Their trip - 第始叩Г箸△覲描きの思い


第始叩Г箸△覲描きの思い


「綺麗な絵。また新しいのを描くの?」
「――・・・・・・いや、描かない。もう描かないって、決めたんだ」



 空は1日1日表情を変える。まるで人間のように。
 木々も、草も。池も湖も、海も。
 私は、そんな「世界」を見るのが好きだ。
 だから、毎日それを描いている。
「おい、アンタ。この森の下に町があるって聞いたんだが、方向分かるかい?」
 森の中で絵を描いていた私を見つけた男は、荒々しく息を吐きながら私に尋ねてきた。
 この深い森の中、迷ったのだろう。
 私は振り返ると、東の方向を人差し指で指し、男はサンキュと短くお礼を言って去っていく。
 私は、あの男が向かったであろう町に住んでいる。
 そこで、絵描きをしている。


 今日の空は晴れていた。
 人間が笑っているのと、似ている。
 私は高くも安くもない部屋をとある森の近くの町で借りている。
 そこで絵描きをしている。
 今日も何処を描こうかと森の中を彷徨っていた。
 前には綺麗な湖を見つけた。
 夜は水面に月も写り、とても綺麗だった。
 その湖はおそらく私しかしらない。
 誰もが知らないそんな場所を自分だけが知っているとかと思うと少し嬉しい。
 私はそう考えていたせいか、無償にその場所に向かいたくなった。
 気づけば私の両足はその湖の方向に向いており、まさに郷に行っては郷に従えと言うやつだろうか。
 いや。ちょっと違うと思う。
 自分で何をやっているとかと呆れていると、私の目の前にはすでにその目的の湖が存在していた。
 だが。
 そこには、いつもいるはずがない人間がいた。
 そしてその人物は、とても綺麗だった。
 この湖に負けないくらいに。
「・・・・・・・・・・・・」
 つい、言葉を忘れた。
 何をしているのだろう?
 そう気になり、私は彼女を凝視した。
 すると。
 その湖のような透明に近い水色のドレスを着た彼女は。
「!!?」
 リストカットをしようとしていた。


 何を!!?
 一緒私さえ現状が見えず、気づけばここに向かったときと同じように両足が動いていた。
「何をやってるんですか!!」
「――――」
 ぽちゃん。
 彼女が持っていたカッターが湖に落ちる音がした。
 ・・・・・・・・・・・・。
 ふかくにも初対面の女性の腕を掴み、強く握りすぎたのか女性は手からカッターをぽろりと落とした。
 だが、それは理解していた。
 頭では。
 でもどうしても叫ばずにはいられなかった。
「何やってるんですか!! カッターで切ったらどうなると思ってるんです!!」
「・・・・・・切ったら、切れるに決まってるじゃない」
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 その返事は予想外。
「あのですね、切ったら死ぬんですよ?」
「・・・・・・それでいいのよ、その為にそうしたのだから」
 彼女は平然とそう言った。
 嗚呼――。
 世界はこんなにも美しいというのに。
 それを壊していく人間。
 それに気づけない人間。
 もちろん自分もその人間だ。
 人間が嫌いなわけじゃない。
 悪影響だけを残しているわけではないのだから。
 このとき私は思ってしまった。
 彼女を生かしたいと。
 彼女には生きて欲しいと。
 私と年は大差ない。
 まだまだ人生これからだ。
「死ぬって、人生これからでしょう」
 私は彼女から手を離して落ち着いた口調で言った。
 正直まだ混乱しているが。
「人生なんてつまらないわ。世界も何もかも」
「・・・・・・・・・・・・」
 自分とは全く逆の考えだった。
 世界は詰まらない。
 いる意味がない。
 在る意味がない。
「なら、私が貴女に生きていたいと思わせて見せます!!」
「なんで・・・・・・」
 驚きもせず、彼女は淡々と言った。
「えっと・・・・・・」
 なんで、と聞かれると少し困る。
 というか私自身なぜそんなことを叫んだのか判らない。
 そして、私は後に思う。
 このとき既に、私は彼女に魅せられていたのだと。
「貴方が、何で私を生かせると言うの?」
 私はその質問に恥じらいながらもどうどうと返す。
「私の絵で!」
 この一言が、私と彼女の関係のすべての始まりだった。

