところだ。

 「あれ……財布どこだ??」

 今日は厄日だ、そうに違いない。
 仕方なく学校に行くことにした。

 
 この学校は全学年1クラスしかなく、今年入ってきた1年生はたったの10人だった。あと10人前後入っていれば廃校にはならなかったのに、とうとう廃校が決まってしまった。来年度はまだ入学願書を受け付けるも、それが最後になってしまう。
 悲しいことだ。
 後輩が一人もいない高校生活、何が楽しいのか。だいたいが幼稚園からの付き合いで、世で言う高校デビューもするだけ無駄だが、やはり高校生という肩書きは新鮮なものなんだ。中学とはまた違った関係が築けるかもしれない。そんな淡い期待を込めて高校に入る奴は、俺だけじゃないはずだ。
 だがしかし、新しい奴がいないんだ、小学校中学校と同じメンツで高校生活を送るだけなのも変わりなく。片田舎の小さな高校だ、仕方あるまい。

 あぁ、変わったところと言えば化粧をする女が増えた。
 中学時代はすっぴんで薄い印象だった女子が、高校に入った途端に濃くなった。昔から知っている奴だっただけに、その変化には心底驚かされた。「お前誰」と言った憶えもあるほどに。

 「はよーす」

 「お前、急ぐとか申し訳なさそうとかないのかよ」

 「べっつに〜」

 担任のタヌキは、割といい先生である。というより生徒の扱い方を知っていると言った方がいいのかもしれない。やる時はやれと言い、でもそのかわり緩い場所はとことん緩く自由をくれる。全てに一生懸命になれとは、言わないのだ。
 だがやはりというべきか、仕方ないと言うべきか。女子には甘いのが玉に瑕だ。

 今心底不思議なのは、どうしてこの黒髪女を注意しないのか。普通に授業中に(今はまだホームルーム中だが)携帯を弄っているし、授業に関係ないことをしているのがすぐにわかるというのに。なのにどうしてか注意されない。以前、女子が言っていた。「あいつだってスカート短いのにどーしてあたしらだけ!?」と。
 普段の行いの良さからだろうか。
 成績は常に上位3位以内。たった20人前後の3位だからたかが知れているが、それでも上位には変わりない。それをキープし続けているのも好感を持てる。そして先生の勧めで生徒会に入ったのも信頼を得ている証拠になる。文化祭などのイベントの時はリーダーを買って出ている時も(当然ながら止むを得ない場合も)ある。
 要するに、先生にとってとても重宝する存在であるわけだ。

 「ケータイしまえって」

 ただのやっかみだけのつもりだったのだが、カチンときた。笑って「僻むな僻むな」と言ったのだ。それは俺がよく注意されているのを知っているからで、そこをついてきた。なんて性格が悪いのか。

 「ムカつく」

 「ならわたしのように先生の前でいい子してれば?」

 「それはそれで負けた感があってムカつく」

 「なら諦めろ」

 そう言ってノートの上でシャーペンが滑り出した。携帯を弄っていても、絶対にノートはとるこの女。ノート提出のためと、テストのためらしい。
 テストなんて糞喰らえだ。

 そう言えば以前こいつが言っていた。
 『テストなんてね、センセの話聞いてノート見りゃ100点とれるもんなんだよ。後はそいつの記憶力と脳みその出来の良し悪しで決まるの』
 人を小馬鹿にしている。
 俺にはまず無理だ。授業をまともに聞くなんて、俺には荷が重すぎる。すぐに眠たくなって気付けば授業が終わっているなんてざらだし、ノートなんてしっかりとっても次の日にはどこかに消えている。だいたい、こいつだって聞いているようには……………見えるから世の中不思議なんだ。
 どうしていくつものことを同時に成し遂げてしまうのか。それを人は要領がいいと言うのも、頷ける。

