不器用な子供

あるところに、ひとりの男の子がいました。

彼はいつも無表情でした。
笑顔を見せることなく、いつも怒っているのだと思われまわりの子達は彼を怖がり避けていました。

あるところに、ひとりの女の子がいました。

彼女はいつも優しく微笑んでいました。
その陽だまりのような笑顔に、周りの子達は彼女を中心に集まっていました。

ある日、女の子が公園の端でしゃがみこむ男の子を見つけました。
女の子は男の子のことを知っていました。

・・・いえ、知っていると勘違いしていたのです。
今、この瞬間まで。

女の子が男の子に近づいたのは、ほんの好奇心からでした。
そっと、気づかれないように男の子の横顔を見つめます。

男の子は指先にとまっている天道虫を、葉っぱの上へと静かに乗せていました。

無表情なのはいつもと同じこと。
けれど女の子は気づいたのです。

男の子の瞳の優しさに。

それから女の子は男の子の瞳が忘れられず、遠くから男の子の背中を追い続けました。

どうして今まで気づかなかったのでしょう。

無表情だからといって怒っているわけではないのです。
ただ表情に出すのが苦手なだけで、彼の瞳はいろんな感情を描いていました。

どうして今まで気づかなかったのでしょう。

無口だからといって優しくないということになはならないのです。
彼の口から他の男の子のように意地悪な言葉が紡がれたことはありませんでした。

どうして今まで気づかなかったのでしょう。

誰とも手を繋がないからといって全てを拒絶しているわけではなかったのです。
だって転んだ子に差し出された手はとても優しく見えました。


他の子より、ほんの少しだけ不器用な男の子。

嬉しいとき、どんなふうに笑ったらいいかわからない。

哀しいとき、どんなふうに泣いたらいいかわからない。

悔しいとき、どんなふうに怒ったらいいかわからない。


他の子より、ほんの少しだけ我慢強い男の子。

嬉しいのに、照れて緩む頬を隠してしまう。

哀しいのに、唇をぐっと咬んで涙を堪えてしまう。

悔しいのに、今までの関係が壊れることが怖くて何も言えず俯いてしまう。


不器用で我慢強い男の子。
とてもとても優しい男の子。


女の子は深呼吸を一回だけして、男の子に歩み寄った。
女の子に気づいて振り返った男の子の瞳が、やっぱり優しいことに気づいて女の子の不安が消えていく。

女の子は手を男の子に向けて言った。


『友だちになってください』


その男の子らしい小さな笑顔が見られるのは、そう遠くない未来のお話。







後書き

感想、ご意見がいただければと思います。

この小説について

タイトル 不器用な子供
初版 2010年5月21日
改訂 2010年5月21日
小説ID 3928
閲覧数 923
合計★ 2
久遠永久の写真
ぬし
作家名 ★久遠永久
作家ID 275
投稿数 47
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活動度 4987

コメント (2)

oasis color 2010年5月21日 23時07分19秒
拝読しました。
通りのいい文でテンポよく男の子の性格が描写されていて、とても読みやすく感じました。
ただ、そんな男の子のメンタリティに気づくことが出来た女の子の描写が物足りなく感じました。
★久遠永久 コメントのみ 2010年5月22日 0時00分53秒
oasis color 様

『涙』に引き続きコメントありがとうございます。
今回読みやすさを目指していたので、その点では成功だったようです。
ですが大事な描写が物足りないのは問題ですね。
 
今後も精進いたします。
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