 あんなことを言ってしまったことを後悔はしていない。
 でも、私らしくはなかったと思う。
 何故あんなことを言ったのか。
 誰かが私の意識を則ったかのように気づけばそう言っていたのだ。
 女性は表情も変えず、
「・・・・・・貴方、絵描きなの?」
 と質問をしてきた。
 私はその質問に多少驚きながらも、はっきり頷いた。
 すると彼女は
「貴方、名前は?」
 続いて名前を聞いてきた。
 なんなのだろうか。
 いきなり初対面の男があんなことを言ったというのに彼女は淡々としている。
「名前は・・・・・・アンディーです」
 私の名前を誰かに教えると、毎回「女みたいな名前だな」と言われる。
 目の前の女性もそうなのだろうな。
「良い名前ね」
「え」
 だが、違った。
 彼女は初めて私の名前を褒めてくれた人になった。
 私は驚きでぽかんとしていると、彼女が尋ねたくても尋ねられなかった名前を言ってくれた。
「私はアリアナ。皆アナと呼ぶわ」
「アナさん・・・・・・ですか」
 女性を名前で呼ぶのは初めてだな。
「ねぇアンディー」
「え!? あ、はい?」
 突然名前を呼ばれ、私はビクリッと反応してしまった。
「貴方、売れない画家でしょう」
「・・・・・・・・・・・・」
 確かに、売れてないですけどね・・・・・・。
 率直に言われると、きついです・・・・・・。
「だって、私が知らないもの」
「?」
 どういう意味だ。
 そのときはそう思った。
 もしかしてとても画家に詳しい人なんだろうか。
 てことは芸術好き!?
 私はそう考え、試しに彼女に
「ここ、綺麗な場所ですよね」
「そう? 町とかわらないわ」
 ・・・・・・・・・・・・。
 うん。彼女は芸術好きではない。
 そんな風に思っているのか。
 町は町のよさがあり、自然もまたしかりだ。
 彼女の目は、まるで死んでいた。
 その瞳には何も写っていないかのように。
「ねぇ・・・・・・貴方はずっとここで絵を描いているの?」
「え? ええ・・・・・・」
 何を考えているのか分かりづらい人だと思った。
 表情もなく、声も落ち着いていて。
 私は、本当にこの人に「生きたい」と思わせることができるのか?
 急に不安になってきた。
「そう・・・・・・」
「あの、また自殺なんてことはしないでくださいね」
「・・・・・・どうかしら。貴方しだい」
「――――」
 彼女に。
 彼女に私の言葉は届いていた。
 感情が無いようなイメージが最初はあった。
 でもそんなことはない。
 彼女は人間だ。
 私と同じ、人間だ。
「絶対、思わせて見せます」
 今ここで、私は彼女と約束ができた。