 だがしかし、こいつは魔女なんではないだろうかと思うのも人の性ではなかろうか。

 「……下がって、立てない」

 「何で」

 「だから立てないっつってんの。それにあんたこそ何でどんどん前出てくんのさ、わたしのスペースを奪うな」

 呆れた眼差しで見られ、次の瞬間には机を押されて挟まってしまった。付け足しで「当てられたよ」とも言われ、ちらりと前を見れば既に2人が漢字を黒板に書いているではないか。

 「何、俺何書けばいーの?」

 「“かっとう”」

 「かっとう…? 何ソレ」

 「頭を使え頭を」

 そう言いながら手渡されたプリントには、一応読める程度の汚さの字が書かれていた。これまたご丁寧に、大きくひらがなで“かっとう”と横に書いてあり、ああ、これが“葛藤”かと思った。意味はよくわからないが、何だかややこしい漢字だ。
 ちらりと奴を見てみれば、勝ち誇った顔をしていた。確かに助かったのだが、ものすごくムカついた。


 先生の早くしろという催促が聞こえ、2人で前に並んで立った。こいつちっちぇえ。立ちあがったときに思った。俺の胸辺りに頭があるのだ、なんて小さいのだろうか。これで可愛げがあれば文句なしなのに、如何せん。こいつは憎すぎる。そして女らしさが感じられない。
 字はまるで男そのものだし、性格も女にしてはさばさばしすぎている。それに加えて手が早い。よく平手打ちを食らう俺としては、どうあってもこの手の早さが憎くてたまらない。小さいくせに、平手打ちを放つ瞬間だけは大きくなるのだ。
 だがよくよく探せば女の象徴でもある胸があり、これがまたなかなかにデカイのだ。

 「ねぇ、なんカップ?」

 「……胸? Eだけど何」

 席に戻り際、何となしに聞いてみた。てっきり無視されると思っていたから驚いたし、Eですかと感心した。過去付き合っていた現クラスメートの女子にEの奴がいただろうか。否だ。大概Aか、大きくともCまでだった。大きさで言うならばCくらいが一番好きだが、大きいのにも興味という点では大きく影響している。
 だからなのか、触ってみたいなという欲望が溢れてきた。

 「触らして」

 「彼女のを触れ」

 そうピシっと言われた。

 * * *

 10分休みなった。
 さっきの胸の話を盗み聞きしていたダチに、「お前よくやった」と褒められた。本人がすぐ目の前にいるというのに、お前こそすげえなと思いつつ触ってみたいよなと聞いてみた。

 「触ってみたいっつーか、はさまれたいな俺は。……なっ、ダメ!?」

 「エロざるが、そういうことは妄想の中だけにしろ」

 長年こいつと一緒にいるが、そういえば彼氏はいるのだろうか。普通にエロネタにもついてくるし、経験はるのかもしれない。見ただけなら大人だし、化粧をすればいい女にも簡単になれるだろう。
 言い合う2人をしり目にあくびをしたらチャイムが鳴った。次の授業は担任のタヌキの授業で、パソコンだ。ヤバい、移動しなくてはと3人そろって教室を出た。

 見事に廊下には人がいない。誰もが教室の中なのだ。だが俺には慣れた光景で、颯爽と階段を下りて行く。職員室の常習犯な俺は、中に入るなり教頭と目があった。「またあなたね」と苦笑いされ、3枚の許可証を受け取った。「許可証ってこんなんなんだ」そんな呟きが、浸透した。


 パソコン室もとい情報処理室のドアを開けた。一斉に視線を浴びて中に入れば、「珍しいな」とタヌキが言った。常習犯な俺らには見向きもしないあたり、呆れられているんだろう。易々と想像できる。
 奴は先生に許可証を渡し、自分の席へついた。何かを聞かれていたようだが、何を言ったのか。優等生の考えは読めないからいつも対応に困る。

 そう思い俺も席に着こうと足を出したら、先生が何故かこちらへと近づいてくるではないか。「お前らあいつに何したよ」と問われた。
 俺はまず奴を見た。だが向こうは隣の奴と楽しそうに笑い合っているではないか。一体先生に何を言えというのか。ありのままを言えばいいのか、それとも何かしらのウソをつけと? だが肝心な奴が何を言ったかもわからない状態でウソなどつけるわけもなく。俺は途方に暮れ、だんまりを決め込んだ。隣のアホに任せることにしたのだ。

