Skyblue Future - 6・萌黄の旅立ち

6.

「アルド」
 私の隣を歩く少女は、寂しそうに、哀しそうに私の名を呼んだ。
「私が、いけなかったのかしら?」
「・・・・・・そんなことはない。誰も悪くなど無い」
 ――数十分前。
 私たちはナフリーとジャック様の母君であらせられる、ソフィア様の自室にいた。
 そこで、ナフリーは語った。
 ここ、フェスティアの歴史を。
 おそらく、三百年前と同じようにこちらに飛ばされてしまった少年に。
 だが――。

「待ってくれよ・・・・・・とばされたって、魔術師って」
 突飛すぎて、信じられないのも確かだった。
 混乱という動揺が、まる分かりだった。
「冗談、じゃないんだよな」
「ええ」
 ナフリーは、凛とした声で何事にも動じずに頷く。
 相手も、分かっているはずだ。
 自分が実際に飛ばされたのを。
 ナフリーや、私、王様や女王様と、あちらの世界ではありえないという人間を、見てきているのだから。
 それに、この状況を夢で終わらせることができるのなら、とっくにそうしているだろう。
 だが、これは紛れも無い真実だ。
 フェスティアは確かに存在する。
 そこに住む人々も。
 分かっていて、なおそれを信じがたい。
 誰しもそうだ。
 それを咎める者はいない。
 ナフリーも、彼が落ち着くのを待っている様子だった。
 全員の視線が飛ばされた少年に向けられる。
「あのマンホールの、あれが? そんなことが?」
「ヒロユキ・・・・・・」
 心配そうに、ナフリーが歩み寄る。
 が。
「ごめん・・・・・・直ぐには、信じられない・・・・・・」
「・・・・・・ヒロユキ」
 ・・・・・・・・・・・・。
 当然といえば、当然だったのかもしれない。
 自分がその立場になったのなら、そうなっていたかもしれない。
 ここにいた全員が、そう思った。
 だから、部屋を出て行く彼を、誰も止めようとはしなかった。

「少し時間を与えよう。そうすれば、気持ちの整理もつくだろう」
「・・・・・・そうね。ありがとう、アルド」
 彼女の綺麗な水色の瞳が、私に向けられる。
 だが、その瞳で見ているものは私ではないように感じられた。
 そんなに、あいつが気になるのか。
 私はそう言いたかったが、言えなかった。
 その後、私はナフリーを彼女の自室に送り、剣の稽古をしようと訓練場に向かおうと歩いていた時だ。
「・・・・・・」
 あの、少年の姿があった。
 年は近い。相手を少年と呼ぶのも変だが、呼び捨てにするわけにもいかない。
 それに、話しかける理由も話題もない。
 のはずなのだが。
 私はすっと壁に寄り添うように、相手に見えないように隠れた。
 反射的に。
 話しかけるべきではないと、私は思った。
 今私が出る幕はない。
 人間、気持ちの整理など結局自分でできるものだ。
 私は、彼がそこまで精神が弱い人間には見えない。
 なんとなく、そう悟った。


「おおーい。アルド〜」
 訓練場に着くと、ある男に声をかけられた。
「アルフォード」
 同じくアーベルド騎士団所属の、私の友人だ。
 彼は先にほかの仲間と鍛錬していたらしく、私に気づいて駆け寄ってきた。
「お前も練習?」
「ああ」
 腰の剣を手に取り、私は言った。
「そういやさぁ」
「ん?」
 ぽつりと呟くアルフォードに、私はクエスチョンを浮かべて呟く。
「お前、何かナフリー様のことで悩んでるだろ」
 ドキッ。
 自分の体がその言葉に反応するのがわかった。
 にやにや顔のアルフォードはその反応を見てさらににやける。
「やっぱりな」
 ・・・・・・・・・・・・(笑)と言わんばかりに彼は楽しそうに言った。
 私は感情をあまり表に出さない。方だと思う。
 だから私の気持ちに気づくのはナフリーや、このアルフォードだけだった。
「何かあったわけ?」
 言えるか。
 即座に心の中で叫んだ。
 彼が頼りないとかそういう理由ではない。
 騎士たるもの、何かあるごとに心を揺らしてなどいられない。
「何でもないさ」
「本当かよ」
 その言葉に、
「ああ」
 私ははっきりと頷いた。
 その返事を聞いて、アルフォードはそれ以上深く聞いてくることはなかった。
 彼は私の友人だ。
 私ことを、信じてくれ、判ってくれている。
 そうして私と彼は剣の稽古に専念した。
 ただひたすらに深々と。
 そうしているうちに、私は何もかもを忘れ、気づけば月が沈み、太陽が昇っていた。