 私は売れない画家だった。
 それこそ全く売れない。
 絵を描くのが昔から好きだった。
 だから年々絵描きたいという思いは強まっていき、今現在こうして絵描きとして働いている。
 でも、それは私が目指した「夢」ではなかった。
 売れたいのではない。
 私はただ1人だけでもいい。
 私の描いた絵で感動してくれるような、そんな人がいれば、それが私の夢だった。
 だが、残念ながらそれは簡単なことなどではなかった。
 私の絵は誰にも受け入れてもらえることができなかったのだから。
 人々に感想を聞くと、「こんな絵、誰も描いてない」だとか「受け入れがたい絵だな」だとか皆似たような答えが返ってきた。
 最初は悩んだ。
 どうしていけないのだろう。
 これじゃダメなのだろうか。
 私には、やはり才能なんてないのだろうか。
 でも。
 でもやっぱり絵を描く事をやめることはできなかった。
 私はどうしようもないくらい、絵を描くのが好きなのだから。
 絵描きは続ける。
 別に趣味で続けても良かった。
 でも、新しい仕事が見つかるまではこの仕事を続けることにした。
 その間努力は怠らないつもりでいた。
 だから今日もあの湖へ向かった。
 そこで、あんなことになるとは思っても見なかったが。
 私は森を紙やペン。つまりは絵を描く為の道具をカバンにつめていつかのように湖に足を向ける。
 適当に座れる所を探して、また1人絵を描くのだろうと、最初は思っていた。
 だが。
 そこにはあの時のように、いないはずの人間が1人、いた。
「え・・・・・・」
 私の声に気づいたのか、彼女はゆっくりと顔を向けて一言、
「アンディー」
 私の名を呼んだ。
 まさかまたリストカットをしにきたのかと疑ったが、もう手に凶器は持っていない。
 というか全くの手ぶらだった。
「えっと、アナさん・・・・・・。何故此処に?」
「なんとなくよ。1人が好きなの」
 その言葉に私はなんて返せばいいのか。
「あの・・・・・・私来ちゃダメでしたかね・・・・・・?」
 おどおどと返すと、彼女はいつもの無表情で言った。
「貴方はいいわ。空気と大差ないもの」
「くう・・・・・・!?」
 私の扱いってそんなですか・・・・・・。
 1人心の中で傷つきながら、私は絵を描く事に集中しようとした。
 筆を広げて、湖を見やる。
 だが、いっこうに集中はできなかった。
 鳥の囀りも。湖の波紋も。木々の揺れる音も。
 自分の世界には存在しないかのように、私には映って見えなかった。
 彼女という存在に、夢中だったのだ。
 そんな自分にも気づけず、時間がしばらく経って。
 彼女から、私に話しかけてきた。
「ねぇ、描けてるの?」
「え? え!? えっと」
 私は自分の絵を見た。
 もちろん、何も描けていない。
 今まで自分が何をしていたのか。私は正直思い出せなかった。
 気づけば、何も描けてはいなかった。
「描けてないようね。やっぱり売れないのね」
「・・・・・・・・・・・・」
 毒舌がハンパない・・・・・・。
 私はその言葉に少々むきになり、森を夕方になるまで描き続けた。
「ふぅ」
 一息ついた頃。
 私は絵に夢中になりすぎて彼女がそこにいるのか帰ったのか全く判らなかった。
 焦って当りを見渡すと、誰もいない。
「帰った・・・・・・?」
 ふと、寂しい気持ちになった。
「あら。綺麗に描けたのね」
「!! 帰ったんじゃ!?」
 それはどうやら勝手な思い込みに過ぎず、彼女の話ではずっと後から絵を見ていたという。
 ずっと見られていたと思うと私は恥ずかしくなり頬を染めた。
 だが、当りの暗さにはっとする。
 ここから町に帰る頃もう夜になっているだろう。
「アナさん、家は? もう暗くなります」
 私は荷物を片付けながら声をかけた。
「遠いようならおくりますよ?」
「いいわ」
 来たのは、キッパリとした断りの返事。
 それから彼女は闇に潰された影のようにふらりと森の奥に消えてしまった。
 その日から。
 彼女は毎日あの湖にいた。
 私も絵を描きにそこに向かう。
 言うまでもなく、彼女と毎日のように顔をあわせた。
 相変わらずつれない態度であったが、私が絵を描くと彼女は嬉しそうに微笑んでくれた。
 それが私は嬉しくて、森に行っては彼女の傍で絵を描いた。
 いつもはあの湖に顔を出しても絵が浮かばず描かないという事もあった。
 でも不思議と彼女が隣にいるとそんなことはなかった。
 世界は、彼女と出会ったことで輝きを増した。
 彼女と出合って12日が経った。
「アナさん」
 私が名を呼ぶと、彼女は振り返る。
「アンディー・・・・・・」
「? どうかしたのですか?」
 元気がない。
 振り返った彼女の顔を見れば直ぐに分かった。
 ゆっくりと近づくと、彼女は水をすくうかのように手のひらに鳥を乗せていた。
 どうやら、死んでいるようだ。
「この子、もう治らないの・・・・・・?」
 死を知らない子供のように、彼女は少し震えた声で私に尋ねた。
「・・・・・・治りません。もう、死んでいますから」
 生きていたとしても、絵描きの私にできたことなどないだろう。
「死んで、しまったのね・・・・・・」
 彼女は手のひらの鳥を平な大きい石に乗せる。
 それは安眠の為のベッドか。
 はたまた安寧の墓場だったのか。
「私が、変わってあげられれば・・・・・・」
「――――」
 彼女は、いつもこうなのだろうか。
 リストカットすることに恐怖を持たず。
 自分の命が尽きる事を厭わない。
 そんなの。
「どうして、貴女は死にたいんですか?」
「・・・・・・死にたい?」
 問われたことが判らないかのように彼女は呟いた。
「そうです。貴女は、どうして死にたいんですか」
「死にたくなんか・・・・・・」
「うそです! 貴女は、生きようとしていない! いつも、私の知らない遠くを見ている」
「そんなこと・・・・・・」
 彼女は私から目をそらす。
「どうしてですか・・・・・・貴女が見ている景色は、風景は、すべて偽りだとでも言うのですか? 貴女には、この世界が見えていないんですか・・・・・・?」
 気づけば私は地面に膝をついていた。
 この人が消えてしまうことが、怖い。
 隣で笑っていてくれないことが。
「どうして、自分を大切にしてくれないんですか!!」
 ――嗚呼。きっと、私の世界は彼女になってしまったんだ。
 森に太陽の光がさす瞬間も。湖に波紋が広がる光景も。
 すべて、彼女にはかなわない。
 こんなの、ただの我がままだ。
 自分が、安心したいだけだ。
「私は、いらないから・・・・・・」
「え・・・・・・」
「私は、要らないの」