 「何って、なんもしてねーし。つかふつーに話してたら遅れただけだし」

 「本当か?」

 「……センセ、あいつなんつってたの?」

 「遅れてすみませんしか言ってねーよ」

 「じゃ何で俺らにんなこと聞くよ、理解不能なんだけど」

 「いや、あいつとお前らってゆー組み合わせが可笑しいから怪しいなって」

 なんてセンコーなんだ!
 確かに優等生の奴と俺らみたいなのが一緒だったら可笑しいかもしれないけど、それを面と向かって言うとは……デカイ奴。チビタヌキのくせに図々しいぞ。

 「まいい、とりあえず座れ」

 そうして始まった授業は、ワープロ検定の対策授業だった。前回の授業でやったタイピングのテストでは、10分間でどれだけ打てるのかだけを計り後は自由だった。教室を出ない範囲内での自由を与えられた。今日はその時の点数を基にレベル分けをして、各々の課題に取り組むらしい。
 まずは底辺な奴らから名前を呼ばれていった。

 「じゃお前らはまずブラインドタッチの練習からな、プリント回せ。読めない漢字があったら手あげろな」

 ブラインドタッチのできる俺は、なんと一番レベルの高いグループになった。男は俺1人で、だが女子も3人だけだった。奴と、奴の親友と、元彼女の可愛い子。割と仲の良い3人はおもむろに談笑しだした。タヌキの言うこともあまり聞いていないようで……というよりも、タイピングなんて楽勝だから余裕なのだ。奴なんか10分の間に1000文字近くも打つらしい。性格なのかミスがやたらと目立つがそれでも余裕で1級を狙えるレベルのようだ。

 「藤堂と甲賀、お前らはちょっと頑張らないといけないからな」

 可愛い子と俺にそう言ったタヌキは、彼女にプリントを渡した。

 それにしても、余裕とはなんて羨ましいのだろうか。1級とは10分で800文字近くを打たなくてはいけないはずで、俺には余裕の“よ”の字も出てこない状態だと言うのに。どうしてそんなに早く打てるのか、奴の手の動きを是非見てみたいものだ。
 そんなことを考えながら、俺は回されてきたプリントを奴から受け取った。

 奴はやっぱり笑っていた。楽しそうに会話していた。普段からよく親友が奴の周りに来るが、そういえば楽しそうに会話をしているのは滅多に見ない。昼休みだって、飯を食べるのに一生懸命なのか単に話題がないだけなのか、話しをせずにただ黙々と食べている様子ばかりをよく見ている。
 本当に仲がいいのかと疑った時もあったが、決して悪くはないのだ。むしろよすぎるほどで、おそらく遠慮のない関係なんだろう。無言でも問題ない関係なんだろう。なんて不思議な関係なのだろうか。だがそういった関係は、上辺だけの関係とは比べられないほど強いんだろう。


 あ、笑った。

 喋る相手も居ないために奴を観察していたら、ふと笑ったのが印象的に映った。隣から覗けただけだから顔の半分くらいしか見えていないが、それでも印象に残った。それは絶対に俺には向けられない笑顔で、思えば昔からいくつも顔を持っていたなと思い出した。先生を前にした時、親を前にした時、友だちを前にした時、男を相手にする時。

 あれ?