 翌日。
 私たちは思いもよらない事実に直面した。
「アルド!」
「・・・・・・ナフリー?」
 焦った様子を隠しもせず、いつもの彼女らしくない彼女は、慌てた様子のまま私の名前を叫んでいた。
「どうした?」
 私が聞くと、
「その・・・・・・ヒロユキが、部屋に戻っていないの。今から、彼のことを相談しようとお父様のところに・・・・・・」
「そうか・・・・・・」
 部屋に戻っていない?
 私は昨日あいつを見た。
 逃げた・・・・・・?
 いや、逃げるなんて今の自分の立場を悪化させるようなものだ。
 それはないだろう。
 ならどこへ・・・・・・。
「ついてきてくれる?」
「もちろんだ」
 私は即座に頷いて、ナフリーと王座に向かった。
 しばらくレッドカーペットの上を歩き、ナフリーが小さく扉を開けた瞬間だった。
「やはりそうか・・・・・・」
 王様の深刻そうな声が、聞えてきたのは。
 やはりそうか・・・・・・?
 その言葉に、私もナフリーも首を傾げた。
 どういうことだ?
 何の話をしている?
 ナフリーも私の隣で部屋を覗き、様子を窺っているようだった。
「どういたしましょう・・・・・・」
 王の側近は、直ぐ隣でそう呟く。
 王様は何も答えなかった。
 そして数秒後。
「ジャックはまだ幼すぎる・・・・・・」
 ?
 ジャック様がどうしたというのだ?
 ナフリーを見ると、彼女も何を言っているのか判らない様子だった。
 つまりは、王様は我々に言えない何らかの悩みがあるらしい。
 それはジャック様にも関係しているようだ。
「世界の均衡が・・・・・・崩れ始めたことが大事なのはわかってはいる・・・・・・」
「「!!?」」
 均衡が・・・・・・崩れる?
「が、ジャックはまだ幼い。その問題を解決する為に世界を回れなどとは・・・・・・」
 お付のものも暗い顔をし、何も言葉を発さなかった。
「なら――」
 ギィと扉が開け放たれた。
 私がその言葉に驚き、その光景を理解する頃には、ナフリーは既に隣にはいなかった。
「なら、その役目。私が受け持ちます」
 ああ。
「姉として。姫として」
 やはり彼女は強い。
 この国の姫に、相応しい。
「ナフリー!? 今のを、聞いてしまったのか・・・・・・?」
 王様は驚きのあまり立ち上がり、ナフリーに向かって叫んだ。
 私も扉を開けナフリーの傍へと歩く。
「はい。世界の均衡が崩れている、と」
「・・・・・・ああ。そうだ。だが、ジャックもお前もまだ」
「お父様。私にはアルドがいます」
 ナフリーは私に振り向き、微笑みを見せる。
「一緒に来てくれるわよね? アルド」
 私は迷うことなく即答した。
「もちろんだ」
 ナフリーと私の態度に、王様はため息をついて席に座った。
「・・・・・・判った。ナフリー=クランド。アルド=ラノス。お前たちに世界の均衡が崩れている原因を見極めることを命ずる」
「「はい」」
 ナフリーと私は力強く頷いた。
 そして
「それとお父様。・・・・・・ヒロユキ、もお供させてもよろしいでしょうか?」
「あやつをか?」
「はい。ヒロユキがあちらの世界に帰る手がかりもあるのではないかと」
「そうだな・・・・・・いいだろう」
 そして、私とナフリーは「ヒロユキ」を探し始めた。


「ヒロユキ」
 そいつは、直ぐに見つかった。
 やはり逃げていたわけではなかった。
 ただ悩むあまり、部屋を出たはいいが、この広い城の中。
 迷っていたらしい。
 使用人たちの証言から私とナフリーは直ぐにその場に辿りついた。
「ヒロユキ。貴女にお話があるの」
「俺に・・・・・・?」
 “ヒロユキ”はナフリーの言葉に怪訝そうに呟いた。
「ええ。私達はこれから、世界の均衡を確かめに行くの」
「世界の・・・・・・均衡?」
「ええ。お父様の話だと、それがどんどん崩れてきてしまっているらしいの。だから、私がジャックの代わりにアルドと一緒に世界を廻るの。それで・・・・・・貴方も来ない?」
 ナフリーの言葉に、ヒロユキは心底驚いたようだった。
「貴方が元の世界に帰る方法も、見つかるかもしれないわ!」
 ナフリーは力強く言った。
 私は、それをただ見守る。
 ここは、彼女1人で大丈夫だ。
「俺は・・・・・・」
「私は! 私は、貴方の味方です。アルドも」
 私はその言葉に頷いた。
 それを見た「ヒロユキ」は暫し黙る。
 そして。
「ありがとう」
 ただ、それだけを言った。
 それが一緒に行こうと言ってくれたことへの感謝の気持ちだったのは、言うまでもない。
 そして、私達は、ここフェスティアを廻る旅に出た。

後書き

お久しぶりです。
五月です。

6、やっと進行できました^^;
僕が書くの遅かったのと、けめちゃんが忙しくて内容見れたかったのと原因はたくさんあるわけですが、読んでもらえれば幸いです。

この小説について

タイトル 6・萌黄の旅立ち
初版 2010年6月21日
改訂 2010年6月23日
小説ID 3944
閲覧数 864
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五月の写真
作家名 ★五月
作家ID 497
投稿数 60
★の数 166
活動度 11432
一言・・・・・・頑張ります。

http://simotukiharuka.blog.so-net.ne.jp/
自分の小説ブログです。
ここに載せた小説についていろいろ書いてます。

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