にゃめんなよ! - <第二部>第二章「奴が来た。―戸惑いと誘惑―」・前編

第二章「奴が来た。―戸惑いと誘惑―」

 うーん。うーんやっぱり上手く行かないものだなー。そう思ったんだ。何がって?そりゃ分かるでしょ。私の根っこは善人だって話。

 ******
 某学校、東棟ニ階廊下。
 「なぁ、アイツまた来てないじゃんか。もう十日目になるぞ。」
 「そうだなー。確かに平和に過ごせるのは嬉しいんだけどさ、クラスの不良の目が爛々としてるように見えるの、俺だけかな。」
 「ま、大丈夫だろ。暫くは。ただ数日しただ本格的に暴れるんじゃないかって危惧してるからさ、俺としてはそっちの方が怖いよ。」
 「新作のゲームの発売も近いしさ、財布、巻き上げられないといいけどなー。」
 「そうだなー。でもさ、買ったとしても分捕られて、『絶対的借りパク』ってな。あははー。」
 「笑えない冗談言うなよ。」
 「おはよぅ。」
 「……え?」

 男子達は凍りついた。そして、そいつから少しずつ後ずさりし、背を向けて逃げ出した。
 「…………全く。」

******
 体育館、女子更衣室。
 「最近さ、この学校で下着ドロがまた出てるらしいよね。今朝、生活指導の梅原が言ってたよー。」
 「この学校ボロいからさ、女子更衣室にも施錠できるようにして欲しいものだよね。それか、ロッカーに鍵が欲しい。」
 「誰がヘンタイか分かんないけど、少なくとも自分の身に着けてたもの、私物にされるのは鳥肌が……。」
 「気持ち悪い事言わないでよ!!こっちまで寒気したじゃんか。」
 「ゴメンゴメン。最近、やけに平和だよねーそれ以外除いたら。アイツが学校に来てないからかな。」
 「気のせいかもしれないけど、何かしらあって学校に来れなくなったから、学校に呪い掛けてるんじゃないの?未練たらたらで。」
 「うーん、アイツ、学校嫌いそうだし、それは流石に無いかと……。」
 「そろそろ行こうか。」
 「そうだね。」

 扉を開けた瞬間、目の前に遭遇する「その人」。女子達は顔を青くしながら、ぎこちない言葉で挨拶をした。
 「どっ、おはよう。バスケしに来たの?」
 「え、えっと、頑張ってね。」
 「お……おう。」

 女子達はゆっくりと息を殺しながら体育館から出て行った。

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 昼休み、屋上。そして現在に至る。
 「はぁ。どいつも疫病神扱いかよ。久しく学校来たら、良い事無いし、首も痛いし。」
俺は屋上のフェンスに寄りかかって青空を見上げた。高い空に流れる一つの雲がまるで自分の孤独感を象徴しているようで虚しい。

 「なぁ、ここって先公来ないよな。」
 「大丈夫だって。それより、私たちクラス違うからさ、やっとゆっくり過ごせるね。」
 「俺、朝からお前の事ばっか考えてた。」
 「嬉しい!私も寂しかったよ。」
 「大好きだ!」
 ――――密着的な擬音。

 物陰でカップルがイチャついてるし。凄く見苦しいぜ。しかも……いや、俺が場違いなのか。
俺は邪魔しまいと、その光景から目を背けた。
 「校約もクソもねーな。この学校は。」
 おもむろに尻のポケットから煙草を取り出し、ライターで火を付ける。しかし、こんな時にガスが切れてるのか、イライラが募るばかり。あそこのカップルに湿気たこのライターを投げつけてやろうか……いや、やめとくか。
 「くそっ!つかねー!」
 カチカチとひたすら電子ライターを押すが、一向に火が点く気配もない。
 「はい。」
 「おお、ありがと。誰か知らないが。」
手元に火を差し出され、俺はその火で煙草に火を付けた。誰だか知らないけど空気の読める……って「お前」か!
 「『お前』かよ。急に目の前に現れんな。」
 「いいじゃん、別に。それより、隣、座るよ?」
 「嫌だ。帰れ。」
 「道理を押し通す。」
 「帰れって!」
 しかし、俺の言葉を無視してコイツは座った。気持ちと相反する感情で言葉が出る。しかし、強引に来た物だから、恥ずかしい半面有り難かったかも知れない。

 「ふう。やっぱり落ち着くわー。」
 「俺も」だ。周りから避けられ、退けられ、排除され、「煙のように煙たがられた煙は」屋上に昇っていく。しかも、孤独なのだ。まさか、「ライターを差し伸べてくれる奴」が出て来るなんて、心にも思わなかったが。
 「あー、しかし、首が痛いぜ。」
 そう言えばここ数日、飲まず食わずで引き摺り回されてたっけ。頭を持ち上げなきゃ、頭捥がれるとこだったぜ。全身もなんかズキズキするし。
 俺は煙を吐く。

 「アンタ、全身ボロボロじゃん!どうしたのよ。」
 「ああ、いつもの事だよ。『ある奴』を怒らせちまってさ、半殺しにされかけただけ。」
 「やっぱり噂は本当だったんだ……。」
 「ん?どした?」
 「いや、何でもないよ。こっちの話。」
 コイツは意味深に考え込んで黙り込む。俺の身の上話なんか聞いても興味持つ奴なんかいないしな。

 「心配してくれてありがとな。」
 「大した事言って無いじゃん。しかもアンタは『私の傘下の人間』だし、危機管理くらいしっかりやっとかないと。……いるんだよねー、アンタみたいなのがうちのにも。」
 「へーへー。」

 期待して損したわ。まぁ、暫くは孤独から逃れられそうだな。しかし、家に帰りたくないぜ……。


続きます……。

この小説について

タイトル <第二部>第二章「奴が来た。―戸惑いと誘惑―」・前編
初版 2010年6月3日
改訂 2010年6月3日
小説ID 3935
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