 「お前彼氏は?」

 「……あんたはなしていつも唐突に聞いてくる。しかも脈絡ないうえに主語が足りない! 彼氏がいるのかと聞きたいわけだな?」

 「そ」

 「彼氏なんて居たためしがない、お前だって知ってるだろ」そう言った奴は、ため息をついた。呆れたのだろうな。確かに、幼稚園からずっと一緒だったのだ、互いの交友関係も把握しているし、男女の間柄などすぐに噂になるから知りたくなくとも知ってしまう現実があった。

 奴の浮いた噂は何一つとして知らない。
 それが意味するのはただ一つ、奴に彼氏なんていないということだ。

 「彼氏とか欲しいって思わねーの?」

 「少なくとも、この田舎で作ろうとは思わないな」

 「なしてよ」

 「とっかえひっかえの仲間入りしたくないから」

 そんなことを気にしてるのかと、今度は俺が呆れてしまった。何を遠慮する必要がある? なにもないではないか。終わった付き合いにいつまでも未練がましくしているような男も女もこの辺りにはいない。
 次から次へと新しいパートナーを探すんだ。

 「遠慮してんの?」

 「遠慮? 違う、わたしはそんな簡単に体まで渡せないと言ってるだけだ。だいたい、クラスに彼氏がいるとかウザすぎて死ねるね」

 「うわ、それサイテー」

 「お前にだけは言われたくないな」どつかれてしまった。確かに俺は最低と言う資格のない男だ。可愛いどころとはあらかた付き合ってしまったし、その大多数(というか全員)と体の関係を持ったのも事実だ。どこかの神話のトリックスター並みだと自負している。
 それに比べてこの女は本当に純潔のようで、その純潔を穢したいとも思ってしまった。本当に俺は最低な男だ。

 「付き合って寝るのは当たり前か」

 「当然、付き合ったら寝るだろ。寝なきゃ不能だなそいつ」

 「……その神経を疑うね、わたしは」

 可笑しいことなのかが、俺にはわからない。俺の親も17の時に俺を生み、そしてすでに3回離婚している。俺の下にまだ、別の父親との子どもも何人かいる。そんな家庭だからなのかもしれないが、それは奴だって同じはずだ。奴の家も、確か母親が何回か入れ替わっていたはず。

 「あぁ、母親みたいになりたくないわけだ」

 「まぁ、簡潔に言うならそれが一番近いな」

 「じゃ一生寝ないつもり?」

 「それはないだろ、さすがに」

 「……じゃあさ――…」

 俺は口をついて出た言葉にただただ驚いた。自分で言った言葉のはずなのに、俺自身が一番驚いたのだ。

 「は?」

 「え? 俺今なんつった? なんかヤバめなこと言った気がするんだけど…」

 「“試してみるか? 俺で。俺の女になれよ”」

 「…………やっぱり? 俺やばくね?」

 「てか喧嘩売ってんの?」

 いつの間にかクラスメート全員の視線が俺に集まっていて、ますます混乱してしまう。俺は何がしたいんだ? 何が言いたかったんだ? 自分に問いかけてみるも返事など返ってはこないばかりか、ただ沈黙だけが降りかかってくる。
 消えてなくなりたい。

 「大告白はいいが、続きは後にしてくれよ。授業に集中しろ」

 今だけは、感謝してやる。だが今のを告白ととるタヌキの神経を俺は疑うね。どう考えても、そこは生徒指導するべき場所だと俺は思う。


 そうして終わった授業は、ずっと気まずかったり揶揄(やゆ)の言葉が飛んできたりと大変だった。だが大変だったのは俺だけのようで、当事者であるはずの奴は素知らぬふりだった。やっぱり憎いだけなのに―――……


 3、4時間目は体育だ。弁当と財布だけではなくジャージも忘れていた俺は、そのまま体育館へと向かい既にいた体育教師にジャージを忘れたことを伝えた。「ジャージでも制服でも変わんねぇだろ」と言われ、まぁそうだなと思いみんなが来るのを待った。
 男子連中はジャージだけを持って現れ、更衣室へと。女子はどこで着替えているのか、ジャージ姿で体育館にあらわれた。奴も当然ジャージ姿なわけで。

 「さっきは大変な発言をしてましたけど、どーいった心境ですか? 陸さん」

 「んだよそのキャラは」

 「いや真面目に、クラスの可愛いどころ全部食ったお前的にどーいった風の吹きまわしかなと思ってさ」

 それは俺が一番知りたいところだ。どうしてこうなったのか。格別可愛いわけでもなく、どちらかと言えばややデブだ。確かに胸はでかいし頭はいいし、運動も並みよりは良くできている。だが可愛くないんだ、言動が。全てが。
 そんな可愛くもない、どちらかと言うと憎い奴に寝ましょう発言なんてあり得ないはずなのだ。だがあり得てしまった。

