むりやり解釈百人一首 - 8.喜撰法師

8.喜撰法師

和が庵は 都のたつみ 鹿ぞ住む 世をうぢ山と 人は言うなり
Waga io ha,Miyako no tatsumi,Shika zo sumu,Yo wo udiyama to,Hito ha iunari.



「ごめんくださーい」
「ほいほい、どちらさんかな?」
「私、平安京の『開元雑報』の記者でございます。この度は法師様の取材に伺ったのですが………」
「開元雑報? それは海を渡った唐の新聞ではなかったかな? なぜそれが都にまで?」
「遣唐使の方々がその文化を伝えてくださったのですよ。これを機に、都でも本格的に新聞のほうに取り組もうと………」
「まぁ立ち話も何じゃ、上がってくれ」
「は、はい。ありがとうございます!」

「しかし、意外と質素な長屋ですね。せっかく花が生けてあるのに枯れてしまってますよ」
「ほっとけ。それで、取材とはどのような用件で?」
「あ、はい。都で法師様は『六歌仙』として高い知名度を誇っていますが、めったに人前に姿を現さないだけに、人々の中で法師様の人物像を知りたいという風潮が高まっているという情報を受けたのです。そこで、今回伺った次第です」
「なるほどの。わしは生憎目立つのが嫌いなんじゃわい。断ると言ったら?」
「そ、そんな! この機会にどうかよろしくお願いします!」
「ほっほっほ、そんな土下座までされたら断るわけにもいかんのぉ。まぁいい、都への置き土産として、取材に応じようかの」
「………置き土産、とは?」
「知りたいか?」
「好奇心が、記者の信条ですから」
「なるほどの。都の東南に『宇治山』という山があるのは知っているかな?」
「はい。親鸞聖人がご生誕になった地の側でございますね」
「うむ。じつはそこに、わしはとっておきの庵を作ったんじゃ」
「え、じゃあそこに法師様は移住されるわけでございますか………?」
「そういうことになるかのぉ。宇治山は都からすれば当然辺境の地での。静かで自然豊かで、鹿までおるんじゃ」
「鹿、ですか。鹿がお好きなのですか?」
「別段そんなことはないが、やはり鹿が庵の側にいるっていうのは何かそれっぽいじゃろ?」
「それっぽいって?」
「んまぁ今のは余談じゃった。わしの世界の話での」
「わしの世界………つまり、法師様の理想の世界が宇治山には存在するという解釈でよろしいですか?」
「わしは長年この平安京の発展を陰から見つめてきた。しかし最近の朝廷の政治はどうじゃ? 具体的でない、民を中心に置いた政治をほとんど行っておらん」
「だから法師は理想郷である、しかも朝廷の政治の目につかない宇治山に住居を移されるということですか」
「さぁ、どうだかの」
「あ、なぜ宇治山が法師様にとっての理想郷なのか今わかりました!」
「お、言うてみい」
「法師様は朝廷の政治によって廃れつつある平安京を憂いておられる」
「ふむふむ」
「そこで『宇治山』ならぬ『憂じ山』に庵を建てた、というわけですね? まったく法師様ったら、意外とおちゃめな理由なんですね」
「ほっほっほ。なかなか面白い推理じゃな。さすがは記者」
「さすが………かどうかは分かりませんが、今の推理には自信がありますよ。どうですか?」
「残念ながらそれは教えられんの。お主がそれを正解だと思うなら、正解でいいじゃろ」
「そんな抽象的な返答では困りますよー」
「1つ言えることは、人の思想に正解なぞないということじゃな。正解がないから、仏教一つとっても、さまざまな宗派があるじゃろ?」
「………なるほど」
「さっきお主が推理したのは私の思想。答えなぞないし、わしのなかにも答えなぞ持っておらぬ」
「………だめだ、一般人の私の頭の中は徐々にこんがらがってきましたよ」
「それが人の思想を成長させるのじゃよ。幸いお主はまだまだ若い。これからいろんな人間の思想に触れ、おぬしの思想を確立させるがいい」
「はい、ありがたいお言葉ありがとうございます!」
「ほっほっほ、礼なぞいらぬ。さて、わしもそろそろ出発しようかの」
「え、今からその庵に行かれるのですか?」
「前々から今日発とうと決めていたのじゃ。そこの風呂敷の中に荷物はまとめてある」
「本当だ………」
「じゃあの。いい記事になるといいな」
「待ってください! せめて移住の真相だけでも………」
「なぁに、簡単な理由じゃ」
「と言うと?」
「わしは自然が大好きなんじゃ」
「………それ、生けてある花を枯らした人の言う台詞じゃないですよね」

後書き

僕の実家がたまたま親鸞聖人の生まれた地とされる「日野誕生院」のそばにあるので、つまり宇治山も家の裏山なのですらすら筆が進みました。

そういえば宇治山には『喜撰山ダム』っていうダムがあるし、この喜撰法師とかかわりがあることはほぼ間違いないですかね。


あ、新しい試みに挑戦してみたことに対するコメントとか頂けたら嬉しいです。

この小説について

タイトル 8.喜撰法師
初版 2010年7月31日
改訂 2010年8月1日
小説ID 3995
閲覧数 1498
合計★ 3
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作家名 ★せんべい
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卓球とみたらし団子とピアノが大好きな変態です

コメント (1)

★けめこ 2010年8月2日 21時03分28秒
毎度お邪魔しております、けめこです。
これを続けたら、私も100回コメントを書くことになるんですねw

最後の一文が効いていて、まさにショートショートと呼ぶにふさわしいと思います。
で、どうせならもうちょっと、生身の人間の会話のかみ合わなさみたいなのもあってもよかったんじゃないかなーと思ってみたり。

セリフだけでも十分面白かったのですが、これを戯曲風にしてみたらどうでしょう?
途中途中に、台本のト書きのような感じで行動を入れるとか?

以上、ただの思いつきでした。
次回もよろしくお願いしますw
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