 パン!!
「っ・・・・・・」
 ああ。
 いたい。
「どこに行っていたのかしら?」
「・・・・・・どこだって」
 バシン!!
「っ!」
 ドガンと音を立てて、私は床に倒れた。
「・・・・・・どうして、貴女なのよ」
 私はお金持ちの家に住んでいた。
 つまりは、貴族という事だ。
 一番年下に生まれて、私は上に姉を3人も持った。
 小さい頃はよく遊んでいた。
 毎日が楽しかった。
 でも、私達が歳を重ねるにつれ、家の事情を知り、自分の役目を知り。
 その景色は暗闇に変わった。
「どうして!? どうしてアリアナなの!?」
「決まったことだ」
 3人の姉を出し抜いて、私は家のこれからの未来の為。
 名誉の為、とある名家の貴族様と結婚することになった。
 本当は一番上の姉が婚約すべきであった男性。
 姉はいつかあの人と結婚するのだと自分の恋をしてこなかった。
 いつしか、姉は気づけばその人が好きになっていた。
 姉に会いにくるあの人に私達3人は同じように顔を合わせた。
 私よりも、あの人は姉と過ごしていたはずなのに。
「アリアナを!?」
 ――父様?
 あれはいつの日のことだっただろう。
 父様とあの人が話しているのを偶然私は耳にした。
「アリアナを、妃にすると!? ですが、貴方とはレヴィが」
「私は、アリアナが好きなのです」
 父は名誉の為なのだと、私に言い聞かせた。
 それを知ってから。
 姉は毎日私に暴力を振るった。
「貴方がいたから!」
 ――ああ。なんて嫌な。
「貴方がいなければ!」
 ――夢だろう。
 私が奪ったのだ。
 姉の大切な人を。
 私がいなければ、何事もなく姉はあの人と幸せに暮らしただろうか?
 両親も2人の姉も、居心地の悪い思いをしなくてすんだだろうか。
 私が、いなければ。