 「気紛れ?」

 「うっわ、それはさすがにひどくね? ヤって終わり的な感じじゃん」

 「ヤって…って、あいつ相手にたつか?」

 「え、別に……それだけなら普通にうまそうじゃね?」

 どういう目で見ているんだ、こいつは。

 「女は女なんだ、男の前でしか見せない顔だってあんだろあいつにも」

 ごもっともなことを言われた俺は言葉をなくし、ただ奴を見た。やっぱり俺の好みのタイプじゃない。もっと女の子らしく抱きつきたくなるような女の子が好みなんだ、奴はそんな感情を俺に抱かせない。逆に俺が守られる立場になるくらいに、奴は強いんだ。

 昔はチビだった俺は、クラスに馴染めずにいじめの対象にされていた。そんな時決まって助けてくれたのが、誰とも仲良くしていた奴だった。人一倍正義感が強いというわけでもないのに、どうしてか助けてくれたんだ。おかげで今の俺があるわけで、昔は奴に憧れもした。
 だが今は違う。今はもうチビではないし、いじめられても仕返し出来る男になった。奴に守られていた俺じゃない…………はずなのに、どうしてか今も時折助けられる。今日の国語の授業のように、小さな助け船を出してくれる。

 「あいつは女じゃねぇよ……」

 どうしても受け入れられないさっきの言葉が、ずっと頭の中でこだましては薄れてゆく。だけどその薄れを必死に繋ぎ止めようとする俺もいて、困惑の連続ばかりだ。

 「女じゃなねぇ……」

 まるで呪文のように繰り返していた言葉に、自分が一番傷ついていた。



 今日の体育も、先週と同じくバレーボールらしい。体育館の半分は女子が使う場所で、残りは男子が使う。間には網があって反対側からボールが飛んでくることはない。時々ボールが高く上がりすぎて落ちてくることもあるが、極稀だ。そしていつもボールを取りに来るのが奴だから、おそらくボールを上げているのが奴なんだろう。どうしたらそんなに高く上がるのか、是非上げてしまっているところを拝みたいものだ。
 ネットを張り、ボールの入ったかごを中央に置いて、各々ペアを組んで授業が始まった。

 「お前はあいつと組めって」

 「うざいなお前、いつまでそのネタ引きずるわけよ」

 終わらないからかいに、若干イライラが募る。放っておけばいいものを、一つしかないクラスだからか他にからかうネタがないだけなのか。
 やめてほしい、切実に。
 いくらネタがないからと言って、友人であるはずの俺をネタに笑い話を作るなど言語道断だ。心の広い俺だからこそ許されているものの、もし昭貴(あきたか)をネタにしていたら今頃保健室で唸っている頃だろうに。

 「いーからやるぞアホ」

 女子の方はもともと9人しかいないから必然的に一人残るのだが、いつもその一人が奴だ。そして毎回違うペアに入れてもらっているのだ。
 昔から変わらない、自分を犠牲にする癖。

 思えば小学校の時からそうだった。いつも外れているグループに入って、でもいつも楽しそうに笑っていた。多分その時から、俺は奴を鑑賞するようになっていたんだ。

 「あ〜…………うぜーなぁ」

 「え? 何?」

 「俺抜けるから」

 「は?」

 「榎本(えのもと)! ちょっと来いや」

 一気に体育館が静まり、奴があっけらかんと立っていた。そしてすぐに「うつけ者」という言葉が飛んできた。だが俺の言った通りに歩いてきたからよかったと、俺は安堵していた。もし来なかったらどうしようかと、焦ってしまうところだった。相変わらず周りでは揶揄の言葉が飛び交うが、もうそんなことは気にしていられない。

 俺は認めさえすればすぐにでも自分のものにしたくなる性質(たち)なのだ。

 何かを言う体育教師がいたが、もともとやる気のない先生だからか気にせず授業を進めていった。先生としては些か不純だが、それもまた個性ということにしておこう。

 「一体なんの用?」

 「え〜、普通はさっきの変態発言のことって思わない?」

 「わたしは思わない」

 即答してくれるあたり、俺の変態発言はいつものことだとでも思っているのだろうか。心外だ。

 「俺はそこまで変態じゃない、エロいだけだ」

 「ぷっ…それって威張ることか?」

 堪えることなく噴き出したこいつは、オレを見上げながら笑いだした。

 「俺の女になる気ない?」

 「……冗談でしょ?」

 「マジだけど。お前と寝る覚悟だってあるし」

 「寝る覚悟って……何気にひどいな。まぁ、うん……わたしデブですよ? あんたのタイプじゃない」

 「俺の目はしっかりお前を見てる、タイプとかもう関係ねーよ」

 何故この女は認めたがらないのだろうか。俺はもう認めてしまっているからいいが、奴はどうしても認めたくないらしい。何を言えばいいのか困っているのか、あれやこれやと考えている素振りを見せる。一体その頭で何を考えているのか。考えるだけ無駄なのに、考えてしまう。男とはどうしてこうもアホなのだろう。
 まさに動物。
 本能のままに動くあたりなんて、動物と言わずして何と言おう。

 「ごめんなさい」

 「何で? 俺ちょー顔いーじゃん」

 「自惚れるなバカ。わたしは別に面食いじゃない。……正直、あんたをそんな目で見た事ないし、どっちかと言うと弟と思っていたんだ。そんなすぐにそーゆー対象では見れない」

 弟、か。
 予想はしていたが、本人の口から聞くとこうもダメージを負うとは予想だにしていなかった。だがやっぱりこんなことで諦める俺じゃない。
 絶対に俺のものにする。その覚悟、決心が揺らぐことはあり得ない。

 「わかった。でも諦めないから」

 「……なしてよ」

 「決めたから。俺のモノになるまで……お前が俺を好きになるまで待つって」

 「ふ…、面白いことを言う。なら頑張れ、陸―――……」



 その後のことは、正直あまり覚えていない。あまりにも衝撃的過ぎて、昼休みになっても、放課後になっても、家に帰っても、ずっと奴の顔が忘れられなかった。名前を呼ばれて、あんな笑顔を見せてくれて。
 俺の中で確実に膨らんでいく何かが、早くものにしたいと痛いほどの叫びをあげているのだ。思い出すたびに心臓が痛み、思い出すたびに思わずにやけてしまう。

 我ながらなんて体たらくなんだと思うも、嬉しいものは嬉しいもので。にやける頬、そして小さなガッツポーズ。
 たかだか名前を呼ばれただけでも嬉しいのに、あの笑顔は反則だ。

 高校3年にして、本当の恋を知ってしまったようだ。


 明日から、学校がとても楽しいものになりそうな予感がする。
 

後書き

恋愛もの恋愛ものと自ら呪縛をかけて書いてみたものです。
思うのは、自分には向いていないなということだけ。

そしてどうして男視点で書いたのか。
単純に、おなごの気持ちがよぅわからんだけです、はいー。ー

恋愛ものの小説とかあまり読まないし、そもそもの経験値が低いからか全く臨場感がない気がしますー▽ー;

どうしたらキュンとさせることのできる恋愛ものが書けるのか。

というよりも、これから恋愛ものに手を出すかが微妙だな〜


(てか男らの会話の発言は平気……なのだろうか??)