 彼女の言葉が、耳から離れない。
 雨が降っている。
 自分の部屋でベッドに横になりながら私は枕に顔を押し付ける。
 ――私は、いらないから。
 いらない?
 ――私は、要らないの。
 どういう意味なんだ。
 いらないって。
 あの日。
 鳥が死んでいたあの日。
 彼女が呟いて私が怒鳴ってしまった日以来、彼女はあの森に姿を現さなくなった。
 誤りたかった。
 突然あんなことを行ってしまったことを。
「はぁ・・・・・・」
 今日もあの湖に行ったが、やはり彼女はいなかった。
 カサ・・・・・・。
「アナさ・・・・・・!」
 草が揺れる音がすると思う。
 ピーピーと鳥が鳴いて空に旅たつ。
 彼女が、いつものように姿を現すのではないかと。
 もしかしら。
 この森に来ているのではないかと。
 ただ、この湖に顔を出さないだけで。
 そんな都合のいい事を考えて。
 私はこの広い森を歩き回った。
 道具すらもあの湖に置き忘れ。
 ただ彼女だけを思い、足を動かした。
 するとどれぐらいの時間が経ったのか判らないが、ある屋敷を見つけた。
 いかにも金持ちが住んでいるような。
「貴族、の屋敷か・・・・・・? ああ。森を抜けて町の反対側に来てしまったのか」
 これだけ探してもいないのだ。
 やはり彼女はもう来ないのかもしれない。
 そう思い屋敷を去る。
 湖に戻っても彼女の姿はない。
 もう会えないのだろうか。
 約束も、守れないまま。
 このまま彼女を見失うのだろうか?
 空が暗くなる。
「もう、夜か」
 星が夜空に瞬く。
 ほら。
「アナさん。世界は、こんなにも美しいだろう?」



 チュンチュン。
 鳥の、鳴き声が聞こえる。
 カーテンの隙間から光が差し込む。
 まるで、たった今、この瞬間に世界が生まれたかのように。
 ――アン、ディ・・・・・・。
「え」
 彼女の、声が聞こえた。
 私はベッドから飛び起きて窓から外を見る。
 彼女の姿などない。
 だが、確かに呼ばれた気がした。
 私は思いのままに森の中へと駆け出した。
 あの湖に向かう。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。いない・・・・・・」
 どこにいるんだ。
 どこに!
「あれは・・・・・・また、あの屋敷?」
 どうしてだろう。
 私は引かれるようにあの屋敷に出会う。
 私は森を下りあの屋敷に近づいた。
「・・・・・・・・・・・・」
 そこに、いるのか?
「アリアナ!」
「!?」
 私の後から、男の声がする。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 彼女の、知り合いなのだろうか。
「すまないが君、森の中で1人の娘を見なかっただろうか・・・・・・」
「・・・・・・貴方は・・・・・・?」
「・・・・・・私は、この屋敷の主とでも言うのだろうか。数日前に、4番目の娘が姿を消してしまったのだ」
 ――!!
「その娘さんは、アリアナというのですか・・・・・・?」
「アリアナを、知っているのか? どこで!」
 私は彼の話を最後まで聞くことなく走り出した。
 数日前からいない?
 どうして。
「アナさん!!」
 森の中を闇雲に走り回り、気づけばあの湖にいた。
 誘われるように。
 私はいつもここに足を踏み入れる。
 ――『私を、必要としてくれる人はいない』
 また、彼女の声が聞こえた気がした。
 ――『私は、要らない子。姉の婚約者を奪った』
「どういう・・・・・・?」
 ――『私ね、婚約者は自分で決めたかったのよ? 姉さまには悪いけど』
 これは、彼女の・・・・・・思い?
 この、湖に宿った?
 ――『もう嫌になってね、自殺しようとした。でも、それを見知らぬおかしい人が怒鳴って止めたの』
「・・・・・・」
 ――『私を生きさせてみせるとか突然制限して、おかしいわよね』
 彼女の、笑い声が聞こえる。
 聞こえる。
 ――『貴族の家に住んでいると嫌でも絵というのは目にするわ。でも、その絵は私にとって何の価値もありはしないの。でもね』
 ――『彼の、アンディの絵だけは、暖かく思えた』
「アナ・・・・・・さん」
 これはきっと、幻だ。
 幻聴だ。
 逃げている私が勝手に思い込んだ幻想なのだ。
 ――『彼ね、私が笑うと自分のことのように笑うのよ?』
 いとおしそうにそう言う彼女は、どこまでも幸せそうに笑っていた。
 ――『できれば、私は彼と――』
 そこで、まるで彼女が天に昇ってしまったかのように。
 光が森から消えていく。
 私は、約束を守れなかった。