この小説について

タイトル 流るる水の如し
初版 2010年4月26日
改訂 2010年5月12日
小説ID 3906
閲覧数 1070
合計★ 1

コメント (4)

★水原ぶよよ 2010年5月11日 2時07分32秒
時間かかってしまったコメントです。
恋愛小説は苦手っぽいようなことを書かれていましたが、主人公と心の変化が描かれていていいんじゃないでしょうか。
しかし誤字脱字が少し目立ちますかね。多いわけではないのですが。
あと男の会話、ヤンキーに知り合いはいないのですが、高校生ってこんな会話ばっかしているんですかね。私のときはなかったな。
社会人だったらセクハラで訴えられているだろうオヤジの会話にしか聞こえないのですが。ちなみにおっさんにはこういうこと言うヒトたしかにいますね。
廃校になる部分をもう少し生かせたら、もっとよくなったかも?
何しろ廃校になると、バラバラになる人もいるから会えなくなるでしょ? そんな部分生かせたら、重みがもう少し出てきたのではないかと思うわけです。ハイ。
★只野 紅覇 コメントのみ 2010年5月12日 0時38分38秒
>>ぶよよさん

お時間とらせちゃったんですか!? でもコメントありがとうございます´。`*
ん〜、いいんでしょうか? 自分では恋愛モノはきゅんとこないとダメな気がしてならないです。
誤字脱字は、永遠の敵ですねー。ー; 見つけられた部分は直しておきました。(まだあるかもしれないケド…

今時のヤンキー高校生の会話はわたしにもわかりませんが、オヤジの会話というのは的を射ていると思います。(最近はおっさんの相手ばっかりしているので、その影響が出ちゃったかな…?)
わたしの高校時代のヤローどもは、モンハンとか酒とか金稼ぎの話が多かったように思います。でも時折、もちろんメンバー選んでそーゆー下ネタな話題も繰り広げてましたよ。
もっぱら胸でした。Dカップがいいという主張を聞いた覚えもあります。

セクハラは考えてなかったですね〜←
わたし下ネタとかストレートな発言にも抵抗ないし言っちゃう人間なんで、そーいった面に疎いのかもしれません。いけないですね

ん〜、廃校になったらばらばらですか。
都市部の大きな学校では確かにばらばらになるのかもしれませんね。集まる人数もきっと田舎校の比じゃないだろうし…
わたしのいた場所はみんな半年もしないうちにわたしともう一人以外が実家に戻っちゃってるらしく、ばらばらっていうのは想像もしませんでした。ミスだな…
もっと色々なことを様々な視点から見つめていくことが必要ですね。視野を広くすることが課題ですね、これは。

わざわざコメントどうもです^^*
★水原ぶよよ コメントのみ 2010年5月13日 7時31分18秒
誤解招いたようで申し訳ありません。
コメント自体はできていたけど、投稿するのに遅くなってしまった、という意味で時間がかかってしまった、と書いただけです。失礼しました。
どうでもいいことですが、特定の異性に「ちゃん」付けしたらセクハラになるんですってさ。思いがけないことがセクハラになるので、面倒な世の中です。

私の高校は吸収合併だったのでバラバラにはならなかったけど、
地区にはよってはバラバラになるんじゃないかなーって思って書きました。
小学校中学校は分割されること多いですね。
ただそれは一例で、廃校になる影響を小説の中に盛り込んだほうが、もっと盛り上がったんじゃないですか?って意味合いで書いたつもりでした。別にバラバラにならなくってもいいんです。

私の高校時代のヤローどもは、ファミコンとかパチンコとか、資本主義体制論争とか(ウソです)
★只野 紅覇 コメントのみ 2010年5月18日 10時35分34秒
お返事遅れましたm(_ _)m

あ、そういう意味だったんですか・。・勘違いしちゃったんだ
え、「ちゃん」付けでセクハラなんスか……それはまた、確かに面倒極まりないですね。
それじゃあこのお話の中のヤローどもはめちゃくちゃセクハラしてますね´。`*笑

吸収合併だったんですか。あれ、ということは結構田舎の方ですか??

廃校の影響を盛り込んだ内容で、二人のその後とかもいいよねとかコメント読んでて思いました。
せっかく彼女は生徒会に入っているわけだし、何かしらの行事のお話で二人の絡みとか書けそうな気がする←

ふふふ、どこのヤローも変わらんもんですなぁ
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