 7年後。
「綺麗な絵」
 そう、私の絵を褒める少女が1人いた。
「また新しいのを描くの?」
「――・・・・・・いや、描かない。もう描かないって、決めたんだ」
 いつからだろう。
 私は筆を持っても何も描けなくなってしまった。
 あの森に行っても、何も描けない。
 心が空っぽになってしまったかのように。
 世界は、こんなにも美しいのに。
 その世界が突然光を失った。
 初めて彼女に会った時、これからも一緒に過ごせれば。
 どこかでそう、願っていた気がする。
 だが、私が彼女と過ごした日々は、たったの12日だけだったのだ。
「どうして描かないの?」
「描かないんじゃない、描けないのさ」
 絵を失った私がすることなど特になく。
 いつも暇を潰しに町を散歩していた。
 ふと、森に目を向ける。
 足が、自然と森に向かう。
 思い出の、あの場所に。
 彼女と出逢った、あの場所に。





 
 虚ろな世界が、光に包まれるように。
 カサ・・・・・・。
「!」
 振り返る。
 また、鳥だろうか。
「・・・・・・アン、ディ!」
「アナ・・・・・・!」
 私の世界は輝きを取り戻した。

後書き

お久しぶりです。
初めての方がいましたら初めまして。
五月です。

どうにもかなり遅くなってしまいました(汗
話のストックはたくさんあるんですよ。
だがそれゆえに、話がたまるばかかりで進まない!!(←
また遅くなるとは思いますがお付き合いしてもらえれば幸いです。

この小説について

タイトル 第始叩Г箸△覲描きの思い
初版 2010年9月12日
改訂 2010年9月12日
小説ID 4046
閲覧数 760
合計★ 1
五月の写真
作家名 ★五月
作家ID 497
投稿数 60
★の数 166
活動度 11432
一言・・・・・・頑張ります。

http://simotukiharuka.blog.so-net.ne.jp/
自分の小説ブログです。
ここに載せた小説についていろいろ書いてます。

コメント (2)

★さんたろー 2010年9月15日 21時43分36秒
愛読者その1です。(笑)
久しぶりの更新ですね。お待ちしておりました!

今回は、新たなステージの始まりのようですね!
7年もの間、アリアナはどうしていたのか、とても気になります。
次回が楽しみです。

次に、辛口コーナー。(笑)
一言で言うと、「私」が誰なのか、わかりにくかったです。
途中でアンディーからアリアナに切り替わる部分がありますが、直前までアンディーの「私」が続いていたので、読んでるうちに、あれ?アンディーって女性だっけ?って錯覚してしまいました。
アンディーがメインなら、「アリアナは…」と書いた方がわかりやすいと思います。
それから、カッター、リストカットという言葉は、あまりにも現代的すぎて、この作品には合わないと思います。

とりあえず(笑)、以上です!
それでは、お互い、次回作でお会いしましょう!
★五月 コメントのみ 2010年9月16日 17時16分21秒
さんたろーさん>お読みいただきありがとうございます!
アリアナが消えた空白の時間は次回で出そうと今というま前から話を進めていたので楽しみに待っていただけると嬉しいですww

ああ、それは確かに・・・・・・。
リストカットとかは合わなかったかもしれません(汗
それは申し訳ありませんでした^^;
やっぱり分かりにくかったですよね・・・・・・。
どうしてもあそこはアナ視点でやりたかったのです(苦笑

コメント&辛口ありがとうございました!!
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